『忘れたくても忘れられない』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
庭にあった金木犀
真夜中に貨物列車が走る音
お掘の池で泳ぐ黒鳥
図書館の学習コーナーのあの椅子
渡り廊下を吹き抜けた風
武道場の2階の窓
新興宗教の道場だった空き家の看板
あの日見た大楠
白杖の人が飼ってた隣の雉猫
母と見上げた昼間の月
挨拶したらバラバラ降って来た神社のどんぐり
飛行機の窓から見えたサンクトペテルブルク
アニーホール
みんな一斉に「はいはいはいはい!」
って手を上げてる。
どの思い出さんも落ち着いて。
ちゃんとひとつひとつ丁寧に
握りしめたこの手を開いて、ふんわり放していくからね。
眠くて眠くて
眠い
以前は忘れたいくらい嫌な事を
『眠って忘れる』としていた
今日は
やるべき仕事がたくさんあるので
眠る事を忘れたいのに
寝てしまう
おやすみなさい
ーー忘れたいのに忘れられないーー
忘れたくても忘れられない
中学高校の中二病黒歴史!!
"昔、私の友人が事故に遭ったことがあるんです。
その友人は10人中10人、必ず善人だと言われるような人でした。性格は元気で、感情も表に出すし、気さくで優しい。
でも死にました。
…本当なら君にはこんな事、話したくないんですが。
え?ああ、まあ、はい。君はまだ学生ですし、死というものに直面した事もない。
そう、死を簡単に捉えられたら困ります。
私の経験を簡単に言われたり、変に同情されたり、正義の英雄ぶるような事をして欲しくないんです。
忘れたくても、忘れられないんです。"
__ __ __ __ __ __ __ __
「刑事、例の男に、あの高校生を装って電話した結果の内容です」
「ああ、御苦労。」
_2023.10.17「忘れたくても忘れられない」
あれ以上の想いはもうないと
そう思った
きっと2度とあり得ない
忘れたい
忘れたくない
複雑な思いがいったりきたり
今のわたしは、あの時のまま
あなたで作られて、あなたで満たされる
そんな想いに囚われたまま
前に進むの
あなたの側で
忘れたくても忘れられない
忘れたい。あの出来事も、その出来事も。
私を形作るすべてのことを、忘却したい。
私は私ではいたくない。
いじめ、いじり、ぼうりょく、ぼうげん。
私はそのようなものでできている。
おさとうやすぱいす、すてきなものぜーんぶ!
そんなもので作られた私だったなら、好きになれたかもしれない。
せめてかえるにかたつむり、こいぬのしっぽで作られていたのならよかったのに。
私って、何でできてる?
いじめ、いじり。ぼうりょくとぼうげん。
そんなものでできているのよ!
彼女は確か、好きな物には一直線だった。
だから、何かをめざしている彼女はとても美しかった。
なのに、彼女の努力は報われなくて、俺だけ先に進んでしまって。
だから、彼女はこの世から去ってしまった。
彼女も、俺も分かっていた。俺なんかがこのステージに立つ権利なんて無いことを。
今でも忘れられない。忘れたくても、忘れられないんだ。
彼女の、泣き顔が。
悪夢
鉄錆の匂いがする。手に持った錆びたナイフからぽたりぽたりと血が滴る。馬乗りになったその男に息は無かった。
死んだ男は人買い。貧しい家に生まれた俺は、物心つく前に人買いに売られたんだそうだ。だから親のことや自分の名前、出身も何も知らない。
だが、興味は無かった。こいつからの暴力は当たり前だったし、碌に飯も与えられなかったが、怒りを覚えたことはない。あるのは明確な殺意。こいつを殺して自由を得る。その願いを漸く叶えたのだ。
(だが……満たされない)
望み通りの自由を得た。しかし、それも一瞬のことだろう。こういう人買いには俺たち「商品」の情報をやり取りする為の仲間がいる。仲間から連絡がこなければ、奴らは不審に思い、俺はやがて駆けつけたこいつの仲間に殺されるだろう。
(それも、どうでもいい)
「おや、随分と派手に暴れたようだね」
と、そこへやって来たのは一人の男だった。血まみれの俺とは真逆の、髪から衣服まで真っ白な男。神父みたいな風貌をしていた。
「………」
「お前、私の言葉が分かるかい?」
「……分かる」
「なら良かった。そこの男はお前が?」
「ああ」
男は口元に浮かべた笑みをそのままに、俺の方へと足を進める。そして、俺の顎を無遠慮に掴むと無理やり視線を合わせるように上を向かせる。
値踏みをするかのように、じぃっと男はその赤い瞳を俺に向ける。その視線が不快で睨み返すと男は「なるほど」と言って、その手を離した。
「悪くない目だ。仕込んでやれば、まあそれなりに動けるだろうな。お前、名前は?」
「無い。気がついたら、こいつのところにいたから」
「そうか……なら、今日からヴァシリーと名乗れ」
「ヴァシリー……?」
「ああ。名前が無いのは不便だからな。とりあえず、そう名乗るように」
男は淡々と話を進める。そうして、血塗れの俺の首根っこを掴むと軽々と俺のことを持ち上げた。
「っ、離せ……!」
「まずは戻ってから風呂と飯だね。それから武術や学問、色々と教えよう。ヴァシリー」
そいつは口元こそ笑っていたが、俺を見るその目は少しも笑っていなかった。何処を見ても真意の読めない薄気味悪い目。
「私はエミール。これからはお前の親代わりになってやろう」
その日から俺はエミールに対して強い憎しみを抱くようになった。理由は無い。ただただ、こいつの目が気に食わない。それだけだ。
「ヴァシリー」
どうやら寝ていたらしい。寝起きのぼんやりとした頭で、俺は自室にいることを思い出す。ベッドの上で横になった俺の顔をミルが覗き込んでいた。
「……何だ?」
「鍛錬の時間になっても来なかったから、様子を見に来たの。そうしたら魘されていたから、声をかけていたんだよ」
「……」
不快だった。こんな時にあいつの記憶を夢に見るとは。
上体を起こし、ため息を吐き、眉を顰める俺に娘は遠慮がちに聞いてくる。
「具合悪い?」
俺は答えずに娘に向かって両腕を広げた。ミルは素直に俺の腕の中に入り、そのまま膝の上で抱えてやる。
「鍛錬は?」
「変更だ。今から兵法を教えてやろう」
「珍しいね。いつもなら実践の方が早いって言うのに」
「気分が乗らん」
「そっか」
娘は近くに置いていた兵法学の本を手に取り、ページを開く。
「何の夢を見ていたの?」
「さてな。忘れた」
「忘れたってことは、覚えはあるのね」
「覚えていたとしても、教えるほどでもあるまい」
「そう。……ねぇ、この体術ってどうやるの?」
「ああ。それは……」
エミールの記憶は忘れたくても忘れられないだろう。その度に俺は言いようのない苛立ちと殺意を抱く。だが、この娘と共にいる間は、どういうわけかその苛立ちすら消えていく。
(……不思議なものだ)
この時間を悪くないと感じている。以前、こいつが気落ちした時もそうだったが、大体俺の気分を左右させるのは良くも悪くも、この娘が関係していた。
(よく分からんが……)
悪くないと、そう思う俺がいた。
あれから私 どんな人も愛せない
今も甘い あなたの声が聞こえる
嫌な記憶が忘れたくても忘れられないと思う。自分は恋愛縺れ…かな?まぁ人生色々ありますよ。
3月13日
体調を崩していた父が入院した
少し威圧感のある父の入院を、少し嬉しく思ったのを覚えている
お見舞いくらいの気持ちで向かうタクシー
心停止を知らせるブザーが鳴り響く病室
”忘れたくても忘れられない”
就職が決まって着せて見せた私の制服姿
あまり笑わなかった父が、嬉しそうに喜んでくれた
その笑顔も忘れられない
学校を卒業後
アパレル会社に就職した。
店舗スタッフで、
数年後
店舗責任者として、
定期的に
会議にも参加する
当然他の
店長たちも集まるわけで、
私は
あまり
人から声を
掛けてくれる人は少ない。
そんな中
別にその環境下でも気にはならず。
ある日突然に、
話しかけて来た
他店舗の店長。
見た目な普通に感じるけど
仕事もできるやり手だそうだ。
その日をきっかけに
何かと、
話しかけて来て、
気軽に話す様になる。
いつしか
恋心を抱き、
次のバレンタインは
チョコで伝えようと思い、
でもね、
婚約者が居たみたい。
勝手に恋して
勝手に振られた気分。
栄転と同時に結婚された。
仕方ないよね。
勝手な思い込み。
数日後、
お互いが思っていた事に気付いたけど、
遅いよ。
彼は、
勝手に好きでいる気持ちはいいよね?
と、都合の良い言葉。
どうぞ、お幸せに。
忘れたくても忘れられない
あっけなく終わった
恋のお話。
忘れたくても忘れられない
にゃう、と猫が一鳴き
真黒い猫が足元に擦り寄って来る。
此頃、また寒い季節がやって参りました。
そうすれば私は、あの時の事を想出します。
其の頃もまた、寒い季節でした。
同じ様な真黒い猫に擦り寄られて
もしかしたら、何て思ってしまう。
あンたはそんな事
思いやしないだろうけど
私だって忘れられない事ぐらい
在るもんです。
絶対、忘れてなんてやるもンですか。
『忘れたくても忘れられない』
「忘れたくても忘れられない出来事は誰しもあると思います。皆、話してみて」
心理カウンセラーのケイトの言葉で、自分の心の内を一人また一人と語り出した。
理不尽に叱られた怒りや、誤解されて誤解を解いたのに謝ってもらえなかった燻り、子供の頃にやらかしてしまった失態への恥ずかしさ……多くの人が負の感情を表す中、私は逆のことを語った。
――私には忘れたくても忘れられない人がいる。
それは若い頃にとても愛した人。苦しくなるくらいに愛したけど、その恋は叶わなかった。
二人でおじいちゃんおばあちゃんになるまで生きようねと語り合った十代の頃、何でも出来ると錯覚した。
親の権力がなんだ、身分違いがなんだと二人で駆け落ちしようと決めた。
しかし、やっぱりそう簡単ではなかった。
色々あって、彼は親の決めた相手と結婚をした。
「離れても君だけを愛している」
そう別れ際に伝られた言葉だけが拠り所だった。
でも、数年ぶりに見かけた彼は無理矢理結婚された奥さんと笑い合い、3人の子供の父親になっていた。
お腹の大きい奥さんは4人目を妊娠中だった。
彼に声をかけることは出来なかった。
私の事を愛しているといったのに、私のことはきっともう忘れているというくらいに幸せそうだった。
もう、彼の心は私にないのだと知った。
走って家に帰って沢山泣いた。
心が張り裂けそうになる中で、辛くて自ら命を絶ちたいとも思った。
でも出来なかった。
次の日は目が腫れがあったまま仕事にでた。
「恨みはないの?」
同じカウンセリングに出ていたエドが聞いてきた。
私は淡々と答える。
「最初は嫌だったわ。でも恨む程じゃなかった」
エドはそうかというように頷いた。
私は話を続ける。
――恨みはないけど、悲しかった。辛かった。
だって彼をまだ愛していたから。
でも時間とともに自分の中で納得するようになった。
仕方のないことだったのだと。
結局、私は誰とも結婚出来ないままこの歳になった。
彼のことは忘れたくても忘れられない。
「それじゃあ今日はこの辺で解散しましょう」
話し終えると丁度カウンセリングの時間が終わり、ケイトが解散を口にした。
皆が立ち上がって部屋を出る中、私は車椅子を動かしケイトに近づいた。
「ケイト、ちょっと良いかしら」
「はい、どうしました?テイラーさん」
「さっきの私の話なのだけど」
「あぁ、大丈夫ですよ。その……何もトラウマだけが皆さんの心理カウンセリングの必要条件ではないので。思い出話でも問題ないです」
「いえ、そうではないの」
私は、ケイトの腕を掴んだ。
「テイラーさん?」
「ケイト、ジョセフ・ハンスさんは元気?」
「え?」
ケイトは驚いた顔をした。
「ジョセフ・ハンスよ」
「……テイラーさん、私の祖父を知っているの?」
ケイトの腕を引っ張った。
「っ!?」
ひざ掛けに隠していた刃物をケイトの腹に刺した。
感触、伝わってくる熱い血液。何もかもが憎かった。
「テ、イラー……さん。何を……」
「ジョセフは私の生涯愛した人。彼に恨みはないけど、彼の奥さんは憎いわ。そして彼を奪ったあなた達もよ」
刃物を抜くと、ケイトは口をパクパクさせながら倒れる。
声にならないようで何を言っているのかはわからない。
「ケイト、私がなぜ心理カウンセリングに来たか知ってる?貴女がいたからよ。彼の奥さんの血を引く存在をやっと見つけたんだからね」
「っ、ぁ」
「何を言いたいのかわからないけど、消えて頂戴」
静かなカウンセリング室になった。
刃物をひざ掛けの中に入れ、動かなくなったケイトを置いて私は部屋を出た。
彼は私の愛する人。
忘れたくても忘れられない人。
彼だけ、私の心には彼だけなのよ。
創作 2023/10/17
私には、大切な人がいた。
その人とはとても楽しく、穏やかな日々が続いていて、いつまでも続くと思っていた。
だけど、そう長くは続かなかった。
あの楽しかった時に戻りたい。
忘れたくても忘れられない日々これからも大切に宝物のように思い出にしていこう
「忘れたくても忘れられないことがあるんだ。」
ってなんだか、かっこよく言っている友達
それはなんだと言いたげな私
でも、大体想像できる。おまえが言いたいことは
だてに小学校から高校まで一緒だった私なのだから
友達は、膝から崩れて泣け叫ぶようにこう言った
まあ、この行動のせいで道を通っている人の目がこっちに向けられながら通りすがれるけれど。
「受けと攻めがやばすぎ尊い!!」
「マジで無理!!」
マジで無理は私の方だ。通行人に見られる目がいたたまれない。すごく申し訳なく思ってしまうよ。
「あんなの忘れられないのよ!!」「忘れたら私自身を恨んでやる」
もう一回読めば良くないか?そう思った。
でもその前に、こう言ったよねお前
「忘れたくても」って忘れたがってるやんけ
まあ、それはいいとして
私の友達は腐女子なのだ。
でも、大体わかっていただろう
ああ、小学四年生はあんなに純粋だったのに。
こうなったのは、小5の夏休みが明けてからだ。
まあ、別に聞いていて楽しいからいいけどね
まあ、これが私と腐女子の友達の会話
朝食の時、パンを落とすと、必ずジャムを塗った面を下にして着地する。
そして床にジャムがぶちまけられる。
そう必ず、だ。
普通ならば二分の一のはずだ。
だが必ずジャムと床が接触する。
はっきり言って異常事態だ。
困った俺は物知りな幼馴染みに相談した。
こいつが言うには、それはマーフィの法則なんだそうだ。
難しそうな法則が出てきたが、知りたいのはそんなことではない。
どうすれば解決するかということだ。
こいつが言うには解決方法は2つ。
1つ目は気にしすぎないこと、だそうだ。
俺は激怒した。
気にするな、だと。
パンが落ちていくのをスローモーションで眺め、そして床にジャムがぶち撒けられていく様子を忘れろというのか。
あの悲惨な出来事は忘れたくても忘れることはできない。
俺は話の続きを聞かず、その場を去った。
夜、家に帰り夕食を食べていると、だんだん頭が冷えて、今日のことはやり過ぎではないかと思い始めた。
せっかく力になってくれたというのに、お失礼だったと思う。
幼馴染みにどう謝るべきか考えていたところ、あいつからメールが届く。
『そろそろ頭冷えたか?お前は短気すぎる』
さすが幼馴染みだ。俺のことはお見通しである。
そして、2つ目の解決方法が書かれていた。
『お前、パン食べるのをやめて、ご飯に転向しな』
俺は戦慄した。
まさかそんな方法があるとは!
明日からご飯にしよう。
これでジャムは床に撒かれない。
俺が感動していると、メールには続きがあることに気づく。
『朝ごはんはちゃんと食べろ。お前は腹減ると怒りっぽくなる』
何もかもお見通しらしい。今朝食べていない。
『パンを落として大騒ぎして、朝ごはん食べるのを忘れるの、お前くらいだよ。普通、忘れたくても忘れられないぞ』
すれ違った人から君と似た匂いがして
咄嗟に振り返ってしまうような
あるいは遠くから聞こえた笑い声が
君の笑い方とそっくりで胸が詰まるような
そんな そんな脆い世界で
僕は遠くの君を想っている
そっちの天気はどうですか
嫌な思いはしていませんかって
多分きっと 君がいなくなってしまった後でも
君に問い続けて
僕は君の中で生きてしまうだろう
ただ遠くの影を追いながら
今の自分をここに置いたまま
「忘れたくても忘れられない」
私の失敗した、迷惑かけた数々
#11『忘れたくても忘れられない』
先生、お元気ですか。私、春から高校教師になるんです。先生に憧れたから、じゃないですけどね。だって生徒と教師であんなこと、間違ってもいけないでしょう?……でも、きっかけは先生との出会いが与えてくれました。
当時の私は容姿端麗で首席の皆のマドンナ。うまく学校生活を送っていたものの、何も楽しくはなくて。ただ、笑顔を貼り付けて仕事をこなして、クラスメイトや教員陣の気分を害さないようにしていただけ。それでも、こんな風にしてでも、私は誰かと繋がっていたかった。それくらいに内側は毒されていた。
放課後、図書館で閉館時間まで勉強して家に戻れば、きちんと着ていた制服を柄の違うもっと短いスカートに履き替えてリボンを付け替えたり、露出の多めな私服で出かけて、相手を待つ。いや、待たなくとも声はかかる。さすがのJKブランド。これはお小遣い稼ぎじゃない。いい大学に行って自立するにはバイトをする時間はなかった。荒んだ環境の中、生きるために自らを傷つけた。
でもあの日、夜遅く歓楽街からの帰り道で、先生に会ってしまって。こんな時間に何かあったらどうする、とか、家の人が心配するぞ、とか、教師っぽいこと言ってたけど、私にはどうしようもない。金曜日は母が誰かしら男を連れて帰るから追い出されるんだもの。宿泊代もくれないくせにいつも好き勝手する。
どうすればいいんだろう。いつも通りのいい子の対応はこの状況じゃ効きそうにない。でも素直に洗いざらい話したら、これまで積み上げたものが今度こそパーになる。考えた後にこぼしたのは「助けて、ください」なんて言葉で、惨めな気持ちになる。でも私はただ、寂しくて誰かに頼りたかった。
先生は私の腕を引き、合わない歩幅に速歩きになりながらついて行けば、そこは先生の家だった。担任だけど、朝のHRと数学の授業で会うだけ。行事も完全に生徒に委ねていて。気怠げで無表情でヘビースモーカーで、偶にノリが良いけど、生徒に人気って感じじゃなかった。
なのに、あったかいお茶を入れてくれて、うんうんと話を聞きながら優しく頭を撫でられた時、子どものように泣いてしまった。知らない人じゃない、心を打ち明けられる人の温もりが心地良かった。
それからすぐ、特定の生徒に肩入れするのは良くないのに、私は先生の家に住ませてもらうことになって。互いに惹かれ合うのにも時間はかからなかった。
満ち足りる、ってこういうことなんだと思う。毎日がキラキラしていて、周りの当たり前の生活がこれ以上にない幸せだった。偽物の笑顔が無くなったことでもっと皆と距離が近くなって年相応の女の子になれたし、先生もクラスによく顔を出すようになっていろんな生徒に囲まれてた。
修学旅行も夢のように楽しくて、誰かと同じものを一緒に食べれるのに感動してジーンとしていれば、先生に人間1年生だな、って笑われた。
進路については努力実って学費免除で合格できたので、母とはおさらばして一人暮らしをすることに決めた。
先生とも卒業式で最後にした。このまま関係を続けたかったけれど、先生は私のことを考えて、私は私でそれを前向きに捉えて、円満なお別れ。またいつか会おう、と桜吹雪の下で抱き合った。胸が苦しくて仕方がなかった。本当に大好きだった。
大学は、私みたいな子に気づいてあげられるように、と教鞭をとる道を選んだ。それだけじゃ足りないと公認心理師の資格も取った。勉強の楽しさをわかってもらえれば、何かの逃げ道になるかもしれないし、きっと将来役に立つ。誰かを救うことで私も救われるはずだ。一般企業に就職して社会経験を積んで、やっとこの春から、私も先生と呼ばれる。大丈夫、ひとりでもちゃんとやっていける。
予め先生同士の顔合わせで、職員室にお邪魔することに。簡単な自己紹介をしていたら、「すみません遅れました」と1人入って来て、目を見開く。どうしてここに。よろしく、と口パクする彼に体中が熱くなった。