『待ってて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
いつか、また。
そう言って別れてからどれくらい経っただろう。
今はまだ、君の隣に立つには相応しくなくて。
離した手を、再び掴むことができないでいるけれど。
だけど君だって、僕が諦めの悪い奴だって知っているだろう?
どんなに時間がかかっても、絶対に。
絶対にその手を掴んでみせるから。
だからどうか、再び会いに行くその時まで。
――待っていてほしい。
待っててねの距離とタイム
トイレ行くだけだから、待っててね ドア1枚38秒
買ってくるから、待っててね 5メートル1分
お仕事終わるまで、待っててね 4.3キロ9時間
もうすぐごはんできるよ、待っててね いい匂い5分
すぐ戻るから、待っててね
たぶん遠く 3月11日から4723日
「飴玉みたいだね」と君が評した眼鏡フレームを、折った中指でそっと押し上げる。
ごとんごとん、と鈍く重い音を立てて、電車はゆっくりと停車した。行き先を告げるアナウンスや行き交う人々で賑やかなホームとは裏腹に、心の内はひどく憂鬱だった。
「お隣、よろしい?」
いつの間にか雪から雨に変わった空模様を見るとも無く見ていると、ホームから乗ってきたらしい上品な雰囲気のお婆さんがにこにこと佇んでいた。
「あ、どうぞ。」
2人掛けの席に元々きちんと座ってはいたが、何となく背筋を正して座り直す。「有難う」とお婆さんが隣に座ると、お馴染みのアナウンスと共に、がこん、と電車が動き出した。みるみる後ろへと流れ去るホームの人々を、窓を叩く雨粒がぼかしてゆく。
「お洒落な眼鏡ねぇ。」
「はぁ、ありがとうございます。」
あまり知らない人と話すことが得意ではないので、こういう時は反応に困る。あまり話しかけないでほしいな、などと思っていると、なおもお婆さんは話しかけてきた。
「わたしもね、お嬢さんくらいの若い頃、そういう眼鏡を持っていたのよ。懐かしいわ。」
「はぁ。」
正直予想外だ。お婆さんは繊細な造りの華奢な眼鏡を掛けていて、綺麗に整えられたグレイヘアに、胸元にはブローチときている。全体の雰囲気を見ても、とてもじゃないがポップな若い頃を想像できない。
意表を突かれたこちらの反応を気にする風でもなく、お婆さんは続ける。
「それでね、伊織さんたら、…ああ、伊織さんは、私の旦那様なのだけれど…、その眼鏡は飴玉みたいで美味しそうだね、なんて言うのよ。子供みたいでしょう?」
ふふふ、とはにかむお婆さんは、まるで少女のように頬を染めている。ご馳走様な光景だ。
お婆さん越しの窓の外に、雲を割って光が差し込んでいるのが見えた。雨が上がったのか、電車が雨を通り抜けたのか。
「当時勤め先で、辛い事や、悔しかったり悲しい事があった時、いつもその眼鏡を掛けて伊織さんに会いに行ったわ。そうしたらあの人、毎回同じ事を言うの。飴玉みたいだね、って。何度もそれを続けるうちにね、わたしまで、その眼鏡を見ると、飴玉みたいだな、って思うようになっちゃったのよ。それで、いつのまにかその眼鏡を見ると元気が出るようになったの。伊織さんが笑ってるのを思い出して。」
電車が次のホームに入る為、緩やかに減速してゆく。雨はもうすっかり通り過ぎたようで、光が曇天を打ち払うように幾筋も降りていた。
「それじゃあわたし、ここで降りますので。お邪魔したわね。」
「あ、はい。あ、いや…。」
「じゃあ、さようなら。」
「さようなら。」
一駅だけの道連れは、印象そのままに上品な会釈をすると、現れた時と同じ突然さでホームの階段へ消えていった。
まばらな人影に消えていったのを見届けた所で、ポケットのスマホが震える。メッセージアプリの着信だ。片手で素早くアプリを起動してメッセージを確認する。
『いおりん:何時ごろ着く?』
『私:もう着く!今隣の駅』
『いおりん:なんか飯食お。お前の眼鏡思い出したら腹減った』
…うん、待ってて。すぐ行くからね。
あかんかったら
次行ったらええ
好きやったら
好きって言うか
好き好き光線出しとき
待ってても
なんもおこらん
今すぐ迎えに行くから
ちょっとだけそこで
『待ってて』
好きな人の好きな人でいるために
なんでもその人の好みに合わせて自分を偽ってきた。
それも意識的にじゃ無く無意識に。
小さい頃からそんな子だった。
恋愛としてじゃ無くても、
大好きな友達に好きでいてもらうために
なんでも笑顔でいいよって言う子だった。
でも大人に近づく中で、
どれだけ相手に合わせても、
好きでいてもらおうと努力しても、
切れてしまう縁は必ずあって、
「また来年」なんて約束が叶わないことも知った。
でも今の私には“本当の私”がわからない。
どれが本当なのか。
だからこそ好きなことに正直に生きてみようと思う。
その人の愛してきたものが形作るのが、
その人の個性であり人間味だと思う。
小さい頃に置き去りにした“本当の私”を迎えに行く作業
気付くのはすごく遅くなってしまったけど、
待っててね。
ちゃんと大切にするよ自分という唯一無二を。
『待ってて』
遅くなってごめんね。
今日も頑張ったよ。
外はまだ寒いよ。
大好きなプリン買ったよ。
かわいい犬とすれ違ったよ。
話したい事、
いっぱいあるよ。
あと少しでお家だよ。
だから、
待ってて。
待ってて。
第十七話 その妃、飴と鞭と
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顔を覆う、たった一枚の薄布が息苦しかった。
目の前の石段が、まるで断崖絶壁のようだった。
彼らの背中が見えなくなる、その一分一秒が、酷く長かった。
それ以降は、あまり記憶に残っていない。
無能の奴等が城門に注目している間に、誰にも見つからぬよう風のようにその場を去り、そして何事もなかったかのように身形を整え、広場へと戻る。
『――言ったでしょう。あなたはあなたの為すべきことをしなさい。まあいない分、多少の手は借りるわよ』
敵わないと言った表情で苦笑を浮かべた友人は、役目を終えると紙切れに変わる、手製の輿と人型の式神を置いていった。それすらも、主人はわかっていたのだろう。
わかってもらえる。
そんな些細な事が羨ましい。
愚かにも、そんな事が頭をよぎった。
その事だけは鮮明に覚えていたことに苦笑を漏らしながら、誰にも気付かれぬよう紙切れになったそれを回収する。
終えた頃には、いつもの喧騒が戻っていた。
「良様良様! 本日は是非金糸雀宮に寄って行ってくださいまし!」
「いいえ。本日こそ桃花宮に」
「美味しいお菓子を取り寄せましたの。花露宮に是非足をお運びくださいな」
今日は、妙に雑音が耳につく。瞼の裏に残る仲睦まじい姿がちらついて、上手く笑えているかもわからなかった。
次の瞬間までは。
「良様」
聞き覚えのある声に、ピリリと背筋が伸びる。
振り返る頃には、“いつも通り”に戻っていた。
「これはこれは、百舌宮の妃様」
絢爛豪華な髪飾りに、細い首から鎖骨、肩、胸元まではだけた貴妃服。露になったそこには白粉と、妖艶な雰囲気を引き立たせる化粧。
扇ではなく煙管を手に持っていたならば、その姿はさながら花魁のようであった。
「本日はいつも以上にお美しい。誰もが貴女様の虜となりましょう」
「嫌味は結構。無駄話も好きではありません」
パチンと扇を閉じた妃は、そのまま静かに距離を詰めた。
それはそれは失礼致しましたと、下げようとした頭を、扇で顎ごと掬い上げられる。
「先程の言葉は本物の賛辞かしら」
「勿論。私は嘘などつきませんよ」
「ならば貴方も、今日だけはわたくしの虜ということで間違いないわね」
近い距離で目が合う。
言葉を交わさぬまま、しばらくの間見つめあった。
『――取り敢えず、今回は下見を兼ねた都見物だから、あんたもやること済んだら自由にしてなさい』
妃と見つめ合いながら、思い出すのは主人である自由な妃との会話。
この人のことだ。
下見などで済むはずがない。
そう言いかけた唇は、妃の人差し指で封じられた。
『上手く宮殿に乗り込めたら、褒美をあげるわ。今から何が欲しいか考えておきなさい』
――だから、いい子で待ってて。
……あの時のような高鳴りなど、微塵もない。
「貴女様の思うままに」
妖艶と微笑む妃に、一切の態度を変えぬまま微笑みであしらうと、百舌宮の妃はふっとおかしそうに口元に弧を描いた。
「その言葉。後で後悔なさっても知りませんわよ」
「望む所です」
目の前で、愛しい人が違う男と寄り添って消えていく。
それ以上に、恐ろしいものなどなかった。
#待ってて/和風ファンタジー/気まぐれ更新
高い高い壁を作って囲って。
ゴミ投げ入れて押し込んで。
焼却、滅却、消毒、滅菌。
キレイキレイしましょう。
地球は一つ、世界は一つ。
ガラクタ、産廃、生ゴミ、汚物。
ぜんぶ、全部。
高い高い壁の中から、溢れ出てくる前に。
燃やせ、燃やせ、焼き尽くせ。
汚れた世界が少しでもキレイになるように。
テーマ「待ってて」
お題:待ってて
紅茶を飲んで喉を焼いているのです。
あなたの香り、ぶちまけて。
下品にじゃぶじゃぶ、せっかちの味。
ちょうだいね、最後の一滴までも。
泳ぐ茶葉に目、奪われるふりをして
茫然とする。
熱湯で喉を爛れさせているのです。
搾り取らせて、苦味すら知りたい。
注ぐ紅茶に心、奪われるふりをして
虚空見つめる。
浴びるならシャワーより紅茶がいいわ。
そっとミルクも注ぎ込んで。
覚えているの、ふざけているわ。
思い出の紅茶、自傷行為。
待ってて
これまでは冬の夜ベッドに入ると、まず寝具の冷たさを感じて肩口や足元が冷え、暖まった体温を奪われていくのが悩みだった
そんな私についに救世主が現れた!
それは新しい「布団乾燥機」それも2本のノズルから温風が吹き出すタイプのヤツだ
本来は寝る少し前にセットしておき、十分にあたたまったあとでベッドに入るのだろうが、ズボラな私は違う
寝る直前に10分程のタイマーでスイッチオン
温風が吹き出したらほどなくベッドに入るのだ
足元から吹き出す温風に包まれながら眠りにつくと
ベッドの中はぽっかぽかで冷たさは感じない
むしろ自然に「あ〜幸せ」と口から漏れてしまう
お陰で真冬もお風呂上がりでも冷え知らず
あっという間に眠りについてしまう
私はそんな相棒の布団乾燥機に名前をつけた
さあ心も体もポカポカにしてくれる仲間よ、今夜も添い寝よろしく
待っててね
「ボーちゃん!」
待つのは得意だ。
だって時間に身を任せればいい。
好きなこと嬉しいことをぼんやりと思い浮かべればいい。するとあっという間に時間が過ぎ去っている。
大丈夫。
あなたが言ったのだから私はただ、信じればいい。
大丈夫。大丈夫。
そう呟いて誤魔化す。
私の手元に届いた封筒を握りしめ、もう一度呟く。
「大丈夫」
待ってて
待っててと 心に決めた その人は
別の幸せを 掴みすすんだ
「待ってて、あとちょっとだから」
つい人に言ってしまいがちだ。
あとちょっと、は数秒だったり10分以上だったりする。相手の虫の居所が悪ければ喧嘩に発展してしまう悪癖だ。
直さなきゃなぁと思って、具体的な数字を言うようにしている。
「待ってて、あと20分……いや10分だから」
最初に大きめの数字を口にして、急いで縮める努力をするふうに演出する。
これでトラブルは減るはずだ。実感はまだだけど。
【待ってて】
ソワソワする。
普段から料理はまあまあやってるけど、お菓子は作らないからさぁ…。
バレンタインのチョコ、今年は作ってみたんだけど…。
案外難しいんだよ…。
溶かして、型に入れて、冷蔵庫で冷やして、ハイ出来上がり!だとナメてた数時間前の自分が恥ずかしい。
(これから行くよー)
恋人のLINEに慌てて返信する。
(待ってて!)
すぐ既読になって、(なんで?早く会いたいよ)って…。
早く会いたいなんて、めちゃ嬉しいけど、今は!ちょっと待って欲しい!
キッチンであれこれしてる間に、ピンポーン♪って…。
「来ちゃった♡」
合鍵持ってるんだから、来ちゃっても当然なんだよね。
美容院に昨日行ったばかりの恋人はチョコレート色の髪色にしていた。
いつも以上にカッコ良くて、ふざけていたって自慢の彼氏。
そんな恋人に渡すはずのチョコは…。
「ゴメン…バレンタインのチョコ、失敗しちゃって…」
茶色のドローッとした塊。
お世辞にも“チョコ”とは言えない、なんか、正体不明の物体。
もごもご言い訳してたら、恋人はふにゃふにゃ笑って「アイス買ってきたからさ、チョコソースみたいに一緒に食べたらきっと美味いぜ?」と、ハーゲンダッツをテーブルに並べる。
「ホラ、あーん」
子どもみたいに口を開けて待つ恋人は、出来損ないのチョコだって楽しそうに待ってくれている。
「待ってて」
スプーンですくうのはチョコアイスの形をした何か。
甘くてちょっぴり苦い2人の何か。
【待ってて】
思い出のあの海で待ってて
二人誓い合った想いを胸に
これからの未来を約束するの
薄桃色の花弁。
涼しげな風。
光の方へ向くちいさな太陽。
焼けた色の葉っぱ。
待っていて。
待っていて。
昔から家族と出掛けると、必ずと言っていいくらい逸れる。
百貨店で母親が洋服を試着しようとする、私は時間がかかるのがわかっているのでその間、他の場所を見に行きたい。
向こうの靴のコーナー見てくるからこの場所で待ってて、と言い残して行く。
逸れないようにするためだ。
なのに逸れる。
お互いがじっとしていられない性分のため、動いてしまう。結局探し合いをするのだ。
買い物するよりも探してる時間が多い時は一体何をしにきたのかと思う。
そんな不機嫌のまま、地下の食品売り場で美味しそうなものを買い、ジュースなど飲めばそれも収まる。
食欲を満たすのは、世界平和に繋がるということか。
新しいアプリをインストールした。開いたばかりで詳細はまだ分からない。どうやら、決まったテーマに沿って、文章を書く物のようだ。
最近はTwitter、もといXばかりで、砕けた単語ばかりの文字を打っては投げ打っては投げしていた。纏まった文章を考えること自体が久々だ。
あぁ、元々言葉って、こんな風に連なっていたんだな。
まだ、髪が濡れたままだった。
このままタオルを乗せたままでは、前髪に癖が付いてしまう。
新しいアプリさん、ドライヤーが終わるまで、少しだけ待ってて。
待ってて 待っててね、今逝くから