『形の無いもの』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
どこにでも存在するしどこにも存在しない。
姿は見えず、形もない。
無数の色はあっても定まった色を持たない。
散り散りだったそれらが集まれば天使にも悪魔にもなり得る。
そんな形ないものに人は惹きつけられてしまう。
Theme:形の無いもの
例えるなら、彼は水のような人だった。
どんな状況にもすぐに適応し、柔軟な発想で切り抜けていった。
でも、その芯は常に変わらないようにみえた。
飄々として掴み所がなく、決して心の底を見せようとしなかった。
本心を探っても指の隙間からこぼれ落ちてしまうようだった。
皆にとって、そして私にとって、彼はなくてはならない存在だった。
思いきって、私は彼に想いを伝えることにした。
しかし、いつものように飄々とかわされてしまう。
「過去の思い出なんて、形の無いものにいつまで縛られているつもりですか」
私は思わず言ってしまった。今考えると、随分と酷いことを言ってしまったと思う。
彼の古くからの友人が仄めかした、亡くなった彼の幼馴染み。
存在もしていない彼女に敗北するのが悔しかった。
彼は困ったように頭を掻くと、諭すように言った
「形が無くなってしまったからこそ、大事にしてやりたいんだ」と。
その言葉を理解するには、そのときの私は若すぎた。
時は流れて、彼のことも思い出になってしまった。
今はその言葉の意味がわかるような気がする。
大事なことは、目の前から無くなってから、形が無くなってからようやく気付くのかもしれない。
丸い時もあるし
四角い時もある。
心って、本当に粘土みたいなの。
自分で好きに形を変えられるけど
変に力を入れたら、そのまま形に残っちゃう。
それが傷つくって事なの。
水を加えたら柔らかくなるけど
加え過ぎたら、グニョグニョになっちゃう。
それが依存し過ぎたって事なの。
形を変えることは、悪いことじゃ無い。
水を加えるのことも、悪いことじゃ無い。
けど、しすぎは良く無い。
貴方が壊れてしまうから。
ー形の無いものー
【形の無いもの】
形の無い者に目をつけられてから、私はひたすら山道を登っていた。人の往来により作られた獣道をハッハッと過呼吸になりながら駆け上がる。
獣道は綺麗に舗装されているとは言い難く、時折地上に張り巡らされた木の根に足をすくわれ転けそうになる。なんとか体勢を保ち、追手が迫っていないか後ろ目に確認した。
形の無い者は私の背後から二メートルほど間隔を置いて追ってきていた。形は無いが、空気の歪のようなものがぼんやりと浮かんで見える。私が通った道がその奥に透けて見えるので、"形は無いがそこにいる"ことは確かだ。
それは形こそ無かったが「オォォ……オォォ……」と鳴き声のような音をあげていた。人間の声だ。理性をなくした人間の鳴き声はああいった感じなのだろう。
その声からは、怨嗟、嫉妬、憐憫、憤怒などといった人間の内部に黒く渦巻く負の感情が混ざり合っていることが窺える。少なくとも私はそう感じた。あの声を聞くと、どうしても耳を塞ぎたくなるのだ。
負の感情の集合体は、行き場を探しているのだろうか。
ふと、私は背後に形の無い者を感じながらそう考えた。
人が抱えきれなくなった感情の集合体があれならば、それは本来あった場所――人間の内部に帰ろうとしているのではなかろうか。
だからといって、自分がその受け皿になり正気を保てる自信は微塵もなかった。自分一人の感情の起伏ですら身が張り裂けそうになるのに、他人が抱える負の感情を請け負うなんて。それは、この世で考え得る中でも非常に過酷な拷問ではなかろうか。
本来であれば、負の感情は適切に発散され、浄化していくものなのだろう。しかし、それを誤れば背後に迫る集合体のように、他者に理不尽にぶつかる暴走した感情と成りかねない。
私は依然「オォォ……」と悲痛な鳴き声を上げる形の無い者から逃げ惑う他なかった。
形の無いもの…
心の中はね、形が無いから
目に見えないからこそ大事にしなきゃね。
んー…頭では分かってるんやけどな…
私は人間関係が苦手。
たまに自分がロボットなら
どれだけ楽なんかなとか考えるぐらい…
私が喋って不快にさせてしまうなら
何にも喋らない方がマシ。
黙ってる方が楽。
ほんとの心の中は分からない…
怖いね。
形の無いもの
心に溜まる形ないもの達。
それは自分の世界を彩ってくれるもの、
赤白青黄色、
様々な色。
それらがなければ、世界に色彩はなく
そこに感情さえも芽生えない、
虚しい場所になり変わる。
愛おしいものはないに等しいものに変わり、
悲しい、寂しいと思っていたものも無となる。
だから形ないものが悪いのではなく、
いいものも、悪いものでもあると
私は考える…
それはすごく不確かで
すごく不安で心配で
少し触れたら壊れてしまいそうなほど
脆くて儚くて繊細で
それでもとても心地よくて
とても綺麗で素敵で
ずっとそばにいて欲しいと願うほど
優しくて甘くて眩しい
君が私にくれた、
かけがえのない宝物。
私が君に伝えられないでいる、
焦れったくて幸せな言葉。
まだ上手にあげられないけど、
私もきっと、
ずっと好きだよ。
ごめんねやっぱり、
怖くてずっとは約束できないの。
【形の無いもの】
形の無いものというと、「愛」とか「情」とか…
目には見えないけれど、それらは人によっても大きさも深さも形すらもそれぞれ違うだろうと思う。
もしかしたら人間にはほとんど感じないだけで、
動物たちは第六感とか超自然的な感覚で鋭く感じ取っているのかもしれない。
でも、きっと分からなくてもいいんだと思う。
人間には人間なりのコミュニケーションがあって、それは声だったり顔の表情だったり、または空気を察して読む能力がついてるから、そうやって他人と想いを通じ合わせていくのが、人間の戦略的な生存方法としてあるのかも。
すべてが形あるものばかりだと、案外つまらなく感じるかもしれない。
分からないからこそ、人間は面白いんじゃないか。
形のないものを信じるのは怖い
形のあるものを信じるのも怖い
あっという間
あっという間
だから怖い
だから怖い
ただ見えているだけ
ただ見えていないだけ
怖い
怖くない
どっちでも同じ
「形のないもの」
─形の無いもの─
何時からかは分からないけどさ、
君と居ると胸の奥で、何か感じるんだ。
それが一緒に居るに連れ大きくなってきてさ。
形の無いものから、何か分からない物が大きくなって。
最初はそれが何か分からなくて、病気かと思ったよ。
でもね、最近。やっと分かったんだ。
この胸の不思議な物が何なのか。
これはさ、『愛情』なんだって!
でも気づいた時には遅かったんだよ。
それが大きすぎて、僕を狂わせた。
君を殺したいと思うほどに。
だからさ、この大きい愛情を、受け取って?
そう言い包丁を持った友人に、僕は刺された。
友人はさ、一つ間違ってる。
その胸の感情はさ、愛情なんて綺麗なものじゃなくて、
独占欲って言う物なんだよ。
でももう、それを指摘することはできない。
君も僕も、もう手遅れなんだから。
#87 形の無いもの
本当に形の無いもの、なんてあるのかな?
思考や感情は、脳内でホルモンやら電気信号やらがわちゃわちゃしてる。
風は、空気があっちからこっちへ流れているせい。
目で捉え難いだけで、物理的な作用があるという意味では形が無いわけではない…解釈次第ではあるけれど。
炎はどうだ?目には見えるけど触れない。
熱と光のエネルギー。
考えてみるとエネルギーは不思議だ。
何をするにも、ちゃっかり存在している。
温度の上昇や電球の点灯、高い所から物を落とす…
菓子パンの栄養表示にあるカロリーに慄いたり。
拳を握るとき、脳から発信された命令が手の神経まで伝わり、筋肉が収縮して…というようなことが起こっている。
どのくらいの力がかかっているかは、握力計で計測できるし、熱くなった腕を触って感じることもできる。
でもエネルギーそのものではない。
私達はいつも、エネルギーが起こした結果だけを見ているのだ。
グーグル日本語辞書より
エネルギー:
1.精力。元気。
2.物理学的な仕事に換算しうる量の総称。
位置・運動・熱・光・電磁気など。
「―保存の法則」
3.動力資源。
「省―」
#形の無いもの…
喜怒哀楽
人の心は移ろい行くもの
形あるものばかりにこだわっていると
形の見えないものを見落とし
大切なものをなくしてしまう
失くしてしまって気付いても
もう見つけられないのょ…
ねぇ…そうでしょ?
形のないものとは
その形を形容する言葉がないってこと
だから、何々のようなとか、質感とか、色とか
周りの情報を増やして輪郭をなぞる
言葉にしにくいものも
言葉を尽くせばいつか伝わる
伝えたいが形を与える
伝わってほしいが影を生む
いらなくなった気分の日
自分を見失っていたと気づいた日
どうにかこうにか言葉を紡ごう
言葉にならない想いでも必死にしたためよう
あなたの影の形を丁寧に丁寧になぞる作業
言葉に尽くし続ければいつか!いつか!
形の無いもの
どうしたら…と、今日も出口の見えない答えを考えててしまう…君と出逢ってから、ずっと君に振り向いて欲しくて…平凡過ぎて、何の特徴も無いから、知り合い以上になれなくて…この想いをどうしたら君に…
夫婦って
色々な形があるとは思います
ただ、その形は
有るようで無い
目には見えないけれども
なくてはならないもの
信頼がほぼ大半かと
無力でいて確固たるもの
紙一重ですよね
そこを大事にするかしないかは
これまた形ないもの
そんな不安定な
それでいて決定的な
其れを守るのが
わたしの希望なのです
形の無いもの
見えないもの
聞こえないものは
怖くて信じられないよ
そんなに強くないよ
形のないもの。
形のないものは
愛でしょ?
形のないものは
魂?
形ないものは
想い。
【形の無いもの】
「可愛いよ」
「素敵だよ」
「好きだよ」
「愛してるよ」
そんなセリフを吐いていても
その『愛』はゴムのように薄っぺらい。
誰も傷つけることが無い。
だが余計にその言葉が突き刺さる。
どのように『愛』を示したら良いか
誰も知らないし、表せることが出来ない。
『形の無いもの』
それだからこそ
良くも悪くできる『凶器』になる。
#形の無いもの
愛してるって言葉が苦手。
だって『愛』ってさ、ものじゃないじゃない?
形がなくて、曖昧で、人によって解釈が変わる。
愛してるって囁いてくれる人は、どうして愛が分かるのかしら?
愛、逢い、藍、哀
アイって沢山あって困ってしまうわ。
そう言って寂しそうに笑った君の顔が僕は忘れられない。
奴の視線は難しくない。憧れ、屈折、欲情、堕落、苛立ち、焦り、こもっているものは色々あるが、読みとるのは簡単だ。だからこそ征服しがいがある。奴はそれを望んでいる。それは圧倒的に正しい。同時に、なにものかから開放されたがっている。奴が言うにはそれは「故郷」らしいが、おそらくそこで染みついたもの、なのだろう。私に征服されることと、その関係は分からないが。
「あの、****さん。今夜――」
そう、私の部屋を訪れた奴がせつなげに訴えてくる。
「いいや、気分じゃない。またな」
「そうですか。では――」
だが、私はその申し出を蹴った。奴は少ししょげた様子で、水差しから注いだ水を呷る。いじめたいわけじゃない。焦らしているわけでもない。ただ、今夜じゃないだけだ。
「では」
「待て」
そう、短く言って辞そうとする奴を私はやはり短く呼び止める。
「そう構えるな。今日じゃない。――今でもないぞ?」
「はい」
ではいつ、と訴える奴の胸倉を掴み、引き寄せる。奴はあくまで無抵抗だが、重心のとり方から、奴の意思は明らかだった。
「――」
黙って唇を奪う。舌を差し出すと、奴は黙ってそれを受け入れた。
「――」
「――」
奴の息は異常に長い。以前海に落ちた宝石を拾ってきたことからそれは分かっていたが、奴が音をあげるまえに、私が唇を離した。
「あの」
そう、おずおずと問いかける奴はまったく息が乱れていない。
「生意気だな」
「え?」
「今してやってもいいが」
だが、やはり気分じゃない。奴を突き放し、その濃い色彩の目をのぞき込む。深いようで浅い黒目に囲まれた瞳に青が見える。
「明日、K****で待っていろ。気分がのれば迎えに行く。いいな」
「はい。あの、待ってます。できれば僕が酔いきらないうちに」
その瞬間、奴の瞳の青が煌きを増し、並外れた色を見せた。――実に単純だが、しかし、その奥に灯る暗さも奴は隠せていなかった。それは旅団長も、他の誰もが見落としている鈍い光だ。それがひどく憎くて、ものにしたい。そんな私の欲望を、こいつは察しているのだろうか。
どっちでもいいか。
どのみちこの男は――。
「行ってくれ」
そう言ってわざとらしく興味を失った、つれない女の顔をして奴を突き放す。
「待っています。......」
たまに口にするよく分からない、どこの言葉ともつかない何かを低くつぶやき、奴は部屋を出た。
「......」
ひとり残った部屋で私はす、と短剣を抜き、すぐに鞘に戻す。理由はよく分からない。投げるものでなく、格闘向けの重さと振るいやすさを重視した一本だ。
奴はすでに諸手をあげているようでいて、その実まったくそうではない。
「本当に、生意気なやつだ」
私に奴が征服しきれるのだろうか。
単純なくせに水のように捉えどころのない奴が。
――まあ、そうでなくては面白くないな。
私はそう心に決めるようにして、奴が残していった、よく冷えた水をひと息に飲み干した。