『巡り会えたら』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ぱちん、と何かが弾けた音がした。
あまりの衝撃に、思わず尻餅をつく。
数時間前の記憶に、血の気が引いていくのを感じた。
「嘘、でしょ?」
呟くが、やはり記憶は掻き消えてはくれず。
僅かな期待に、恐る恐る頬をつねれば、鈍い痛みに色々な意味で涙が滲んだ。
「と、りあえず。戻んなきゃ。兄様の所に」
バックひとつを掴んで部屋を出て。
転がるように、日の沈んだ夜の街へと駆けだした。
放課後。いつもの帰り道。
いつもと同じ幼なじみが隣を歩いて。
変わらない日になるはずだった。
昨日見たテレビの話。今日あった出来事。
他愛のない話をして、笑いあって帰る道すがら。
急に十字路から飛び出した自転車に驚いて、ふらつく体を支えるように抱き留められ。
その熱に、たぶん酔ってしまったのだろう。
気づけば、唇から今まで隠してきた想いが溢れ落ちてしまった。
「好き」
ただ一言。
小さく呟いた。
「ごめん。好きな人がいるんだ」
けれど、その想いは叶う事はなく。
「わたしこそ、ごめんね。忘れて?」
今までの関係にすら、呆気なくひびが入るのを感じていた。
その後。どうやって戻ったのか、正確には覚えてはいない。ただ気づけば、部屋の中で一人きりで泣いていた。
泣いて。泣いて。泣いて。
そうして、泣き疲れ。
顔を洗おうと洗面台に向かい、己の泣き腫らした顔を見た時に。
ぱちん、と。
封をしていたはずの、記憶が元に戻った。
すべてを思い出して、愕然として。
こうして、思い出した記憶を辿り。泣いた理由の記憶から逃げるようにして、ここにいる。
「それで。戻るのか?」
「戻らない。何で思い出したのに、戻らなきゃなんないの」
膝を抱えて愚痴る少女に、男は表情ひとつ変えずにそうか、と相づちを打つ。
とある神社の、社務所内。
男の元に少女が転がり込んできたのは、夜明けを過ぎた、まだ薄暗い時間帯の事だ。
男に記憶がある事を喜び、己自身に怒り、社の主が不在である事に嘆く少女は、前日に泣いていたとは思えぬほどに活気に満ちあふれている。
「それほどまでに気まずいのか。もう憎んではいなかったのだろう?」
「それ以前の問題でしょ。いくら覚えてなかったとはいえ、わたしたちを殺した男に恋するのは絶対になし」
男の純粋な疑問に、少女は心底嫌そうに首を振る。
「兄様の願いでも、断ればよかった。記憶を封じて人として恋をしろ、だなんて」
何て酷い願い事、と嘆く少女は主と共に生きた頃より変わらない。
主の側室として、主一人を愛し、命を捧げた。その生き方は、何度命を巡らそうとも変わりはしなかった。
その愛を貫くために、何度目かの生で自らの時を止めてしまうほどには。
「兄様、怒るかな」
「それならば、もう一度やり直したらどうだ?」
「破れた恋でも、恋には変わらないもん。そっちじゃなくて、あれに恋してしまった方の事を言ってるの」
「記憶がなかったのだから、仕方がないのではないだろうか」
あれ、と評される程に少女にとって、その者は幼なじみとしても恋する相手としても不本意だったのだろう。
かつて主を殺した相手だ。
恨みなどはすでにないが、それでも幼なじみとして、友としてある事は男としても難しい。
記憶を封じていたとはいえ、大層な巡り合わせもあったものだ。
「そもそもわたしの好みではなかったのに。恋するなら寡黙で、常に冷静で、それでいて強くて優しい人が良かったのに」
「それは主の事だろう」
「そうよ。あれは口数は多いし、ちょっと躓くだけで乱れるの。それを慰めてたなんて、思い出しただけで嫌になる」
首を振り、腕をさする。
だが、顰めた顔は次第に悲しみを宿し、でもね、と呟いて目を伏せた。
「今更だって、分かってる。戦があったのは、遠い昔の事だもん。その時の記憶を持っている事自体がおかしいのだし、あれも記憶を持たずに今を生きているのも知ってる。分かっているの」
「そうだな。忘れる事が、正しい。記憶を有する事は、過去に縋っている事と同義なのだろうからな」
「つまりは弱いって事ね、わたしたち」
少女の言葉に男はそうだな、と呟いて、かつての終わりの記憶を辿る。
主が討たれるその刹那に入れ替わり、主として討たれた少女。
それを唯一看破し、少女を、主を、男を討ち取った敵将。
今を生きるには、足かせにすらなり得る記憶。
それでもまだ手放す事は出来そうになかった。
「これじゃあ兄様に怒られてしまうのも、仕方がないわ」
顔を上げ、少女は笑う。
泣くのを堪えるような、泣いているような笑顔だった。
「でもよかった。あいつが振ってくれて。わたしにはまだ恋は早かったみたいだし。途中で破綻するよりは、最初から始まらない方がいいもん」
笑う少女に、男は肯定も否定も返さず。
ただ、少しだけ少女の記憶が戻った事を残念に思う。
「戻らないのか。心配しているかもしれない」
「戻らない。戻れないよ。痕跡は全部消してきたからね」
「ならば、また始めからやり直せば良いのではないか」
「やだ。絶対やだ。始めるなら兄様がいい」
頬を膨らませて視線を逸らす少女は、男の言わんとしている事が分かるのだろう。
分かっていて、認められないのだ。
「どうしてもと言うなら、巻き込むからね。一人だけ残ろうなんて、許さないんだから」
「それは困る。此度の生では、まだ主に御目通りが叶っていないのだ」
「じゃあ、それ以上言わないで。どうせ兄様にも言われるんだから」
拗ねたような物言いで外へと向かう少女に、男はそうか、と一言だけ返す。
引き止める言葉も、理由もない。
ふっ、と短く息を吐く男に、少女は立ち止まり背を向けたままであのね、と声をかけた。
「今はまだ無理。兄様を愛しているもの。きっと兄様と比べてしまう。比べて、傷つけて。だからあいつは他の人を好きになったんだと思う」
「そうか」
「この生を終えない限りは、本当に無理だよ。でも術を解いて、生を終えて。新しい生の先でまた巡り会えるとしたら」
くるり、と振り返り、少女は微笑う。
「その時は、どうなるかは分からないけどね」
精一杯に強がる、かつて優れた術師として生きた少女に対して、男は一言、そうだな、と笑った。
20241004 『巡り会えたら』
巡り会えたら
もしも巡り会えたら
きっと涙が溢れるだろう
もしも巡り会えたら
衝撃が走るだろう
もしも巡り会えたら
周りの音が聞こえなくなるだろう
もしも巡り会えたら
わくわくが止まらないだろう
もしも巡り会えたら
あなたに会うために生きてきたんだと
一瞬でわかるだろう
いつか巡り会あるのだろうか
運命の人
『遅くなってごめんね。助けてくれてありがとう』
女の子らしい可愛い字だった。そう、彼女は一年前、俺が助けた女の子だった。あの時の彼女は襲われたショックで、俺は警察を呼ぶので精一杯だった。
wip
巡り会えたら
『大願成就』
来世でも、そのまた次の来世でも、キミとまた巡り会えたらいいな。巡り会う度、私は貴方を殺してあげる。だって私達、ずうっといっしょだもんね。
運命に巡り会えたら
雷にうたれたように
それとわかるのでしょうか
氷河が山を削るように
それとわかるのでしょうか
雪がとけるように
それとわかるのでしょうか
夜が明けるように
それとわかるのでしょうか
星が瞬くように
それとわかるのでしょうか
〜巡り会えたら〜#18
巡り会えたら
それはいきなりやって来る。
錯覚かもしれない、
すぐに飽きちゃうかもしれない。
足掻いても、落ちる。
そして、嵌まる。
推しと巡り会えたら。
《巡り会えたら》
邪神討伐の旅の最中、重要アイテムの一つが紛失された。
それは邪神復活に必要なアイテムで、帝国の皇帝が他国を侵略してまで集めようとしている物だった。
状況から見るに盗難が一番可能性が高く、皆の話からも犯人は仲間内の誰かであろうと推察された。
無論、その誰かには僕も含まれていた。
そして、直前に帝国に掛けられた術により皇帝の部下にキーアイテムを渡してしまう失態を犯していた僕は、誰よりも疑われる立場に立たされた。
そんな最中、仲間の心の内に住むあなたが僕を無実と信じてくれた事は、ずっと僕の心の支えとなっていた。
結果としては、その仲間が最初から裏切っていたわけなのだが。
その心の中のあなたは、その裏切りに全く加担していなかった事も知った。
その騒ぎも収まり、裏切った仲間も邪神を討つ為に力を注いでくれるとなったある日。
目的を果たすためには、僕は祖国を裏切らなくてはならない。
同胞に、同じく祖国の軍人である兄姉にも銃を向けねばならないかもしれない。
僕は本当に、祖国にとって良い事をしているのか。
世界は救えるが国は、家族は救えないかもしれない。
旅を続けるならばいずれは訪れる残酷な事実に打ちひしがれていると、唐突に仲間から声を掛けられた。
「『貴方』は悪くない! あたしは! 貴方のする事は帝国の為にもなれるって信じています!」
…僕は、呆気に取られた。
その台詞は、旅の仲間である彼からは絶対に出てこないような一言。
それだけであるならば、何某か心境の変化でもあったのかと思うだけで済んだのだが。
そうはならなかったのは、口調すらその仲間のものとは全く違っていたからだ。
「はぁ!? 勝手に俺の口使って喋るなってあれほど言ってたよな!?」
僕が呆気に取られている間に、同じ口から出たとは思えない言葉が飛び出して来る。
しかし、これこそが普段の仲間の口調なのだ。
全く違う口調、勝手に仲間の口を使う。
では、最初の言葉は『あなた』の言葉だったのか?
仲間の心の中に住むあなた。
真っ直ぐに僕を信じてくれたあなたは、一体どんな人なのか。
そう思ってはいたけれど。
「だって、自分の国と戦わなくちゃいけなくなってるんだよ? 誰かさんの裏切りのせいで!
ずっと元気無いんだもん、一言ぐらい言わせてくれてもいいじゃない!」
「ぐっ…! お前なぁ! だったら伝言頼むって心の中で伝えろよ! わざわざ俺の口を使うな!
しかもわざとらしく「あたし」とか言ってるんじゃねーぞ! いつもは”私”のくせに!」
「いい子ちゃんぶっちゃって、とか付け足されるの嫌だし? また変な嘘吐かれても嫌だし。」
「分かったからもう黙れ! そして当て擦るな! 悪かったから!」
眼の前の僕と同い年くらいの男性。
その口から出てくる一人二役のような、軽快なやり取り。
僕は、ぽかんとしながら口にした。
「その、心の中に住んでいる方とは、女性だったのですね…。」
そう。
以前に聞いたのは、彼が言った言葉。
”『彼女』はお前を信じるってさ”
この一言。
それ以外の話も、あくまで伝言として伝えられるだけ。
見た目も当然分からない為、気が付けば性別も不明だったのだ。
「あれ? 言ってなかったか?」
しれっとした顔で、眼の前の仲間は告げてきた。
女性。
僕の知る女性とは、まずは姉。
僕の生まれる前より軍人として厳しく育てられ、所作は美しいが性格は苛烈だった人。
もう一人は、乳母。僕を育ててくれた人。
曲がった事は許さなかったが、おおらかで明るく優しい、おっとりとした人。
しかし仲間の心に住む貴女は、そのどちらにも当てはまらない。
あけすけな物言い。
相手に気を置かせない雰囲気。
その軽快なやり取りには、相互の揺るぎ無い信頼関係が伺える。
この人相手なら、このくらい言っても大丈夫。そんな気安い暖かさ。
決して交わらぬ世界。貴女は、そんな世界の人。
それでももしこの人と巡り会えたら、僕はどんなやり取りが出来るだろうか。
そのやり取りの中で生まれる空気は、気安いものになれるだろうか。
僕も、その暖かさに触れてみたい。
『信じています!』
先程の力強い言葉に、自らの使命に立ち向かう大きな勇気と力を与えられた。
また、貴女に助けられた。
例えこの世界でなくてもいい。いつか貴女と巡り合って、このお礼をしたい。
初めて感じた、叶わないであろう願い。
すると僕の眼の前で、仲間がガシガシと自分の頭を掻いて呟いた。
「…あ、あいつ。引っ込みやがった。」
ここ自体には不満はあれど、あの場所を出たことには、後悔はしていない。
ひとつだけ、心残りがあるとすれば、まだ小さい孫にお別れを言わずじまいだったことだ。
いつか。遠い日のいつか。
また孫に会えたら、あのときのことを詫びようと思う。
今ごろは、そうさな、この人間くらいの年頃になってるころだろうな。
『巡り会えたら』
「見送らなくて本当によいのですか?」
心配するような、案ずるような。
恐る恐ると問われ"是"と首肯する。
合わせる顔がないというか、見送らないのも己への罰の内にしてしまおうと思ったのだ。
ようやく出会えた探し人。
再会は随分とタイミングが悪かったけれど。
会いたくなかったと言うのは我儘で。
会いたかったと言うのは都合が良すぎる。
だから、まあ。
(感動の再会。とやらは、お預けで良かろう)
見つかりようもない場所からそっと伺いみる。
最後に一目焼き付けるくらいなら許されるだろう。
ああ、でも目敏い貴女のことだ。
合うはずないのに、ほんの少しだけ交わった視線。
緩く微笑んだ貴女が『待っている』と口を動かす。
うん。今はそれで、十分だ。
何時かまた、何処かで巡り会えたなら。
「次はお互い笑顔で話したいものですね」
【題:巡り会えたら】
比較的栄えている近所の商店街も地方と同様に高齢化の波が押し寄せてきていて、個人店が少しずつ閉店している。
昔ながらの店は残すところあと三店舗で、あとは新しく出来た飲食店とマッサージ屋ばかり。
三歩歩けば、は言い過ぎだけど長くも短くもない商店街に既に八店舗は有るマッサージ屋……来月には新たにもう二店舗増えるそうだ。
みんなそんなにマッサージに行くのか?と首を傾げながら目当ての店までトコトコと歩く。
ここもあと数日で閉店するんだよなあ、と駅前に建つ本屋を見上げた。
テーマ「巡り会えたら」
巡り会えたら
桜舞い散る春に巡り会った、ある人がいた。
青葉がきらめく季節、雲に隠れてしまった。
行方知れずの彼を知る人はなく、はりぼての植物に水をやるばかりの日々。事の理由を知らされることも無く、唯再びの逢瀬を夢に見て季節を空費した。
そうして季節は過ぎ去り、知らぬ間に蝉の鳴き声も聞こえなくなっていった。
もしも、来世があるとして。
そこで君と巡り会えるとしたら、握った拳を思いきり叩きつけてやりたいよ。
俺より先に逝きやがって、今世で精一杯生きてやろうぜ相棒って、さ。
- - - - - - - - - - - - - - - - -
テーマ「巡り会えたら」
巡り会えたら
巡り会うってとても素晴らしいことだと思う。
例えそれが嫌いな人だったとしても、、
家族や友達、好きな人や彼氏と言った名前がついた人達だけでなく通りすがりのおばちゃんやコンビニの店員さんなど知らない人に出会うことも人生の一期一会だから私は大切にしたいと思う。そしてこれからもそのことを忘れないで生きて行きたいと思う。
巡り会えたらいいのにな。
今読んでるこの本の作者と。
意外と通り過ぎているものだ。
流れ星に気づく人間と、気づかない人間。
目に星の光が入った時には時間とともに過ぎており、とうに地平線の彼方に。
本という風に限定してみたが、別に文章でもいいか、と範囲を規制緩和してみることにした。
このお題、マジで思いつかないのでスルーしようと思ったのだが、ひそかにお気に入り登録した者たちの投稿物をぷららと見て、これで勘弁してくれよと文字を打ち続けた。
次のお題はなんだ?
「踊りましょう」?
……(舌打ち)。
もっと難しいやつじゃねえか。
もし自分に巡り会えるとしたら、どんな言葉をかけるかな。
いつも自分の感情や気持ちは後回しにしてしまいがちだから、いつも自分に素直で自分が1番でいていいんだよって伝えたいな。
でも決してどんな私がだめだってことではなくて、どんな状況、どんな気持ちの私でもいいってことは忘れてほしくない。
いつも上機嫌ではいられないし、嫌なことだって思う自分もぜったいにある。
私が私の味方でいられる自分でいてね!
#66 巡り会えたら
[忘れない]
さようなら。
もっと貴方と一緒に居たかった。
貴方は、何を思ってお別れしたのだろう?
別れてから初めて気づいた。
貴方とお別れすることで
わたしは守られていた。
わたしは最後まで貴方に守られてるみたい。
虹が見える。
なないろの希望がわたしと貴方を
明るく灯す。
心は見えない糸でつながっているから。
貴方が結んだ糸を伝って
希望をつないでいこう。
わたしは決して貴方を忘れない。
それは遥か遠い国での記憶。
多分、お互い忘れている記憶。
それでも、その二人にとっては、宝物のように大切な記憶。
小動物や精霊や、動く果物などが闊歩する森林の奥深く―――開けた広場のような場所が広がり、そこからは城下町が一望出来るのだった。
「姫様、ここにおられましたか」
鉄の擦れる音と共に、重い甲冑を羽織った騎士は、そう口にし、自らの仕える主の足元へと膝をついた。
「間もなく戦へ行って参ります故、別れを申し上げに参り仕った次第であります」
風にドレスが靡く。
「馬鹿を仰らないで」
まだ二十歳にも満たない齢にも関わらず王国のトップに担ぎ上げられた彼女は、騎士が少し目を離しているうちに、大人びた表情をするようになっていた。しかし、どうやら、緊張をすると、胸元に掛けられているペンダントを握る癖は、治っていないようだ。
「貴方は必ず、生きて私の下へ戻って来るのよ」
「それは、宮廷魔術師殿の予言で?」
「馬鹿なの? そんなわけないでしょ。大体、あんな奴、さっさと騎士団に捕まって火刑にされちゃえばいいのよ」
「はは、おっかない姫様だ」
こうして会話を交えていると、まるで昔に戻ったような心地になる。なってしまう。立場という二言さえ知らなかった幼い子供の頃に。戻れたら、どんなにいいか。
けれども、それは叶わない願いで、口にしてはならない願いなのだ。子供のままでいられたら、なんてのは、本当は泣き虫なくせに気丈に振る舞う少女の耳には入れてはならない。
「ねえ、約束して。必ず帰って来るって」
「・・・ええ、俺は―――」
カチ。
耳を劈くようなけたたましい音を撒き散らす、不愉快な道具―――すなわち、目覚まし時計―――を止めて、寝具から起き上がる。
なんだ、今の夢。
ガキじゃあるまいし、あんなファンタジーな夢を見るとは思わなかった。昨日の晩、子供のままでいられたらよかったと馬鹿な考えをしたのは確かだが・・・、ん? ふと、柔らかな感触に思考を止める。隣を見れば、自分が今までかけていた布団がこんもりとしていた。
「・・・・・・・・・・・・」
いやまさかな。それこそ、夢であってほしい出来事だったんだから。いや、あれは夢だ。夢でなかったらなんだと言う? 魔術師だの一国の姫だのトンチキなことを並べ立てていた少女に、助けを求められたなんて。
―――それは、宮廷魔術師殿の予言で?―――
―――おっかない姫様だ―――
―――約束して。必ず帰って来るって―――
不意に、頭の中に先程見た夢の会話が浮かぶ。いや、だからなんだと言うのか。俺には関係ない話だし、第一ただの夢じゃないか。ちょっと前に異世界転生が流行ったからって、現実に置き換えて考え始めたら、ソイツはもうただのキチガイだ。アレはただの妄想で、一介の夢で、現実とは遥か遠い場所に―――国に、あるものなのだから。
「んん・・・」
「!!」
まずい、身動ぎをし始めた。この後の行動はなんとなく想像がつく。お約束と言うやつだ。取り敢えず部屋から脱出して、会社に向かおう。今日は土曜だが、何故か理不尽に上司の仕事を押し付けられたので出勤することになっている。ありがとう休日出勤今このときだけは。
と、俺がドアノブに手をかけた瞬間、背後で起き上がる気配がした。普通気配分かる? 円使ってんの? つーかこれが限界? って思うかもしれないけど、火事場の馬鹿力的なアレだよ。敏感になってんだよ。
そうして、起き上がった少女が寝ぼけ眼を擦りながら言った。
「・・・あら、おはよう。私の騎士様」
「え?」
「・・・・・・え?」
いやなにお前も驚いてんの??
(下書きとして一時保存)
20241003.NO.70「巡り会えたら」
もしもまた、君に会うことができるのならば。季節限定のドリンクを片手に他愛の無い話に花を咲かせながら、「これ美味しいね、また来年も飲もう」なんて、ささやかな約束を取り付けたりなんかしたいな、と思うんだ。
ううん、それもしたいけれど。本当は、きっと。ただ、もう一度会えるだけでもいいんだ。
君はとてもとても遠いところに行ってしまったから、多分、難しいのだろうけれど。それでもきっとまた出会えるはずと信じている。
百年先だって二百年先だって、此処だろうと虹の先だろうと、構わない。君との運命を信じているから。
テーマ「巡り会えたら」
『ブレーメンの街の音楽』
僕はロバ。年老いて粉運びができなくなった。だから楽隊に入ろうと思った。夜明けにはブレーメンに着くだろう。途中、泥棒が騒いでいて息を殺すように歩いた。やがてブレーメンに到着した。街は輝いていて体の重さを忘れてしまう。小さなシニアの楽隊に入れてもらい、看板ロバとして音楽を紡いだ。自分の音楽が森まで届いている。その感覚が好きだった。最高には届かないけど、悪くない人生だったと思う。いい仲間に囲まれて終わったんだから。
もう年だな。狩りをすることができない。明日にでも処分されるだろう
「この猟犬、なんも狩れなくなったんだよ。」
「山にでも捨てとけ。」
「そうだな。」
捨てられて一週間経った。民家から食料を奪ったりして生き延びていたが、どこも対策してきて難しくなった。途方に暮れていたら、家の光が見えた。あそこから何か盗めないだろうか。
結果からすると、盗むことは出来なかった。だが、泥棒に番犬として拾ってもらった。少し荒っぽい性格が似ていて、嫌いにはなれなかった。
今日も森には遠吠えが響く。
あぁよかった。生きてる。
「猫のくせに鼠が取れないなんて」
そう言って飼い主は、私を川に沈めて殺そうとしてきた。私の望みはただ1つ、寿命で死ぬこと。こんなところで死ねない。その思いで命からがら助かった。もう飼い猫になるのは嫌だ。一人で自由に生きていこう。
野良猫は楽なものではなかったが、自由である喜びも感じられた。森からは微かに足音がするような、しないような。
「私たちを結んでくれたのは、チキンのスープです。」
彼に出会ったのは冬のパーティーだった。お金持ちでおしゃべりな叔母さんはクリスマスの少し前に、親戚やお友達、近所の人達をたくさん呼んで食事会を開く。姪である私は料理の手伝いをすることになった。チキンが丸ごと入った香り高いスープ。
来てくれた人達みんな、スープを絶賛してくれた。その時褒めてくれた一人が彼だった。彼と話していると時間が過ぎるが早かった。
そして2年後の食事会の日。みんなの前でプロポーズしてくれた。知り合いばっかで恥ずかしかったけど。
こうして今、結婚式で2人並んでいる。叔母さんが当時のことをたくさん喋っていた。
「チキンのスープに入っていた鶏は私が捕まえたのよ! 脱走しようとしていてもう大変だったわ〜。2人とも感謝してよね!」
森の方から楽隊の音楽が聞こえる。祝福してくれているみたいと2人で笑いあった。
巡り会えたらどうなっていたのか。
もしかして君は知っているのかい?