『子猫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
なかったことにならないかと思う。
何もかもがなかったことに。
何に才能があろうとも、金にならないと言われてしまえば、それに反論する術を私は持っていないから。食っていけない。生きていけないと言われて、実際そうなのだとそこで止まっている私がいる限りは。
人と同じように並ぶために、いつまでも馴染めないものを目指して、どうせこのまま生きていくというのなら。鍋底で煮え切らない骨の屑のように、順応しているふりをして、つまずいて、呆れられ、信頼されず必要とされず、積み重なってゆく記憶に蓋をして笑うなかで、ふっと訪れる虚しさにこたえながら生きていく、その連続が私の人生だというのなら。いっそ最初から、私という存在がなかったことになってしまえばと。そう考えているときだけ、ぼやけた思考回路がクリアになって、はじめて、ただ一点だけを見据えることができるようになる、そんな錯覚をする。
弱々しい鳴き声の子猫は、真っ先にカラスに食われるだろう。人間は弱々しい声をあげてるだけでは誰の目にも止まらない。そこが辛い。
聞こえない、もっと大きな声を出せと、
どうして声が出ないのかといわれるだけ。
だから、命有る限りは、ただ、生きるしかない。
マイナスから0になるために、そのために、生きることしかできない。
子猫#10
「私たちもう別れようよ」
私はそれだけ送信してスマホの明かりを消した。
真っ暗で曇った空にため息をついた。
星なんてなかった。
もう今年もラストスパートで、私の香水もラストノート。
クリスマスを前にして別れを告げた。
空は黒くて息は白い。私は待ち続けたあの人が来るのをずっと前からこの寒空の下で。
でもあの人は一向に現れなかった。
約束なんてなかったみたいに平然としているのかな。
私は分かっていた。あの人は他にも会っている人がいることくらい知ってた。
だって私と会う時はいつだって他の女の匂いがしたから。
別れようなんて今更かもね。
私はいらない子。
あの人猫好きだって言ってたな。
私が子猫にでもなったらまた愛をくれるのかな。
霜のように冷たい手と、あなたの心。
さようなら。
【子猫】
「なんかこう、イライラするっていうか……」
眉を寄せてボソボソと呟いたから、何気なく聞いてみる。
「えー、猫キライ?」
「別に嫌いじゃない」
イヤではない割にむっつりとした声が返ってくる。
「じゃ、どして?」
「可愛いは、可愛い。けど」
「けど?」
「小さいの。丸めて、丸めて」
「丸める?」
思ってもみなかった方向に、話が進んでいる気がする。
「こう、手の上で」
「手の上で?」
「こう?」と左の手のひらを上にして差し出す。
「撫でてるうちに」
「うん。撫でる」
手のひらに乗っている何かを、右手で丸く撫でるようにする。
「どうしていいか分からなくなるんだ」
「へ?」
両手と目と口を開いたまま、固まる。
「どうしていいか分からなくなる……の?」
繰り返して、そのうち何かがじわじわときたのか、背中を丸めて笑い出す。
「どうしていいか、分かんないんだ〜。そっかそっか」
「なに!」
どうして笑われているのか分からず、ムキになる。
「可愛くて、可愛くて、どうしようもなくなっちゃうんだね〜」
「は?」と言った顔が真っ赤に染まっている。
「そんなこと言ってない!」
「分かるよ〜」
「ウソつけ! 思ってもいないくせに」
「そんなことないよ。ホント可愛いって困るよね」
親がいない子猫を見かけた。
このまま生きていけるのだろうか。
もしかしたら近くに親猫がいるかもしれない。
それか、人間に拾われるかもしれない。
勝手にみて勝手に心配している。
ただのエゴ。
そんな時が自分を人間だと改めて思う。
目の前の何の変哲もないアパートの扉の奥を、途方に暮れて見つめた。
チープなインターフォンの音を聞いて、5分は経過しただろうか。ふと思い立ってドアノブに手をかけたことを、こんなにも後悔するとは思わなかった。
どうしてこんなことになったのか。私は沈黙から逃避するように最近の出来事を思い返していた。
不倫は遺伝するらしい。
あの人の父親もおじさんもそうだったらしいと義母になる予定だった人から聞いた。聞く機会なんてない方が良かったけど。
今日も粛々とスマホを見せてくる彼に、これでは何の意味もないじゃないかと当たりたくなる。履歴なんて消せばいいし、私の知らないアプリやサイトを使っていたら私には分からないのだから。
「なあ、反省したんだ。浮気なんてもう二度としない。」
それに続く言葉を受け止める気力が無くて、ぎこちなくその場を流した。
物言いたげな目をした彼は唇を噛み、短く断って今日も寝室へと籠ってしまう。それにやってしまったと思う私は、まだ彼のことが好きなのだろうか。
唇を噛むのは困った時の彼の癖で、私はいつも辞めるように諭していた。今思えばそんな時間までも優しく悲しい。視界が歪むのを止められなかった。あの頃に戻りたいのに、それを一番難しくしているのは私自身じゃないか。
「はあ?あんたはなんッにも悪くない!」
彼女がテーブルを叩いた拍子に飲みかけのグラスがそこそこ大きな音をたてて、肩を竦めた。カフェやなにかだったら避難の目を向けられていたことだろう。
そんな音など歯牙にもかけない高校時代の友人は、大袈裟に頭を抱える。
「さっさと別れた方がいいって!」
「でも仕事も辞めちゃったし、お義母さんたちにもよくして貰ってるし……あの人もね、反省してくれてるから。」
彼の親族一同に頭を下げられたのはまだ記憶に新しい。彼も彼の家族も根はとてもいい人なのだ。
「甘い!グラブジャムンより甘いわ!こんな状態のあんた放って浮気なんてろくでもないに決まってるんだから!許したくないならそれでいいの、あんたが申し訳なく思う必要なんて一ミリもない!」
「わ、なんだっけそれ。」
「インドかどっかの食べ物……じゃなくて、ねぇ!」
「あんた、猫とか興味無い?」
三食寝床つき、お腹の子の様子見ながらでもできる、猫とおまけの食の面倒見るバイト、やってみない?
そして時は現在へ。目の前の男は頭痛を抑える私など気にした様子もなく子猫に追い回されている。
「朝晩寝床つきののペットの世話、怪しいと思ったけど……」
まさかこう来るとは。そういえば友人は、高校時代から不意に突拍子もない問題を持ち込んでくることがあった。十年経った今もあの体質は健在らしい。幸いにも、彼女の人徳故かトラブルになったことはないが。
「あ、鈴木さん……ですよね、この、こいつ、なんですけど。」
どうにかしてください。と、初対面にも関わらず恥ずかしげもなく壁に張り付く男性……推定雇い主を見つめた。
へにゃりと下げられた眉からは気の弱さが醸し出され、悪人ではなさそうに見える。あの友人の紹介であるから、それはあまり心配していないが。
彼女のしてやったりという顔が浮かぶ。きっと私がどうするかも分かっての行動だったのだろう。自宅に戻ることと友人の思惑にのることを天秤にかけ、私は後ろ手に扉を閉めた。
これは私と猫と同居人の、ハートフル?ストーリーである。
『子猫』
子猫のように無知であり貧弱な君は、とても愛おしく見える。しかし、彼女は好奇心が強いゆえにあぶなっこいったらありゃしない。ここは、私が親猫として首根っこを掴んでおかねば。
英語でKITTY。
よちよち歩く。
愛くるしい。
親ネコのように、まだ伸びやかでない。
親ネコのように、まだ気品がない。
まだ女みたいでない。
子猫は暴れていた
彼の中の抑えきれない衝動が、彼を突き動かしていた
彼はもはや子猫ではない
トラと呼ぶべきだろう
柱で爪を研ぎ、障子に穴を開け、机の上にあるものをひっくり返す
短い時間の間に、秩序の保たれた空間は、混沌へと変わり果てた
暴虐の限りを尽くしていると、どこからか女神が現れた
女神は彼の名前を呼びながら、彼を捕まえようとする
しかし彼は速かった
女神をあざ笑うかのように、華麗に回避する
もはや誰にも彼を止めることは出来ない
しかし女神は覚悟を決め、魔法の呪文を唱えた
「チュール」
それを聞いた瞬間、小さなトラは自分がただの子猫だということを思い出した
そして子猫は女神をどんなに愛しているか、訴えながら歩み寄る
そして女神に捕まり、説教をされたのだった
なおチュールは出なかった
子猫
「わぁ、子猫だ!」
弾んだ子どもの声が聞こえた方に行くと、小さな女の子たちとその親らしき人がいた。
これが、僕と家族の出会いだった。
彼らはご飯をくれて、一緒に遊んでくれた。
しばらくして、僕は彼らの家族になった。
たくさん一緒に遊んでくれて、優しく撫でてくれるこの時間が1番幸せだった。
みんながお休みの朝は、なかなか起きてこなくて起こしにいったこともあった。
テレビに出ている猫を一緒に見た。
寒い日は、お布団の中に入れてくれた。
「温かいね、ありがとう」
温かいのは僕の方だ。大切な思い出をくれたこんなに素敵な家族に出会えたのだから。
僕の家族と出会って、そろそろ20年になる。
僕を愛してくれたみんなには、ずっと幸せでいてほしいな。
子猫
と聞いて思い浮かべるのはあったかいこたつにいる子ではなく寒い外の段ボールにいる子。いつになったら誰が迎えに来てくれるのか、明日、明後日それとも天に昇るのが先なの?私を迎えに来てくれるのはいつ、誰?
某ゲーム二次創作
ゲッコ族…二足歩行をする、トカゲに非常に外見が似ている種族。
ゲッコ族の青年ゲラ=ハが子猫を拾ったのは二日前の某港だった。
どうやら母親がいないらしくみゃーみゃー一匹で鳴いているところを見捨てられず船内に引き取った。
しかし船にはネズミ取りのため既に先住の猫がいる。
子猫を見たら酷い有り様になる事は容易に予想がついた。
里親を探すため寄港先の港の居酒屋・神殿・商店街・娼館等片っ端の店に声を掛け子猫の引き取り手を探すことに。
小さな港町の方方に張り紙をし子猫の里親の面接もきっちりするつもりだった。
しかし思わぬ壁にぶち当たる。
「あんたこいつを食うのかい。」
ゲッコ族は主にリガウ島に多く住んでいる。
普段見慣れぬ種族に住民はトカゲが子猫を食べるのではと訝しんでなかなか相手にしない。
「かーっ!そいつらの目ん玉揃ってくり抜いてやるか!」
激怒するのは長年の相棒、キャプテン=ホーク。
「キャプテン、それでは里親を探すにも探せなくなってしまいます。」
ホークは度量の広い親分肌で頼りがいある男だが身内の裏切り者や仲間をバカにする者には容赦しない冷徹な面も持つ。
むしろ冷酷さも持ち合わせないと海賊船の頭目等到底務まらないのだが。
「仕方ねえうちで引き取るかい?」
「まだ小さ過ぎて船旅に連れて行くにはもちませんよ、すぐに死んでしまいます。」
おぉ!と天を仰ぎながらホークは帽子を顔で隠す。
「少々お待ち下さい、手間は取らせません。」
ゲラ=ハは海賊船のNo2、日常の事務仕事から戦闘まで様々な事を取り仕切る。
ホークが安心して背中を預けられる片腕である。
「出港までには見つかるさ。」
子猫は甲斐甲斐しく世話を焼くゲラ=ハにみゃーみゃーみゃーみゃー鳴きながら小さな身体で取り付いている。
暫くはこの港で水・食料等積荷の運搬をしなくてはならない時間はある。
「お客様、声は掛けてるんですがねあいにくまだ見つかりませんねえ…」
雑貨店の店主はすまなさそうに言う。
「そうですか、まだ暫く滞在するので引き続きお願いします。」
積荷の発注の合間に暇を見つけては聞いてみるが手応えはない。
夜、自室でゲラ=ハはみゃーみゃー鳴く子猫にヤギのミルクを与えながら呟く。
「波高しか…負けるなよ。」
エメラルドグリーンの瞳を輝かしながら子猫はミルクを一生懸命飲む。
早朝、ホークが朝帰りをしてきた。
「やあやあ諸君!俺なりに情報収集して来たぞ!残念至極…収穫は無しだ。」
「あー…はいはい。」
某武器屋店内━
「キャプテンすいませんねぇ。」
「悪い、こういうのは運もあるしな。」
「ここもダメか…。」
里親探しが難航していると聞きやホークなりに発奮したのか今日は精力的に聞いて回ってくれる。
しかしとあるバーに入った時━
「ああん、キャプテン=ホークが猫の里親探し。トカゲとか猫とか見世物小屋かよ?」
「あ?俺の相棒バカにしてくれたな?」
「キャプテン止めて下さい!」
室内は一触即発の空気だった。
乱闘が起きては里親探しもできやしない、何とかして収めて貰うが━
「ああいうのは殴るのが一番だって!マジで!」
その日のホークは始終不機嫌だった。
翌日、食料品店の店長に連れられて親子連れが馬車に乗ってやってきた。
「あの、張り紙を見ました。うちで引き取らせて頂けないでしょうか。」
聞けば郊外の葡萄農園の園主らしい、お近づきにと渡された葡萄酒を貰ってホークは酷くご機嫌だった。
「猫の替わりに上等な酒!いや結構結構!」
「お前は葡萄園の主か、凄い出世だな。」
ゲラ=ハは子猫を抱き上げる子猫は満足気な鳴き声でみゃーと鳴く。
父親の影に隠れてた少女が出てきてゲラ=ハから子猫を受け取る。
「可愛いね…ありがとう。」
「良かったな。」
「大事にしてやって下さい。」
受け渡された子猫はびっくりしたような顔をしたが状況がよくわからずみゃーみゃーみゃーみゃー鳴いている。
親子連れの幌馬車は町を後にした、子猫も一緒に。
船には水・食料等必要な積荷の荷揚げも終わった。
少し名残り惜しそうなゲラ=ハをホークはチラと目にしながら大きな声で告げる。
「よし出航だな!」
「了解!」
こうしてお互いの生がすれ違いこれから新しい旅が始まる。
「子猫」
ネタが尽きたかなと思います、ありがとうございました。
子猫
小さくて、ふわふわしてて、
きらきらした瞳から目が離せない。
問答無用で私たちの心を鷲掴みにしてくるんだ。
この可愛い奴らは!
見かけたら近寄って手を伸ばさずにはいられない。
神様はどうして子猫とか子犬とか、こんな可愛い生き物を作っちゃったんだろう。
#89
【子猫】
コハルちゃん
初めて会ったどしゃ降りの日、あなたは私をこう呼んだ。そして、小さかった私を拾い上げ、部屋に招き入れてくれた。濡れた身体を丁寧に丁寧に拭いてくれた、優しいあなた。もしも私が子猫じゃなくて、あなたと同じ姿だったら迷わずハグしていたと思う。
コハルちゃん
日を追うごとに、あなた以外の人から呼ばれることが増えた。あなたの友達、お仕事の仲間、離れて暮らすご家族や親しくしてくれるお隣さん…みんなあなたのことが大好きだった。だから、私にもすごくすごく優しい人たちばかりだった。
コハルちゃん
そう呼んでくれる人が1番多く集まったのは、あなたのバースデーパーティー。部屋には大勢の人達が入れ替わり立ち替わりに訪れた。私も名前を呼ばれ、時には抱き上げられ、頭を撫でられた。そして「彼女のこと、これからもよろしくね」と耳元で囁く人もいた。
この日、パーティーを主催してくれたのはあなたの大親友のカコちゃん。部屋にお泊まりした彼女とあなたが楽しそうにおしゃべりしている。そして、初めて知った。
私と会ったあのどしゃ降りの日、あなたは病院でお医者さんからあまりにも短すぎる自分の余命を告げられた。その帰り道、雨に濡れてブルブル震えていた私を抱き上げ、こんな状況で生き物を飼うのは無責任だと思った。でもこの子猫がいてくれたら明日も頑張って生きられる。そう思ったから、部屋に連れ帰ったのだと。
「じゃあ、また明日。おやすみコハルちゃん」
あなたが私の名前を呼んでくれたのは、これが最後だった。翌日、なかなか起きないあなたの身体をカコちゃんが大きく揺らしている。少し微笑んだような表情を浮かべたあなたは、2度と目を覚ますことはなかった。カコちゃんは、長い間声を上げて泣いていた。そして、少し落ち着くとあなたの頭を撫でながら「おつかれさま、小春ちゃん」と言った。
…コハルちゃん、コハルちゃん
そう呼ばれて、私は顔を上げた。どうやらうとうとして、ずいぶん昔のことを思い出していたらしい。
今の私は、人間でいえば80〜90代のおばあちゃん。あなたが亡くなった後、私はあなたのお父さんお母さんの家に引き取られた。さっき、私を呼んだのはあなたのお母さん。娘と同じ名前がついた私のことを、いつも愛おしそうに呼んでいる。
私の日々の暮らしは、あなたの部屋にいたころと何も変わらない。美味しいエサをもらって、時々遊んでもらって、眠りについて…もうあなたには会えないけれど、あなたを知る人たちが今でもこの家を訪れて私の名前を呼んでくれる。
あなたの家族にしてくれて、ありがとう。
あの日からずっと、私を幸せにしてくれて
ありがとう、小春さん
姉が前の彼氏さんと住んでた家で
ブルーグレーのメスの子猫を飼っていた。
スマートで顔が小さく、美人だ美人だと姉が溺愛していた。
ただ、とても臆病で繊細だと心配をしていて
二人して泊まり掛けで出掛けるときには
かの子猫の為に日当を払うからと留守居を頼まれたことがある。
まあ、留守番は構わんのだが、私一人になると奴は豹変するのだ。
テレビでも見ようとリモコンを手にすれば噛みつく。
それでもテレビを見てると今度はテレビの上に乗っかり
尻尾を画面の前にゆらゆら垂らして邪魔をする。
コタツに腰を入れて寝転がっていると頭に乗っかってきて
パンチしたり噛みついたり。
姉がいるときのしおらしさはどこへやら。
高いところからこちらを睥睨するあの姿は明らかに
姉>自分(猫)>>>>>>>>>>私とお思いのことだろう。
ともかく奴との留守番を請け負うと
結構傷だらけの憂き目に遭ったものだった。
あれから何年たつかな。姉は彼氏さんと別れて
猫ともお別れした。次の彼女さんが猫を気に入ったらしい。
もう会うこともないが、せいぜいしおらしくして
幸せになっててほしいものだ。
いつもと変わらない帰り道。ただちょっと暗いだけの帰り道。
だけど、なんだかおはけがでてきそう。
横の脇道から親猫と子猫が出てきた。
うしろには誰もいないはずなのに聞こえる足音。
服を引っ張られるような感覚。
足から這いずりよってくるような悪寒。
知らない人からかかってきた電話。
知らない人から送られてきた私の部屋の写真。
なんだか、私のほうが周りに合っていないみたいじゃない。
私の前を歩く黒いもやがかかった人。
後ろに歩いている、隈がある目を見開いてこちらをじっと見ている人。
親猫ちゃんと子猫ちゃん、一緒に帰ろうか。
私と同じ、人間じゃない者同士ね。
@子猫
子猫を抱えた君の方がよっぽど捨て猫みたいに心細そうな顔をしていたから、ついまとめて面倒みちゃったんだよね。
今では二人ともうちでのびのびしてる、可愛い僕の子猫さん。
『子猫』
「にゃ」驚くほど甘い声が、耳に聴こえビクッと後ろを振り向く。
「嗚呼、......良かったただの猫じゃないか....」
はあ、怖かった。肝が冷えた気がする。
「さあ、行くかぁ。またね、猫ちゃん」
手を振り、前に進んだ。
◉◦______
「まったく、馬鹿な人間だ。此方が嫌になる。」
猫の目は大きく見開かれ、顔つきが人間寄りになっていく。
「次は、僕のお仲間と一緒に旅だ。覚えておいてね」
猫の口は、裂かれたように笑っていた。
◉◦___________
『さらば愛しき人間よ』
Theme.子猫
ミューくん
みてるー?
もう、1ヶ月たつね。
君があの世に行ってから。
意外と早いもんなんやねー。
毎日、ミューくんの写真みてるよー。
たった、2ヶ月で、行っちゃうなんて。
次は、長生きしてねー!
๛ก(ー̀ωー́ก )っパワー
「最近、うちの猫が仔猫を産んだんだよ」
「はい? ね、猫? 猫ちゃん飼ってるの?」
大して親しくなく、プライベートの話を全くしたことがない彼からそんな話題を振られ、心底驚く。私は、彼の住む場所も通う学校も何もかも知らない。それくらい親しくない間柄だ。
だからつい怪訝な顔をしてしまう。
だが、彼の表情はいつもの仕事の話をしている時と変わりない。
「うん。んで、仔猫飼わない?」
「え!?」
「あと1匹なんだよね。行き先決まっていないの」
「なるほど…?」
いや、親しくもないバイト先で会うだけの私にいきなり聞くことなのか、それは。そもそも私は猫より犬派で、猫はどちらかと言えば少し苦手なくらいだ。互いの情報を知らないのに、何故そんな申し出ができるのか理解に苦しむ。
「えーーっとぉ……あの、りかちゃんは? りかちゃんは猫が好きだから、りかちゃんに頼むのは」
「あの人はだめ」
「あ、断られたの?」
「いや、聞いてない」
「なんで?」
「俺が嫌だから」
淡々と拒絶する彼に首を傾げる。彼女は猫が好きだし、私よりかはよほど適任だと思うのに、何故だろう。
「りかちゃん良い子よ?」
「でも、仔猫を大事にしてくれる人ではないと思うんだよね」
何故そんな風に言い切れるのか。彼は自分の言動を全くおかしいと思っていないらしく、至って平然としている。そんな彼の態度に、イラッとした。
普段から周りと仲良くしようとしないのは別に良い。仲良しこよしが正しいとも思わない。ただ、あまり話したこともないのに決めつけるのは良くない。
りかちゃんは、猫を飼っていて、今でも十分暮らせるらしいが、猫が少しでも豊かに暮らせるようにアルバイトをしているのだ。しかも、もう一匹お迎えしたいと話しているのを聞いている。彼女は十分、猫を大切にできる人だ。少なくとも、私よりかは。
「私は大事にできる人ではないけどね、猫はあまり得意ではないし」
「え、そうなの?」
彼の無表情が崩れ、目を大きく見開く。いつも眠そうな目をしているから、ここまでパッチリした目を見るのは初めてだと頭の片隅で思う。
「決めつけって良くないよぉ?」
極力雰囲気が重くならないように軽く言う。
彼は少し目を伏せて、なにか言いたげに口を動かしたあと「そっすね」と小さく呟く。
なんだか悪いことをしたかなとバツの悪い気持ちになった。
彼とは、あれ以来仕事以外の話なんてしていない。
一度だけ猫は元気かと尋ねてみたが、素っ気ない返事が返ってきただけであった。
どうやら私が気になっているらしいと噂で聞いたことはあるが、そんなわけないと思う。
いや、猫を大事にできる人だという印象はあるんだろうけど。
……やはり私は、分かりにくい生き物は苦手だ。
「仔猫」2023/11/16
子猫の映像見て心が癒されたい気持ち半分
平沢進の映像見て脳を支配されたい気持ち半分
日々葛藤中