『天国と地獄』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
私が行くとしたら地獄だ。
折角の人生なのにクソみたいな時間を過ごしてる。
だが結局、今はクソみたいな時間を楽しんでる気がする。天国に行きたいだなんて考えない。
こんな人生を送ってるくせにそんなこと思うなんて、神への冒涜でしかない。私は今を楽しむ。法に触れない程度に。
天国と地獄
一緒にいると楽しいのに
家に帰ると噛み合わない
喜怒哀楽を天秤にかけて
出てきた答えじゃ割り切れない
君と笑った思い出が
君に急かされるこの返事が
僕の決意を惑わせる
僕の心を迷わせる
本当に好きかと聞かれても
今の僕じゃ分からない
ただ一つだけ思うこと
あんまり未来は見えてこない
頭の上には空しかなくて
雲をすりぬけ雨は落ちる
なのに、なのにどうして、
天に花咲く国があろうか。
足の下には地があって
岩とマグマで埋まっている
なのに、なのにどうして、
地中に鬼と獄があろうか。
この現世には花々が咲き
常日頃から苦痛がある
なのに、なのにどうして、
それ以上ある死後を願うか。
「天地不要」
「天国と地獄」
あなたに相談されて頼られることが嬉しい。
でも、恋の悩みを聞くのは……すこし、いたい。
宙ぶらりんの振り子は、
いつか、ピタリと止まってしまうのだろうな。
『天国と地獄』
どちらも存在はするみたいだよ
ただこの説を一番肯定したいな
今いるこの現実世界が地獄で
死んだら天国へ行く
良い説だとは思わないかい?
#34
「午前の部での曇天の空から一変して青空が広がっております。現在気温は二十四度。昨夜遅くまで降り続いた雨により非常に湿度が高くムシムシした状態です。そんな中行われております第五十回記念南高校体育祭。先程までの団対抗応援合戦の熱気を校庭に残したまま、午後の部はプログラム通り十三時三十分よりスタートです。
午後の部に先駆けまして、午前の部を振り返ってまいります。午前の部では個人競技の大会新記録が目立ちました。
まず一〇〇メートル走の男子の部では、五番目に出走し見事一着に輝きました黄団の二年二組後藤さんが十一秒七六の大会新記録を樹立。
女子の部では最終出走の青団、三年三組山本さんが十一秒六五、去年までの記録十三秒八五を大幅に更新し一着となりました。男子の脚力に負けず劣らずとても速い山本さんは陸上部短距離走部門に所属されていてインターハイ出場経験があります。
本来部活動と同じ競技に出場することは去年まで禁止となっておりましたが、少子高齢化のこのご時世、どうしても出場選手の人数が減ってしまっているため兼任という形ならオーケーだという運営側の判断が下りました。
山本さんは来月インターハイ予選を控えていることから、調整のために一〇〇メートル走への出場を決意されたとのことです。山本さんのインターハイでのご活躍にますます期待が高まります。
続きまして二〇〇メートル走では残念ながら記録更新とはいきませんでしたが、とても熱い試合となりました。
男子の部では一番目出走の一年生が紅、青、紫団が文字通りの三つ巴となり、僅差で紫団の一年五組原田さんが一位となりました。
女子の部では二番目出走、緑団の二年四組荒木さんが飛び出し、他を圧倒したままダントツでフィニッシュとなりました。
プログラム四番の女子八〇〇メートル走では全学年が一斉スタート。黄団三年二組の松本さんと青団三年三組の丹原さんの一騎打ちかと思いきや、緑団の二年四組斉藤さんがラストスパートで二人を抜き去り見事一着となりました。タイムは二分九秒九八と二分十秒の壁を破り、五年ぶりの大会新記録を樹立されました。
その後行われました男子一五〇〇メートル走では紫団の三年五組葛西さんが他の選手を周回遅れにしてぶっちぎりの一位になりました。記録は三分五九秒一二と、新記録を更新しました。葛西さんは体育祭の男子一五〇〇メートル走に三年連続出場し、大会新記録を塗り替えております。これで卓球部なのだから末恐ろしい男です。
トラック競技と同時進行でフィールド競技の走り高跳びと砲丸投げが行われておりました。
まず走り高跳びは、男子の部で驚異的な記録が樹立されました。青団の三年三組小林さんがなんと二メートル越え! 記録は二メートル十センチとまるで陸上選手並みの高さを跳びました。小林さんが背面ジャンプを華麗に決めるたび、どよめきと歓声が大きくなっていく様は今大会の名場面との声がすでに上がっております。余談ですが小林さんは新体操部に所属しておられます。
女子の部では黄団の二年二組村井さんが一メートル六十五センチを記録。こちらは十四年前の第三十六回大会ぶりの新記録更新となりました。村井さんは中学時代に陸上部で走り高跳び部門の選手として全国中学校体育大会、通称中総体への出場経験があるそうです。数々の高校からの推薦を蹴り、この南高に入学した理由はチア部のユニフォームが可愛かったからとのこと。人生何が起こるかわかりませんね!
一方砲丸投げではこの南高始まって以来の珍プレーにより競技中止。各団にプラス十点が加算されました。
まさか男子の部の最中、紅団の一年一組伏見くんが放った鉄球が、トラック及び客席を優に超えてB館二階の音楽室の窓を突き破ってしまうとは思いませんでした。もう衝撃映像と言っても過言ではありません。砲丸投げのサークルからトラックを挟んで反対側に位置するB館までは相当距離があるのですが……。これはとんでもないビッグな一年生の登場ですね。来年の暴れぶりを見られる人が羨ましい。
陸上競技の後は体育祭ならではの団体競技及び個性的な種目が行われました。ムカデ競争、綱引き、騎馬戦、玉入れ、棒倒し等々……。この振り返りでは紹介しきれないほどの名場面が数多く生まれました。
その中でも私が印象に残っておりますのは、障害物競走でございます。いやー私、あんな足の速い軟体動物を見たのは初めてでした。もう、面白いくらいに何も障害にぶつからないという。
まるで漫画のような動きをしておりましたね、紫団の団長、三年五組の土井さん。
私は実況の補佐に回っていた種目でしたが、そのー、実況外れていて正解でした。いかんせん、動きが面白かった。何もかもがスムーズでした。網の下を潜るところなんてどこにも引っかからず、軍人顔負けのスピードで匍匐前進してましたからね。えぇ、もう、あれです。実況席の横でお腹抱えて笑ってました。
そんな見どころ満載だった午前の部を終えて、現在の得点を振り返りましょう。紅団、一五五点。黄団、一六〇点。青団、一八五点。緑団、一七〇点。そして紫団、一五〇点。
現在得点トップは青団。青団には走り高跳びで二メートル十センチを跳びました小林さんに、午前の部ベストプレイヤー賞が贈られており、プラス三十点が得点として加算されております。
応援合戦の得点は、閉会式の時に順位とともに発表されますので、どうぞ最後までお楽しみください。
時刻は手元の時計で十三時三十分になりました。まもなく午後の部がスタートいたします。
……おや? なんだか日曜日の午後三時半くらいの聞き覚えのあるファンファーレが響き渡りました。こちらは中山競○場ではなく南高校の校庭でございます。ファンファーレを高らかに吹き上げたのは南高校の吹奏楽部の皆さん。吹奏楽部の皆さんには次のプログラム十七番の音楽も引き続き演奏していただきます。
午後の部はプログラム十七番、部活対抗リレーよりスタートです。毎年名場面が生まれ、熱く盛り上がる大人気の種目です。各部の代表者四名でリレーをしていくこの競技。見事一着を獲得した部活動には、来年度の部費の増額が約束されております。
まず第一レース、男子一組目。第一レーンより紹介いたします。
眩しい黄緑色のTシャツを身に纏う陸上競技部。
爽やかな水色のTシャツのバスケットボール部。
元気印のオレンジ色のTシャツを身につけたバレーボール部。
個性派揃いのビビットピンクサッカー部。
日焼けした肌によく映えるラベンダーパープルの野球部。
Tシャツ制作が間に合わなかった制服姿の帰宅部。
以上、六チームが第一レース走者となります。
部活対抗リレーでは例年ユニフォーム着用を厳守させて頂いておりますが、今年度より部活Tシャツ着用希望団体にはそちらを了承しております。今大会は第四レースまで合わせて、のべ二十四チーム中二十三チームが部活Tシャツ着用を希望したため、非常にカラフルな光景となっております。
お待たせいたしました、それぞれの第一走者がスタートラインに立ちます。
……。
スタートいたしました。男子一組目では走者一人当たり二〇〇メートル、トラックを一周走りましてバトンリレーいたします。四つのコーナーをどう上手く対応していくか。戦略も重要となってきます部活対抗リレー。レースの順番は昨年の順位を参考に組み分けを行いました。この六チームの中に紛れる帰宅部がどう動くのか、注目が高まります。
さぁ、早くも一番にバトンリレーをしたのは陸上部。次にバスケ部、野球部が続きます。
第二走者が第二コーナーを通過しました。一位は陸上部、二位にバスケ部、三位に野球部、四位にサッカー部。バレー部、帰宅部が続きます。
おっと第三コーナー差し掛かったところでバスケ部が追い上げてきた! バスケ部早くも仕掛けてきた! 陸上部とバスケ部の距離が縮まる! 縮まっていく!
さぁ、バトンは第三走者へ渡ります。一位は陸上部、二位はバスケ部、三位は野球部と変化なしかっ、と! バスケ部がカーブを利用してものすごい追い上げを見せる! バスケ部速い、速いぞ! 陸上部も速いがこれは、曲がり切ったところで並んだ! 陸上部とバスケ部が並んだ! 並走している! 並走したままバトンリレーできるのか!?
おっと!? 最後尾から猛烈な走りを見せるチームがいる! 帰宅部、帰宅部だ! 帰宅部がぐんぐんと前を抜き去っていく! そして三位の野球部の背中にピッタリとくっついた! くっついていく!
さぁ、最後のリレーだ! 最後の走者が走り出した! 一位は陸上……いやバスケ部! バスケ部が一位! 二位に陸上部! 三位に……こちらも抜いた帰宅部! 帰宅部が三位まできたぞ! 四位に野球部! そしてサッカー部、バレー部と続いて全チーム最終走者にバトンが渡った!
さぁ、最初のコーナーでさらに勢いをつけるバスケ部。速い、非常に速い! と思いきや!? 帰宅部が、なんと帰宅部が! 陸上部を第二コーナーでっ、抜いたー! 陸上部を抜いて帰宅部が二位に着いた! 現在バスケ部一位。その背後から帰宅部がどんどん迫ってくる!
さぁ、勝負は第三コーナーへ突入した! バスケ部速い! 帰宅部も速い! 後続を引き離しています!
順位変動ないまま第四コーナーを過ぎ去り最後のストレートへ! いや、並んだ! 帰宅部がバスケ部に並んでいる! 勝つのはどっちだ!? 帰宅部か? バスケ部か!? 帰宅部、バスケ部、帰宅部っ!
帰宅部ー!! 帰宅部が最後バスケ部より少し前に出ました! 第一レース勝者は帰宅部! 続いて二位にバスケ部、三位に野球部、四位陸上競技部、五位サッカー部。そして、たった今、六位でバレー部がフィニッシュいたしました!
皆様お疲れ様でしたー! 大どんでん返し! ある意味記念大会らしい記憶に残るレースとなりました。なんと帰宅部が部活対抗リレーで優勝するのは史上初の快挙となります! 優勝した帰宅部に大きな拍手をお願いいたします!
また他の運動部の皆様もとても素晴らしい走りっぷりでした! カッコよかったです! 熱いレースをありがとうございました!
さぁ、続きまして第二レースは女子一組目、六チームの紹介です」
怪我した友達の付き添いで、救護テントの中からぼんやりとその後ろ姿を眺めていた。マイクを握り締め、靴を脱いでパイプ椅子に上がったり下りたりする様は、少し面白い。
「名物実況だよね」
アイスノンを多めに借りて、怪我した足と頭に乗っけている友達に話しかけた。友達はパイプ椅子にだらりと腰をかけて脱力している。多分おそらく寝てはない。一応「んー」という相槌が返ってきた。
「まぁ、放送部だからね」
「あーね、放送部だからね」
吹奏楽部が繰り返し演奏する運動会の定番曲をも凌ぐほど、かなり目立つ放送部による体育祭の実況放送。毎年恒例と化していて、競馬好きのお父様方に大変人気だそうだ。
『天国と地獄』
天国と地獄
天国と地獄
故人が行くという場所
本当に存在するのか?
実際は遠い宇宙の果てへと飛んで行くのかもしれない
新たな生命に乗り移るのかもしれない
時間の概念が存在しない空間に張りつけられるのかもしれない
誕生から死までの無限ループを無意識に繰り返しているのかもしれない
並行世界の技術者にゴーストバスターされるのかもしれない
答えが分かったときには口がないのが惜しい
お題:天国と地獄
地獄のような世界だった。
子どもを助けても、怪我で動けない奴を助けても、敵の人間を助けても、ただの自己満足。
世界が良くなるわけではない。
そう思っていた私の前に天使が現れた。
「君がいなくなれば世界が変わる」
そう天使は言った。
迷いはなかった。
私の命一つで世界が良くなるのなら。
これで友であるあいつも平和に暮らしていけるだろう。
天使に従ったことで私は天国に行った。
天国はつまらなかった。
数年経った後、神様に呼び出された。
神様は僕がいなくなった時に誕生した魔王を僕に倒して世界の勇者になって欲しいと言った。
私にしかできないことだと。
どうやら世界を変えることに失敗したようだった。
せっかくだから、もう一度あいつに会えるように記憶をそのままに生まれ変わらせてもらった。
私はかつては敵だった人間に生まれ変わった。
自分の種族であった魔族を相手にするのは気が引けるが、魔王さえ倒せれば、今度こそは世界が良い方に変わる。
そう思い、やっとのことで魔王を倒した。
魔王を倒すと魔王は子どもの姿になった。
その子どもには見覚えがあった。
そうあいつだった。
そうして気づいてしまった。
あいつがどれほど大切なのか。
あいつのいない世界に生きる意味がないということを。
だから共に地獄に堕ちよう。
世界を、神を呪いながら。
天国と地獄は隣り合わせだと思っている。
だって死後どっちかに行くなら隣り合っていた方が利便的だ。ひとがいい気になってると急にどん底に行ったり、もうダメだと思ってたら助かったりするのもこの辺りが関係してる、なんて友達に話したら呆れられた。
あながち間違いでもないと思うが。
だってそこに。
私は天国には行けないよ。
別れ際の彼女の言葉が今も胸に引っかかる。
大丈夫だよ。僕は君がいれば地獄だって歩こう。例えそこが死んでしまいたくなるようなものだとしても、君を守り抜くまでこの生を全うしよう。
地獄で生きる僕のただ一つの光になってくれてありがとう。
ー 天国と地獄 ー
「天国とか地獄ってあるの?」
ボクは何気なく彼に聞いた。
彼が天使様であることはとっくのとうに急にバラされた。だから多分そういうこと知ってるだろうと思って聞いてみた。
「天国と地獄の話をするのかい?」
「え、うん」
「ふふ。きみがそんなことに興味を示すとは思わなかったよ」
「あ〜、やっぱいい。ごめん」
「そう言わずに」
そう言って彼は話し始めた。
「まず天国。あるよ、これは」
「どんなとこ?」
「ん〜天使が住んでて、神様がすごいとこ住んでて、基本的に死なないって以外は大体普通。下界と同じ」
「げ、下界って⋯⋯⋯⋯」
「ああ、あれね。迷い子たちが住む世界のことね」
「知ってる」
ユートピアは迷い子たちが住む世界とは全然違うとこにあって、下とか上とかないのにズケズケと言ったことに対してボクは若干引いたのに全く伝わらなかったらしい。
「で、地獄。これは、ない」
「ないの!?」
てっきりあると思ってた。
悪魔が住んでる〜みたいなそういうとこ。
「悪魔はね、魔界に住んでるから。地獄には行かない」
「じゃあさ、悪いことしたらどうなるの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そんなこと聞いてどうするんたまい?」
「え、だってほら気になるじゃん?」
「必要?」
急に質問攻めしてくるのはなんなんだ、貴様。
ボクは気になってるから聞いてる。なんだ『必要?』って。バカにしてるのか。
「必要!!」
「じゃあ言うけど⋯⋯⋯⋯」
演奏者くんは怪訝な顔で言った。
「二つ道がある。一つ目は図書館にぶち込まれること」
「図書館?」
「普通の図書館じゃなくてね、奥に行けば奥に行くほど本の内容は迷い子たちが住む世界の真理に近づいていく。地獄がないとか、天国がないとか、どうやってできたとか」
「へぇ面白そう」
「代わりにどんどん記憶がなくなっていく。自分がどんな人間だったとか、そもそも自分は何者だったとか」
「え、怖」
「で、最終的に全てのことを知った記憶喪失ができ上がる」
「矛盾してない?」
「一応してない」
「それ、なるとどうなるの?」
「ん〜、壊れる?」
「壊れる⋯⋯??」
「理解してるけど到底脳が処理はできない。加えて真理とかは全部分かってるけど、今いる場所がどこすらも分かってないし、出る気も起きないから中で留まり続ける。で、天国に行ったわけじゃないから不死にもならずに肉体が滅びる」
「うわ、えげつな⋯⋯⋯⋯」
そう考えるとユートピアに来て良かったかもしれない。
「永久に死なないのが嫌な人もたまに入るって」
「そんな生き地獄に?」
「生き地獄じゃない。死んでる」
「ぅぇあ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「で、もうひとつは⋯⋯⋯⋯⋯⋯どこか遠くに飛ばされる」
「は?」
「なんか異世界とかって」
「何そのふんわり」
「知らないよ、僕は正直興味なくて」
「ええ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
本当に??
その言葉は口には出さなかった。嘘だろうと確信はあった。絶対に。じゃなきゃそもそも言うのを躊躇ったりしないでしょ?
きみは知ってるんじゃない? 権力者が集団であること。
上の方の偉い人ってもしかして『異世界に飛ばされた悪いことした人』なんじゃない?
でも、聞かない。君が言わないことを選んだなら。
「⋯⋯⋯⋯演奏者くん。なんか弾いてよ」
「またかい? 全く僕の演奏、本当に好きだね」
「当たり前でしょ」
ただ、黙っとかれるのは気分が悪いから、ボクの機嫌取りはしてね?
天国に行けば、きっと幸せになれる。
そんなおかしな夢を子供時代、心に秘めていた。
無邪気に、外を走りまわる同級生にくらべて
ほんのちょっぴり変な子供だった私は、やはり
浮いていたと思う。
いつも、喉を掻きむしりたくなるような寂しさを
振り切るようによく空想をしていた私は、やがて物語の
世界に逃げるようになった。少しでも、現実から目を背けたかったからだ。
そして、天国と地獄がテーマの物語を読んで
そのヘンテコな結論に至った。
その本のタイトルは、思い出せない。確か、図書館に
置いてある児童書だったと思う。
天国に行く為には、いい人でなければいけない。
悪い人は、地獄に落ちてしまうから。
純粋ゆえに、そう思い込んでしまった私はやたら人に
親切にしたりどんな時も笑顔を心がけるようになった。
だけど、当然それは長くは続かなかった。
いい人になりたいのは、天国で幸せになる為で
自主的でもなければ、心からの行動でもなかったからだ。
当時は、空回りしてばかりでどうして上手くいかないんだと悩んでいたけど今にして思えばずいぶん滑稽な話だ。
「天国に行けばきっと幸せになれる」、なんてそんな
夢に縋った幼き日の自分に言いたい。
天国に逝かなくても、アナタはこの世界で
幸せになれるのだと。
例え、今この瞬間苦しくて、悲しくて不幸でも
それは人の寿命みたいに長くは続かないのだ。
明日の自分が何を考えているかなんて誰にも分からない。
だからこそ、天国という絶対的な楽園を求めてしまった。
ただ、不安だった。現実世界で生きる私は、孤独で
寂しくて今が幸せじゃないから存在するかも分からない夢に焦がれていた。
大人になった、私は過去の私を愚かだと思っている。
それと同時に、感謝したかった。天国に逝かなくて
ありがとう。現実世界を諦めないでくれてありがとう。
あなたのおかげで、私は大人になった。
行けるか分からない、眼には見えない天国より
今、この世界に存在している事が私にとって重要だ。
存在しているのなら世界に祝福されている証拠だから。
この世界こそが、私にとっての天国なのかもしれない。
「天国と地獄」
天国はあなたを忘れられないこと。
地獄はあなたを思い出すこと。
たばこの匂いはあなたがいつも纏っていたもので
たばこの匂いが混ざった私の髪は「私はあなたのもの」という証だった。あの煙が私の拠り所だったの。
でもね、思い出すの。
あなたの部屋の灰皿には口紅のついた吸い殻があって、ベッドの脇のゴミ箱には私の知らない空箱が捨てられていて
私の知らない誰かと私の知らないあなたの姿がいつまでもいつまでも頭のなかにこびりついて
あなたを忘れられない私は思い出に浸るたび
知らない誰かもずっと思い出している。
「天国と地獄」
「オレのために人生まるごとフルスイングしたお前に今さら何言われてもな」
「こちらの台詞だ。俺に殺されたくせに死後もご丁寧に俺を待っていたお前に何を言われても愉快なだけだよ」
軽口を叩き合いながら、地獄へ続く道をようやく揃ってまっすぐ歩き始めた。
"天国と地獄"
本格的な暑さが訪れようとしている5月中旬。
賑やかな校庭で、体操服を着た子供たちを囲むように親や教師たちが見守っている。
("かけっこといえば"のあの曲も、流石にもう定番ではなくなってるよなあ)
最近では徒競走のような順位がつく種目をやらない学校もあるようだが、我が子の活躍がほぼ約束されているとなったら現代の教育理念など後回しだ。
──息子は俺に似て脚の速い子に育った。
中学に上がれば陸上部のエース…いや、今頃からサッカーをやらせて脚力を鍛えるのもアリだな。
ゴールの瞬間がよく見えるポジショニングも完璧。
カメラだって、最高の瞬間を切り取れるよう一級品を用意した。
『お、〇〇くんじゃあないか』
「(…まずい)」
「奇遇ですね、会長もいらっしゃるとは」
『うちの子の出番、次なんだよ』
…運命とは時に残酷だ。
我が社の当代会長のご子息が俺の息子と同じクラスってだけでも息が詰まるのに、こんなときにも当たるなんて。
『私の息子は随分と脚が速くてね、毎年一等賞でゴールするんだ』
「それは期待できますね。ご活躍が楽しみです」
遠くでスタートを知らせるピストル音が鳴るのが聞こえる。
いつか息子が聞いてきたっけ。
『どうして天国はお空にあって、地獄は地面の下にあるの?』
息子が一番にゴールしたとき、そこは天国なはずだ。
そうでなければいけない。
一瞬でも息子の負けを描いた己を憎んだ。
いや……勝ったら天国で、負けたら地獄なのか?
天国も地獄も同じ場所にある表裏一体の世界ではないのか?
(……勝って味わう地獄も悪くないな)
【天国と地獄】
『天国と地獄』
「天国と地獄」と見て思い浮かんだのは、
何回も経験してきた、
『運動会』や『体育祭』。
幼稚園や低学年のときはかけっこのときに、
高学年や中学、高校生になるとリレーのときに流されているBGM。
メロディーは分かっているのに曲名を知らない人がいるのもこの曲。
人によって、嫌な思い出か、楽しかった思い出かは違うだろうけれど、誰にとっても大切な思い出であることには変わりはないはず。
人生の中のたった一ページもない思い出かもしれないけれど。
そんなことを考えていると、近くの小学校や中学校から、
日々の練習の声が聞こえてきた。
暑い中練習おつかれさまと思いながら、
私は優雅に家でアイスコーヒーでも飲んでいるのだった。
#6
『 天国と地獄 』
天国と地獄だなんて
どう思うかは自分の判断で決まるのではないか
その判断の受け取り次第で気持ちは変わってゆく
地獄という苦しい世界の中でも
天国とおなじ見方もあるのではないか…
ましてやその逆も…?
「天国と地獄」
表現として、天国から地獄へ叩き落とされるということはあっても地獄から天国に一気に行くことはほぼないと思う。地獄へ堕ちるのは一瞬で天国へ行くのは徐々に昇る他ない。
天国と地獄。良いか悪いか。明るいか暗いか。楽しいか苦しいか。白か黒か。
両極端で中間がない。
人々は死後、必ずどちらかに行くとされている。
良いことをしたら天国に行けるのか。
はたまた、なにかしてしまったら地獄に行くのか。
〜ができたから天国に行けるだろう。そう考えるのはなぜか難しい。だが、〜してしまったから地獄に行くだろう、そう考えることのほうは容易い。
私はどちらに行くのだろうか。
私のしてきたことを考え天秤に乗せたとしてもやはり地獄に傾くほうが想像がしやすい。
良いことをした記憶よりも、なにかしてしまったときのほうが記憶に残るためだろう。
神様、私はどちらに行くのでしょうか。
その答えを今、知れたらいいのに。
天国には痛みも苦しみもない、悲しいこともなく皆が幸せに過ごせる……らしい。
そんな〝つまらない〟空間に耐えられる自信、ないよ。
痛みから生まれた芸術を、音楽を、様々な作品を、私は愛している。
人間が持つ負の感情をこれでもかと吐き出し、表現されたものに惹かれる。
私が好きなもの………つまり私にとっての天国は、その仄暗い場所。
多分幸せしかない場所では、退屈すぎて嫌になっちゃう。
何を天国とし、何を地獄とするかは、人の数だけ存在している。
だから私はいつか、私の望む「天国」へ行ければいいなと思う。
例えそれが、他者からは地獄だと言われようとも。