粥井

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本格的な暑さが訪れようとしている5月中旬。
賑やかな校庭で、体操服を着た子供たちを囲むように親や教師たちが見守っている。

("かけっこといえば"のあの曲も、流石にもう定番ではなくなってるよなあ)

最近では徒競走のような順位がつく種目をやらない学校もあるようだが、我が子の活躍がほぼ約束されているとなったら現代の教育理念など後回しだ。

──息子は俺に似て脚の速い子に育った。
中学に上がれば陸上部のエース…いや、今頃からサッカーをやらせて脚力を鍛えるのもアリだな。

ゴールの瞬間がよく見えるポジショニングも完璧。
カメラだって、最高の瞬間を切り取れるよう一級品を用意した。


『お、〇〇くんじゃあないか』

「(…まずい)」

「奇遇ですね、会長もいらっしゃるとは」

『うちの子の出番、次なんだよ』


…運命とは時に残酷だ。
我が社の当代会長のご子息が俺の息子と同じクラスってだけでも息が詰まるのに、こんなときにも当たるなんて。


『私の息子は随分と脚が速くてね、毎年一等賞でゴールするんだ』

「それは期待できますね。ご活躍が楽しみです」


遠くでスタートを知らせるピストル音が鳴るのが聞こえる。

いつか息子が聞いてきたっけ。

『どうして天国はお空にあって、地獄は地面の下にあるの?』

息子が一番にゴールしたとき、そこは天国なはずだ。
そうでなければいけない。
一瞬でも息子の負けを描いた己を憎んだ。

いや……勝ったら天国で、負けたら地獄なのか?
天国も地獄も同じ場所にある表裏一体の世界ではないのか?


(……勝って味わう地獄も悪くないな)

        
【天国と地獄】

5/27/2024, 3:26:00 PM