シオン

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「天国とか地獄ってあるの?」
 ボクは何気なく彼に聞いた。
 彼が天使様であることはとっくのとうに急にバラされた。だから多分そういうこと知ってるだろうと思って聞いてみた。
「天国と地獄の話をするのかい?」
「え、うん」
「ふふ。きみがそんなことに興味を示すとは思わなかったよ」
「あ〜、やっぱいい。ごめん」
「そう言わずに」
 そう言って彼は話し始めた。
「まず天国。あるよ、これは」
「どんなとこ?」
「ん〜天使が住んでて、神様がすごいとこ住んでて、基本的に死なないって以外は大体普通。下界と同じ」
「げ、下界って⋯⋯⋯⋯」
「ああ、あれね。迷い子たちが住む世界のことね」
「知ってる」
 ユートピアは迷い子たちが住む世界とは全然違うとこにあって、下とか上とかないのにズケズケと言ったことに対してボクは若干引いたのに全く伝わらなかったらしい。
「で、地獄。これは、ない」
「ないの!?」
 てっきりあると思ってた。
 悪魔が住んでる〜みたいなそういうとこ。
「悪魔はね、魔界に住んでるから。地獄には行かない」
「じゃあさ、悪いことしたらどうなるの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そんなこと聞いてどうするんたまい?」
「え、だってほら気になるじゃん?」
「必要?」
 急に質問攻めしてくるのはなんなんだ、貴様。
 ボクは気になってるから聞いてる。なんだ『必要?』って。バカにしてるのか。
「必要!!」
「じゃあ言うけど⋯⋯⋯⋯」
 演奏者くんは怪訝な顔で言った。
「二つ道がある。一つ目は図書館にぶち込まれること」
「図書館?」
「普通の図書館じゃなくてね、奥に行けば奥に行くほど本の内容は迷い子たちが住む世界の真理に近づいていく。地獄がないとか、天国がないとか、どうやってできたとか」
「へぇ面白そう」
「代わりにどんどん記憶がなくなっていく。自分がどんな人間だったとか、そもそも自分は何者だったとか」
「え、怖」
「で、最終的に全てのことを知った記憶喪失ができ上がる」
「矛盾してない?」
「一応してない」
「それ、なるとどうなるの?」
「ん〜、壊れる?」
「壊れる⋯⋯??」
「理解してるけど到底脳が処理はできない。加えて真理とかは全部分かってるけど、今いる場所がどこすらも分かってないし、出る気も起きないから中で留まり続ける。で、天国に行ったわけじゃないから不死にもならずに肉体が滅びる」
「うわ、えげつな⋯⋯⋯⋯」
 そう考えるとユートピアに来て良かったかもしれない。
「永久に死なないのが嫌な人もたまに入るって」
「そんな生き地獄に?」
「生き地獄じゃない。死んでる」
「ぅぇあ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「で、もうひとつは⋯⋯⋯⋯⋯⋯どこか遠くに飛ばされる」
「は?」
「なんか異世界とかって」
「何そのふんわり」
「知らないよ、僕は正直興味なくて」
「ええ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
 本当に??
 その言葉は口には出さなかった。嘘だろうと確信はあった。絶対に。じゃなきゃそもそも言うのを躊躇ったりしないでしょ?
 きみは知ってるんじゃない? 権力者が集団であること。
 上の方の偉い人ってもしかして『異世界に飛ばされた悪いことした人』なんじゃない?
 でも、聞かない。君が言わないことを選んだなら。
「⋯⋯⋯⋯演奏者くん。なんか弾いてよ」
「またかい? 全く僕の演奏、本当に好きだね」
「当たり前でしょ」
 ただ、黙っとかれるのは気分が悪いから、ボクの機嫌取りはしてね?

5/27/2024, 3:31:34 PM