伽藍

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天国に行けば、きっと幸せになれる。
そんなおかしな夢を子供時代、心に秘めていた。

無邪気に、外を走りまわる同級生にくらべて
ほんのちょっぴり変な子供だった私は、やはり
浮いていたと思う。

いつも、喉を掻きむしりたくなるような寂しさを
振り切るようによく空想をしていた私は、やがて物語の
世界に逃げるようになった。少しでも、現実から目を背けたかったからだ。

そして、天国と地獄がテーマの物語を読んで
そのヘンテコな結論に至った。
その本のタイトルは、思い出せない。確か、図書館に
置いてある児童書だったと思う。

天国に行く為には、いい人でなければいけない。
悪い人は、地獄に落ちてしまうから。
純粋ゆえに、そう思い込んでしまった私はやたら人に
親切にしたりどんな時も笑顔を心がけるようになった。

だけど、当然それは長くは続かなかった。
いい人になりたいのは、天国で幸せになる為で
自主的でもなければ、心からの行動でもなかったからだ。
当時は、空回りしてばかりでどうして上手くいかないんだと悩んでいたけど今にして思えばずいぶん滑稽な話だ。

「天国に行けばきっと幸せになれる」、なんてそんな
夢に縋った幼き日の自分に言いたい。
天国に逝かなくても、アナタはこの世界で
幸せになれるのだと。
例え、今この瞬間苦しくて、悲しくて不幸でも
それは人の寿命みたいに長くは続かないのだ。
明日の自分が何を考えているかなんて誰にも分からない。
だからこそ、天国という絶対的な楽園を求めてしまった。
ただ、不安だった。現実世界で生きる私は、孤独で
寂しくて今が幸せじゃないから存在するかも分からない夢に焦がれていた。
大人になった、私は過去の私を愚かだと思っている。
それと同時に、感謝したかった。天国に逝かなくて
ありがとう。現実世界を諦めないでくれてありがとう。
あなたのおかげで、私は大人になった。

行けるか分からない、眼には見えない天国より
今、この世界に存在している事が私にとって重要だ。
存在しているのなら世界に祝福されている証拠だから。
この世界こそが、私にとっての天国なのかもしれない。

「天国と地獄」

5/27/2024, 3:31:17 PM