古びた手記の一部から抜粋。

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天国はあなたを忘れられないこと。
地獄はあなたを思い出すこと。


たばこの匂いはあなたがいつも纏っていたもので
たばこの匂いが混ざった私の髪は「私はあなたのもの」という証だった。あの煙が私の拠り所だったの。



でもね、思い出すの。

あなたの部屋の灰皿には口紅のついた吸い殻があって、ベッドの脇のゴミ箱には私の知らない空箱が捨てられていて
私の知らない誰かと私の知らないあなたの姿がいつまでもいつまでも頭のなかにこびりついて


あなたを忘れられない私は思い出に浸るたび
知らない誰かもずっと思い出している。




「天国と地獄」

5/27/2024, 3:28:24 PM