『天国と地獄』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
天国と地獄があるかなんて、
当たり前だけど分からない訳で。
なのに自分らがよくこの言葉を使って「死んだ後」を想像するのはきっと、希望のため。
死ぬのが怖くならないように。
大切な亡くなった誰かを、今は目の前にいない誰かが幸せでありますようにって思えるように。
せめて死んだ後は幸せでありますように。
いい人であれるように。
ないって思う人もいるんだろう。きっと強いひと?芯がある人?現実主義な人?
みんなはなんで信じてるの?そう習ってきたから、ではないやろ。漠然と、って人もいるかもな。
自分は、いい人であれるように。
今日の自分が、嫌な奴にならないためにあるって信じてる。正直者が馬鹿を見る世界より、幸せになれる童話のほうが好きだから。何か善を行う、勇気のため。何か失敗した時、でも行動だけでもして良かったって思えるため。
まぁ、完全に優しさで全部行っているわけでもない。
考えてることも全て鬼や天使にバレてるなら。表面上だけ取り繕って、本音は言えないまま。性格の悪い、「愛され上手だね」って言われる自分はきっと、地獄行きだ。
私だって本当は、今だけを楽しんで考えて生きたいよ。
どう捉えるのかは
自分次第なのかな。
昔、部活で
地獄のような
かなりキツい練習してたけど
今、なれば糧になってたりもしてるから
ね。
✳︎天国と血獄✳︎
小さな一歩を踏み出せば
何か変わる
そう思って歩けば歩くほど
心細さに 足が止まりそう
そんな私の手を繋ぐ
あの子の一歩は大きくて
私の一歩の3個ぶん
ズルズル引き摺られ
腕だって痛い
でも ふと下を見て気づいた
あの子の足跡は堂々として
迷いがない
明確な目標があるんだね
もう少し もうちょっと
私も歩幅を開けなくちゃ
私もあの子の世界が見たいの
半歩後ろはさみしいから
隣で歩くよ
今からでも 遅くないといいけれど
待たせてごめんね
さぁ、今日から
一緒に小さな一歩
4
今日は友達と遊ぶ約束をしている。
だから、今日はいつもよりも早く起きて、バッチリメイクを決めて、昨日買ったばかりの洋服を着て出かける。
計画は完璧だ。
そのつもりだったのに。
目覚ましが機能してくれなかったせいで!
つい、長寝してしまった。
だから、急いで簡易メイクをして、服装もいつも来ているラフな感じのやつで出かけた。
結果、友達を長い時間待たせる羽目に。
まさに地獄だ。
〜天国と地獄〜
『天国と地獄』
生前、徳を積めば天国行き
悪さをすれば地獄行き
善悪が曖昧なこの世界で
死後、どちらに行けるかは神のみぞ知る。
【天国と地獄】
位置についてよーいドン!
威勢よく運動会の定番の天国と地獄が流れ始める。
「1組早いです!2組追い抜きます!」
そんな感じのアナウンスが場内を盛り上げる。私は今日も最下位。一位なんてとれたことない。そんな中、手を引かれた。
「連日通りにすれば大丈夫だから。バトン受け取るから。」
って。ロマンチストじゃん。
私にとっての天国は
ひとりでいられる空間
私にとっての地獄は
存在ごと消えたくなるくらい自分自身を嫌いな瞬間
死後の世界の天国と地獄は存在しないと思ってる
前世は信じるけど 神なんて信じられっこない
因みに 最近の私はずっと地獄続き
久しぶりにここも開いた
病みおちるときはとことんなタイプなので、
浮上してないなって時は常時病んでます
死にはしないので 御心配なく
誰もしてないか すみません笑
では、またあした
おやすみなさい。
_ ₆₂
一攫千金を賭けた勝負、所謂ギャンブル。
聞いた話しだが海外規模になると命懸けの依頼もあるらしい。
---私の置かれてる状況は
〝命懸け〟と言うより〝一か八か〟と例えるのが正しい。
もう少しフラットに言えば〝当たれば吉〟この方が内容的には重く感じない気もする。
だが現実は紛れもなく〝一か八か〟で、互いの命が懸かっているのだ。
状況の整理をしよう。
いま私の目の前には、田舎で歩いていれば必ず目に入る用水路で溺れている子猫が二匹いる。
手を伸ばせば届く距離、と言えば間違いは無い。
のだが、脆い網を補う形で覆われた有刺鉄線の奥に子猫がいるのだ。
問題点が挙げるなら、
① なぜそこに入りこんだ?のか
② 猫アレルギー持ち
の二点だ。
猫の命が懸かっているのに猫アレルギーを理由に助けない道理はない。
しかし、有刺鉄線の奥にいる猫を助けるには手を伸ばし、尚且つ傷付けないように引き出す難点がある。
その時自分の腕を傷付けない保証はない。そして私は猫アレルギーだ...。
難しい状況にかわりはなく、
どっちを選んでも片方が辛い想いをする事になる。
こんな事を理由にすれば動物愛護団体は何と言うだろうか?
こうも考えてるうちに猫の体温は下がり結果的に待つのは〝死〟だ。
助けられるはずだった命をみすみす殺したも同然。
---20分後、私は酷く怯えている猫を抱えていた。
葛藤を抱えつつも救える命を見過ごすなんて出来なかったのだ。
このエピソードを友人に話し言われた一言が
「 どんな気持ちだったの? その時の状況って 」
〝天国と地獄〟だったよ
「何聞いてんの?」
「天国と地獄」
「なんで?」
「ほら、これ。お題だから」
「…俺ちゃんも聞く」
「聞いたことある一人称だなぁ」
「デップーゥ」
人生において、必ず天国と地獄というのは存在すると私は思う。
だが、私は私の天国と地獄があり、あなたはあなたの天国と地獄がある。人それぞれ違うのだ。
人生の中で舞い上がるような喜びや幸せに満ちている瞬間が天国。逆に、人生の中でどん底に突き落とされたような瞬間が地獄である。
常々思うことがある。
天国や地獄がなぜ存在するのか。
これを考えても哲学的なことになるからあまり指摘しないが、どうして幸せがあり、どうして不幸があるのか。
たまにはこのようなことを考えてみても面白いだろう。
「天国と地獄に行くならさ、君はどっちがいい?」
出た。あんたのいつもの謎質問。リモコンを片手に、真面目に考える自分もまた馬鹿らしい。
「……っぱ天国っしょ」
「えーでもさー、どっちかにしか行けないんだったら、地獄にも行ってみたいよね。天国に行っちゃったら、閻魔様に会ったりとか、熱々風呂に入ったりとかできなくなるんだよ」
続けて謎の理論も飛び出してくる。地獄に行ってみたいってやつ、初めて見た。そんなに行きたいなら、
「じゃ、行けば。地獄に」
「やだよ。一緒に行こ?」
「何でよ」
あんたは目を輝かせて言葉を続けようとする。その目は無いはずの未来を見据えていた。
「死後ツアーしようよ。世界各地の神さまに会ってさ。お花畑でピクニックして。最終日は地獄の温泉で疲れを癒してさ」
「そんないろいろ!、、よく想像できるね」
自分でも想像以上の声が出た。膝の上で握りしめた手に、あんたの白く細い指が絡む。
「君が皺だらけになっても、待ってるから」
窓へと差し込む夏日が、輝きを失わないあんたの瞳を瞬かせる。一定速度の機械的な電子音、けたたましい蝉の声。それらが急に遠くなって、今、世界にはあんたとのふたりだけだった。あんたが見つめてきて、手を優しく取ってくれる世界。それだけで十分だったのだ。
もし僕が死んだら、
僕はどこへ行くだろう。
天国か地獄。
もしかしたら、
どちらにも行けないのかもしれない。
そもそも、本当に天国も地獄もあるのだろうか。
もし天国も地獄もあるのだとしても
僕はどちらにも行けないだろう。
僕は、死んだ後に居場所があるとは思えない。
死ぬようなことをした、死んだ自分が悪い。
世間的には 死=悪 という考え方が多い。
その考え方で行くと死んだ者は皆、悪。
天国にも地獄にも行けず、
居場所のない世界を
彷徨っているのだろうか。
まぁ、どれも死んでみないと分からないこと。
「あなたは天国に行けますよ。これもたくさんの徳を積んできたおかげです。私にはあなたのこれまでの苦労が見えます」
母は天国と地獄、死後どちらに行くかを占う占い師だ。だが、これまで地獄行きだと言われた人を私は見たことがない。だから、母のことをインチキ占い師だと学校のみんなにバカにされていた。悔しかったけど、否定できなかった。本当にその人の積んできた徳や、犯してきた罪が見えるのなら、地獄行きの人が何人かいてもおかしくないはずだ。
だが、ある日私は初めて母が地獄行きを告げているのを聞いた。相手はしわくちゃのスーツを来た社会人だった。疲れ切った顔で今にも倒れてしまいそうなほど、フラフラしている。なぜそんな状態で占いを聞きに来たのか、私にはわからなかった。
「私って死んだら、やっぱり地獄行きなんですかね。なにやっても上手くいかなくて、人のために頑張ってるはずが、全部失敗に終わっちゃうんです」
その言葉に対して母ははっきりと切り捨てるように言った。
「そうですね、今のままだとあなたは地獄に堕ちます」
こういう時こそもっと救いのある言葉を言ってあげたらいいのにと思ったが、その言葉には続きがあった。
「ですが、あなたが犯してきた罪よりもたくさん積んできた徳が私には見えます。ほんの少しの差です。あなたが最後に大罪でも犯さない限り、生きてるだけで天国に行けますよ。安心してください」
そう言うとその社会人は泣いてしまった。母は優しくその背中を摩っていた。時間はとうに過ぎているのに、その人が泣き止むまで母はその手を止めなかった。
母がそう言った理由を考えて、現実に気づいた私は母を見直した。母は確かに占い師などではなかった。だが、生き悩んでいる人に希望を与えることができる人なのだと知った。
貴方達は天国と地獄を信じるか。そう、閻魔大王だとか、天使とか、悪魔とか、そういう人間が信じ続けている死にたく無くなるサイクルだ。きっと私は俺は僕は死んだら地獄に行くから死にたくなんかないって思うんだよな。こんな哲学的な話をする事になったのは他でもないあいつのせい。
「なあなあ、面白い話して」
「私はSiriじゃねえよ」
「下ネタ?やめてよ俺耐性ねえのに」
「うるせえ」
同僚のあいつは社畜。今迄は俺もそうだったし、仕事しないと生きてる意味ねえわ俺とか思ってた闇の時期(笑)もあった。でも今はちゃんといきてる。イキってな。生きるだけに。笑えよお前ら苦笑すんなよ。そう云えばアイツ、ガキんころは可愛い趣味あったらしいぜ。夜空を見上げるのが趣味…だったらしいんだよなあ確か。だいぶ御洒落さんだな。
アイツにとっての地獄は此処…だな。此処、って言っても、現世っていう幅広ォいとこじゃなくて、仕事場っつう「此処」。心の中で死にたい死にたあい って連呼してそうなくらい鈍い俺から見ても完全に病んでるんだよなーあいつ。今度まあ飯でも奢ってやろうかなってお気持ちの優しい俺。何様だとぉ?俺様に決まってんだろ!!
話題が逸れたな。ジゴクじゃヒッドイ事される、 ってのが昔からのセオリー!みたいになってっけどホントなのかねーって感じだわ。ヒドイコト、って具体的にどんな事?釜茹ででもされんの?でもそれ って単なるすんげー痛みじゃん?それってホントにヒドイ?もっと、精神的に来るやつじゃないの?
そんな事を、アイツに漏らした結果は
「ひたっっすら死なねーんじゃねえの」
だそうです。病んでんな!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
わかるかもしれませんが、此方の物語に出てくる、同僚のアイツとはカサキの事でぇす。
そしてカサキの同僚の「俺」君は
「オダ」君になります。
良いことをした子は
天国にいけるんだって。
え?
そうなの?
天国って何?
楽しいことばかりの
ステキなこところだよ。
そうなんだ!
でもね
悪いことをした子は
地獄にいくんだって。
地獄?
地獄はね
怖くて恐ろしいところなんだよ。
ひどいめに遭うんだよ。
え?!
イヤだよ。
怖いところはイヤ。
良いこといっぱいする!
―――どうしよう。
今
ウソ
ついちゃった。
あぁ
悪いことをしちゃった!
天国にいけなくなっちゃう。
それは絶対イヤ!
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
そっか!
このウソを
絶対にバレないようにすればいいんだ!
#天国と地獄
近所の人に挨拶が出来る日
カーテンを閉め切って座り込む日
朝になって目を開けたら分かる
(天国と地獄)
[お題:天国と地獄]
[タイトル:地獄の沙汰も金次第。ならば、天国は?]
ざらざらとした舌の感触を顔に感じて、早乙女カノンは目を覚ました。
目の前に飛び込んできたのは、金の毛並みをした犬の下顎だ。
「うわぁ!」
思わず飛び起きたカノンの頭を、犬はひょいと躱す。大きさに見合わずなんて身軽!
「はぁ、はぁ。えと、ゴールデン、レトリバー?」
その犬の犬種には見覚えがあった。カノンは犬好きでは無いが、嫌いということもない。カノンにとって犬とは、雲や岩やフライパンと同じカテゴリーである。つまり、それがあると知ってはいるが、特段意識することない存在だということだ。積乱雲や花崗岩や中華鍋を知っているように、ゴールデンレトリバーを知っていた。
そして知識の答え合わせをするように、ゴールデンレトリバーがワンと鳴く。やっぱり、身体が大きいと野太いようだ。
「ワンちゃん、どうしてここに、ていうかここ、どこ?」
カノンは辺りを見渡した。
まず目についたのは桜だ。そして次に川。桜はかなり膨大な量があるようで、見渡す先々に所狭しと並んでいる。桜と桜の間から、桜が覗いているような状況だ。見た感じではソメイヨシノに似ている。そんな桜塗れの一帯を、一本線を引くように伸びているのが川だ。川幅は四、五メートルはあるかもしれない。底が見えるほどの清流で、しかし魚は見当たらない。その隣には石造りの遊歩道があり、川の隣を何処までも伸びている。北から南に、あるいは西から東に。とにかく一本、真っ直ぐ伸びている。
カノンはこの遊歩道の上で寝ていたらしい。忙しなく動くゴールデンレトリバーの爪がカッカッと音を鳴らしている。
「いや、ほんとに何処なの・・・・・・」
桜並木といえば北海道の稚内公園か、あるいは青森県の弘前公園か。川沿いなので、東京都の目黒川沿いの方もあるか。しかし何れも違うと、カノンは思う。そのどれも桜の密度が足りない。これだけの量の桜は、テレビでも写真集でも見たことがなかった。
「バフっ!」
ゴールデンレトリバーが吠えている。カノンが起きた場所の少し先、川上の方にいる。
それを呆けて見ていると、ゴールデンレトリバーはもう一度鳴いた。
「バフっ!」
「・・・・・・ついてこいってこと?」
「バフっ」
カノンが歩き出すと、ゴールデンレトリバーも歩き出した。
まぁ他に当てもないしと、カノンは思う。この不思議な金の犬しか当てはない。犬をよく見てみると、きちんと首輪が付いている。赤い首輪だ。
嘘か真か、犬には帰巣本能というものがあるらしい。あのゴールデンレトリバーに着いていけば、飼い主の元に帰るかもしれない。人に会えれば電話を借りれる。電話を借りることができれば迎えを呼べる。
カノンは中学二年生なのだが、今時珍しくスマートフォンを持たされていなかった。今ポケットに入っているのは、千円札が二枚と五百円玉一枚の入った財布だけだ。
「頼むよ、えと、ワンちゃん」
「バフっ」
名前は分からないが、ゴールデンレトリバーはきちんと返事する。もしかしたら、首輪に書いているかもしれない。ついでに迷子札も付いていれば、ここがどの辺りにあるのか分かるかもしれない。
カノンは少し早歩きでゴールデンレトリバーに駆け寄った。後ろから優しく掴むと動きを止めた。
首輪の辺りを弄ると、確かに迷子札らしきものがある。どうやら、きちんと住所まで書かれているようだ。
「えと、えっ」
そこに書かれていたものは、あまりに想像からかけ離れていた。英字が書かれていたので、どうせローマ字だろうとタカを括って解読に挑んだのが間違いだった。
「S、a、n、F・・・・・・さ、サンフランシスコ?」
アメリカ西海岸、カルフォルニア州北部。カノンの住む福岡市から、飛行機でおよそ十四時間である。
カノンの持つ最後の記憶は、海での記憶だ。家族間での付き合いのある友人と共に、二家族で遊びに来たのだ。その友人は泳ぎが下手で、ドーナツみたいな浮き輪を付けていた。確か、その浮き輪が波でひっくり返されたのだ。それを見たカノンは日焼け対策に着ていたワンピースもそのままに、海へと──
「いつまで歩けばいいの? ピーナッツ」
「バフっ」
しばらく経って、ピーナッツはそれしか言わない。ピーナッツとはこのゴールデンレトリバーの名前だ。迷子札には、住所の他にきちんと名前も書かれていた。
「ねぇ、ピーナッツ、今何時?」
「ワンっ!」
つまりは一時。嘘つけっ!
空を見上げると、雲一つなく晴れ渡っている。しかしなぜか、何処にも太陽は見えない。桜に邪魔されて、天蓋の一部しか見えないからというのもあるだろう。しかし、空は偏りなく青空だった。白と青のグラデーションは見当たらない。
カノンは小一時間ほど歩いてくる中で、ようやくここが普通じゃない、どこかの異世界なのだと理解した。
一度そう理解すると、如何ともし難い恐怖が湧き出てくる。先ほどまでは困惑が勝っていたのだ。時間と観察で冷静になり、そしてそこには未知しかないのだと分かると、もうダメだった。
涙を堪えながら、カノンはピーナッツについて行く。
俯いてスカートの端をギュッと握った。ピーナッツの鳴らす、爪が遊歩道に当たる音だけを聞きながら、カノンは一歩ずつ踏み出している。
すると突然に、その音が止んだ。
驚いて顔を上げると、ピーナッツは止まっていた。止まったまま、尻尾をブンブンと振っている。
ピーナッツの視界の先、カノンの目指す川上の方から、犬と男の子が歩いてきている。
カノンは両手で乱暴に涙を拭くと、改めてその姿を認める。
「・・・・・・ブルドッグ?」
白の生クリームでコーティングしたケーキに、上から茶色のチョコレートをかけたみたいなブルドッグだった。舌を出しながら懸命に歩いている。
ブルドッグがそんなにも甘そうな一方、一緒に歩く男の子は紛れもなくビターだった。
赤地にポップな英文字が書かれたタンクトップに短パン、しかし何れも煤けており、足元に至っては裸足だった。近づくにつれて、その肌が随分と傷ついていることが分かる。カノンは写真でしか見たことがない格好だ。その写真は、社会の教科書で見た。開発途上国の子どもたちの格好だ。
ピーナッツの目の前まで来て、ブルドッグは立ち止まった。男の子も合わせて立ち止まる。不思議そうに首を傾げている。
「──、────、──」
「えと?」
男の子は何か話しているが、意味が全く取れない。カノンはつい先月、英検三級に合格したばかりである。そもそも英語かどうかも判断がつかないほどのリスニング力しかない。
「──、ネーム──ジキル───」
「ジキル?」
ふと聞こえた単語を呟くと、男の子はパッと顔を明るくした。ネーム、ジキル。この男の子はジキルと言うらしい。
「えと、マイネーム、イズ、カノン」
「カノン」
「うん。カノン」
自分を指差しながら言うと、きちんと伝わったようだ。しかし、また色々と喋り出されると全く聞き取れない。
こちらが全く分からないことを感じとったのか、ジキルはそのうちショボンとして黙りこくってしまった。
どうしよう、全然英単語出てこない。友人に英検三級を誇っていた自分がバカらしく感じてくる。カノンもカノンで、中々喋りかけることが出来ない。
そんな人間二人をよそに、犬たちは親しげだ。お互いの鼻をつつき合い、スンスンと匂いを嗅いでいる。一回り、二回りは大きさが違うので、うちのピーナッツが襲ってしまわないか心配だ。いや、ウチのでは無いのだけれど。
そんな風に二匹の犬をカノンが見ていると、ジキルが口を開いた。二匹を指差している。
「ドッグ」
「え、と。そうだね、ディス、イズ、ドッグ」
カノンは自分の間違いに気づかない。けれどジキルはそんなこと気にせず、嬉しそうにはしゃいでいる。
「ドッグ! ドッグ!」
何がそんなに嬉しいのか、カノンにはさっぱり分からない。しかしそうして笑顔を見せるジキルを見ていると、カノンはなんだか幸せな気持ちになった。
犬たちは、次はお互いのお尻の匂いを嗅ごうとぐるぐると回っている。
その時、カノンは一つ気がついた。ブルドッグも首輪をしているのだ。
カノンはしゃがむと、戯れているブルドッグの首元を探る。迷子札は付いていなかったが、名前は書かれていた。
「G、e、o、r・・・・・・ジョージ?」
それを見たジキルは不思議そうに首を捻る。
「えと、ディス、イズ、ジョージ」
カノンはブルドッグを指して言う。ジキルは首を振ると「ドッグ」と言った。
「あーいや、そうじゃなくて、ドッグズ、ネーム、イズ、ジョージ」
するとジキルはようやく理解したのか「ジョージ、ジョージ」と繰り返す。呼ばれたと思ったのか、ジョージが「ぱふっ」と鳴いた。ピーナッツより随分と軽い。
カノンは次にピーナッツを指した。
「ドッグズ、ネーム、イズ、ピーナッツ」
「ピーナッツ」
今度は一度だけ言った。するとジキルは順番に指を向けていく。ブルドッグに向けて「ジョージ」ゴールデンレトリバーに向けて「ピーナッツ」と言う。どうやら、一つずつ確認しているようだ。
そして最後に、カノンを指差す。
「カノン」
カノンはそれに、笑顔で「イエス、ベリーグッド」と返した。英検三級を持っていたって、出てくる言葉はそれだけだ。しかし、それだけでジキルもカノンも笑顔だった。
すると、ジョージとピーナッツは突然に離れた。先ほどまであれ程くっ付いていたのに、本当に唐突に。
ピーナッツは川上へ、ジョージは川下へ。出会う前と同じ方向に歩き出した。
「バフっ」
「ぱふっ」
そして二人の人間を促すように鳴いた。早く来いと、そう言っているようだ。得体の知れない騒めきが心を襲う。自分はあのゴールデンレトリバーに付いて行かなければならないと、そんな思いが沸々と湧き上がる。
それはジキルも同じだったようだ。一つだけ違うとすれば犬種だろうか。
ジキルは悲しげな表情を浮かべ、仕方がないと目を伏せた。そして改めてカノンの方を向く。
「バイ、バイ」
それだけ言って、ジキルはカノンに背を向けた。ジョージがテクテクと歩き出す。
「あっ」
言葉が上手く出てこない。「バイバイ」とそれだけ言えば、それで伝わるだろう。それでお別れだと伝わる。でもそれだけで良いのだろうか。
実のところカノンはジキルに感謝していた。折れそうになっていたカノンの心は間違いなくジキルによって救われた。感謝を伝えるのに「バイバイ」じゃ足りない。
カノンはとある日の社会の授業を思い出した。
開発途上国とは経済的に貧しく、これから豊かになるために頑張っている国である。
カノンは自分の財布を取り出すと、千円札を一枚抜き取った。
「ジキルっ!」
ジキルが驚いて振り向くと、カノンは問答無用でジキルの手を取った。彼の手に財布を握らせる。自分のポケットには千円札が一枚あるだけだ。
呆気に取られるジキルに背を向ける。それはジキルの物、もうカノンの物ではない。そうアピールするために、カノンは足早にピーナッツの元まで駆けた。
そしてピーナッツの隣でようやく振り返る。
「バイバイっ!」
大仰に手を振る。千切れそうなほど大きく、強く。
それを見たジキルもまた大きく手を振る。その手にはカノンのピンク色の財布が握られている。その中には日本円が千五百円入っている。
ジキルは外国人だ。それは一目見た時からカノンには分かっていた。だから日本円を渡すことは無駄なんだろうか。その行為はただの自己満足で、偽善なのだろうか。
そうじゃないと、カノンは思う。そうじゃない。だって、ジキルはあんなにも笑顔だ。あれはただのお金じゃない。人が人に何か渡すという行為には、金銭の損得以上の文脈が必ずある。
「行こっか、ピーナッツ」
「バフっ」
そして、二人と二匹はそれぞれの道を行く。誰も彼も、その道の先を知らないまま、ひたすらに歩き続ける。
千円札だけカノンが残したのにも理由がある。カノンはまだ諦めていない。もしも現実に帰ることができたなら、お金は強力な力になる。確かそんな風なことわざがあったはずだ。
地獄の沙汰も金次第。世の中、金があれば何でも解決できるらしい。
カノンはふと思う。じゃあ天国はどうなんだろう。天国は何次第だろうか。
カノンはまだ知らない。答えは、道の先にある。
【天国と地獄】
人によって天国と地獄、
感じ方、受け取り方が違う。
だからこそ、
自身の物差しでコトを測るの事なく、
誰かの地獄に寄り添える人でありたい。
「大丈夫ですよ。」
コノセはことり、と静かに笛を置き、膝をついて真っ直ぐにその魂を見つめた。
鎮魂の言葉が紡がれようとしている。
空気に凛と響くこの声が、オリヤは好きだった。
「天国も地獄も、この現世にしかありません。そして、あなたの居るべき場所も。」
そう、時に残酷に聞こえるかもしれないけど、ひとの居場所は現世のみ。
別世界は存在しないか、存在しても決して行くことはできない。
たとえ、死んでも。
「ひとは生きてこの現世に意思を為して形と成し、死して生者の心に其の場所を移し、言霊を借りてやがて緩やかに大気に、大地に解ける。」
この世で生きてこの世で死に、この世に解けるひとの摂理。
「だからあなたの言うような、死者の逝く国は無いんです。」
悲しむような、悼むような、それでいて澄んで惑いのない、微かな笑みがコノセの口元に浮かぶ。
「わたしたちがあなたを、真の死へとお送りします。」
-天国と地獄-
この世界こそが天国と地獄だ、と僕は思う。
だってそうじゃないか。
誰もが、些細なことに天国だ!と感じたり
地獄だ、と嘆いたりする。
だからこそ人は願う。
天国を。
地獄がない、天国だけの世界を。
けど、地獄という場所でも
そこでいかに
幸せを見つけることができるか。
それが今僕らに求められているものだと
思っている。