「天国と地獄に行くならさ、君はどっちがいい?」
出た。あんたのいつもの謎質問。リモコンを片手に、真面目に考える自分もまた馬鹿らしい。
「……っぱ天国っしょ」
「えーでもさー、どっちかにしか行けないんだったら、地獄にも行ってみたいよね。天国に行っちゃったら、閻魔様に会ったりとか、熱々風呂に入ったりとかできなくなるんだよ」
続けて謎の理論も飛び出してくる。地獄に行ってみたいってやつ、初めて見た。そんなに行きたいなら、
「じゃ、行けば。地獄に」
「やだよ。一緒に行こ?」
「何でよ」
あんたは目を輝かせて言葉を続けようとする。その目は無いはずの未来を見据えていた。
「死後ツアーしようよ。世界各地の神さまに会ってさ。お花畑でピクニックして。最終日は地獄の温泉で疲れを癒してさ」
「そんないろいろ!、、よく想像できるね」
自分でも想像以上の声が出た。膝の上で握りしめた手に、あんたの白く細い指が絡む。
「君が皺だらけになっても、待ってるから」
窓へと差し込む夏日が、輝きを失わないあんたの瞳を瞬かせる。一定速度の機械的な電子音、けたたましい蝉の声。それらが急に遠くなって、今、世界にはあんたとのふたりだけだった。あんたが見つめてきて、手を優しく取ってくれる世界。それだけで十分だったのだ。
5/27/2023, 3:22:28 PM