池上さゆり

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「あなたは天国に行けますよ。これもたくさんの徳を積んできたおかげです。私にはあなたのこれまでの苦労が見えます」
 母は天国と地獄、死後どちらに行くかを占う占い師だ。だが、これまで地獄行きだと言われた人を私は見たことがない。だから、母のことをインチキ占い師だと学校のみんなにバカにされていた。悔しかったけど、否定できなかった。本当にその人の積んできた徳や、犯してきた罪が見えるのなら、地獄行きの人が何人かいてもおかしくないはずだ。
 だが、ある日私は初めて母が地獄行きを告げているのを聞いた。相手はしわくちゃのスーツを来た社会人だった。疲れ切った顔で今にも倒れてしまいそうなほど、フラフラしている。なぜそんな状態で占いを聞きに来たのか、私にはわからなかった。
「私って死んだら、やっぱり地獄行きなんですかね。なにやっても上手くいかなくて、人のために頑張ってるはずが、全部失敗に終わっちゃうんです」
 その言葉に対して母ははっきりと切り捨てるように言った。
「そうですね、今のままだとあなたは地獄に堕ちます」
 こういう時こそもっと救いのある言葉を言ってあげたらいいのにと思ったが、その言葉には続きがあった。
「ですが、あなたが犯してきた罪よりもたくさん積んできた徳が私には見えます。ほんの少しの差です。あなたが最後に大罪でも犯さない限り、生きてるだけで天国に行けますよ。安心してください」
 そう言うとその社会人は泣いてしまった。母は優しくその背中を摩っていた。時間はとうに過ぎているのに、その人が泣き止むまで母はその手を止めなかった。
 母がそう言った理由を考えて、現実に気づいた私は母を見直した。母は確かに占い師などではなかった。だが、生き悩んでいる人に希望を与えることができる人なのだと知った。

5/27/2023, 3:21:05 PM