『善悪』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
遠く聞こえる声に、眉を顰めた。
山の麓では、今日もまた人間たちが争い続けている。
――山を崩すなど、罰当たりめ。
――山神様の祟りに遭うぞ。
古くからこの山と共に生きた者らが、怒りに任せて声を上げる。
――だから、山神なんていないって言ってるだろうが。
――今時、祟りなんて時代遅れの考え方。誰も信じちゃいないよ。
山を出た子らが、親を嗜める。
交わらない二つが言い争うのは、聞いていて気分が滅入った。
目を閉じ、嘆息する。
聞きたくないのであれば、声から遠ざかればいい。しかしこの山にいる限りは、どこへ行ったとしても声は聞こえることだろう。
いっそ争いを止めてしまえば、また以前のような平穏が訪れるのかもしれない。一瞬過ぎた考えに、できるはずがないと苦く思う。
争い自体を止めるのは簡単だ。だがそれはつまり、どちらか一方を肯定することを意味している。
古いしきたりに従って山を守るか。それとも、人間が生きるためにしきたりを捨てて、山を崩すか。
どちらも正しく、どちらも間違いである想い。
正反対でありながら根底は同じそれの一方を肯定することなど、できるはずがなかった。
「悩んでいるね、神様」
囁く声がして、目を開けた。
見上げれば、楡の枝に座る子供の姿。楽しげに足を揺らしてこちらを見ていた。
「神様にとって、山を崩すことは悪いことではないの?」
首を傾げる子供に、同じように首を傾げる。
何故山を崩すか否かが善悪に繋がるのか、理解できなかった。
「神様は山なのだから、自分の一部を切られたり崩されたりするのは嫌でしょう?」
「嫌だと、悪になるのか?」
問い返せば、子供は不思議そうに目を瞬いた。
顔を上げ、遠くを見つめる。その目は聞こえる争いを悲しむようにも、この先の山の行く末を憂いているようにも見えた。
「お前は善悪を何で測っている?」
ふと興味が湧き、問いかける。
問われた子供は、暫し悩むように視線を彷徨わせこちらを見つめた。
「納得できるか、できないか……かな。あとは、母さんに教えてもらったこと、とか」
答えたものの、自信はないようで眉を寄せている。
「神様は善悪を何で測るの?」
「善悪とは人間の概念だ。我らには存在しない」
己のような存在は、ただその場に在るだけだ。善でも悪でもなく、形すらもなかったモノ。
その在り方の善悪を定めるのは人間だった。
理解できてはいないのだろう。子供はさらに眉を寄せ、俯きながら何かを考え込んでいた。
やがて顔を上げた子供は、麓の村のある方へと視線を向けた。
争う声はまだ続いている。
「僕たちは……悪いこと、だったのかな」
ざわりと、楡が葉を揺らした。
気づけば周囲には子供たちが集まり、静かにこちらの様子を伺っている。
「大人たちは善いことだって、誇らしいことだって言ってたけど、本当は……」
呟く声音は、酷く淡々としている。その表情も何の色も浮かんではいない。
「皆は、どこまで信じていたんだろう。村を救うため。神様のため……僕はそれを信じてたけど、母さんは本当に信じてたのかな」
ざわざわと楡が震えている。子供たちが身を寄せ合い、どこか怯えた表情をして枝に座る子供を見つめていた。
恐れているのだろう。ここにいる子供たちは皆、信じていたのだから。
自身が選ばれたことが誇らしいと、最後まで周囲の言葉を疑いもせずにいた純粋な子らだ。それが崩れてしまうことは、耐えられないのかもしれない。
「人間は変わる」
枝に座る子供を見上げ、告げた。
真っすぐで、どこか虚ろな目が向けられる。言葉の真意を測りかねているような静かな姿。
いつの間にか大人びてしまった悲しい子供に、そっと手を伸ばした。
「お前たちの親は信じた。手を離すことに苦悩し、それでも村のためと決断した。その意志は善でも悪でもない。だが……」
枝から降りる子供を抱き留め地に下ろしながら、麓を一瞥する。
今は膠着しているが、いずれは山を切り開くことになるのだろう。その時の子供たちの行く末を思い、微かに胸が痛むのを感じた。
「お前たちはいずれ、山を切り開く者によって見つけられるのだろう。その時、かつてを知らぬ者たちはお前たちを見て、悪だと断ずるのだろうな」
あぁ、と周囲から声が漏れた。
啜り泣く声。それを慰める囁き。それは信じていたことが崩された故の悲しみではない。
信じたことを、何も知らぬ者が声高に悪と断じることの哀れみだった。
「――仕方ないことだ」
誰かが言う。それに誰もが頷いた。
「何も知らないのだから、仕方ない。でも、知ろうとしてくれる誰かがいてくれることを願うよ」
静かな声だった。
無垢だった皆は、子供でありながら聡明な大人となっていたようだ。
「山がなくなったら、神様はどうなるの?」
問われ、楡を見上げた。
始まりを覚えていない。ならば考えた所で終わりなど分かるはずもなかった。
「どうなるのだろうな。消えるか、その場に在り続けるか……人間が山を覚えている限りは己はここに在るのだろうが」
その前に今の形を失うのだろうか。最初と同じように形なく漂うのかもしれない。
「じゃあ、最後まで一緒にいてね。皆は神様のためにここにいるんだから」
誰かの言葉に、歓声が上がる。楡が震え、柔らかく葉を揺らした。
目を瞬く。子供たちを見つめ、微笑んだ。
「そうだな。共にいよう」
差し出される手を取る。はしゃぐ子供たちに囲まれながら、そっと耳を澄ませる。
争う声は聞こえない。どちらかに傾いたようだ。
空を仰ぐ。変わることのない青に目を細めた。
どのような先であれ、山も子供たちもここに在り続けることに変わりはない。
それを幸せだと、誰かが笑った。
誰もがそうだと笑っていた。
善悪
トランプの悪魔ぶりに驚きを隠せない。
人を殺して平気だなんて、悪魔としか思えない。
こんなあり得ないことが起こっているのに、
なんだか世の中はいつも通りで
他人事のように過ぎていく。
私にはそれが怖い。
経済ばかりが優先されて、泥沼のような非人道的風景は無視される。
経済以上に大切なものはないのだろうか。
経済尺度で物事を計り、それが正義になってしまっているのが怖い。
ついに日本は殺人ドローンの開発をアメリカと共同でやるようだ。
建前では軍民両用と言われている。
日本が民間用とうたわれて開発したものをアメリカに軍事利用されるのがその四文字の並びから読み取れてしまう。
こんなことをして私たちは後悔しないのだろうか?
心のないドローンに命を奪われて意味もなく死ぬなんて、食べられずに捨てられる残菜と同じじゃないか。
そんな恐ろしいことを私たち日本人は誤魔化されながらやらなきゃならない。
何て無関心で無責任な私たち。
世界は人の心をなくしていく。
掴んだはずの赤い風船が空に飛んでいった。
手を伸ばして、確かに捕まえたと思った瞬間だった。
足が滑って、あっ落ちるなって、そう思ったのに、
気づいたら私は、元いた歩道橋の上に座り込んでいた。
「なにやってんだよッ」
怒鳴り声にハッとして私は振り返った。誰かが私を引っ張ってくれたんだ。知らない男の子が、同じく座り込んでいた。私を引っ張った時に一緒に転んでしまったらしい。
「正気かよ、こんなとこから身を乗り出したら、落ちるに決まってるだろ!」
そう言いながらも、彼は立ち上がって私に手を伸ばしてくれた。
「風船がそこの看板に引っかかって…届きそうだったから、取ろうとしただけよ、悪いことじゃないでしょ」
風船を離してしまった少年が下にいたはず…と、覗き見てみたら、もうどこにも見つからなかった。
「あらら、もう諦めちゃったのかな」
振り返ると彼は目を見開いて、息を呑んでいた。それからふーーっと息を吐いた。
「あんたが落ちてたら、その子は一生今日のことを忘れないぞ。恐怖と、後悔をずっと、抱えていくことになる。それは、悪いことじゃないのか」
彼の声は震えていた。握った拳も震えていた。私は少し考えて、言った。
「ごめんなさい、怖い思いさせちゃって」
彼は横に首を振った。
「それから、ありがとうございます、助けてくれて」
「わかってくれたなら、それでいいよ」
静かに呟くと、少し遠くにあったスクールバッグを拾って、もう一度戻ってきた。
「自分のことはもっと大事にした方がいい。良いとか悪いとか、そういうことの前に」
じゃあ、と、今度こそ彼は去っていった。
私は、ああいう人こそ、ほんとの善人なんだなと思った。
空にはもう風船は見えない。
私は彼とは反対の階段を降りる。
踏み外さないよう、ゆっくりと。
#善悪
「善悪」
善悪ってとても曖昧で揺らぎやすいものだ。
一般的に他人に危害を加えることは悪だとされるけれど、その他人が多くの人を苦しめていた場合、それは悪ではなく善とされることもある。
結局、どれだけ多くの人間に利益を与えることができるかが善悪の判断基準なのだろうか。
だとしたら、私の行動は善と言えるのか、それとも悪と言われるものなのか。
是々非々と言うくせにその価値基準
信用される歩み寄り無し
#善悪
善は宣言しました。
「悪はいけないことよ」
悪は聞きました。
「僕がいけないことだって?」
善は答えました。
「ええ。だって悪だもの。」
悪は聞きました。
「じゃあ悪ってどうしていけないの?」
善は高慢ちきな顔で答えました。
「周りの人やお友達を傷つけるからよ。」
悪は聞きました。
「じゃあ善は?」
善はやれやれというように眉を上げて答えました。
「もちろん、いいことよ」
悪は聞きました。
「どうして君はいいことなの?」
善は自慢げに答えました。
「みんなを傷つけないからよ。」
悪は呟きました。
「僕はそうは思えないけどなぁ。」
善は呆れたように聞きました。
「あら、どうして?」
悪は聞きました。
「君は絶対に誰も傷つけないんだろう?」
善はにやりと答えました
「当たり前よ、善だもの。」
悪は聞きました。
「じゃあ僕が傷ついたのはどうしてなの?」
善は答えられませんでした。
今世の善悪はただ君次第
貴方が僕の法律だから
#善悪
例えば
私の行動を善とするなら
貴方は
私を悪だと糾弾するでしょ
それは
貴方のためだと言っているのに
だって
悪の方が
ちゃんと
善をわかってるもの
『善悪』
善悪の区別とは、どこでつけるものなのだろうか。
「ほら、また一人。悪人がこの世から消えたよ」
「……彼は、何をしたんだい?」
「入ってはいけないと言われる場所に入ったんだ」
「……それは、どうして?」
「なんでも、子猫が雨で震えて死にそうだったから、それを助けたかったそうだよ」
「……じゃあ、彼は悪人じゃなくて善人なんじゃないかな」
「でも、彼は入ってはいけないと言われた場所に入るという罪を犯したんだ。だから、彼は悪人だよ。どんなに良いことの為だとしても、それはルールを破っていい訳じゃないからね」
「……そうか」
善悪の区別とは、どこでつけるものなのだろうか。
——あなただったら、子猫を助けますか?
おわり
お題「善悪」
正しくなんてありたくない
僕は痛むお尻を軽く押さえ、眼前を睨みつけた。
だってそうじゃないか
正しい事をした所で、いい事なんて何もない
気持ちいい思いをするのは、いつも悪い奴と決まっているんだ
さっきだってそうだった
青信号になって歩き出した僕の目の前を駆け抜けたのは、他人の事などお構いなしと言わんばかりのバイク。
尻もちをついた僕を心配して寄って来た人達に、僕は何故か恥ずかしくなって、そそくさと謝って早足で去った。
世にはばかるのは、いつも悪い奴だ
政治家だって、有名人だって、こんな悪い事をしてましたって、しょっちゅうニュースになるじゃないか
だから僕は、正しくなんてありたくない
社会の犠牲になんて、なってたまるか
そんな恨み節に没頭していた僕の足に、落ちていた空き缶が当たり、からんと音を立てる。
僕は憤慨していた余韻を残しながらも、少し迷うと、蹴り飛ばした缶を拾い、近くのゴミ箱まで行って中に落とした。
教室に入った僕は、友人との挨拶もそこそこに席に座る。
今日は学期末の、苦手な英語のテストの日。
意地悪な大人達が、普段の安寧を恨んで、僕達生徒を上から目線で値踏みする日だ。
クラス全体が平穏を装いながらも、どこかピリついている。
でも、今日の僕は一味違う。
お尻の痛みに顔をしかめながらも、僕は軽く意気込んで、教科書とノートを広げる。
教科書を立てて手元を隠すと、ノートで勉強するふりをして、机の下の方にこっそりとペンを走らせた。
薄っすらとそこに残ったのは、教科書に書かれている英語のテキスト。
やってやる
お尻の痛みが熱になって、脳まで登ってくすぶっている。
周囲の張り詰めた空気に当てられながらも、僕はまるで、世界に一人だけでいる様な気分になっていた。
やがて、先生が入ってきて、強張る生徒の事など、知った事ではないというふうに、朝の話を始める。
逸る気持ちでそんな説教を素通りさせていた僕だが、時間が経つにつれ、徐々にさっきまで頭の中に籠もっていた熱が、どういうわけか、冷えて固まっていく。
やがてそれは、2人の人の様な形になって、僕の左右から囁き始めた。
右側から天使が訴える
やめるんだ。みんなが努力しているのに、君だけずるするつもりか
左側の悪夢が誘惑する
誰かに迷惑かかるわけじゃないから、構わないだろ
右から天使がまた訴える
そういう問題じゃない。自分が卑怯者だという事実は、ずっと消えないんだ
左の悪夢がさらに誘惑する
この世に卑怯じゃない人間なんているか? この程度の事で騒ぐなよ
みんながテスト前の緊張にいるのに、僕1人だけは、頭がぐるぐる。
これなら普通にしていた方が楽だったんじゃないかという程、頭の中で、天使と悪魔がはた迷惑に殴り合っている。
とりあえず自分の力でやってみて、それでダメだったら、もう一度考えよう。
戦いに疲れた天使と悪魔は、そういう方針で休戦した。
やがて、先生の話が終わると、いよいよテストが配られる。
僕は、他の人と同じように、前の席から用紙を受け取り裏にすると、頭の中のでへばった2人と、お尻の痛みを振り払い、目の前の課題に集中する。
チャイムの音と共に、教室の全員の手が一斉に翻り、テストに食らいついた。
あ
表になった問題用紙を見て、固まる。
テストの出題範囲、間違えてた
呆然とする僕をよそに、周囲からはカリカリとペンを走らせる音が、無機質に鳴っていた。
善悪
以前は昼に書いてたけど最近は書くの忘れることが多くて夜に気付く。もうこれからは夜に書くことにするか。
そもそも昼に書いてたのは夜は少しでも寝たいからでどうしても昼に書かないといけないわけじゃないしな。
それで今日はちゃんとお題が更新されてるな。なんかお題を書いてから一日たたないと更新されない感じがする。
朝の何時とかじゃなくてお題をこなしてから一日。これがお題が更新される条件、なわけないよな。普通に考えて。でも時間じゃないっぽいんだよな。どうなってんだこのアプリ。
それはともかく今日のお題は善悪だな。人が生み出した概念。本来は存在しない概念だと思う。
善悪というのは多くの作品でテーマにされどうしても扱わなければならない課題だ。
つまり善悪なんてのは語り尽くされてるし多くの解釈があるからあまり興味ないので今日はもう寝ます。
《善悪》
善悪だ、何だと人は言うけれど どうでもいいや お前がいれば
2026.4.26《善悪》
こんな夢を見た。私は行列に並んでいる。何の行列なのか分からないが、白装束を着て皆ゆらゆらと行列が進むのを待っている。
「…もしかして、ここって」
嫌な予感がして周りを見ると、頭上に抜けるような青空、自分の足元にはふわふわの白い雲。これは、いわゆる死後の世界ではないのか。
「え、私死んだの?いつの間に…」
行列が前に進み、引っ張られるように前に進む。
「何で死んだんだろう…。全然、覚えがないや」
でも、まだ死ぬつもりはなかったはずだ。だから、自殺ではない。きっと、突発的な事故や病気だろう。
「早かったなあ、まだやりたいことあったのに」
先ほどから独り言を言っているが、誰も意に介した様子はない。まるで聞こえてないみたいに。どんどん行列は前に進み、行列の先が見えてきた。
「あれ…ミキサーかな…?」
行列の先に、大きな真っ白なミキサーが鎮座していた。
「何で、ミキサー?」
時折、機械の振動音が聞こえる。透明な容器の中身はよく分からない。内側に何かが飛び散った跡があるが、形容し難い色をしていた。
「何あれ、ミキサーを使うなんて…搾りたてジュースでも配ってるのかな」
だとしても、あの形容し難い色のジュースは流石に飲めない。勧められても断ろう。行列は進んでいき、ミキサーの前から五番目に近づいた。ミキサーの近くには、全身真っ白な人たちが立っていた。髪も肌も服も、真っ白で覆われている。唯一、目の虹彩だけは血のような赤色をしていた。
「はい、次の方。あのはしごを登っていってください」
白い帽子を被った白い人に促され、最前列の白装束の男はふらふらとミキサーについたはしごを登っていく。そして一番上にたどり着くとふわりと飛び降り、ミキサーの容器の中に落ちていった。ミキサーのフタは閉まり、白い人はミキサーのスイッチを入れた。途端にゴリゴリギュリギュリと嫌な音を立て、男はミキサーの中でバラバラになった。バラバラになってもミキサーは止まらず、男だったものを細かくしていく。そして完全に液体になると、白い人はまた別のスイッチを押した。すると、今度は容器の中がぐるぐると回り始めた。ちょうど、洗濯機の脱水のようだった。中の液体はミキサーに繋がれたホースから、横のドラム缶にびちゃびちゃと落ちていく。白い人がミキサーを止めると、他の白い人たちがミキサーを開け、中の物を取り出した。取り出されたものは、赤黒くて肉塊のようだった。
「…これは、駄目です。また、悪人でしたね」
周りの白い人たちはうんうんと頷くと、ドラム缶に投げ込んだ。
「次の方、はしごへ」
そう声を掛けると、次に並んだ女が無言ではしごを登っていく。ミキサーにかけられ、また赤黒い塊が出てくる。白い人たちは首を横に振り、ドラム缶に投げ込む。それの繰り返しで、ついに私の番が来てしまった。
「次の方、はしごへどうぞ」
行きたくない。もう死んでいるとしても、体がバラバラにされるなんて嫌だ。
「次の方?」
白い人が一人近づいてきた。
「あなたの番ですよ。はしごへ登り、あの中へ」
何とか誤魔化そう。
「す、すみません。私、高所恐怖症で…。高いところに登るのを想像しただけで、足が竦んじゃって」
そう答えると帽子の白い人は首を傾げた。だがすぐに合点がいったのか、天使を思わせるような微笑みを浮かべた。
「自分で登るのが怖いんですね。ワタクシたちがあなたを抱えていきましょう」
帽子の白い人は手を差し伸べる。手を取ると他の白い人たちが体を掴み、浮かび始めた。
「あなたは善人でしょうか、悪人でしょうか。善人なら、ワタクシたちの仲間になれるのですが」
どうやら、仲間を探しているらしい。話しているうちにはしごの一番上についてしまった。
「さあここまで来れば、あとは飛び込むだけです」
その時ゴボゴボとドラム缶が泡立ち、ホースから液体がミキサーの中へ逆流し始めた。
「しまった!まだ意識があったか!」
白い人たちが逃げようとした瞬間、液体が大きな手のように持ち上がった。液体は白い人たちを一人残らず呑み込み、ミキサーの中へ沈んだ。私は慌ててミキサーのフタを閉め、大急ぎではしごを降りた。スイッチを適当に押すと、ミキサーは起動し白い人たちと液体は混ざり始めた。そうして液体がドラム缶に排出され、出てきた塊は赤黒い塊ばかりだった。
『善悪』
いつもありがとうございます。
体調を崩してしまってスペースのみです。
善悪なんてどうでもよくなるくらいに彼女ちゃんに溺れてほしいという、ドロドロ彼氏くんを書きたかったのです……😭
「僕の守りたいものと、貴方の守りたいものが違うだけです」
潰して砕いておいた苦味のある薬も、子供騙しのような軽い柑橘系のアルコールにすぐに馴染んで消えた。
野菜多めのスープの後に、少しだけ飲みましょうかと同じグラスを置いた。
「甘いね」
「でしょ。飲みやすいですよね」
僕の手渡したものは何の警戒もなく口にするんですね。
長くなった髪がぽっと赤くなった頬を覆う。彼女に少しだけ笑顔が戻りほっとする。
自分の男物の服を羽織らせたからか、華奢な肩や繊細なレースの下着が見えた。
善悪
人にとって、
善とはなんだろう・・・
悪とはなんだろう・・・
自分にとって、都合の悪い事は、悪なんだろうか?
自分自身とって都合の良い事は、善なんだろうか?
善悪の違いなんて、ときには一片するし、世情によっても変わる。
人間の心理なんてもの程、不確かなものはない。
要は、己自身が何を考え、一日一日生きていく、ってことだな・・・
(善悪)
善とはなにかと問われれば
ある人は
善いことを成す様だ
と言い
ある人は
人のあるべき姿だ
と言い
ある人は
人の誇るべき美徳だ
と言う
悪とはなにかと問われれば
ある人は
害悪を成す様だ
と言い
ある人は
唾棄すべき醜悪さだ
と言い
ある人は
憎むべき汚点だ
と言う
悪人が成す善があるように
善人が成す悪もある
であれば
善とは
悪とは
いったいなにを示すのだろうか
なぁ、俺は悪人だよな?
色んな罪を重ねたんだぜ。
小さいのから、大きいのまで。
ちゃんと罰せられたよ。
痛かった。苦しかった。
けどよ、あの罪の罰だけ来ねぇんだ。
ポイ捨てした時の手の痛みも、
物を盗んだ時の足の痛みも。
ちゃんと来た。
罪があれば、罰がある。
そうだよな?
そのはずだよな?
だったら、なんで。
俺が子供だったから?
俺が罪を知らなかったから?
んな事は、罰せられない理由にはならない、んだろ?
何をした?って、お前なら知ってんだろ?
覚えてない?
...だからかもな。
お前を傷つけた。
文字通りさ。
そんなことかって。
体の傷のことなんて覚えてない?
だからってさ。
いやさ、
お前が、殺したって聞いた時、驚いたんたぜ。
そんなことしなさそうだったからな。
そんなに、恨んでたのか?
...そうか。
ちゃんと罰が来たんだよな。
びっくりした?
トコトコって、来るから?
そりゃそうだ。
俺も、あれだけは慣れないぜ。
で、どうだった?
怖かった。暖かかった。
...そうか。
走馬灯って見えるもんなのか?
へー。
最初は、ラッキーって思ってたんだぜ。
逃げられないはずの罰から逃げれたんだ。
でもよ、怖くなってくんだ。
いつか来るかもとか、気づかないうちに来てたのかもとかさ。
変な妄想だけが先行してくんだよ。
で、お前があいつを殺したわけじゃん。
なんで、あいつだけなんだ?
俺も。
...あの後さ。
何度もさ、罰を受けようとしたんだぜ。
でもよ、罰のやつ全然来てくんねぇんだもん。
関係の無い罰ばかり与えていきやがってよ。
なぁ、俺は悪人だよな?
もう、善人みてぇな顔できねぇんだ。
もう、良いことも悪いこともわかんねぇんだ。
助けてくれよ。
はやく、俺を。
発達障害のために生き辛さを感じている青年がなぜか僕を慕ってくれて、会うたび生きてゆく上での悩みを打ち明けられる。彼の素朴な問いに対する答を探している時だけ、すっかりやさぐれてしまった僕の心持ちを若い頃に戻してくれる。
#生きる意味
家の本棚にニーチェ著「善悪の彼岸」(文庫版)なんて本がある。常識や既存の価値観を疑い、そういうものの“彼岸”に立って物事を見ろ、考えろ、ってことが書かれているらしい。読んでないから判んないけど(笑)。
そうだった、四十五年ほど前、中目黒の古本屋でこの本を買った頃はそういう人間に憧れてたんだった。
#善悪
『善悪』
空からキラキラと輝く〈善悪の秤〉が降ってきたのは、よく晴れた月曜日のことだった。
それは手のひらサイズの天秤で、左の皿に「自分の善行」、右の皿に「自分の悪行」が可視化されて載るという。
人々はこぞって自分の価値を確かめた。
ある慈善家が天秤を持つと、左皿には黄金の輝きが山をなしたが、右皿に載った「無自覚な傲慢」という一粒の重りに負け、天秤は無残に右へ傾いた。
一方で、嘘つきの詐欺師が持つと、天秤は水平を保った。
彼が吐いた数千の嘘と、たった一度だけ道端の飢えた犬にパンを分け与えた記憶が、なぜか等価値として釣り合ってしまったのだ。
「この秤はインチキだ!」と人々は憤り、天秤を海へ投げ捨てた。
数ヶ月後、遠く離れた海岸に流れ着いた天秤を、一人の子供が拾い上げた。
子供がそれを手に取った瞬間、両方の皿は跡形もなく消え去り、天秤はただの真っ直ぐな鉄の棒になった。
「ねえ、見て! カッコイイ棒みつけた!」
子供のはしゃいだ声に、天秤は初めて満足そうに鈍く光った。