(二次創作)(善悪)
「どうして鍋にドクツルタケを入れたらいけないの?」
魔女さまは、心から不思議だと言わんばかりの澄んだ瞳で、牧場主ピートに問いかけた。
わすれ谷には、人ならざる者も昔から住まう。それは泉の女神さまであったり、女神さまを助ける色とりどりのコロボックルたちだったりする。噂では採掘場の奥深くに封印されたお姫さまもいるという話で、
「ああ、それ、私がやったのよ。鉱石場で眠り姫なんて、面白いでしょう?」
勝手にピートの考えていることを読み取った魔女さまが、うきうきと話してくれる。
「あのねぇ」
ピートはがっくりと肩を落とした。
魔女さまや女神さまは、普通、人間の目の前に姿を現さない。かといって人間に興味がないわけではなく、たとえばうっかり女神さまを異世界に飛ばした魔女さまは、救出するのにピートをこきつかったし、そればかりか思い立ったいたずらをピートに実行させようとする。収穫祭に、質の高いドクツルタケを入れろと言い出したのもその一環。何も知らない住民たちが食べたら、お腹を壊して大変なことになるのに。
「それが楽しいのに」
魔女さまは頬を膨らませている。
おおよそ、人間の善悪とは関係ないところに生きているのだと実感する。だがどこか、放っておけない部分もあるのだ、とピートは頭を抱える。何なら魔女さまと人生を共にしてもいいと思うぐらいには彼女のことが好きだが、悪意なく人々を困らせるのはいただけない。
(それに、魔女さまが生きて来た時間を思えば、僕なんかが多少文句言ったところで改善なんかしないよなあ)
「あら、よく判ってるじゃない♪」
膨れ面から一転、今度は無邪気に微笑む。嬉しそうなその表情をつい可愛いと思ってしまい、ピートはもう駄目だ、とため息をついた。どのみちこの人――魔女さまからは、離れられないような気がしてならない。
4/27/2024, 8:56:39 PM