『向かい合わせ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
向かい合わせ
僕は真夜中、恐怖の真っ只中にいた。
深夜3時を回った頃、僕はパチっと目が覚めた。
枕元の時計を見てあと4時間寝れると安心した。
体制を整えて仰向けになり天井を見上げた。
するとそこにはもう一人の僕が僕をじーっと見つめている。
動けない、声も出ない額には冷たい汗がじとっと吹き出している感じがした。
天井で僕を見ている彼は僕を睨んでいた。何も喋らない、表情も変えない。
ずーっと睨んでいた。そして彼は天井に吸い込ませるように消えた。
翌朝、起きたら布団に誰かバケツ一杯の水でもかけたかというくらいに汗でびしょびしょだった。
あれはなんなんだ。そんなことは考える暇も無く仕事に行く準備をし、家を出た。
仕事は今日も、散々だった。
ただただ自分のことが嫌いになった。
帰りの車の中で半分色んなことを考えながら運転していた。
その時ふと昨日の夜中に出た僕のことを考えた。
僕は僕の姿を客観的にじっくり見たことがなかったんだなと。僕はあんな顔をしていたのだなと。
あんな怖い顔をしてるとそりゃ人は寄ってこないなと。
どんなに辛くても笑顔でいなければいけない。
帰りの車の中でそう決めた。
お題『向かい合わせ』
ことん、ぎぎぃ。
すぐ近くで鳴った物音に閉じていた瞼を薄っすらと開ければ、ぼんやりとした視界の中に映るのは酷く見覚えのある顔だった。
突っ伏して眠っていた俺と向かい合うようにして前の席に腰掛けているその人物は、こてん、と可愛らしく首を傾げながら、なおも寝た振りを続ける俺の顔をじっと見つめている。
なんとなく起きていることを悟られたくなくて薄らと開いていた目をしっかりと閉じ直したは良いけれど、突き刺さるような視線を感じながら真っ暗な視界の中でじっとしているのは中々に居心地が悪い。
いっそ今目覚めた風を装って目を開けてしまおうか。そう思ったその時、重たい前髪がさらりと不意に払われた。
露わになった額が冷たい空気に撫でられたのを感じた瞬間、そこに柔らかな感触が伝わった。ふに、と一瞬肌に触れたそれは、温かな吐息を一つ溢して離れていく。
今のって、まさか。俺がぴしりと硬直している間に、がたがたと慌ただしく机の動く音がする。
そのままぱたぱたと足音が遠ざかっていけば、遠くの方から聞こえてくる楽器の音や運動部の掛け声だけが響く静かな空間が戻って来た。
恐る恐る目を開けば、そこにはもう誰もいなかった。
夕陽に彩られた教室。色んなユニフォームを着た生徒たちが入り乱れる窓下の運動場。
俺がうたたねしてしまうまでと全く同じ光景の中で、ただ乱雑に放置されたままの目の前の椅子だけが、先程までの出来事が白昼夢などでは無いことを語っていて。
かあっと顔に熱が集まっていくのを感じる。どくどくと逸る鼓動がうるさい。火照った肌を隠すように手で覆えば、ひんやりとした指先が額へと当たる。振り払いたいはずのあの感触が、まだくっきりとそこに残っていた。
お題「弱く、向かい合う」
私は人と向かい合って一体一で話すのが嫌いだ。
なぜか怖いから。
すぐに涙が溢れてしまいそうになる。
特に学校とか塾とかの先生だと
何も悪いことしてないのに
怒られるっと身構えてしまう。
アドバイスしてくれているだけなのに
怖くてで泣きそうになる。
こぼれ落ちそうな涙を目にため、いつもいつもグッと
こららえている。
人と話す時も目はほとんど合わすことも出来ない。
失礼だと感じ悪いとわかっていても向かい合って話すと目が合って何もかも全て見透かされてしまいそうで
すごく怖い。
自分が隠している弱い部分がすべて
こぼれ落ちてしまいそう…。
向かい合わせ
最初はドキドキした
目が合うと気まずくて
サッと逸らしたり
変な笑みを浮かべちゃったり
次第に嫌になってきた
ジロジロ見られてる気がして
好きだよとか
やめてよ
何食べてるのとか
聞かないでよ
もう、今になっては良い思い出だね
そこにいないと寂しい
隣にいないと不安
一緒にいるけど一緒ではない
横に並ぶと触れ合って
向かい合うとキスをする
当たり前に日常で
ありがたい幸せ
向かい合わせの背中から伝わる体温
いつも私を守ってくれる大きな背中
少し年上の幼馴染み
小さい頃
あなたが心配してくれるのが嬉しくて
泣いたフリをしたこともあるんだ
優しく 力強く繋いでくれた大きな手
この手をずっと離したくないって思った
あなたにとっては
いつまでも妹のような存在
でももうダメみたい
想いがあふれて隠せない
かけがえのない存在
あなたは戸惑うかな?
それでも私は
この温かい安全圏から一歩踏み出す
洋服もバッチリ選んだ
あなたが一番 驚いて微笑んだ服に
さぁ振り向いて言うんだ
「明日私とデートしてくださいっ」
きっと明日は 晴れるから
~「やるせない気持ち」と対で読んでもらえたら~
向かい合わせの席。
彼に恋した私の席。
あなたの隣に私はいない。
なぜなら恋に落ちたから。
向かい合わせ
あなたの顔が見れなくて、俯いている。
心臓の鼓動が早すぎて、口から出てしまいそうで、
君の顔を見れば私の気持ちがバレそうで顔が上げられない。
その瞳に映る自分が、
あなたの色に染まっている。
気恥ずかしくてたまらないんだ。
あなたの気持ちを知るのが怖い。
嫌われるのが、その瞳に自分が映らなくなるのが、
たまらなく怖い。
そんな臆病な私は、自分の気持ちに蓋をする。
いつの日にか、自信を持ってあなたに告げられるように
今はただあなたと、一緒の時を刻んでいる。
個室のソファー
人が居ないベンチ
こっそりと
横並びでしか座ったことがなかった
賑やかなファミレスで
初めて向かい合わせで座った貴方は
何故か別人のように感じた
私と居ない時の貴方を
少しだけ知った気がした
「向かい合わせ」
自分の大嫌いなところ
目の前のあんたが全部見せてくれてるよ
楽々波(さざなみ)。連鶴の一種であるそれは、四羽の鶴がくちばし同士だけで繋がりあっている。連鶴の中では比較的簡単に作ることができるのに、出来上がってしまえば、何か難しいことをしていたように感じる。
わたしは今日も、親友たちと一生仲良くいれることを祈って、またひとつ楽々波を折った。
#向かい合わせ
向かい合わせ
鏡を見ていると後ろに女の子がいた。
振り返っちゃだめ、とつたないしゃべり方で私にいう。
そのこはわたしの双子の妹だった。
幼い頃にアレルギーの卵を保育士に食わされアナフィラキシーショックでなくなった。
その妹は私の鏡に入り込み、向かい合う、この時がいちばんたのしい。
本当に向かい合ってはなしたかった。
向かい合わせ
どうして私達は分かれてしまったのでしょうね。
額を合わせた片割れが痛みを堪えるように言葉を紡ぐ。
どこまでも、どこまでも同じ姿形であるのに。
心の持ちようも、肉に隠れて見えないものまでもが全て。寸分違わず同じであるのに。どうして分かれてしまったのでしょうね。
まるで、そのことが最大の過ちであるかのように。絡めた指を震わせて、罰に怯える罪人のような声で音を紡ぐ。
「──ほんとうに。なぜでしょうね」
同じように震わせた声に、閉ざされていた瞼がひらく。
真っ青な瞳。海を思わせるそれに映るもうひとりを見返して、私は憂いを乗せて囁いた。
「かみさまはいじわるだわ」
あなたといっしょなんてまっぴらよ。
「半月」
あなたはわたしを求め
わたしはあなたを求める
欠けた半月を探し
完全に満ちる
ほんとうは
ひとりで満月にならなくてはならない
とその本は言った
足りない部分は
自ら成長し
自ら補うほかない
完全に満ちたふたりで
あってこそ。
悲しいけれど
わたしもあなたも
今は半月
#向かい合わせ
『向かい合わせ』
私は二人暮らしをしている。
椅子も2つあるし、食器も二個づつある。
私はいつも通り朝ごはんを2人分用意して、向かい合わせに座っている彼の前に置いた。
向かい合わせに座っているのにいつも彼と目が合わない。
話しかけても返事はないし、私のこと嫌いになっちゃったのかな。
私は彼の前に花瓶に入ったワスレナグサを置いた。
ねぇ、私をおいてどこ行っちゃったの、帰ってきてよ。
私は、向かい合わせに座っている透明な彼に必死に話しかけた。
『向こう岸』
気持ちと気持ちが相向かい 対話に対話を重ねて 更に積み重ね ピコピコハンマーで殴り合い わからなくもないけれど それじゃあ何にも生まれないし産みたくないよ 向こう岸のテトラポッドで仲良く釣りでもしませんか?
向かい合わせ
ぼくら、向かいあわせのまま、すれ違って、とおりすぎて、背中合わせになって、はなれてった。
幸せと、不幸せと、向い合せ。
あなたが楽をする時、私はため息をつく。
あなたが泣いている時、私は晴れやかな気になる。
あなたが怒つているとき、私は思わずふふふとわらう。
あなたが喜んでいる時には、私は呆れて首をふつている。
ため息をつきながらも、愛おしいとあなたに尽くす。
涙からあなたの優しさを知り、晴れやかな気になれる。
普段怒らないあなたの、怒りなれない姿に笑ってしまう。
呆れながらも、あなたの無邪気な笑みに私の頬も上がる。
向い合せの言葉は、いつも喧嘩し合つている。
でも、時には惹かれ合い、人の繊細な愛を心を表してくれる。
幸せと、不幸せと、向い合せ。
私達も、きっと向い合せ。
「あ、あの……もしかして、僕の顔に何かついてる?」
立ち寄ったバーガーショップでバーガーを食べていると、夜空ちゃんはゆっくり食べながら僕の顔をじーっと見つめていた。
「ううん。美味しそうに食べてるから、衣舞紀君」
「そ、そう? でも、実際おいしいし……」
向かい合わせで食べると、相手の細かい仕草が目に入って気になっちゃうからあまり好きじゃないけど、観察して気づくこともある。
夜空ちゃんはいつでも同じ表情で食べるのだ。
別に味をあまり感じない、という訳でもないけど、いつもぼうっとして食べる。
今度、好きなものでも聞いてみようかな。
次遊びに行ったらそれを食べに行こう。
そしたら、笑ってるところ見れるかも。
脳筋が頭脳戦をしたところで、結局考えたこと全部空振りして、最終的に脳筋戦になるの、なんでなん。
お題『向かい合わせ』
主様が16歳になられた。
執事たちは皆口々にお祝いの言葉を述べていく。俺もその中のひとりだ。
「主様、お誕生日おめでとうございます。ひとりの人としてすっかり立派にお育ちになられて、俺も嬉しいです。
でもその一方で……もう育児が終わってしまったんだな、と思うと寂しく思う俺もいます。俺の名前を呼びながら一生懸命ハイハイをなさっていたのがつい先日のように……」
あ、だめだ、このままだと泣いてしまう。それを悟られたくなくてレンズを拭くふりをしてモノクルを外せば白いハンカチが差し出された。
「もう、フェネス、おおげさ。それじゃあまるで結婚式のスピーチじゃないの」
すみません、とハンカチを受け取り涙を拭えば、そこには前の主様に瓜二つのお顔がある。
結婚式、という言葉で思い出した。
「あの……よかったら前の主様——お母様のお写真をご覧になりますか?」
主様は目をぱちくりさせている。
「嘘……写真があるだなんて、聞いてない……」
「ええ、今までお話しませんでしたからね」
すぐにご用意します、と言い残して一旦2階の執事室に戻った。棚に眠らせている膨大な日記帳と主様からいただいた絵などの奥に、目的のアルバムが眠っている。
主様がこの屋敷にやってきてすぐの頃に撮った、エスポワールの写真館の宣伝用に撮影したウェディング姿の、前の主様と俺の写真。雰囲気作りのためとはいえ、愛の誓いを立てさせていただいたのも記憶に新しくて頬に血が集まってくる。
「今は感傷に浸ってる場合じゃない」
本来の目的を果たすべく、主様の部屋に向かった。
アルバムを広げた主様はしばらく無言で見入っていた。
「おかあさん……」
そう呟くと、堰を切ったように涙を流し始めた。俺がハンカチを差し出せば、目元をゴシゴシ拭い、ついでに鼻をかんでいる。
「やだ、大袈裟なのは私の方だわ。ごめんね、フェネスとお母さん。私、今猛烈に嬉しさと嫉妬でぐちゃぐちゃになってるの」
「嫉妬、ですか?」
「そうよ、嫉妬よ。私より先にフェネスとウェディングドレス着て幸せそうに笑ってるのがこの上なく悔しいの! でも……」
主様の人差し指が、前の主様の輪郭をやさしく撫でた。
「お母さん、ちゃんと幸せだったのね。……よかった」