『半袖』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
【半袖】
半袖を ひと夏ばかりと 思うなかれ 大晦日でも 通常着用
悲しいかな、この句は実話である。我々の仕事は、大小さまざまな荷物を日々取り扱っている。暑い夏はもちろんのこと、秋から冬にかけて寒さが増す季節でも、長袖のシャツを着る気にはなれない。ゆえに、1年の最後の日であっても半袖Tシャツは欠かせない。
周りからは、様々な意見がある。見ていて寒々しいとか、季節感がないとか、元気だねーとか、小学生みたいだねとか…総じて褒められてはいない。むしろ、不評であると思われる。
というわけで、最近は折衷案としと「半袖Tシャツの上にカーディガンを羽織る」方式を採用している。でも、長年半袖で仕事していた習慣というものはなかなか抜けない。羽織っていたはずのカーディガンが、秒で行方不明になるのは日常茶飯事だ。
仕事からの帰り道、同じく冬でも半袖姿の運送業の兄さんたちを見ると思わず応援せずにはいられない。もちろん、長袖であっても半袖であっても誰かのために働く人たちは皆素晴らしい。服装をはじめ、それぞれが自分の働きやすいスタイルで仕事ができればそれでよいのだと思う。
ちなみに、現在抱える深刻な悩みで一句。
Tシャツを 新調したいが 値が上がり シーズンオフまで 我が待つ身かな
『半袖』
半袖の季節
それでも僕は
半袖が着られない
誰にも見せられない
僕の腕
乃木坂46のサードシングル『走れ!Bicycle』は、乃木坂のメンバーたちが半袖の衣装を着て自転車に乗っている姿が印象的だった。
『半袖』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
半袖というと思い出す、俺・正宏とアイツ・卓弥の夏。
梅雨に入る前にもう夏かよ、ってな暑い日が続いて、さすがに学校も個人の判断に任せると言い出したある日、俺達は半袖のお供、シーブリーズを買いにきた。
その頃、付き合ってる者同士はシーブリーズのキャップを取り替えるってのが流行りだしてて、クラスでもクラブでもキャップの色が違うのを持っているのがステータスだったんだ。
でも悲しいかな。
俺達は付き合ってる、なんて堂々とは言えない訳で。
2年後、お互い志望の大学に入れたらシェアリングと言う名の同棲をしような、なんて約束していて。
(それまでは、こういったイチャイチャはお預けたよなぁ)
なんて俺は、シーブリーズをぼんやり眺めていた。
「ヒロ、どれにするか決めたん?」
親に頼まれた歯みがき粉を取りに行ってた卓弥が、後ろから声をかける。
「あ、うん。俺、これにしよかな。シトラスシャーベット」
「それ、めっちゃ冷たくなるヤツやろ。俺もそうしよ」
卓弥はふたつそれを持つと、全部まとめて会計をしてくれて。
「ええって。自分で買うって」
「かめへん、かめへん。オカンかお釣りで茶でもシバいてこいって余分にくれてるねん。マクドもおごれるで、今日は」
あ、イケメンのドヤ顔。
ちょっと笑ってまう。
「はい、コレ」
キュッとキャップを回して、外したものを取り替える。
それを1本、俺に手渡してくれた。
「エッ?」
「流行ってんねんやろ? 付き合ってる者同士でキャップ交換するの。同じのやけど、俺らが知ってればそれでエエやん」
何やねん、お前!
もう、ホンマ好き!
「なに、シーブリーズ見ながらニヤニヤしてんねん。怪しいヤツ」
シーブリーズの売場で思い出し笑いしてた俺に、卓弥が声をかける。
「柔軟剤、取ってきたで」
そう。
あれから2年。
俺達は晴れて、一緒に暮らす初めての夏を迎える。
『半袖』
私はどんなに暑い夏でも、決して半袖を着ない。
クラスのみんなが、涼しげにきれいな腕を出して半袖の服を着ていても、私は長袖であまりにも暑いとボタンを外し、一つまくり上げるくらい。
絶対に半袖を着ないので、クラスメイトに「何故、めぐみは半袖を着ないの?暑いのに」と、よく言われる。
その度に私は「なんか、半袖って好きじゃないの」と言ってごまかしている。
昔は高校には制服があったと聞く。今でなくて良かった。衣替えの日、みんなが一斉に半袖の制服になるなんて拷問だ。
だけど本当は、あんな風に涼しげに腕を出せたら。でもとても無理だ、と思い諦めていた。
私は、あまり友達がいない。
話しかけてくれる子はいるけれど、私なんかと友達になっても楽しくないと思うから、なんとなくみんなと距離をおいてしまう。
私は母に愛されてない。いつも母は憎々しげに「だいたい、あんたが出来なければ、お父さんとなんか結婚しなかったのに」と言う。
そして更に、私の右腕のひじ近くに、けっこう目立つあざがある。
いびつな形の赤紫色のあざ。
母は、たまたま私がお風呂あがりの時に腕が出ていると、さも嫌そうに「みっともないあざね」と突き放すように言う。そう言われると私が悪かったように、慌てて部屋に行く。
それなのに、妹は母に愛されている事が私はいつも不思議だった。
一度、思い切って母に聞いた事がある。「どうしてお母さんはあの子は可愛がるの?」
「だって、あの子は私が本当に愛した人の子供だから」何でもない事のように母が言う。つまり妹は不倫して出来た子、という事だ。
「あんなお父さんの子なんて、もうまっぴらだもの」と私に向かって言い放つ。
考えてみれば、なんとも理不尽な話だけれど、それでも私は母の愛情が欲しかった。妹を見る母の目はとても優しい。あんな風に一度でいいから、見られたいと、今日も叶わぬ夢を抱く。
だからか、私は可愛げのない子に育った。自分でもこんな自分が嫌いだった。
いっそ死んだら母は泣いてくれるかもしれない、と思い、カッターナイフを手首に押し当てたけれど怖くてだめだった。死ぬ事も上手く生きる事も出来ない、中途半端な私。
その日はいらいらしていた。朝から楽しそうに笑って話す母と妹を見てしまったからかもしれない。
いろいろな感情が複雑に絡み合って、もう何がなんだかわからなくなっていた。学校に行こうと家を出たけれど、なんだか学校も嫌で、途中の公園でベンチに座ってただ空を見ていた。
「なんだ、サボりかよ。大胆だなお前」不意に声をかけられ、びっくりした。それでつい「ああ、びっくりした」と言ってしまった。見ると同じクラスの中島くんだった。
「中島くんこそ遅刻じゃないの?もう」と言うと、何故か彼は私が座っているベンチに、少し距離をおいて座るのだった。
「お前さ」と、突然中島くんが言った。
「なんで、いつもひとりでいるんだよ、声かけてくれる友達いるのに」それに、と更に言った。
「なんで、暑そうな顔しながら、長袖着てんだよ」と言う。私の気持ちなんてなんにも知らないくせに。
私は朝から引きずっているいらいらを、つい中島くんにぶつけてしまった。「友達なんていない、可哀想だと思って時々誰かが声をかけるだけ」そう言うと自分がみじめで更にいらいらが増し、とうとう中島くんに
「これ、見てよ」と、いきなり長袖のボタンを外し、思い切り袖を上に押し上げた。醜いあざが丸見えになる。
「こんなみっともないあざがあるのに半袖着れると思う?」と言った。
気味悪がるだろうと思ったのに、中島くんは何も言わない。引いたのかな、そうだよね、と思っていると、いきなり思ってもみない事を、言った。
「きれいじゃない、それ、ちょうど赤紫色のあじさいの花びらみたいだな」
「このあざが?!きれい?」思わず、他人事だと思って、と腹立たしさがこみ上げ「適当な事、言わないでよ!」
と、叫んでしまった。言ってから、後悔した私はうなだれて「……ごめんね」と言った。
黙って、ふたりで座っていた。
空にはのどかに飛行機が飛ぶ音がしている。
「俺んちさ」急に中島くんが、独り言のように話し出した。
「いっつも親父とお袋が喧嘩しているんだ。それ見ていると嫌になってきてさ、なんで子供は親を選べないんだろうな、なんて思うよ」と言うので驚いた。
中島くんは、クラスでいつも明るい。だから友達も多い。
ああいう、両親に愛されてそれを当たり前だと思って生きてる人もいるんだ、と今まで冷ややかに見ていたのに。
「本当だよね。勝手に子供を産んでおいて、あんたがいなければ、なんて言われても私にはどうしょうもないもの」と、誰にも言えなかった胸に溜まっていたモヤモヤを言葉にした。
「お互い、親には苦労するよな」笑いながら中島くんが言うので、つい私もつられて「本当だよね」と笑ってしまった。
そして、少しためらってから言った。「ねぇ、こんなあざみたいなあじさいの花、本当にあるの?」すると中島くんが「あるよ、教室の廊下の窓から見えるのに。知らなかったの?」と言う。私はなんだか気持ちが軽くなっていく事に驚きながら、言った。
「じゃあ、その花を見て、きれいだと思ったら半袖になるよ」
「なるさ、すごくきれいだもの」
空を見上げる。青空がどこまでも続き、きれいだ。すると中島くんが
「青空ってさ、きれいだけれど」
「どんよりした曇り空で雨がじとじと降らないと、あじさいはきれいに咲かないんだよ」と言った。
そうか、あのきれいな花は鬱陶しいとみんなが思う雨が降らないときれいに咲かないんだ。
私は勢い良く立ち上がり、中島くんに言った。
「もう、完全に遅刻だね、学校、行こうか」
すると中島くんも立ち上がり
「そうだな、ふたり仲良く怒られるか」と言うので思わず笑ってしまった。すると急に顔をそらして
「お前、笑っている方がいいよ。すごくいい笑顔でかわいい」そらした頬が少し赤い。
胸に暖かいものが広がり、いい人だな、と思った。
中島くんの言ったとおり、ふたり仲良く先生に怒られ、クラスメイトからは冷やかされ、私は笑っていた。
休み時間に、教室の廊下の窓から見てみた。本当だ。私のあざみたいな赤紫色のあじさいが咲いている。花びらって、よく見ると歪なのもあるんだ。まるで本当に私のあざとよく似ていた。
こんなところのあじさいに気づく中島くんは、明るく振る舞っているけれど、心には苦しい悲しい物を抱えていたんだ。
翌日、私は半袖を着て行った。少し勇気が必要だったけれど。
教室に入ると、いつも話しかけてくるクラスメイトが「おはよう、めぐみ、半袖着てるじゃない。なんで今まで着なかったの?」と言うので、笑顔で腕を見せて「ほら、ここに赤紫色のあじさいの花みたいなあざがあるでしょ?今まではこれが嫌で半袖着なかったの」と言うと、何でもない様にその子が「本当だ、あざがあったんだ。でも、たしかに教室の廊下の窓から見えるあじさいに似てるね」と言ったのでびっくりして、「知ってたの?」と言うと、肩を揺らしてその子は笑って「いやだ、めぐみったら知らなかったの?みんな知ってるよ」と言った。
なんだ、みんなちゃんとあの花に気づいていたんだ。みんな、もしかしたら何かを抱えているのかな。
私は、初めてその子の名前を呼んだ。「菜月、今まで何度も話しかけてくれてありがとう」菜月は、当然のように「だって友達じゃない」と言った。
私は、私だけ不幸だと思ってひがんでいただけなのかもしれない、と思うと急に恥ずかしくなった。
「なになに?突然顔を赤らめて。今朝は中島とふたり仲良く遅刻するし」そして、菜月が言った。
「帰りにお茶しない?ちょっと聞き出したい事、あるからね」
私は笑顔で「うん、いいよ。でも何を聞きたいの?なんだか怖いなあ」と言った。
じりじりして
すーすーして
春なのか
夏なのか
はっきりしない季節に
誰はばからず
半袖から腕出して
まだ白い腕を
剥き出して
風をきって歩くことの
こころよさ!
あいつもう半袖着てる
この潔さを
なぜだか笑う者に
この清々しさは味わえぬ
解放された素肌が
はじめて息をするように
希望を予感して
風に遊んでいる
#半袖
主要な創作キャラ六人の内、
二人を「半袖を着ないキャラ」にしている。
それぞれ別作品だが、
片方は「筋力の乏しい自身の身体に
コンプレックスを持つため」。
もう片方は「深い火傷の跡を隠すため」。
設定が被っているという自覚はさておき
夏の気配を感じる度に、他人事のように思う。
暑くても半袖を着ないの、大変だよなと。
作者自身は、とても暑がりで寒がりだから……
電子の波が走る液晶の向こうで、今日も清楚に身を包んだ女性キャスターが言葉を紡ぐ。ここ数年ですっかり耳に馴染んでしまった異常気象の四文字は、例年通りの四文字を忘却させてしまうほどだ。
今年のGWは、例年より5度ほど平均気温が高く⸺そう続ける声にも例年との気温差を憂う様子は聞き取れない。もはや何が正常で異常か、その判断すらも危うくなっているように思える。
而して、目下の課題はそのような哲学的なことではなく、タンスから引き出す衣類の判断であった。
「半袖だとまだ朝晩は冷えるかな。かと言って長袖で汗かいても風邪ひいちゃうし…」
顎に手を添えて目を細めた美翠は、数秒の苦渋の末に半袖のTシャツと薄手の長袖シャツを二組取り出した。気温に適した無難な判断に思えるそれも、対象者に限ってはそうとも言えない。
「和は…忘れるかな、うん」
前科がいくつか数えるのは途中でやめた。のんびりとした自分のペースで動いているからか、本人も反省の色は持っていない。注意力は自ずとついてくるだろうという希望を持ちつつ、美翠は慣れた手つきで連絡帳にボールペンを走らせる。
保育士も多忙な業務の最中、園児一人の朝の装いを完全に覚えていることもないだろう。朝は冷えるためシャツを重ねて登園する、忘れても後日引き取る旨を記載すれば、少しは業務負担の軽減になるはずだと信じ、兄に丸印をつけてサイン代わりに。
そうしているうちに、時計を見れば双子を起こす時間。布団から這いつくばるように出る二つの頭に、ぽすんと手を乗せて軽く催促をする。朝の身支度は早めに流れたほうが何かと都合が良いものだ。
二者の挨拶を背中に、布団を畳もうと下に腕を伸ばせば、袖口が手の動きを邪魔する。
はて、袖はそこまで長かっただろうかと首を傾げれば、目の前の姿見に写る肩口が随分と空いていた。なるほど厚みかと、独りごちて納得し、久しく日光に当ててもいない腕の細さを見る。
今年の夏も自身の半袖が干されることはないのだろうと、例年通りに冷たい指先を擦り合わせて息を吐いた。
「昔はさ、自信に満ち溢れてて、僕を見て、僕を見て。
と、薄着で走り回って、ありのままの自分を隠すことなく見せていてさ。
でも、いつの日か羞恥心を覚え、世間体を考え、次第に自分を隠す様に、守るように、厚着をして本当の自分を偽って生きるようになってさ。
でも、もう、どうでもいいやって。
本当の自分隠す必要ないんじゃないか?って。
暑い服を脱ぐように、自分の枷を外すように。
そう飛び出たのが今ってわけさ。涼しくてとても心地いいよ。」
「いや、だからって本当に服を全部脱ぐ必要ないよね?君は形から入るタイプなの?こうしてまた手錠はめられて、自由を縛られたら意味ないよね?反省してる?」
「………すみませんでした。」
お題「半袖」
扉を開けた先に、天使を見た。
ストロボを受けたかのように白一色に眩んだ視界が、緩慢に輪廓を取り戻していく。
「どうしたの? 大丈夫?」
それは良く知る友人の声で、天使のように思われたのは、ウェディングドレスに身を包んだ彼女だったことに遅れて思い至った。
花嫁のための控室は、バニラアイスやホイップクリームよりも真っ白で、朝日よりも眩しい。
「そのワンピース、似合ってる」
「……嫌ね、花嫁さんに先に褒められるなんて」
ふふ、と控えめに笑う友人の薄いくちびるが、テラリと光を乗せて煌めいた。そのさまは、ケーキの上に飾られたフルーツを覆うゼラチンを思わせる。
友人のドレスは、ヴェールと同素材のフレンチスリーブが華奢な二の腕を強調する、クラシカルなデザインで、それは彼女にとても似合っていた。
「あまり、腕を出したくなかったのに」
沈黙を持て余したような空々しい呟きが、カーテンの白と光沢に弾かれて、乱反射して消えていく。落ち着かない様子で腕を擦る手までが、レースの手袋に覆われてうっすら白かった。
「もうすぐ彼が来るわよね。私も、そろそろ会場に行くから」
これ以上ここに留まったら、私の中の何かが漂白されてしまう。
「あ、待って。ねえ、わたし、ちゃんと綺麗かな……?」
なにを今更、と出かかった言葉を飲み込んだ。不安そうに揺れる瞳は、このあと彼の姿を認めて、はにかみながらほどけるだろうに。
「当たり前でしょう。綺麗すぎてびっくりしたもの。ほんとうに、天使みたいよ」
「……ありがとう。でもちょっと大袈裟」
ほんとうよ。ほんとうに、あなたはどの瞬間も天使みたいだった。ドレスなんか無くたって、嘘みたいに綺麗だったんだから。
あとでね、と微笑んで退出する。
小さく頷きながら、やはり戸惑ったように腕を抑える彼女の指の震えをとめてあげるのは、もう私の役目ではない。
廊下を歩きながら、おめでとうを言いそびれたことに気付いて、笑い出しそうになってしまった。
おめでとう、と花束を渡すような軽やかな気持ちで言えたら良かった。
行こう、新婦の友人のための場所へ。
そして、晴れやかな笑顔で、新郎とともに歩む彼女を、心から祝福しよう。
あのね、私には、こんなパーティードレス、似合っていないと正直に言ってくれて良かったのよ。
(半袖)
海からの風は、他の何よりも、季節が変わったということを知らせているようだった。
「うぇ……。ぺとぺとする……」
半袖のシャツの背中を、汗が伝い降りる。いや、背中だけじゃない。腕も、顔も、汗で全身ぺとついている。けれど、もう少し。あと少しで、私が願う瞬間が訪れる。
夕陽が海へと沈み、空が橙色から紺青へと色を変える。それは、ほんの数分間。刻一刻とその色を変える空、私は夢中でシャッターを切る。
「……おっけ、だね」
液晶に映る写真を見ながら、私は小さく頷く。うん、いい感じ。
やがて夜の帳が降る。汗に濡れたシャツの裾を、風が揺らしていった。
袖が短くなると、夏の気配がする。
薄手のTシャツとどこか爽やかな色のブラウスを、箪笥から引っ張り出す。
いつのまにか窓は開けっぱなしで寝ることも多くなった。
窓の外を眺めると、湿気にみちた青葉の匂いが鼻腔をくすぐる。
たぶん夏はもうすぐだ。
#半袖
半袖か長袖か
今日はどうしようか
イマイチ正解が分からない
昨日は暑かったけど何だか今日は肌寒いかも
しかし午後からまた晴れるらしい
んー
長袖着て、半袖持っていこうかな
「物語のネタが浮かばないときは、その日のトレンドワードとか、時事ネタとか絡めてるわな」
これまた随分と、ピンポイントな。某所在住物書きはスマホの画面を見てため息を吐き、この難題をどう組み立てるか頭をフル稼働させていた。
「たとえば25年以上前の映画。『そんなの許さないわ!』のネットミーム。……懐かしいが無理。
あるいは今日の気温。東京は最高21度予報らしい。……ザ・半袖って気温でもねぇ。単独では無理。
もしくは今日はクレープの日でシリアルの日で肉の日らしい。……飯テロ万歳だが全部は無理」
あれ、今日、マジでネタがムズい。物書きは天井を見上げ、ガリガリ頭をかき、ぽつり。
「半袖で何を書けと」
――――――
今の時期に「半袖」といえば、衣替えとか春の猛暑日とか。夏の入口を感じる次第です。バチクソフィクションのこんなおはなしはどうでしょう。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしており、その家では今初夏への準備の真っ最中。
夏用タオルケットを引っ張り出して、一旦乾燥機付き洗濯機へ。一家の末っ子子狐のお気に入り毛布も、これを機会にお洗濯です。
じゃぶじゃぶウィンウィン、洗濯機が動いている間に、母狐は今朝届いたばかりの小さな段ボールを開けて、中身を取り出し微笑みました。
「じんべーだ!」
母狐が持つそれを見て、末っ子子狐が叫びました。
「新しいじんべーだ!」
それは今月の最初の頃、メタい話をするなら5月7日。人がひしめき物の怪にとって住みづらくなった東京から、静かで僅かに神秘と秘匿の残る福島へ引っ越していった、大化け猫からの荷物でした。
木綿で丁寧に織られた半袖の甚平は、落ち着いたシックでダークな色合いで、子狐の目にはどこか大人っぽく、カッコよく見えました。
「着てごらんなさい」
段ボールの中から小さな甚平を探し出して、母狐が言いました。
「写真を撮って、お返しと一緒に送りましょう」
新しい甚平を受け取ったときの、子狐の目のキラキラした輝きといったら。
「着る!写真とる!」
コンコン子狐、甚平の香りを鼻いっぱいに吸い込んで、びゅんびゅん自分の部屋へ跳んでいきました。
あの調子だと、当分甚平を愛でて抱きしめてクシクシ自分の香りを擦りつけて、
写真のことなど忘れたまま、フサフサしっぽで甚平を大事に大事に囲い込み、幸せにお昼寝などしてしまうことでしょう。
お腹が空いた頃に、起きてくるかしら。
母狐は部屋の時計の、もうすぐ正午になるのをチラリ確認して、愛おしくため息を吐いてから、
夏の準備の作業を止めて、お昼ごはんを作っているであろうおばあちゃん狐の手伝いをしに、台所へ向かうのでした。
おしまい、おしまい。
「めぇにしゃ~あ~、しゅいじょっ館にしゃ~あ~行た時ぬ買た、ウメウシゅのぉ…」
衣替え完了後の“冬物お休み”作業中の我が家。
がさばる物は圧縮袋に入れて、タンス内の防虫剤は新しい物に取り替えて、ってやってるオレとテイちゃん(兄であり、弟)の横で、姉さんが、ある半袖を探している。
「おしょろでしゃんめい買たやん」
水族館に行った時に買った、ウミウシTシャツ…姉弟三人お揃いで買った三枚のウミウシTシャツが見当たらないと、タンスを漁っている姉さん。
散らかす姉さんと、それを嫌な顔一つせず、探しやすい様に畳に並べ、整えていくテイちゃん。
「あ、その長袖着ないじゃん、捨てたら?」
「いちゅか着るび」
「一年着ない物は一生着ないよ~…」
「着るわ」
捨てられないタイプである。しかも長命なモンスター。しっかり者のテイちゃんがいなけりゃ、我が家はモンスターゴミ屋敷と化すでしょう。
一人占領五段タンスの衣服が全て畳に並べられ、首を傾げる姉さんと、綺麗に空になったタンスに防虫シートを敷くテイちゃん。
「見つからないね、ウミウシTシャツ」
「オラ、たすかぬこごさ、すまったど…?」
悩む姉さんは置いといて、こっちも整頓しないとな……って、ん?
オレのタンスの奥に、キラキラの袋に入った、
「ウミウシTシャツ…」
「あるやん♡でかすた☆クショボーズ!」
入れた記憶は無い、ということはテイちゃん?
イタズラな笑みを浮かべたテイちゃんは、一休みのオヤツの準備を始めた。
半袖。夜勤だからまだ長袖だな。流石に薄手のパーカー一枚羽織る程度だけど。
しかし今年は気温のぶれが激しいね。昨日暑いと思ったら今日は涼しい。今日くらいの気温が理想的だけどあまり温度差でこられると風邪引いちゃうよ。
最近は暖かくなってきたから虫がわいてくるの嫌だな。蚊がいなくなるスプレーが必須だ。生ゴミにもいつも以上の注意が必要だ。
半袖となると気になるのは体型。最近結構ダイエットガチってるから痩せられそうな手応えはあるけど効果が出るのは一年は必須だ。なのでまだお腹がぽっこりで恥ずかしい季節。
恥ずかしいのはお腹だけじゃなくて上半身全部ではあるけどね。全体的に太いし胸とかも気になる。デブは恥ぞ。早く痩せたいけどそう簡単にはいかない。年単位の時間が必要だ。
そういえば半袖と言えば冷感のやつが気になってるんだよな。やっぱ暑いのは耐えがたいから服も夏仕様の快適なやつが欲しい。
今持ってる半袖は普通のやつなんだよね。これを冷感にしたら夏も快適に過ごせそう。でも今持っている服はまだ着れるからな。もったいないんだよな。
まぁ今年は買い換えなくていいだろ。今着てる服が着れなくなったらでいいや。いつになるかわからんけど。
半袖
「だる……」
暑さで目が覚めるほど不快なことはない。
寝る時は冷えてた空気が、生ぬるく重さを持って身体にまとわりついてくる。
そういう時期だ。分かってる。
喉がひっついてカラカラ。朝に水飲んだらお腹壊すのに。
――今日は一日晴天、行楽日和でしょう。
うるさい、うるさいうるさい。
ゴールデンウィークがなんだってんだ。世の中の、アンタたちが享受してる「楽しい」を作り出してる側の気持ちにもなれば?
「ほんとサイアク」
人前に出れたもんじゃない仏頂面をマスクで隠して、バス乗って、電車乗って、歩いて。
サイアクサイアクサイアクサイアクサイアクサイアクあ~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なっちゃーん!」
あ。半袖。
「なっちゃん、おはよ」
「はよ。半袖じゃん」
袖口の広い、ゆったりしたデザインの白カットソー。よく似合ってる。
「今日暑いって聞いたから! がんばろうねっ」
「そーね」
バイト仲間の、風になびく半袖で許されるくらい、アタシの世界は単純。
5月12日
晃がオンラインのゲーム買ったみたいで
放課後初めてオンラインでやった
負けまくったけどそれより
ぎこちないのに一部の操作だけ
上手いのがなんかつぼだった
けど、これは上手くなりそうな気がする
期待
#89 半袖
夏服の
袖からのぞく
二の腕を
恥じらいながら
夏を始める
お題「半袖」
陽射しが強くなってきた今日この頃。周りも風通しの良い涼しげな格好をする人が増えてきた。朝の通学途中に見える風景の中ですら、制服が長袖のシャツのままだったり、早くも夏用の半袖シャツを着ていたりとそれぞれだ。
私はまだ半袖に腕を通すほどではないから、長袖シャツにときおり学校指定のカーディガンを羽織ったりして体感温度を調節している。
「よーっ、いつも早いな」
後ろから肩を軽く叩かれた。思わず心臓が跳ねる。振り返ればそこには同じクラスの彼がいて、爽やかな明るい笑顔を私に向けてくれている。
「おはよう・・・・・・」
何とか朝の挨拶を絞り出す。私にとってはこれが精一杯の発言だった。
「つーかっ、聞いてくれよ。俺、朝が苦手なんだけど、今朝は部活の朝練の鍵当番でさー。だから、昨日は念のため目覚まし3個かけて準備しといたわけよ」
彼は口数の少ない私の代わりに、とりとめのない話題をふって会話を続けてくれる。私はそれに小さく頷き返しながら耳を澄ます。
「けど、そういう時に限って、目覚ましにセットした時間よりも早くに目が覚めんの。これって何でなんかね?」
彼は今朝の様子でも思い出しているのか、おもむろに頭の後ろに両手を組んでは、目線を上へと放る。
「・・・・・・二度寝しなくて、良かったね」
私はというと、隣を歩く彼の半袖のシャツから覗いた、その腕の形や筋肉のつきかたなどがまじまじと視界に入ってしまい、慌てて顔を逸らした。
「そういえば、今日は暑くなるんだってよー。思わず夏用のシャツ引っ張り出しちまったよ」
「そう、なんだ・・・・・・」
現在進行形で私の体温が上がっていることなど、きっと彼は知るよしもないだろう。
とりあえず、今日はカーディガンの出番はなさそうだ。
【半袖】