Yushiki

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 陽射しが強くなってきた今日この頃。周りも風通しの良い涼しげな格好をする人が増えてきた。朝の通学途中に見える風景の中ですら、制服が長袖のシャツのままだったり、早くも夏用の半袖シャツを着ていたりとそれぞれだ。

 私はまだ半袖に腕を通すほどではないから、長袖シャツにときおり学校指定のカーディガンを羽織ったりして体感温度を調節している。

「よーっ、いつも早いな」

 後ろから肩を軽く叩かれた。思わず心臓が跳ねる。振り返ればそこには同じクラスの彼がいて、爽やかな明るい笑顔を私に向けてくれている。

「おはよう・・・・・・」

 何とか朝の挨拶を絞り出す。私にとってはこれが精一杯の発言だった。

「つーかっ、聞いてくれよ。俺、朝が苦手なんだけど、今朝は部活の朝練の鍵当番でさー。だから、昨日は念のため目覚まし3個かけて準備しといたわけよ」

 彼は口数の少ない私の代わりに、とりとめのない話題をふって会話を続けてくれる。私はそれに小さく頷き返しながら耳を澄ます。

「けど、そういう時に限って、目覚ましにセットした時間よりも早くに目が覚めんの。これって何でなんかね?」

 彼は今朝の様子でも思い出しているのか、おもむろに頭の後ろに両手を組んでは、目線を上へと放る。

「・・・・・・二度寝しなくて、良かったね」

 私はというと、隣を歩く彼の半袖のシャツから覗いた、その腕の形や筋肉のつきかたなどがまじまじと視界に入ってしまい、慌てて顔を逸らした。

「そういえば、今日は暑くなるんだってよー。思わず夏用のシャツ引っ張り出しちまったよ」
「そう、なんだ・・・・・・」

 現在進行形で私の体温が上がっていることなど、きっと彼は知るよしもないだろう。

 とりあえず、今日はカーディガンの出番はなさそうだ。



【半袖】

5/28/2023, 11:10:43 PM