『力を込めて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
そんなつもりはなかった。
ただ、車のドアを閉めただけだ。
でも、彼には私が力を込めたように見えたらしい。
「お、おい」
さっきまで、偉そうにしてたのに
散々、ニヤニヤしながら馬鹿にしてたのに
少し言い返したら、急に弱くなった。
彼も人間なんだと夢から冷めた。
#力を込めて
将来的に、
役に立つようにと
整体を習い始めた。
自身の体ケアも含めて、
健康になりたかったから。
いざ、
学びに
入ると、
身体と心は密に
繋がっていて、
心のケア
身体のケア
どちらも大事。
不調が出るのは
身体の巡りが、
悪いこと。
あとは、やはり
生活習慣。
何事も
バランス良く、
偏りが
不調を呼びますね。
学んで行くうちに、
身体の不思議に
興味が湧いてくる。
施術では、
力加減も大切。
体に合わせた
力を入れていく。
自分の心、
自分の体、
相手の心、
相手の体、
程良く
力を込めて。
少しずつ
健康に
少しずつ
幸せに、
私がまだ10歳だった頃。
4歳の妹、真幸と二人でおつかいに行った。
お母さんは、忙しくて行けないから二人で、
すぐそこの商店街に、人参とジャガイモを買いに行った。お金を多めに渡され、お釣りはお菓子を買ってきて良いと言われた。
八百屋から駄菓子屋に行く途中。
横断歩道。赤信号。
片手には10歳の私の、片手では重たい、人参4本とジャガイモ6つが入った袋。
もう片方の手は、元気の良い、好奇心旺盛の4歳の妹。流石の妹でも4歳、大丈夫だろうと完全に油断していた。
信号が青になる。
その瞬間妹が、向かいの駄菓子屋に駆けだした。
その時、信号無視してきた、居眠り運転の若い男が乗った車が凄いスピードで突っ込んできた。
この瞬間は恐らく一生忘れられない。
私は尻もちついて、後ろに倒れ、
妹は車に思いっきりぶつかった。
車は、すぐには止まらず、
妹にぶつかった振動で起き、
ブレーキを掛けるまで止まらなかった。
私はなにが起こったのか理解できず、
ずっと尻もちを付いていた。
妹の血らしき、赤い水溜まりがじわじわ広がっている。
哀しいと言うより、怒りというより、
絶望に近かった。もうだめなのだ。
10歳の私でも、これは駄目だ。助からない。と分かっていた。分かっていたけど諦められなかった。すぐに駆け寄ってあげたかった。だけど怖くて動けない。私は画にかいたかのように、怯えていたのだ。
結局、私は何もできなかった。
このことを今でも後悔している。
あの時、手を離さなかったら。
あんなことにはなって居なくて、
今頃、妹の結婚式に呼ばれちゃったりして。
楽しく過ごせてたのかな。なんて、
今、私が握っている、この小さな命。
あの時みたいになってたまるか。
絶対あんな事にはしない。
「ママ、痛い。」
「あら、ごめんね。」
絶対、絶対、幸せにしてあげるからね。
お題/力を込めて
力を込めて拒絶する。
驚く君の顔に一瞬胸がすく感じがした。
ああでもすぐに周りが私を矯正してしまう。
彼女に謝りなさい。
どうしてそんな酷いことするの?
そう責めてやるなよ。
きっとわざとじゃなかったんだ。
そうだろ?
うん。
ごめんね。
許してくれる?
彼女は心からの笑顔で、勿論。
【力を込めて】
一生笑えば、君への罪は償えますか
一生努力すれば、貴方様は私を褒めてくれますか
一生苦しめば、あなたへの感情は許されますか
どうすれば私の罪は、重りは、辛さは、
無くなるんですか……
最近、物忘れが多い。
なにか引っかかることがひとつでもあると
それを一日中引っ張ってしまって
色々忘れてしまう。
最近で一番ダメなことは
親友の約束を忘れてしまったこと。
申し訳ない……
つかれているのかもしれない。
疲れを癒そう。休もう。。
でも休もうにも何をすればいいか分からない
寝ても、音楽を聴いても、お風呂に入っても
何もスッキリしない。
逆にそのことを考えてしまう。
何もしないこともいいかもしれないけど
何かしてないと不安だからどうしようもない
どうすれば進める?
どうすれば続けられる?
一生何かしてないと償えない。
褒めてもらえない、許してくれない。
続けるには邪魔な疲れを無くさなければならない
どうすればいい?
―――――――力を抜けばいいのか、その逆なのか
汗で滲んだ印刷の
チープな百本取り出して
火を渡し合う真夜中を
忘れないよう火傷してみる
(力を込めて)
力を込めて
「もうこの年じゃねぇ〜。ここから就職ってなると採用してくれる会社も少ないだろうし、無理だわぁ。」
私は友人とお茶していると時そう言って嘆いた。
・・・・もう、45なのだ。
だいぶ若い頃に妊娠して、旦那と子育て協力してやってきて、娘が社会人で家を出る年になるとあっという間に年は45歳になっていた。
今からまた新しいことにチャレンジするには遅過ぎただろう。
「何言ってんの!!まだいけるでしょ!?
45歳だって50歳だって60歳だって関係ない!
人生一回なんだよ?
好きなことやっとかなくちゃ!
やりたいなら今からでも実行すべき!」
学生の頃から変わらなく、明るくて、元気でサバサバしている性格の友人が勢いよく言ってきた。
「でもね「でもじゃない!一度っきりの人生後悔してもいいの!?
できないって決めつけるんじゃなくて、一度面接受けに行ってきな!ほら私があんたの心に力を送ってあげるから!力込めて、踏ん張って、人生の第二のスタート頑張れ!」
ったく、本当に学生の頃から変わんないなぁ。
ふふっと笑いが込み上げていて、なんだかやれる気がしてくる。
人生の第二のスタート。
頑張ろう。
ここからまた私の人生が始まる。
友人に背中を押されて、チャレンジすることに決めた。
さあ、力を込めて、第一歩を。
人間ってのは、手を見れば大抵わかるらしい。
「絶対叶えなきゃいけない願い事をする人間は、両手を強く握り合わせるんだ。誰かの安全や幸せを祈る時はそんなに握り込まない。そうやって私達は人間の願いを見分けていく」
言い、彼は自分の両手のひらを合わせて左右の指を交互に組み合わせた。ふうん、とカラスはそれを横で眺めながらカアと鳴いた。
「じゃ、神様にオレ達の願いは届かないってわけか。オレ達にゃ手がないからな」
「そんなことはないさ。人間は手が一番わかりやすいというだけの話だよ」
「じゃあオレ達は?」
彼は答えず、カラスの頭を撫でた。そりゃないぜ、とカラスはカアカアと鳴き喚き、バサバサと翼を動かした。
「結局神様ってのは気まぐれだよな。オレとおしゃべりしてくれるのもどうせ気まぐれなんだろ」
「まさか。聞こえたからだよ」
彼はにこりと笑った。
「君の、友達が欲しいという力いっぱいの大きな鳴き声がね」
――とある山奥の神社には、一羽のカラスがよく訪れる。
そのカラスはよく鳴く。何かと話しているかのように、頻繁に、様々な声音で鳴く。人々はそのカラスをありがたく思っていた。ひとりぼっちだった神様のご友人に違いないと噂していた。
カラスが神社に来るようになってから、神社周辺で良い事ばかりが起こるようになったからである。
ラインの何気ない
あいさつが
動くのを見た
今日も素敵な1日になります。
のなりますが
ふわふわ動いた
彼は自分に
その力があることを知らない
思いを込めると
彼は
その強い力を込めて
相手に届く
念じる力ありますねなんて言えない
力を込めて
力を込めて矛で海をかき回し
国が造られていくさまは
それはそれはおもしろい風景でした
力を込めれば金髪になって空も飛べると思っていた
今は地毛の色が好きになったし散歩が趣味だ
だけど手からビームは出したい 絶対楽しい
”力を込めて” ただ ただ 願った
早く終わりますように
ギブアップできないという恐怖
いつまで続くのかという不安
もっと 神聖で 崇高で 厳かなものだと思ってた
そして いつまでも正解がわからない
スタート地点に立った
余計な力を込めると
物事は想定以下になることが多い。
上手くやろうとする思いが
足を引っ張るのだろうか。
物事を上手くしたければ
力を込め過ぎず、かつ込めな過ぎず。
自然体で。
…それが出来れば苦労はしないのだが。
力を込めて地面を蹴る。驚いて口が閉じない人達を横目にどんどん進んで地面に近ずいて行く。アスファルトまであと少し、今回は大丈夫きっと成功するよ。
あと少し...
ゴチャと低い大きな鈍い音が響き頭に一瞬にして感じたことの無い熱さが通った、私の名前を呼ぶ声。もう戻る気は無い。もう大丈夫、成功は確実だ。私は意識を手放した。
チカラを込めて
チカラ強く
拳を突き上げろ
そこから逃げるな
闘うんだ…自分と…
戦え戦え戦え!!
力を込めて、私は貴方の手を握る。
私の力が、思いが、少しでも貴方につたわる様に。貴方が無事にゴールできるように。
無事に、私の所へ戻ってきてくれるように。
「かな恵、そんな力強く握らなくても大丈夫だよ。もう、充分過ぎる位伝わってきてるから」
「まだ、まだ、もう少し……」
私の彼氏は、珍しい仕事をしている。
私の彼氏、隼人の仕事はプロライダー。
バイクのモータースポーツをしている。
隼人の所属する階級では何回も優勝を果たしている。凄い彼氏だ。
「かな恵、俺、もう手が痛いよ」
「あっ!ごめんね。もう、離す。やり過ぎましたっ!」
そう言って、私が手を離すと、隼人は私の離した手を優しく掴み、自分の手で包んできた。
「ぎゅーっ!あははは、お返しー」
「だめだよ!お返しなんてっ!せっかく私が送ったんだから…………っ!!」
チュッ…………
私の手を掴んでいる手を隼人は隼人側へ優しく引き寄せ、私にキスをした。
びっくりしてしまった私は、少し固まってしまった。
「思いや気持ちは、唇でも伝えられるんだよ?かな恵」
やんちゃそうな顔で笑う隼人。
隼人、私の好きな人…。
大切で、大好きな人。
私はお返しにとばかりに、隼人にキスをする。すぐに離れると思った唇は、思ったよりも長く重なっていた。
「…………つ」
「あははは、かな恵、顔真っ赤だ。」
「……うるさいなー。…………行ってらっしゃい、隼人。」
「うん。行ってきます」
今日もレースに行く隼人を、私は見送る。
それが、私の日常。
それが、私達二人の日常。
お題「提灯」
目が覚めたら、見知らぬ場所に立っていた。
なんて、いつか流行った小説の導入のようなことを、まさか自分が本当に体験することになるとは思わなかった。
夢だろうか、と頬をつねる。普通に痛い。いや、でももしかしたら痛みを感じるタイプの夢だってあるかもしれない。何か他に、夢か現実か確かめる方法は無かったか……。
自分の服装を確認してみる。Tシャツにジーパン。シンプル極まりない、いつもの私服だ。
鞄はない。これはおかしい。出掛けるときはいつだって鞄を持ち歩いているのだから。
やっぱり、これは夢だ。
そう結論付けたところで、夢から覚める方法は分からない。気付きで駄目なら時間経過だろうか。それとも場所指定か。どちらの可能性もあるなら、とにかく適当に歩き回ってみるのもいいかもしれない。
心を決めて歩きだそうと前を向いた時、すぐにその決意は無くなった。
そもそも、痛覚やら持ち物やらを確認するまでもなく、ここはおかしかったのだ。
だって、こんなに真っ暗闇な場所は現実には存在しない。空には星も月もない。それなのに自分の身体や、すぐ隣に聳え立つ大きな宿のような建物は見える。
そして今、暗闇のなかでこちらに向かって進んでくるモノの気配も。きっとまだ遠いから姿は見えないだけで、もっと近付けば全容が見えてしまうだろう。
それはマズイ、と直感が告げる。見たらマズイ。このまま出会すのはいけない。
なら、どうしたらいい?背を向けて、全力で駆け出す?隠れられる場所を探す?一か八か、対抗する?
こういう暗闇に生きる存在は、光に弱い筈。スマホのライトを当てればもしかしたら……。
そこまで考えて、ここに鞄が無いことを思い出した。スマホはいつも鞄のなか。ということは、唯一思い付いた対抗手段は使えない。
残る選択肢は二つ。走るか、隠れるか。
……どうする。どうしよう。どうしたらいい?
「あぁ、こんばんは」
正解など到底分からずにぐるぐると考えを巡らせていれば、すぐ隣から扉が開く音と、人の声。
「そんなところにいたらいけませんよ。ほら、入って」
男性とも女性ともつかない、中性的な見た目と声のその人は、少し向こうの暗闇にちらりと視線をやってそう言った。闇に紛れる黒い衣装を纏っているのに、細身の輪郭がしっかりと見てとれた。
選択肢は三つ。走るか、隠れるか、この人に従うか。
「ほらほら、急いで。食べられちゃいますよ」
穏やかに、のんびりと、いっそ気軽さすら感じる声でとんでもないことを言い放たれる。
直感は、この人に従えと言っていた。
「お、お邪魔します!」
自分の直感を信じて、開かれている扉から中へと転がり込む。
宿らしき建物の中へと滑り込んだと同時に、声を掛けてくれた人が外に向かって何かを投げた。
放物線を描いて落ちていく、何色とも形容しがたい色合いをした光の球のようなもの。それが地面に落ちきる前に、外の暗闇が大きく蠢き、その光を呑み込んだ、ように見えた。
「あの、今のは……」
「悪いヤツじゃないんですよ。でも、私のお客さんを盗むので、私にとっては悪いヤツなんです。なので、要らないモノをあげてお帰りいただきました」
知らないほうがいいこともあると止める理性と、知りたい好奇心。一瞬の天秤で好奇心が勝った。
「お客さんって、私みたいな?」
「あなたは正規のお客さんではなくて招待客。とはいえ、アレに食べられたら困りますからね。ここにいる間は安心してください」
出会ってから一度たりとも笑顔を崩さず、あの暗闇の何かに脅威を感じている様子もない。
だからといって、この人に安心できる要素があるかと言われれば首を傾げたいところだが、今はこの人しか頼りがいないのも事実。
多少不安なところはあれど、信じるしかないだろう。
「ところで、ここは何処なんでしょう?気が付いたらここにいたので、正直何がなんだか……」
「ここは“御宿”です。こちらに泊まっている方があなたに会いたがっていたので、招待しました」
「おやど……」
「さ、どうぞ中へ入ってください」
ぐいぐいと手を引かれながら、奥にある正面玄関へと進んでいく。
外よりはマシだが、玄関へ向かう道もそれなりに薄暗い。手が離れたら辿り着けない気がして、引かれるままに歩いた。
「御宿へようこそ。歓迎しますよ」
そのまま勢い良く玄関扉を開け放ち、中へと通された。
一瞬、眩しさに目を細める。宿のなかは普通に明るかった。
玄関はとても広い。だが不思議なことに、靴箱は一つも置いていない。
「靴はそのままで結構ですよ。入ってすぐが受付ホールですが、今回は必要ないのでこのまま右へ進みます」
「あの、お金持ってきてないので、私やっぱり……」
今は誰もいない受付を見て、自分が今手ぶらなことを思い出す。
宿なのだから、泊まらないにしても滞在費くらいは必要なはず。けれどスマホも財布も手元にはない。ここまで入ってきてしまったが、引き返すべきだろう。
そう思って入り口のほうへ振り返ると、いつの間にか回り込んでいた黒い人影に遮られる。
「必要ないって言ったでしょう。ここの主は私ですから、何も心配することはありませんよ。あなたは招待客ですし、それに今外に出たら今度こそアレに食べられちゃうかも」
安心させようとしているのか、脅しているのか、よく分からない。けれど、表情は最初から変わらず穏やかな笑顔のまま。
「招待客って言いますけど、私を招待した人って誰ですか?」
「人って言うか、犬ですよ。ペット。前に飼っていたでしょう。真っ白くて小さなチワワ」
確かに、飼っていた。
ペットショップに行った時に、たまたま一匹だけいたあの子。即決は出来なくてその日は帰ったけれど、やっぱりどうしてもあの子がよくて。結局、数日後に迎えに行った。
甘えん坊で、手も掛かったけれど、本当に可愛い子だった。寝るのが大好きで、よく膝に上がってきては昼寝をしていたし、夜は布団に入ってきて腕枕で寝ていた。
一番愛情を注いで、ずっと一緒にいたいと思っていた。
けれど、犬の寿命は人より短い。ずっと一緒にいたくても、それは叶わない。
あの子も、一年前にいなくなってしまった。
「もうすぐ生まれ変わるので、どうしてもあなたに見送って欲しいって。甘えん坊な子ですね」
この話が嘘か本当か。判断できるような材料は何もない。
とても本当とは思えない話とも言えるし、でもちょっと、本当だったらいいなとも思っている。
「では、改めまして。こちらへどうぞ」
天秤は、期待に傾いた。それを察したらしい宿の主に促され、中へと足を踏み入れた。
またいつの間にか自分を追い越していた黒い背中に大人しく着いていく。
宿というが、他の宿泊客とすれ違うようなことはない。ざわざわと、微かに音や気配がある気もするが、イメージする宿より遥かに静かだった。
というか、廊下が長くないだろうか?
しばらく歩いているが、両サイドはずっと白い壁が続いている。
外観を見るにかなり大きな宿のように見えたので、もっと多い部屋数を想定していた。その予想に反して、部屋に繋がる襖はまだ一つもない。
「ここです」
それから少し歩いて、やっと一つの襖が見えた。
この先に、あの子が待っている。そう思うと、途端に緊張してきた。
開けられた襖の奥へ、黒い背中を追っていくと見えた光景は、普通の宿の部屋とは違っていた。
「足元、気を付けてくださいね」
明るい光に煌々と照らされた廊下とは正反対に、部屋のなかは薄暗い。
襖の奥には、鍵の掛かった両開きの扉があった。カチャカチャと鍵を開ける音が聞こえたかと思えば、重たい音を立てて扉が開いた。
仄かに明るい光が扉から漏れてくる。光の色は、赤や青、黄色、緑など様々だ。
「おーい、来てくれましたよー」
部屋の中に声を書けながら先へ進むその背中は、薄闇に紛れることなくしっかりと黒の輪郭を保っていた。
それを追いかけながら、周囲を見回す。
扉から漏れていた様々な色の光は、この部屋の中に無数にある提灯の光だったらしい。
提灯のなかでじっとしている光の球もあれば、提灯を好き勝手に移動している光の球もあった。
「あぁ、いたいた。ここですよ、この子がそうです」
示された一つの提灯には、真っ白な光が浮かんでいた。
「この子が……」
白い光を放つ提灯にそっと近付けば、喜ぶようにふわふわと揺れながら寄ってきたように見える。
その様子が、名前を呼んだ時に尻尾を振って駆け寄ってきた姿と重なる。
「これは魂の光が灯る提灯。ここでゆっくり、ゆっくり癒されて、また廻っていくんです」
「一年で、大丈夫なんですか?」
「愛されていましたからね。粉々に砕けた魂は、時間が掛かりますけど」
その視線が示す先。提灯のなかに、弱々しい光を放つバラバラに散らばった光の欠片がある。
「あんなに砕かれたくせに、まだ生まれ変わろうってここにいるんだから凄い子ですよね」
あの魂に何があったかは分からない。けれどあの状態からでも、ここにいればいずれはちゃんと癒されて、生まれ変わるのだという。
聞かなくてもいいことだと思う。けれどやっぱり、好奇心には勝てなかった。
「死んだら、私もここに来るんですか?」
「この先の人生で悪いことをせず、生まれ変わりたければ、ここに来ますよ」
「……悪いことをしたり、生まれ変わりたくなかったりしたら?」
「生まれ変わりなくないなら、受付をしたら左の小宿へ。悪いことをした魂は生まれ変わらせることは出来ませんので、要らないモノにするしかないですね」
要らないモノ。その言葉には聞き覚えがあった。
あの暗闇のなかにいた何か。アレの注意をこちらから反らすために投げ込んだ光の球のことを、そう言っていた。
思い返せば確かに、ここにある光の球と似たものだった気がする。
そんな、不穏な話が出てきても、白い光は関係なくふわふわと楽しげに揺れている。
提灯越しに手を添えれば、すり寄ってくる仕草をしたように思えた。
姿形は変わっても、この子はやっぱり可愛かった。
このままでも、一緒にいたい。出来れば、ずっと。
「もう行くみたいですね」
だけど、それは叶わない。
この子は生まれ変わろうとしていて、それを見送ってほしくてここに呼ばれたのだから。
白い光が提灯を出て、お別れを告げるように身体の周りをくるくると飛ぶ。
それから正面に来て、手を振るように数回左右に揺れた。
「またね」
見送るために、声を掛ける。今度は頷くように上下に揺れた後、真っ直ぐに奥へと飛んでいって見えなくなった。
「生まれ変わるんですね、あの子」
「はい。見送って貰えたので、満足したみたいです」
同じように奥へと視線をやり、ひらひらと手を振っているこの人の言葉を、今度は素直に信じようと思った。
不思議なことばかりだけど、あの子が満足して生まれ変われるのならそれでいい。
「さて。あなたをここに泊めるわけにはいかないので、戻りましょうか」
「この宿で寝たら戻れるとかじゃないんですね」
「死人になりたければ、泊まってもいいですけど」
「あ、嫌です。帰ります」
流石にまだ死にたくはないので、再び大人しく黒い背中に着いて歩く。
元来た道を進んでいって、玄関を出て、最初の扉へ戻ってきた。
「ここから出れば、帰れますよ」
今更、嘘は言わないと思う。だから、この扉から本当に帰れるのだろう。
けれどこの扉の先には、不安要素が一つある。
「あの変なヤツ、また出てきたりしませんか?」
「大丈夫ですよ。アレは元々、生まれ変わりたくない魂のためのモノですし、今は要らないモノでお腹いっぱいですから」
ここに来てから、不穏な話ばかり聞いている気がする。だがとにかく、そのどちらにも当てはまらないから大丈夫ということだろう。
なら何故あの時は駄目だったのかと言えば、今の話からしてアレがお腹を空かしていたからだと思う。いい迷惑だ。
「では、お邪魔しました」
「はい。次に会うのは、あなたが亡くなったときですかね」
最後の最後まで不穏なことを口にしながら。
閉まっていく扉の向こうに見える表情は、相変わらずの笑顔だった。
―END―
力を込めて……。
力を込めて、人生を台無しにした、あのゲス女を殴りたい。
人のおもいを躊躇いもなく踏みにじった売女……犯罪者・今井貞夫の娘、人でなしの今井裕子。
力を込めて……。
意識して、力を込める。トイレでウ●コを踏ん張っているときくらいかな? 失礼……。
私は今中学1年生。部活は吹奏楽部。
この中学には吹部の顧問の先生が4人いる。
音楽の先生二人と非常勤の先生。そして、2年のクラスを受け持つ英語の先生だ。
この先生の性格が..なんて入部当初は思わなかった。
今年の夏、私たち吹部は県の地方コンクールにでた。そのとき私を含めた4人の1年生は言ってしまえば雑用係をしていた。今から本番という時にリハ室のキーボードと台をその先生は1人の女の子に持たせた。私が手伝おうとすると、
[ひとりで持っていきなさい。]
と、誰でも重いと感じるだろう物をひとりで持つように言ったのだ。
その先生はそう言ってすぐにチューナーの入っている袋だけを持っていきスタスタと歩いて先に行ってしまった。
その女の子だけでは無い。その先生は先輩たちの水筒がほとんど入った箱もひとりで他のもう1人の女の子に持たせた。
私は内心、
(この重さを知らないのか。明らかに態度が違う)
そう思った。
私は先生が先に行ったあとその女の子たち2人と一緒に後を追った。残りのふたりの男子はスピーカーを2人で持って遠くに居た。だが大丈夫だと見て私たちは先に行かせてもらった。
その時だった。
キーボードと台を一緒に持っていた女の子が、キーボードを落としてしまったのだ。
まだそう遠くない距離に先生がいたので来てくれるかと思ったが。
来なかった。声もかけずにそのまま行ってしまった。
幸い他校の先生が通りかかってくれて心配してくれた。この先生に顧問になってくれないかと思った。
水筒の箱を持ちつつ、キーボードの方を見つつ私たちは先生の後を追うことを再開し、何とかたどり着いた。
そして本番が終わり、私は今度はキーボードと台を持とうとした。そうしなければさっきのようになると思ったから。
持とうとした時はその先生と音楽の先生1人がその場にいた。
だからか、持とうとしたらその置いていった先生は、
[重いから2人で持ちな!]
そう言って今度は2人に持たせた。
私はこの時、この先生二重人格だ。そう思った。ほかの先生がいるなら今だと。そう思い、力を込めてこう言った。
[先生理不尽すぎます]
現実でも言えたら良かったのに言えなかった。
この先生は今でも性格が変わらない。
なのにサックスは上手い。憎めないと言いたいところだが、きっと一生覚えているだろうな。
【力を込めて】5 kogi
容器の蓋が開かない。腹が立つので地面に叩き付けるか、あるいは剣で叩き割ろうかと思ったが、そんなことをすればあの方に怒られる気がする。
仕方がないので馬鹿力のあいつを呼ぶことにした。
「お前俺のことを便利な道具か何かだと思ってるよな?」
「当然」
使えるものは使って何が悪い。
「早くしろ」
はあー、と大きなため息が聞こえる。
「ふんっ」あいつが思いっきり力を入れて蓋を回すと、ミシッ。開くと同時に、妙な音がした。
あいつは自分の手の中のものを恐る恐る覗くと、私に向かってバツが悪そうに言った。
「……本体にヒビが入った」
#力を込めて