人間ってのは、手を見れば大抵わかるらしい。
「絶対叶えなきゃいけない願い事をする人間は、両手を強く握り合わせるんだ。誰かの安全や幸せを祈る時はそんなに握り込まない。そうやって私達は人間の願いを見分けていく」
言い、彼は自分の両手のひらを合わせて左右の指を交互に組み合わせた。ふうん、とカラスはそれを横で眺めながらカアと鳴いた。
「じゃ、神様にオレ達の願いは届かないってわけか。オレ達にゃ手がないからな」
「そんなことはないさ。人間は手が一番わかりやすいというだけの話だよ」
「じゃあオレ達は?」
彼は答えず、カラスの頭を撫でた。そりゃないぜ、とカラスはカアカアと鳴き喚き、バサバサと翼を動かした。
「結局神様ってのは気まぐれだよな。オレとおしゃべりしてくれるのもどうせ気まぐれなんだろ」
「まさか。聞こえたからだよ」
彼はにこりと笑った。
「君の、友達が欲しいという力いっぱいの大きな鳴き声がね」
――とある山奥の神社には、一羽のカラスがよく訪れる。
そのカラスはよく鳴く。何かと話しているかのように、頻繁に、様々な声音で鳴く。人々はそのカラスをありがたく思っていた。ひとりぼっちだった神様のご友人に違いないと噂していた。
カラスが神社に来るようになってから、神社周辺で良い事ばかりが起こるようになったからである。
10/7/2023, 10:51:08 AM