『冬になったら』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
皺の刻まれた落ち葉たちが
コンクリートの床で終えていた。
きれいねってほめられていた
黄色の宝石だったものが
灰色の紙くずに成り果てて
人に蹴飛ばされたり
床のように踏み付けられたりしても
もう、
みんなの心には留まれない。
また葉っぱは生えるわ。
また春は来るわ。
また色は訪れるわ。
きっと
みんなは暖炉の朱色は好きだけれど
残った灰色の薪は好きでも嫌いでもない。
遺った粉を頬に寄せて
一人きりのこころに浸るのは
きっとおかしなこと。
いつかまた。
来年もまた。
ほんのちょっと
わたしが悲しむだけ。
冬になったら
最近暖かいけど今日だか明日から寒くなるみたいだな。ようやく冬がくるらしい。最も十二月からが冬だから早いくらいなのかな?わからん。
最近の日本は四季がなくなったみたいにいわれることもあったけどなんだかんだ秋は秋だったな。夏ほど暑くないし冬ほど寒くなくて過ごしやすかった。
今年は家の中をいろいろ断熱して冬の備えは万全。いつからでも大丈夫だ。ただ正直心残りな点もあるんだよな。
それが部屋にあるベランダに通じる一番大きい窓。ここの断熱が断熱カーテンだけなんだよな。それがちょっと不安。
この窓も断熱しようと思ったんだけど手間と金銭面から断念した。断熱カーテンもあるし大丈夫だろうというのもあった。
ただ冬が近づいてきてちょっと不安になってきた。よりによって一番大きい窓を断熱しなかったのは判断ミスではないかと。
しかしそれを悔やんでもしかたない。大丈夫だと信じるしかない。だってまたいろいろやるのめんどくさいし。
title:私の冬
theme:冬になったら
──冬への憧れとは何だろう。
空気が澄んでいて、星も夜景も、灯がより鮮明に見えるだとか。夜長の一日を好きなように過ごせるだとか。ひとつ息をすれば、色のついたそれが白煙となって宙を舞う様だとか。雪景色がうつくしいだとか。生物の生命活動を止めさせる、絶対的であり不可侵の静謐だとか。
それが私の冬への憧れである。
けれども冬になった途端そんなことを考えなくなる。
寒さに耐えつつ、日々無味乾燥として生きていくのみだ。
今年も冬が来れば、私の冬は、また私自身の日常に飲み込まれる。そうして次の年の春になり、ようやく私生活から吐き出される。私の冬は、ぐちゃぐちゃのべちょべちょに変わり果てた姿で、かすかに息を吹き返すのだ。
冬になったら
元来寒いのが苦手だと感じてはいるのだけど、このところの温暖化の影響を受けて、断然冬派になってしまった。
昨日までの暖かさを思うと、まだ本格的な冬の装いにはほど遠いように感じるが、冬服を手に取っては頭の中でコーデを組む、ということを日々服屋さんで試している。セールのタイミングなども考えて、買ってはいない。だけど何を着ようかなぁと考えてる時間は苦しくも楽しいものだ。
2024/11/18
テーマ冬になったら
冬になったら君は
あたたかい所を探して眠る
私はそんな君を見つけて
お腹に耳を当てる
ゴロゴロ音が聞こえたら
君をいっぱいに吸い込む
君をなでて抱きしめる
→短編・冬に備えよ!
冬になる前の今、
がんばれ、私!
通勤では一駅前で乗り降りする。
会社のエレベーターは使わない。
食事は適度に減らして栄養重視。
ストイックにストレッチも忘れずに。
冬になる前に、とにかく体型を絞り尽くす。
秋の味覚よりも冬の怠惰。
コタツ亀になったら最期!
出れないんだよ〜。
動けないんだよ〜〜。
そしてアイスとか食っちゃうんだよぉ〜〜〜。
テーマ; 冬になったら
こたつ
さむい
雪だるまつくる
ゆきふれふれ
わーーー!
冬はクールで知的な姿を纏っている。でもその心はとても繊細であたたかい。
冷たい風に散った街路樹に
煌めくイルミネーションの花を飾り、寄り添いながら歩く君と僕の夢を温めてくれる。
「冬になったら」
「冬になったら忙しくなるよ」
クリスマス飾りを準備しながら店長がつぶやいた。大手チェーンはハロウィーンの翌日から店をクリスマス仕様に付け替えるが、うちのパン屋にそんな体力はない。
「やっぱりクリスマスは書き入れ時ですか?」
11月も20日になろうかというこの時期に「ブーランジュリー ジュワユーズ」ではバイトに手作りの飾りを作らせていた。
「もちろんそうなんだけどね。やっぱり労働力。どこの業界にも『103万の壁』は高くそびえているわけよ」
「いま話題の?」
私も学生バイトだから知らないわけじゃない。そこを超えたら税金で引かれるというなら、ギリギリで止めたいと思うのが人情だ。
「でも今年はヤマノさんのバイト募集のおかげでちょっとは楽できるかもだけど」
「それを言いますか…」
私は愛想笑いと苦笑いの間を意識して顔を作った。ハロウィーンの時に書いたバイト募集の貼り紙。そのおかげか新しいバイトが3人入った。
「でも、もともと企業は12月にバイトを入れられてなかったわけですよね? それだと103万の壁が緩和されたとしても、年末に人員を増やせないんじゃないですか?」
「いや、仕事は普段よりたくさんあるぐらいだから、人はいなきゃ回らない。だから短期の派遣を雇うしかなくて、その分経費は割高になるんだわさ」
語尾に変なキャラ入れてきた。店長、疲れてるな。
「日雇いで慣れてない人に働いてもらうより、年末こそ熟練のみんなと最高の接客をしたいじゃない?」
店長のドラマチックスイッチが入ってしまった。
「あ、わたしクリスマスは彼氏と過ごすので入れませーん」
「わ、私もそのあたりで実家に帰るので」
「えっと、年末はスノボで山に籠りまっす」
聞いていたバイト仲間が一斉に裏切りの声を上げた。店長はそちらを一瞥したあと、勢いよく私に向き直り、
「ヤマノさんは、クリスマス、入ってくれるよね?」
こんな空気じゃ断れない。あ、いや、もちろん入るつもりだったけど、圧が。
「予定ないんで、もちろん大丈夫です。あの、M-1の日を外してもらえたら」
今年のM-1グランプリは12月22日だ。
「大丈夫、その日はうちも半日で店閉めるから」
やっぱり店長はお笑い好きだった。
「ねぇ、このバイトってやっぱ怪しいかな」
昼休み、友人が教室の隅でスマホを見せてきた。
よくあるバイト求人のアプリ画面に、デカデカと広告が掲載されている。クリスマスを意識したような、カラフルで装飾の多いポップなデザイン。
友達の指先で、画面が求人情報までスクロールされる。
✧• ───── ✾ ───── •✧
給料は廃棄予定のお好きなプレゼント5つ。
休憩時にはオーナーからのホットココアを振る舞います。
トナカイの多い職場ですが、人間も大歓迎!
✧• ───── ✾ ───── •✧
「……なにこれ」
「やばくない? 応募するの勇気いるよねぇ」
闇バイト求人にしては分かりやすすぎる、ウケるよね、と友達はケラケラ笑って画面を閉じた。
サンタのバイトみたい、と呟けば、友達は目を丸くして「ほんとだこれサンタか! ブラックだ!」とはしゃぐ。
やっぱ大手の求人アプリにも普通に怪しい募集ってあるんだね、怖いね、とひと通りの会話を交わして、あっという間に5限のチャイムが鳴った。
――眠れない。
いつもなら真っ先に船を漕いでしまう数学の授業で、私はノートもとらずに黒板をじっと眺めながら、サンタのバイトのことばかり考えている。
ついに我慢ができなくなり、わざとらしくペンケースや教科書で隠すようにして、こっそりスマホを取り出した。
『冬 短期 トナカイ』
着ぐるみとか、イベントスタッフの求人に埋もれて――何スクロールかして、ようやくさっきの求人を見つけた。
馬鹿げている。危険かもしれない。
それなのに。
✧• ───── ✾ ───── •✧
気が早いですが、メリークリスマス!
サンタのクリスマスはもう始まっております(最高だ!)
冬になったら、お待ちしております!
✧• ───── ✾ ───── •✧
冬になったら。
トナカイに囲まれて仕事をするのもいいかもしれない。
2024/11/17【冬になったら】
「もうすぐ冬になるね。」
エゾリスさんが言いました。
「ああ、そうだね。」
シマリスさんが言いました。
「ボクはさあ、冬、きらいじゃないんだよね。
そりゃあ食べ物とるのが大変になるけどさ。
空から降ってくる、白くてちらちらするあれに会えるし、世界が真っ白になって、その白いのが降り積もる音しかしない感じとか、ほんと、すきなんだよね。
木が透明なのに覆われて固まってたり、
光がキラキラ降ってる時もきれいなんだよなあ。」
「ああ、そうなんだ。」
シマリスさんが、こっくりこっくりしながら話を聞いた後、言いました。
「ボクは、そういうの、なにもしらないから。」
ふわあー、とあくびをしました。
「えっ、なんで?」
灰色ふわふわのエゾリスさんが言いました。
「だってボク、ずっとねてるもん。
冬の間?1年の半分くらいねてるんだよ。」
「なんだって!?
冬を見たことがないのかい!?
そんなにねたら頭ズキズキするよ!?」
「ああ、ごめん。
せいかくには何度も起きて巣穴でご飯を食べているよ。
今年も木の実、いっぱいたまったし、そろそろねようかな。」
しましまのシマリスさんは、眠そうに、じゃ、と片手をあげて去っていきます。
「つぎいつ会えるのー?」
エゾリスさんの大きな声がシマリスさんを追いかけます。
「桃色のお花がいっぱい咲くころかなー。」
「………
だいぶ、先だね………」
まだ日差しは暖かく、風が冷たい頃のお話。
「冬になったら」
冬になったら
冬になったら、前回の冬の終わりにバーゲンで手に入れた、真っ白なコートを着よう。雪のように白いから、雪が多いこの地方では映えるよね。大切にクローゼットで眠っているあの白いコートを。
そう思って、雪を楽しみにしてたんだけど、街が一面の雪に覆われたら、私のコート姿は全然目立たない。
雷鳥は、夏の間茶色ベースの斑だけど、冬になると真っ白になる。それは、雪の中で外敵に見つけられにくくするためだった。
真っ赤なコートにすれば良かった!
【冬になったら】
"君はあの日の約束を覚えてる?
きっともう忘れてしまったよね。
だけど、それでもいいの。
だって私が全て覚えているんだから。
でもね、もし、もしも貴方が覚えてくれていたなら来て欲しい。約束のあの場所に。
"
今の賃貸の契約が終わるので、この際思い切って引っ越しをすることになり押し入れの掃除をしていたら、見つけてしまった。何年か前に届いた僕宛の手紙。差出人の名前は―
「知らないはずの人から届いたモノなのに、どうして未だに棄てられないんだろう」
この人の名前に身に覚えなんてない。でも、この人は僕のことを知ってる。忘れているだけ?いや、それならどうしてこんなにも胸が苦しく痛むんだろう。手紙にはこの人の名前だけでこの人の宛先なんかは書かれていない。
「…もう届いてから大分経ってしまった。この人だってきっともう諦めている」
だけど、もし未だこの約束を信じ、この"あの場所"で待っているとしたら?
「…」
きっと僕は思い出さなければいけないのだろう。この人は、多分僕を待っていてくれている。何となくそんな気がする。
何か手懸りがないかと押し入れの中を探ってみた。すると、奥にしまい込んだ段ボールの中から大学時代の時の写真が出てきた。
「…懐かしいな。…あれ?」
この娘。何処かで―
「久しぶりだな。まさかこの歳でここに来ることになるなんて」
あの後、写真に写っていた大学生の僕とひとりの女性。何かを思い出した訳ではない。ただ何となく気になって昔に通っていた大学、写真に写っていた場所に来てみた。
「懐かしい。まだあったんだ」
大学の裏の敷地。そこには立派な桜の木があった。春にはそれはもう見事に咲き、散り際は尚幻想的だった。今は枝だけがそこにはあった。
「よくここで花見とかしたっけ」
そっと木に触れた。
「そうね、楽しかったわね」
「!?」
誰もいないと思っていた。なのに背後から返事が返ってきた。驚いて声のした方を見た。そこには小柄な女性が微笑みを浮かべていた。
「…久しぶり。全然変わらない。」
その人は真っ直ぐに僕を見つめる。
"久しぶり"。その人はそう言った。だけど、僕にはその人がわからない。初めて会うのに、心臓は早鐘を打つ。
「会いたかった」
その人はそう言って、涙を浮かべた。
なのに僕には、何でその人が泣いているのかわからない。
それでも、その人を抱きしめなければいけないような気がした。気づけばその人を抱きしめていた。
「…ごめん。君とは初対面のはずなのに。」
「…いいの。私が貴方を覚えてる」
その人は笑った。どきどきした。離れたくないと思った。だけど、なぜそう思うのか僕には解らないままだ。
「わからなくてもいいの。ただ、ここに来てくれたことが嬉しい」
どのくらいそうしていたか。いつの間にか空は夕方の色に染まりつつあった。
「…暗くなってしまったわね。そろそろ帰りましょうか。」
「あ…」
その人は踵を返すと何事もなかったかのように歩き出した。どうしてだろう。それがとてつもなく寂しく感じるのは。
「あのっ、また会えますか?」
気づけばそう言っていた。その人は振り返り、微笑んだ。
「冬になったら、ここで雪だるまでも作りましょう」
「雪だるま…」
何だか拍子抜けしたけど、まぁ良いか。
冬になったら、また会えるのだから。
冬になったら
南に住んでいた小学生時代は
冬になったらこたつを出して
ゴロゴロ転がるのが定番だった
大人になった今は
冬になったら
タイヤ交換して
庭の冬支度して
子どもたちの防寒具を点検準備して
スキー道具を確認して
忙しい
冬になったら
冬になったら君に会いに行く
君へのプレゼントを持って
まっすぐに君のもとへ
会いに行く
だから待っててね 君への最大級の贈り物を届けに行くから
冬になったら
秋色に染まる街角を、
冷たい秋風が、
静かに吹き抜けていく。
風が運ぶ冷たさが、
私の心も、凍えさせる。
冬の足音が聞こえる街で、
今年も私は、独りきり。
嘗て隣にいた、貴方の温もりは、
もう、遠い記憶の向こう側。
「二人なら寒くないね」と、
寒がりの貴方を抱き締めた日々。
触れる度に、少し恥ずかしそうに、
微笑むその顔が、今でも愛おしい。
抱き寄せた貴方の温もり。
指先から伝わる優しさが、
まるで昨日の事の様に、
胸の奥で蘇り、心を締め付ける。
けれど。
どんなに願っても、
もう二度と戻れない。
貴方が隣に居てくれる、
温かくて幸せな日々。
今でも、貴方を愛してる。
この気持ちを、
そっと呟いてみる。
だけど、その声は、
きっと貴方には届かない。
冬になったら。
貴方は思い出してくれるかな?
…貴方の隣にいた私を。
…あの、幸せだった日々を。
冷たく、孤独な季節が、
私の心を、静かに覆い尽くす。
貴方の居ない冬が、
また、静かに巡ってくる。
この二三日、急に気温が低まった。それ故か、体の動きも鈍まった気がする。日が差せば暖かくもなるが、そうでない日は本当に寒い。ヤバい、死んでしまう。
少しでも暖かいところへ……風の届かない所へ……
辿り着いた先は、木の皮の下だった。南向きで北風の届かない、木の幹。運よく日が差せば暖かさも期待できる。
同じことを考えた奴もいたようで、既に先客がいた。端から入って、風が当たらない、なるべく中心へ……と向かうが、皆同じなので中心から端へ、端から中心へとグルグルと回っていく。
そうこうしているうちに、また新たに加わるものも続く。もうこの下は満杯なのではとは思うのだが、それでも入ってくる。
端から中心へ、中心から端へと、グルグル、グルグル。
日が経つにつれて、気温が低くなっていく。グルグルの速度も心做しか遅くなってきた。皆体が動かなくなってきた。いよいよグルグルも止まるだろうが、端で止まるのは嫌だなぁ……。
さて、木の幹の皮の下、ここにもいます。少し剥がしてみましょう。チョットゴメンネ〜……ほら、いた。
ナナホシテントウは冬になったら木の皮の下等で集団で過ごします。北風を避けた南側で、集まることで少しでも暖かくしようとしてあます。こうやって寒さを凌いで越冬するのです。
さて、次は……。
『冬になったら』
同じポケットに手を入れて
枯れた落ち葉のうえを歩いて
白い息を吐きながら
君の赤くなった耳を見ていたかったのに
君は決まって言う
「ぜっっったいに、冬の方がいい季節だよ!!」
冬信者のセリフに少し戸惑いつつも、
夏信者の私も言い返す
「いや、違うね。ぜっっっったい!夏!」
言い返した時の、わかってないなぁという顔が好きだった。むしろそれを見るために、言い返してたのかもしれない。
それから君は毎回、冬のプレゼンをする。
ここがこうで〜、これが良くて〜、だんだんプレゼンの内容もまとまりが出て、分かりやすくなっている。
ひとつ変わらないところは、決して夏を貶さないところ。そんな君が好きだった。
君に出会ったのは秋で、一度目の冬は少し会話するくらいの仲だった。
二度目の冬は、お互い意識してたと思う。
クリスマスに部活があると聞かなければ、多分遊びに誘っていた。
三度目の冬は、お互い受験で大変だったからあまり連絡が出来なかった。
四度目の冬は、君の冬が好きな理由にあがってるもの全てをしようと、クリスマスマーケットにもイルミネーションにも行った。
五度目の冬は、さすがに2人でいるのにも慣れてきて、距離も大分縮まった。君の好きな物も嫌いな物も、ほとんど全部分かるようになっていた。
六度目の冬は来なかった。
来年は、冬の夜道を星を見ながら散歩しよう。
そう言った君は、蝉の声に包まれながら死んだ。
信じられないほど暑くて、身体の水分が全部蒸発するんじゃないかって気温の日だった。
あのとき私のことを優先しなくてよかったのに。
右腕を強く握りながら、今でもそう考える。
私の方に向かって一直線にトラックが突っ込んできた。
足が震えて、何も出来ない私の腕を引っ張った代わりに君はトラックの前に投げ出された。
目の前が真っ赤になって、気がついたら病院にいた。
はっきりした意識もないまま、辺りを見渡すと
君が亡くなったらしいということだけは伝わってきた。
君によく似た男性と女性が、声を上げて泣いていた。
私はそれを見ても泣けなかったし、むしろ憐れで情けなくて見てられなかった。
窓の外に笑って歩いてる人が見えた。
君がいなくても、変わらず回り続ける世界が憎い。
アクセルとブレーキを間違えたなんて言うやつが憎い。
それでも、君がいない世界で笑ってる想像ができてしまう。そんな私が憎い。
君が最後に触った腕を握る。あの時と同じ強さで、
君が強く握ったときの痕が、だんだん薄れてしまうのが耐えられなかった。
君がいた証が無くなってしまうみたいで嫌だった。
あれだけ冬が好きだと言っていた君が、暑苦しい太陽に照らされる中、蝉の合唱とともに灰になった。
私は夏も冬も嫌いになったし、トラックを見るだけで吐き気がする。
「君のおかげで不幸せな毎日だよ」
そう言ってビンタでもしてやりたい。
寒くて寂しい冬に、私をひとりぼっちにした君を、絶対に許したりなんかしない。
これが初めての喧嘩だね。
絶対仲直りしようね。
冬になったら
鍋しか食べなくなる
他の料理の作り方を忘れてしまう
冬になったら
夕立ち。入道雲が見えていたから来るとは思っていた。が、傘を買う前にだいぶ濡れてしまったので、もういいか、とあきらめて帰宅した。
門扉を開け中に入る。家の隣には道場がある。父が祖父から継いだ剣道場だ。普段は警察官として働いて、時間のある土、日に剣道教室を開いている。
何かの音がした。短い音。きっと非番の父が道場の庭先で素振りをしているのだろうと思った。
一刻も早く、濡れた制服を着替えようと家のドアに手を伸ばした。その時、何か違和感を感じた。
いつもと音が違う。素振りの音。雨の中の素振りだからだろうか。無性に気になって、着替えもせずに庭に向かった。
裸足に稽古着、雨の中でも伸びた背筋。いつもの後ろ姿。そう見えた。だが、一步近づいてすぐ、今まで感じたことのない異様な緊張感があたりを包んでいるのに気づいた。
父がゆったりと得物を振り上げた。そこで違和感の理由がわかった。
真剣だった。鈍い銀色の輝きを帯びて雨を受けている。よく見ると、鞘は少し離れた地面に無造作に転がっていた。
時が止まったかのような上段の構え。実物の体よりも大きく見える。上段の構えは相手にプレッシャーをかけ威圧する効果がある。だが目の前の父からは、そんなものはまったく感じなかった。ただ静かだった。
雨が斜めに流れた。突風。その瞬間、刃が消えた。いつの間にか振り下ろされた両腕。錯覚、だろうが、遅れたように短く高い音が鳴った気がした。いつもの竹刀とは違う音。
父はまた上段の構えに戻った。そして光のような一閃。が、今度は元の構えには戻らず、そのまま横にないだ。ひとつ、ふたつ、みっつ。 静かな、美しい剣閃だった。
声も出ず見とれていた僕に、父が気づいた。
帰ってたのか。
うん。
傘、忘れたのか。ずぶ濡れだぞ。
そうだけど……。父さん、それ本物?
ん、ああ。本物だ。じいさんの形見。
じいちゃんの?そっか。
初めて間近で見る日本刀。思ったよりも小さく見えた。
なあ、父さん。もう一回振ってみて。近くでみたい。
そうか。じゃあこっちに来なさい。
僕は頷いてそばに寄った。
行くぞ。
さっきと同じ構え。たが近くで見る分、さっきよりも緊張感が増した。
父の視線。曖昧な視線ではなく、何かを捉えている。猛禽のような目。
一瞬で振り下ろす。
ハッとした。何か、父は何かを切った。わからない。何だ。何が切られた。
続けて、銀刃は左から右、横一閃に走った。短い高音を鳴らしまた何かを切った。返す刀で逆一閃。
まさか……。そんなことがあるのだろうか。
静かな呼吸のまま、体を中段の構えに整えた。無駄のない動き。残心さえも竹刀の時とはまったく違って見えた。
父さん、もしかしてなんだけど。
なんだ?
まさか、雨粒を狙って切ったの?
父が驚愕の顔を見せた。
見えたのか。
いや、ハッキリとは。でもそんな感じがした。
そうか……。
なあ、父さん。僕にもやらせてくれないか。
父の鋭い視線が僕を射抜く。だが、僕も目を逸らさなかった。
身をさらしたままの日本刀を、父が無言で差し出した。僕も無言で受け取り、そのまますぐ、構えをとった。
重かった。さっきは小さいと思ったのに、実際に手にとってみると、構えを維持することしかできないのでは、と思うほどに感じた。
このままでは駄目だ。
頭の中で、さっきの父の振りを思い出す。そのイメージを四肢に伝え、全身に号を発した。
振り下ろした。いや、振り降ろした、と言うべきか。重量に任せて腕がついていっただけ。雨粒を切るなんてどころじゃない。棒が落ちただけだった。
もう一回。
父を見ると、 黙って頷いた。
それから、10、20と振ってはみたが、いつもの竹刀のようには振れなかった。
いつの間にか、涙が滲んでいた。
ストップ。今日はもう終わりだ。
父があっさりとした声で制した。僕は刀を握ったまま、力無くぬかるんだ地面にへたり込んだ。
まあ、最初はこんなもんだ。
父は僕の手から刀をとって、鞘に納めた。
父さん。次、次に雨が降った日、また振らせてくれないか。
駄目。
どうして。
焦るな。今は基本の繰り返し。そっちのが大事だ。もし次の雨の日に、お前が雨粒を切れたとしても、俺は全然褒めないぞ。ただの空虚なまぐれだから。
まぐれ、という言葉に些か反応してしまい、キッ、と父を見てしまった。
そう睨むな。基本を疎かにする者は大成せず、ってな。……そうだな、じゃあこうしよう。今のお前じゃ、どうやったって雨粒は切れん。だからもっと鍛錬して、まずは雪を切れるようになれ。
雪を?
ああ。雪の方が落ちるスピードは遅いからな。でも雪ですら今のままじゃ切れないぞ。
だから今は力を貯めろ。冬が来たら、またこいつを貸してやる。雪を切れたらその時は……。
……まずは雪、か。
冬が来るまでに、あと何万回、素振りができるか。
立ち上がった。僕は剣士だ。地面に座っているわけにはいかない。