『優しさ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
※優しさ
心がトゲトゲしてる時
ホントはあなたを傷付けたくないから
傍にいないでほしい
けど黙ってそばに居てくれる
そんな優しいあなたが好きだよ
握手しよ さしだす冷めた 手のひらを
両手で繫ぐ 温い優しさ
本当の優しさは
厳しい事も
伝えなくてはならない
現実の事も
言ってくれること
君の優しさが身にしみて
何故か涙が出てきた
僕は君の隣に居ていいの?
紙屑を返り血の如く散らして
白き日記は傷開いて笑む
(260127 優しさ)
優しさ
1人の男がピアノを弾いていた。
夕方の音楽室は影が伸び、赤く染まり、現実離れした美しさだった。
そんな中、男の弾くピアノは子守唄を奏でていた。
ピアノの向かいの席にある机には、女が突っ伏していた。
男のピアノを伴奏に、むにゃむにゃと何かを言いながら笑う女は夢の中にいる。
ポロンと曲を弾ききった男は、静かに立ち上がり、自分のブレザーを女に被せた。
そして、また。
ショパン、モーツァルト、チャイコフスキー。
優しい音色で奏でられるそれらの曲は、女が目覚めるまで鳴り止むことはなかった。
『優しさ』
優しいと思う人ほど「自分は優しくない」って言うなぁ
優しさ
他人に譲ること。
相手を尊重すること。
それだけが優しさじゃないと分かってはいるが、
自分の意見を言い過ぎると、
独裁者、ワガママ、自己中心的、空気の読めない人。
そんな値踏みをされてしまう。
飴と鞭は使いすぎると壊れるからね。
適度にバランスよく使いこなさないと。
優しさ
強く 照らすのではなく
ただ 柔らかく 包むこと
通り過ぎてく 風のように
名前も告げず 消えてゆくもの
いつまでもあなたの優しさに溺れてく
優しいあなたへまたひとつ、
わがままを言ってもいいですか。
ごめんね
あなたと別れたい。
「優しさ」
恋愛むずかしい
人類を生あたたかい情けかけ
生かす地球の優しさいつまで
#優しさ
『優しさ』
桜の花の匂いを纏い
夏の青空の光に誘われ
秋の虫の音に心を留め
冬の星空に涙する
それを優しさと言うのかもしれない
黙ったまま
隣に座って
同じ景色を見ている
そんな優しさが
いちばんのよりどころ
………優しさ
このお話は連続小説『過ぎ去った未来』の第四話です。前話までをまだお読みでない方はそちらからどうぞ。
※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は、実在のものとは一切関係ありません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
掌編小説『過ぎ去った未来』第四話
坂部は青い空を流れる雲に、自分の行く末を重ねながら、公園のベンチに根を張りそうな自分を奮い立たせた。
――こうしちゃいられないな。
ただただ無責任に生きたいと願って、この時代にやってきたつもりだったが、坂部の心にはいつしか罪悪感が芽生えていた。社会に出てから培ってきた責任感というものが、若さ故の怠惰を許すまじとする。
幸いなことに、今の坂部には三十年前には考えすら及ばなかった経験と知識とスキルがある。それをこの時代で活かさない手はない。
坂部はその日から、まるで入れ替わった魂が覚醒したかのように勉学に励んだ。営業で培った人付き合いのスキルを存分に活かして、大学での友人関係も大きく広がっていった。
ダラダラと過ごしていた時とは違い、時間が流れるように過ぎていく。だが、以前――この時代に来る前のような圧迫感や焦燥感はなかった。むしろ軽やかに動く若い身体と、幾分物覚えのいい頭のおかげか、希望と未来への期待感が坂部の挑戦を後押しした。
時はITバブルの真っ只中。この波に乗らない手はない。坂部は意を決して、大学の友人数名とベンチャー企業を立ち上げる。
坂部がこの時代に来る前に『営業部長』として培った、人間関係の隙間を泳ぎ切る処世術と、未来から持ち込んだ時流を読む目。その二つが噛み合った時、会社は爆発的な成長を遂げた。
三十歳になるころには、社員も二十名ほどに増え、坂部の会社は『時代の寵児』として雑誌のインタビューなども受けるほどにまで大きくなった。
しかし、会社が大きくなればなるほど、その道のりは険しくなっていく。ライバル企業による容赦ない引き抜き、信頼していた側近の裏切り、そしてリーマンショックのような、個人の努力では抗いようのない世界的な金融危機。幾度と崖っぷちに立たされ、倒産を覚悟し、一晩で白髪が増えるような夜を何度も経験した。
かつての怠惰だった二十歳の坂部であれば、最初の逆風で早々に看板を下ろし、酒に逃げていたに違いない。五十年を生きた男の胆力が、その荒波に立ち向かうための大きな盾となったのは言うまでもない。
気づけば、坂部の周りには各界の重鎮や政財界の有力者が集まり、彼の一言で株価が動き、一国の経済が左右されるほどの巨大な人脈の網が張り巡らされていた。かつてしがない部長として頭を下げ続けていた男は、今や世界的にその名を知らぬ者はいない、頂点の大企業のトップにまで上り詰めたのである。
そして五十歳。坂部は、都内の一等地に建つ高層ビルの最上階から東京の街を見下ろしながら、とうとうここまで来たか、と感慨に浸った。
上司と部下の間で疲弊していたあのしがないサラリーマンの坂部はもうどこにもいない。以前にも増して経済力と精神力を備えた、まさに『成功者』の看板を手に入れたのであった。
ふと、あの『たいむましぃん屋』のことが頭をよぎった。この三十年間、不思議と一度も思い出すことはなかった。そう言えば、この時代に来る前に店主がなにやら重要事項とやらを話していたな、と今さらながらに思い返す。
――転送先からは戻ろうと願えばいつでも戻ることができます。ですが、皆さま何故だか、向こうに行かれた時点でそういった意識をお忘れになるようです……。
まさに店主の言っていた通りだったな、と坂部は自嘲の笑みを浮かべた。そこに後悔はない。これだけの成功を手にしたのだ。むしろ、元の世界に戻るメリットなどひとつも感じなかった。店主は、長居はお勧めしない、とも言っていた気がするが、それも今となればどこ吹く風である。
もうひとつの重要事項は何だったか――。
その時、まるでパソコンをシャットダウンした時のように、坂部の意識はぷつんと途切れた。視界が真っ暗になり、辺りの空気が急激に温度を落としていく。
冷たい風が身を切るように吹き付け、体から生気と水分が抜けていくような、気味の悪い心地が全身を包み込む。
❖
「……っが、……んだ、ごれは……」
声を出そうとして痰が絡んだように喉が詰まった。目の周りに貼り付いたヤニの塊で、思うように目が開かない。皮脂と汗が酸化したような刺激臭が鼻の奥を突き上げる。
坂部は公園の端っこで、ボロボロの段ボールを毛布代わりに身にまとい、冬の冷たい寒さのなかで震えていた。ふと見下ろした手指には深い皺が刻み込まれ、所々赤切れた皮膚から血が滲んでいる。
そこは意識を失った時とはだいぶ様相の違う世界だった。薄暗い雲に覆われた公園を、見慣れない服装の人々が歩く。頭にゴツめのサングラスか、あるいはVRゴーグルをもっと小型にしたような器具を身に着け、ぎこちない動きをする犬のようなものを散歩させている者、着飾ったドローンのようなものと並んで歩く者もいる。
どうしてこんなことになった、という困惑と同時に、『たいむましぃん屋』の店主が言っていた、あとひとつの重要事項が頭をかすめた。
――もともといらっしゃった過去のあなたは、決して肉体を捨てたわけではありません。
あの時、坂部が引っかかりを覚えた唯一の言葉。
そう言えば、もともとこの体の中にいた『坂部の意識』はどこへ行ったのだ? まさか外に投げ出されてそのままということはあるまい。
結実させたくない不安が、頭の中でパズルのように組み上がり、見たくないイメージを否応なくひとつの答えとして導き出す。
『過ぎ去った未来』第五話に続く
ー光ー
私には何も無くなった
どうやって明日を生きていけばいいのか
どうやったら明日を生きれるのか
明日を生きることに必死なんです
でも、目の前が暗くなっても
張り裂けそうなほど苦しい日々でも
あなただけは光っているんです
あなたの存在が私の命なんです
絶望の世界の中で、光になってくれてありがとう
あなたのおかげで今日を、明日を、生きることができます
どうか、あなただけは消えないでください
どうか、永遠に、お願いします
『思いやりの天使』
庭が霞んでみえるのは 涙でくしゃくしゃだったから
色づくことを覚えた葉っぱが心を持って 季節のうつろいを感じている やがてそれが翼になって 人を繋ぐ天使になった 涙に意味を持たせてあげる
天使は、はにかみ そう言った
「申し訳ございません」
真剣な、張り詰めた声。
先輩が謝罪している。大きな背中を丸めて、床につきそうなくらい頭を下げている。
私の調整ミスで損害を与えた取引先の社長。いつもニコニコ優しかった顔を真っ赤にして、先輩を怒鳴り付ける。私なんて見もしない。
お腹の底が冷え、脚がガタガタ震えた。気を抜くとへたり込みそうだった。先輩が今後の段取りを丁寧に説明しているのを聞きながら、拳を握り、必死に堪えていた。
「行くぞ」
先輩が低い声で言った。申し訳ございませんと、もう一度頭を下げて、社長室から出ていく。慌てて私もお辞儀をして、先輩の後に続いた。社長はこちらに背を向けたまま、忙しそうに資料をめくっていた。
取引先を出て駅に向かう途中、先輩は一言も喋らなかった。私も黙って、先輩の馬鹿でかい背中を見ながら、とぼとぼと後について行った。
先輩は怖い。ずっとアメフトをやっていたらしく、顔も身体もひどく厳つい。あまり喋らず、ストイックで、他人に厳しく、自分にはもっと厳しい。そして、物凄く仕事ができる。
今回の私のヘマで、部門のチーフである先輩に頭を下げさせてしまった。くだらないミスだ。学生気分が抜けてないと言われれば、そうなのだろう。
絶対に、怒られる。
怖くて堪らなかった。そして、それ以上に、たくさんの人に迷惑をかけ、損害を出したにも関わらず、そんなことを心配している自分が嫌だった。
電車は行ったばかりで、20分ばかり待つことになった。ついていない。
駅のホームで、ベンチに座って待つ。先輩はふらっと立ち上がり、戻ってくると、私の手の中に缶コーヒーを落とした。
「あ・・・・・・」
「飲め」
「あ、はい。その、ありがとうございます」
慌ててお礼を言うと、先輩は自分の缶コーヒーを開け、5秒くらいで飲み干した。早い。
ふーと息を吐き、先輩はベンチに背中を預けて、しばらく黙ってから、遠くを見ながら口を開いた。
「今回の件な、まあ、気にするな。だけど、忘れるなよ。何が悪かったか、どうしておけば良かったか、しっかり考えて、まとめておけ。そんで、次に活かせ」
優しい声だった。
私は頷き、コーヒーを一口飲み、それから恐る恐る聞いた。
「・・・・・・あの、怒らないんですか」
「おまえ、反省しているだろ。なら怒る必要なんてない。あれ? 違った? 怒られたかった?」
「い、いえ。そうじゃないですけど・・・・・・」
「じゃあいいじゃん。・・・・・・こっちも悪かったな。おまえ、新入社員のくせに結構できるから、つい任せて過ぎちまった。俺がもう少しフォローしなきゃならんかった。すまん」
「ち、ちがいます! わた、私が・・・・・・」
それ以上、言葉が出なかった。じわりと涙が滲んだ。先輩は、気付かないふりをしてくれているのだろう。飲み干したコーヒーの缶を、無意味に手の中で転がしていた。
「ま、次はお互いにもう少しうまくやろうぜ」
「・・・・・・はいっ!」
私は強く頷いた。苦手に思っていた先輩を、近くに感じた。先輩みたいな優しさを、私も持ちたいと思った。
(優しさ)
優しさの温度が源泉掛け流しじゃないといいな。だっていつか枯れてしまったら悲しいからさ。善意が何億もの邪念でかさ増しされてくれていたらいいね。きれいなものばかりだと勿体ないから。世界ってたくさん痛ましいことばかりでできているようだし、ちょっと世界平和に寄与しようか。お墓にいっぱいお花が咲いていて嬉しそうな顔がかわいいね。文字の一つも読めないまんま生きたらいいよ。
痛みを訴えて強さを上告してみよう。サンタさんがまだ来てくれるのなら、ください。知らせないことを、読ませないことを、壁の内側に匿ってしまう弱さを、優しさと呼ぶ権利とかを。
傷つけ合うことが真理だっていうのではなく、そこに痛みを感じる崇高さを喜んでみたいね。みんな人間みたいだ。隣の席の人に無邪気に笑いかけるような、導火線を切るみたいな華やぎが、どうか本物でありませんように。
『優しさ』
「間宮。先方との打ち合わせ、急遽日程早まったから、急ぎ調整頼む」
「あ、はい、分かりました」
時計の時刻は定時まであと15分を示している。だが、これを終わらせないことには帰れない。
課長に頼まれた仕事を急いで片付けていると、隣の席の後輩が私のスーツの裾を少し引っ張って、何やら頼みごとのある顔をしてきた。
「間宮さん、ちょっとすみません。明日の会議の資料がまだ上手くまとまらなくて……」
「ちょっと見せてね……うん、前見たときより良くなってるから、あとは具体的な内容を盛り込むと良さそう」
ついでに「こことここは……」と修正点も伝えていく。
「なるほどです……ただ、今日はちょっとこれから用があって、どうしても定時で帰らなきゃいけなくて……」
そういうことか。
「じゃあ私やっとくから、先帰っていいよ」
「え、いいんですかぁ!?」
彼女がそう、甘ったるい声で言う。
「うん。私は、この後予定ないから」
少しばかり嫌味を言ったつもりだったが、彼女にそれを気にする素振りはない。
「先輩、優しいので好きです! ありがとうございまぁす」
そう言いながらすでに、彼女は手にしっかりとバッグを握りしめていた。
退勤する彼女の背中を目で追いながら、彼女に聞こえないようにため息をつく。
「間宮」
「……はい」
また誰かの頼みごとだろうかと振り返る。
「何、気の抜けた返事してんだよ、まったく。そんなんで大丈夫なのか?」
そう表情のないぶっきらぼうな言い方をするのは、この会社で私の唯一の同期、中川だ。
「大丈夫って何が? 困ってる時はお互いさまだし……」
「お互いさまっていうか、いつもお前が一方的に押し付けられてるだけだろ」
「……そんなことない。とにかく大丈夫だから」
さっきはああ言ったものの、今日は終電コースかもしれない。
ふと見上げた時計を見上げると、すでに定時から3時間以上が過ぎていた。
机の引き出しに忍ばせていおいたエナジードリンクで、溜まった疲れを胃に流し込む。静かな部屋に、時計の秒針と私の叩くキーボードの音だけが響く。
「お前、まだいたのかよ」
机の上に転がるエナジードリンクの空が4本に増えた頃、退勤したはずの中川がなぜか会社に戻って来た。
「まぁ、うん。思ったより時間かかっちゃって……てか中川こそ何でいるのよ」
「俺はその、あれだ。散歩の途中……てか、そんなことどうでもいいだろ」
なぜか、いつも以上にトゲがある気がする。
「何? もしかして怒ってる?」
「別に、怒ってなんか……いや、やっぱ怒ってるのかもしれないな」
「ねぇ、何言ってんの?」
「だから、お前のそのバカみたいな優しさが鬱陶しいって言ってんだよ! もっと自分勝手に生きろよ!」
中川の荒げた声が胸に突き刺さる。
「いや、私優しくなんかないし。鬱陶しいなんて言われる筋合いもないし。私は別に今のままでも……」
無意識に私の頬に冷たいものが流れた。
「あ、いや、泣かせるつもりじゃなかったんだ。悪い……」
私は黙って首を横に振る。
どうして、涙が出るのだろう。かけられた言葉は優しい言葉じゃなくて、むしろキツイ事だったのに、どうしてこうも心が楽になったのだろうか。
「これ……」
ハンカチでも貸してくれるのかと思ったら、差し出されたのは2本の缶コーヒーだった。
「どっちか選んで」
「じゃあ……」
いつもはブラックコーヒーを好んで飲むが、今日は脳が甘いものを欲しがっていた。
私がカフェオレを選ぶと中川は一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに甘くない方の缶の口を開けた。
「ねぇ、中川ってさ、ブラック飲めないでしょ?」
「……んなわけないだろ」
そう言ってコーヒーを流し込む様子は、意地を張って無理に飲んでいるようにしか見えない。
「あのさ……」
「ん?」
「ありがとね……コーヒーのこと」
素直にお礼を言えなかった私は、そう言ってとっさに缶を傾けた。
「別に……ほら、さっさと続きやるぞ」
「え、手伝ってくれるの?」
「それ以外に何しに来んだよ」
「……散歩。でしょ?」
私がいたずらっぽく笑うと、中川がムスッとした顔をした。
自分勝手に生きるってどうしたらいいのか、私にはまだ分からない。それに、私は断るのが苦手なだけで優しくともなんともないんだ。
自分の方が私なんかよりずっと優しいじゃないかと、私は2本のコーヒーの空き缶を見て思った。
『今日も疲れたぁ。』
自宅マンションのエレベーターに乗り込むと、壁に寄りかかる。
先程まで残業をしていて、もうずっと立っていられるほど体力もメンタルも残っていなかったのだ。
ポーン、とエレベーターが目的階に着いたことを知らせ、ドアが開いたのでとぼとぼと歩き出した。
社会人四年目。
会社にも慣れつつあるが、上司や先輩、後輩との人間関係に悩みながら、荒波にもまれて社畜生活を送っている。
ガチャガチャ、キィッ……
鍵をまわし、扉を開けると、部屋の方が明るい。
玄関へ入ると見覚えのある靴がちんまりと揃えておいてあった。
『また来てる……』
ちなみに私は大学の頃から一人暮らし。
世話をしてくれるような御相手はいないので、そうともなればいるのは一人しかいない。
履いてたヒールを雑に脱ぎ捨て、ドダドダと音を立てて居間へ向かう。
「あっ、おかえり〜遅かったね。いつもこんな時間なの?」
キッチンには想像通り、母がいた。
振り返って私を確認したあと、すぐに手元に視線を戻した。
トントンと包丁の音と共に、鍋のコトコトと煮込む音も聞こえてくる。
『あのさぁ……』
「もうすぐできるから、待っててね。」
被せるように母に言われる。
憤りを感じながらも部屋を見渡す。
朝出た時は散らかっていたはずの部屋が片付いている。
きっと晩御飯作りも兼ねて、掃除もしてくれたのだろう。
すると母が準備していたサラダを持ってやってきた。
「明らかにゴミっていうのは、捨てておいたよ。あと洗濯もしたから後で取り込んでね。それから……」
『お母さん!!』
私の大声に母がビクリと反応する。
普段声を荒らげるタイプではないが故に、よほど驚いたのだと思う。
「な、何?」
『もうすぐ私二十六だよ?いい加減過保護なのやめてくれないかな。』
荒らげた勢いのまま母に詰め寄る。
「でも、なんだかんだ心配だし……」
『一人暮らし初心者ならまだしも、私もう一人暮らし始めて七、八年になるんだよ?仕送りだって貰ってるし、食べ物にも困ってないんだけど。』
娘に早口でまくし立てられたせいか、母はしどろもどろに答える。
「お金は確かに送ってるけど、ご飯とか……見たけどコンビニばっかりで済ませてるんじゃない?洗濯物だって溜まっていたし、たまにはお母さん頼ってくれても……」
『だから!!そういうのを、やめてって言ってるの!!』
さっきよりも大きな声で叫んだ。
自分でも驚くくらいの大声。
母の言葉は容易にかき消せてしまった。
『私もう社会人なの!!自立してんだよ!!平日は仕事があって自炊まで手は回ってないかもしれないけど、休日は作ってるし!!洗濯物だって、帰ってから回してる日もあるし、休日には絶対やってる!!ちゃんと自分で決めて生活してんだよ!!』
仕事のストレスも相まってか、つらつらと今までの不満が爆発し、早口で母にぶつける。
母は驚いたまま聞いていた。
『合鍵で入ったんだろうけど、余計なことしなくていいの!!一人でも生きていけるんだから!!心配しなくt…』
心配しなくていい、と言い切ろうとした瞬間、突然目の前がぐにゃりと歪んだ。
母の顔も見えなくなって、世界が回っているかのように見える。
『あ、れ……』
母が必死になにか声をかけているのはわかるが、なんて言ってるのか分からない。
そのまま声が遠くなっていき、
私は意識を手放した。
目が覚めると、病院だった。
規則的な電子音で目が覚めて、そばでは母親が座って寝落ちていた。
『おか、さん……』
声をかけると母がパチリと目を開けた。
「ん、あ……おき、たぁ……良かったぁ……」
起き上がると母にそっと優しく抱きしめられる。
「起きなかったらどうしようかと思った……」
声的にきっと泣いているのだろう、それほど心配をかけたのだ。
時計を見るともう午前五時。鳥の声まで聞こえてきてほのかに外も明るい。
家に帰ったのが確か夜の八時だったから、少なくとも九時間近く眠っていたのか。
あんなに酷い言葉をかけたのに……救急車を呼んで、今までずっと寄り添ってくれていたのだ。
母の温かさを改めて感じ込み上げてきた涙を拭い、抱きしめられた腕から少し離れて、母と向き合った。
『お母さん、ごめんね。』
母がキョトンと私を見ているが、そのまま続けた。
『最近残業も多くて、人付き合いもなかなか上手くいかないしで、余裕無くなってた。コンビニご飯も生活が雑になっていたのはその通りなのに、図星をつかれて逆ギレして……』
確かに過保護だった母。
でも、それは娘である私を想っていたからこそ。
学生の頃、運動部に入りたくて母に相談したら最初は反対されたものの、やりたい旨を伝えたら応援してくれた。
大学進学での一人暮らしも、心配だっただろうけど、社会人の今まで支えてくれている。
過保護からのぶつかり合いは何度もあったけど、いつだって母は私のやりたいことを応援してくれていたのだ。
不安だって沢山あったはず。それでも、娘を信じてくれていた。
それをきちんと、わかっていたのに……。
『ごめん、なさい……。』
申し訳ない気持ちや自分の情けなさで胸がいっぱいになる。堪えていたはずの涙が、ポロポロと溢れ出して、布団をギュッと掴んでいる拳に滴り落ちた。
泣いてる顔を見られたくなくて、下を俯く。
母はそれを察してか、頭の上にポンッと手を置いた。
「社会人が大変なのは、お母さんも知ってる。お父さんが亡くなった後、あなたを育てながら働く事がとっても大変だったのを覚えてるから。あなたを食べさせることに精一杯で自分を顧みれなくて、体を何度も壊したわ。」
そんな時期があったのかと驚き、涙が少し引っ込む。
母は懐かしむようにゆっくりと続ける。
「おばあちゃんにも怒られた。仕事も大事だけどもっと大事なもんもあるだろって。何度も助けて貰ったなぁ。だから、私も大事に育てたあなたが不自由なく過ごして欲しくて、ちょっと一方的だったかもしれないわね。」
申し訳なさそうに小さな声で…ごめんね、と母は謝った。
母は悪くないのに…と思うとまた涙が出て、そのままわんわんと泣き、母は私が泣き止むまで背中をさすってくれていた。
母の優しさやあたたかさを、再認識して改めてありがたみを感じたのだった。
結局、過労と睡眠不足で倒れたようだったので、しっかり栄養と睡眠を摂りなさいと、医者には注意を受けて帰された。
職場に話したら、一週間程休みを頂いた。
「しっかり休んで、仕事に復帰しなさい。」と上司からの伝言付き。
だいぶ仕事が忙しかっただろうから、と気を遣ってくれたみたいだ。
退院後は少しの間実家で過ごすので、病院からは母と帰宅を共にすることにした。
病院を出ると、ゆっくりと母の隣に並んで歩く。
『お母さん、』
「ん?」
『お母さんのご飯食べたい、から、お願いしてもいい?』
こんなお願いするのは、数年ぶりすぎて恥ずかしくなってしまい、たどたどしくなる。
言われた母は、花が舞ったかのように嬉しそうな顔をした。
「もちろん!あなたが好きなのを作るわね。」
ウキウキしながら献立を考える母はとても楽しそうで、私もなんだか心があたたかくなった。
少し、この優しさに甘えてみようと思いながら、母とゆっくり家までの道を歩いた。
#優しさ