『三日月』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
救いようの無い
チープな我儘だった
三文芝居か
二流映画の感想ような
なんとも言えないものが
腹に溜まって
消えてしまいたいと
そう願った
あなたとあなたが
繋いだ手が
わたしを…
p.s.
三日月が
願いを叶えるお呪いになったらいいな
三日月をあなたはどう見る?
かけているから美しい
欠けているから悲しい
どちらも正しい感覚で
そのどちらも実は大切で
満月をあなたはどう見る?
まんまるだから美しい
ギラギラと輝くゆえに恐ろしい
どちらも正しい感覚で
そのどちらも実は本当で
満月と半月と三日月と新月ならば、どれが一番神秘的なのだろう。
新月は目に見えない。だから神秘的と言える……のかもしれない。
三日月はよくアクセサリーなどのモチーフに使われている。それは神秘的だから……のかもしれない。
半月は……まあ月だから神秘的といえば神秘的だろう。
満月は夜空にきらきらピカピカ輝いていてそれだけで神秘的と言えるだろう。
……やっぱりどれも神秘的なんだな。
月を信仰する宗教もあるし、月の神さまだっているから、月には何かしらの神秘的パワーがあるのだろう。
ちなみに半月の言葉が適当なのは決して私がいい感じの言葉を思いつかなかったからではない。断じて。
三日月
夜空に浮かぶ三日月は、何かを射るような雰囲気を出している…
満月は、何処か優しい感じがするのに、三日月は、何処か挑戦的な企みを出している気がする…
細くなる程に、頼りなく…儚げなのに、何かを報いるように感じてしまうのは、何故だろう…
物陰から、伺いながら、何を企んでいるのだろう…
三日月にロープを括って首を吊ってしまいたい
そうしたら、天使になれるかな
三日月
いつもと違う赤い三日月
子供の頃は魔女みたいで怖かった
何か不吉なことが起きそうな
そんな予兆にも見えた
今改めて赤い三日月を見ると
ルビーのような輝きが神秘的で
近くの星と一緒に瓶に詰めたくなる
今日は三日月だね。小さい頃は毎日空を見上げて星や月を眺めていた。肌寒いがなんだか心地が良くて、空を見ている時間が私にとって、大切な時間になっていた。
星の光は何年もかけて今の私たちを照らしている。
私はずっと生きている。
「【月が綺麗ですね】」
どこかで聞いたことがある、昔の文豪が言った愛の言葉だったはず
たしかに今日は晴れてて、窓からは月が綺麗に見える
「それって満月の時とかに言うやつじゃないかしら?今日の月は本当に綺麗ですが」
そう言って、私は彼の方を見る
「知らないのかい?一説では三日月は【幸福】とかの意味があるんだよ」
「素直に好きだよって、言ってくれた方がずっと分かりますよ」
彼に向かって笑顔で、私はそう答えた
「俺はそんな器用じゃない」
それくらい察してくれよと照れる彼を見て、ほんのりと心が暖かくなる
「じゃあ、私はこう返しますね【このまま時が止まればいいのに】」
彼に伝わらなくってもいい、そのままの意味でも受け取って貰えたら、私はそれでいい
「君はいつも俺の上をいくな」
ただ貴方と一緒にいるこの幸せな時間が永遠に続くことを願ってます
三日月
【三日月】
今年の最初の三日月
また月日がめぐる
昨年と何が違うのか
新しい始まりに心が騒ぐ
しかし、年々、心が凪いでゆく
こうして次第に削られていく
最後にはなにも残らないだろう
最近は未来よりも終わりを考えることが多くなる
「三日月」
ベランダから空を見上げると、まだ明るさの残る空に三日月が浮かんでいた。満月の姿からは考えられないほど細く、誰かに奪われたみたいに穴が空いているようだ。その姿が、私の心の形と重なるように見えた。幸せだったのに、満たされていたのにいつの間にか蝕まれ奪われて気づけば大きな穴が空いていた。
月はまた、段々と満ちていく。
けれど、私の心が満月になる日が再び訪れる日は、きっとしばらくは来ないだろう。
家族旅行帰りの心地よい疲れの車内
うたた寝する僕
揺れる後部座席の窓から
流れる景色に浮かぶ三日月を寝ぼけ眼で
ぼんやり眺めていた子供の頃
今は後部座席から子供達の寝息が聞こえてくる
「三日月が綺麗だね」
助手席の妻が夜空を指さす
見える三日月はあの頃と何一つ変わらない
変わっていくのは見ている僕達だ
喜びと共に変化を受け止めて
ひとつひとつを心に刻んで
如何して私たちは、半月でも満月でもない、夜空の爪痕に惹かれてしまうのだろう。
〈三日月〉
三日月
手の届かないものだからこそ、美しく見えるのかもしれない。
夜空に浮かぶ三日月を見て、ふとそう思った。
あなたは私のずっと手の届かない場所にいつもいる。
私の気持ちなんて知りもしないだろうし、これからも知ることはないだろう。
それでも、それに対してどこか悔しさを感じてしまう。
いくらこちらが見つめたとしても、それが向けられることはないのだから。
許されるのなら、どうかあと少しだけ、この一方的な想いを語っていたい。
三日月(オリジナル)
私はよく見る悪夢がある。
複数人がこちらをじっと見ている。
顔は誰だかわからないけれど、三日月のような笑った形の口だけがやたら目立っていて。
その口が、私を嘲笑っているような気がするのだ。
毎回、とても嫌な気分で目が覚める。
心理学や夢判断では、周囲の目を気にしすぎるとか、そういう診断が出そうではある。
でも、それはそう。仕方がない。
子供が小さいうちは仕事の早退や中抜け、急な病気の休みなど、周囲に負担をかけている自覚があるので、どうしても他人の目を気にしてしまう。
しかし、その場合は三日月でもへの字の形になりそうなのに、なぜ嘲笑う形なのかはわからない。
「ママ、三日月」
隣から急に子供の声がして、私はハッと我に返った。
キッチンで夕飯を作っている最中であった。
隣には踏み台に乗った4歳の娘がいて、包丁を持った私の手元を見つめていた。
(三日月?)
ここから月でも見えたのかと窓を探して頭を回したが、娘は短い手指をギュッと伸ばし、私が刻んでいた野菜を手に取った。
「ほら、三日月!」
それは、くし切りにした玉ねぎであった。
さっきまで鬱々と反芻していた夢の三日月とのあまりのギャップに、思わず吹き出してしまう。
「ほんとだ、三日月だね」
「あっ!お口にっこりもおんなじー!」
両端を指でつまみ、娘は口に三日月玉ねぎを当てた。
意味は全くわからないが、楽しそうである。
微笑ましく眺めていたら、調子に乗って生玉ねぎを齧り、
「ゔー!にがい〜!」
と、すごい顔をしていた。
私の悪夢も、次から口がくし切り玉ねぎになれば良いな、と思うのであった。
三日月
子供の頃は三日月を見ても何も
思わなかったのに、
大人になって、なぜかこの頃
綺麗に見えるようになった。
車に乗って月を見上げた時
あれ!さっき右にあった月が左に!
あれ!後ろに!と不思議な物体だと思っていたそれは、今も変わらない。
私がきっと変わってしまったのだ。
三日月の妖しく光る夜の下
0時を回った神社の一角
この時間に俺たちの会合は始まる。
周りには、男も女も大勢が集まっている。
「おーい、タマキ〜」
「今日はミオちゃんは一緒ちゃうん?」
幼馴染のカンタとアレンが声を掛けてきた。
ミオちゃんというのは俺が好意を寄せている子だ。
元は清楚なお嬢様だったが俺と仲良くなって、会合に連れてきた日を境に、今は家族の鬱憤を晴らしたいと夜な夜な家を抜け出しているのだ。
しかし、今日はいつもの集合場所に来なかった。
いつも時間ぴったりに来るはずの彼女が珍しいと思いながらも、俺は一人で会合所にきた。
「お前、それで一人で来るのは違うわぁ〜」
「そんなこと言ったてなぁ…あそこのご主人怖いねんもん…」
「泣き言ほざいとる場合か、雄らしくいかんかい」
「万が一のこともあるかもしれんやん?
ミオちゃんの為や」
「そう考えると心配になってきたわ…
いってくる!」
「おう!行ってこい!」
そう言って俺は走り出したいつもミオちゃんが通ってくる道を遡った。
ミオちゃんは、家族にバレないように、とても狭い場所を通ってくる。
俺も体を縮めたり伸ばしたり飛び跳ねたりして足を進める。
そうしてミオちゃんの家に着いた。
二階建ての一軒家。とても広い庭で最初ははいるのもビビりながらだった。
ふと、屋根の上になにかが居る影が見えた。
俺はミオちゃんが教えてくれた登り方で屋根に登ってみる。
ご家族にバレないようにそっと、音を殺して登っていく。
そこには
三日月には明るすぎるくらいの月光に照らされた女の子がいた。
ミオちゃんだ。
全身白くて、手のひらや鼻は火照ったようにピンク色。青色の目は見つめるだけで心が澄んでいきそうだった。
「あれ!?タマキくん!?」
「ミオちゃん!大丈夫?なんかあった?」
「ううん、特に何もなかったけど…
あっ!もしかして今日会合の日だった!?」
俺はコクっと首を振る。
「やだっ!私ったらすっかり忘れてた!ごめんなさい…!」
そう言って頭を下げるミオちゃん。
「いやいや!全然!強制参加じゃないし笑
何かあった訳じゃなくて良かった。」
「本当にごめんね!いらない心配させちゃっ
た…」
「ほんまに全然大丈夫やで!それに…どちらかというと…」
「?」
「…二人きりで入れるの嬉しいし… 」
ミオちゃんは顔を真っ赤にしてた。
でも、嬉しそうな顔をしていたんだと思う。
そしてにっこり笑って、黙って尻尾を絡めてきた。
俺もそれに応えるように、顔を擦り付ける。
三日月が妖しく光る夜。とある一軒家で二匹の恋物語が始まった。
僕ら ほら
夜が呼ぶ方へ
朝が来ない 夜の向こうへ
緩く指と手を繋いで
三日月に乗って 秘密のフライト
このまま夜を抜ける夢を見てた
寄る辺なく歩く
ひたすら歩く
前進なのか
後退なのか
夜道を歩く
ひたすら歩く
無月の空が続く
生き様死に様
馬鹿馬鹿しい
無自覚にも
感覚だけが
研ぎ澄まされて
鋭い刃に仕上がった
寄る辺なくとも
細く光る刃
恐れる心は
ただの雲
無月は雲の拐かし
秘めたる内を
刃で刺す
#119「三日月」
月の満ち欠けを日常は気にかけたりもせず、満月の日にだけ月のありがたみを感じていた。
それは色んな月の形が満月という存在を支えているからだと思う。
三日月を見つけると不安感を抱かせるが、それと同時に魅力的に思わせるのは何故だろう?
不安感は夜の暗さを引き立てるからだろう。
魅力的に思えるのは夜の暗さに負けずに輝く存在感と周りの星々を際立たせているからだろう。
孤独を和らげてくれるのは満月であり、孤独に寄り添ってくれるのは三日月なのではないだろうか?
そう考えたら三日月にも親しみを感じることができた。
今日の月はどんな形をしていただろうか?
そう思い立ち、寒い中、窓を開けて夜空を見回す。
残念ながら今日は月を見つけることはできなかった。
その代わりに存在感のあるオリオン座と他の星々が強く輝いていた。
何気なく過ごす日常に感動はあるのだろう。
次に見かける三日月に私は何を思い感じるのか少しだけ楽しみに思えた。
#三日月
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、ハルの真っ白な髪を透き通るように照らし出していた。
しっとりとした汗をかいた項に、白銀の髪が張り付いている。ハルは、まるっと大きな目をゆっくりと開いた。とろんと半開きになった灰色の瞳は、まだ眠気でうるうると潤んでいる。くるんと可愛くカールしたまつげが、瞬きに合わせて震えた。
「………んぅ……。……おあ、よ、ぅ……?」
普段以上にぽやんぽやんの頭で、ハルは、んむんむと独り言を漏らす。寝返りを打とうとして、むちむちとした短い手足がシーツの上でもぞもぞと動いた。ぷにぷにとした柔らかくボリュームのある頬が枕に押し付けられ、むにっと形を変える。
「はぅ……くぁー……ん、しょ」
ハルは、白パンのようにむっちりした腕に力を込めて、仰向けから這い上がるようにして、何度もずり落ちながらようやく、上半身を起こした。ぽっこりと膨らんだお腹がパジャマの下で重たげに揺れる。体全体がむちむちしているハルとって、自力で起き上がるという動作だけでも一苦労であった。
ハルはふにふにと自分の手を眺め、枕元に置いてあったタオルをぺたんっと掴もうとする。手先の運動がつたないせいで、掴もうとしているのか、叩いているのかすら、傍からはわからない。
ばんっ、ぺたんっ、ぺんっ。
ようやく掴んだタオルを引きずって、そのまま、とてとて、ぺたぺたと足音を立てて寝室の扉へと向かう。ハルの足首はもちもちとしていて、まるでお餅が重なっているかのようにふっくらと柔らかそうだ。
リビングに出ると、そこには既に美世の姿があった。ハルは、にぱっと表情を輝かせ、るんるんと、弾むような足取りで駆け寄ろうとする。といっても、その重たい体は、ぼすん、べたん、と地面を踏みしめるのに精一杯で、とても走るなんてことは不可能である。
「せん、せ! はる……おあ、よー……っ!」
ハルは、ぴたっと美世の数歩手前で足を止めた。美世から放たれる、刺すような冷たい視線に気づいたからだ。美世はハルの方を見ようともせず、ただ冷徹な声で告げた。
「うるさい。汚い。近づかないで。さっさと着替えなさい」
美世の言葉は短く、氷のように冷ややかだった。ハルは、んっと喉を鳴らして、びくりと肩を震わせる。過呼吸の前兆だ。美世から冷めた声をかけられることは日常茶飯事なのに、ハルは未だに慣れる様子がない。その反応も、美世を苛立たせるひとつの要因であった。美世は、嫌悪感を隠そうともせず、指先一つ触れるのを拒むようにして、予備の服をハルの足元へ放り投げた。
まだ一歳になったばかりのハルにとって、一人で着替えを完遂することは不可能に近い。美世が用意する服はどれも幼子には不向きな、重いフードのついたパーカーや、体にぎゅむっと張り付く短パン、ひらひらのレースがついた靴下だった。
ハルにはまずパーカーの頭を通す穴を探すことさえ難しく、ましてやズボンの足を通す動作は、ぐらぐらと身体のバランスを崩してしまう。
「……んー……んしょ、んしょ……」
ハルは、ぽてぽてっと床に座り込み、必死にズボンに足を入れようとした。ハルの腕は、まるでちぎりパンのように段々になっていて、太い手や指も動かすのに一苦労だ。そして、もちもちとした太ももが布地に引っかかって上手くいかない。足首のぷにぷにとした肉が邪魔をして、踵が抜けないのだ。
「うぅ……っ、せんせ。……これ、……んぅー……でき、ぅ……な、い……」
ハルがすがるような目で美世を見上げ、ぎゅっと美世の服の裾に触れようとした瞬間。
「触るなと言ったはずよ」
美世は、汚物でも避けるかのように、鋭く身を翻した。ハルの小さな手は空を切り、ぺちっと空しく自分の膝を叩く。美世は、苛立ちを隠さずにハルの襟首を掴み、乱暴に着替えさせ始めた。刺激に弱い柔らかな肌を労わる気など微塵もない。ハルの白くもちもちと弾力のある腕を美世の冷たい指先が強く圧迫する。
「ぁうっ、……ん、んぅ……せ、ーせ」
痛みに、ハルの大きな目はじわっと潤む。じわりじわり、と目尻が濡れて、今にも涙が溢れそうになっている。しかし、泣けばさらに嫌われるかもしれないという恐怖で、むにゅむにゅと歯のない口で唇を噛み締める。
そして、着替えを終えると、次は朝食の時間。
テーブルの上に置かれたのは、ハルのための「食事」だった。
それは、生焼けのどろりとした脂身や、泥のような苦い野草、鼻を突くほど生臭い腐りかけの魚や牛乳をすべて混ぜ合わせ、ぐちゃぐちゃに踏み潰したような、吐瀉物の色をしたなにかだった。器からは、幼い子供が到底受け入れられないような、鼻を刺す不快な腐敗臭が漂っている。固形と液状もごった煮状態で、使っている食材が食べられるものであるだけの、食べ物とは到底呼べないなにかである。
ハルは、ひうっと喉を鳴らして、脂肪だらけの小さな手を震わせた。感覚過敏のハルにとって、その悪臭と、舌を焼くような苦味や不気味な脂の感触は、地獄そのものだった。
「ぇ……あ、う……く、しゃ……ぃ。……せん、せ……これ、……あ、あうぅ……」
ハルが、うるうるした目で、助けを求めるように美世を見上げる。しかし、美世はハルなど視界に入れていない。彼女の前には、美しく磨かれた銀の皿に、完璧な形に切り分けられた黄金色の果実が並んでいた。それは、美しく、優雅な弧を描く、美しい三日月の形に切られた最高級マンゴー。
ハルは、うるんだ目で、その輝くような三日月を見つめた。自分の目の前にある、吐き気を催すような泥色の塊とは正反対の、光を放つ宝石のような食べ物。
「……っあ!せんせっ、み……か、つき……っ」
ハルは、もちもちとした短い指を、ふにふにと動かした。表情の薄いもちもち顔には、にぱっと笑顔を乗せる。
ハルはただ、甘い匂いや綺麗な色に釣られたわけではない。美世のことが大好きで、彼女の持ち物に触れたい、同じものを見ていたいという身勝手で無垢なハルのわがままが詰まった結果だ。
ハルは、んしょんしょと、むちむちの身体をゆすって椅子の上で身を乗り出した。ぽっこりと出たお腹がテーブルの縁を圧迫し、ぐににっとへこむ。
ハルの不器用な指先が、美世の皿の端、その美しい果実へと、ぐーっと伸びた。
──その瞬間、美世の瞳が耐え難い嫌悪に染まった。一切の躊躇いなく、手に持っていた銀のフォークをハルの柔らかく白い手の甲に押し当てた。鋭い金属の冷たさに、ハルは、びくんっと身体を大きく跳ねさせる。一度離して、勢いをつける。
そして、磨きあげられた鋭利なフォーク先を容赦なく振り下ろした。
ずぶり、と鈍い音がして、刃先がハルのましゅまろのような柔らかい皮膚を深く突き刺す。
「………っ! ぁ、あ……あ"ぁっっ!!」
最初は声が出なかった。衝撃と鋭い痛みが一瞬遅れて到達する。喉を引き裂くような悲鳴を上げ、全身を硬直させたかと思えば、びくびくびくっと不自然に体を何度も跳ねさせる。神経が過敏な薄い皮膚。そこへ鉄の爪が食い込んだ衝撃に、ハルの大きな目は 目を剥くほどに見開かれ、気付けば大粒の涙がぼろぼろと溢れ出している。
美世はフォークを突き刺したまま、ハルの手をテーブルに縫い付けるように強く押し切った。
「その不潔な手で触れないで、と何度言わせるの?……本当に、存在するだけで迷惑」
ため息混じりな美世の声は、低く、地を這うように冷たい。ハルは、痛みと恐怖で、止まらない痙攣で椅子の上で身体を揺らす。小さくぷりっとした唇からは、はくはくと小さな呼吸が漏れたかと思えば、咳き込み、過呼吸に近くなる。柔らかい白髪が、幼子には不釣り合いな脂汗でびっしょりと湿って、まろい額に張り付く。
「ぁ……ひ、ぐっ……っけほ……ぁ"う……っっ」
突き刺さった場所からは、鮮やかな赤色が溢れ出し、真っ白なハルの手と、美世の黄金色の三日月を汚していく。
「あ"ぁ、ぃ、だ……ひゅ、ぐっ……は……ひゅっ」
ハルは、必死に痛みに耐えようと、むちむちの身体をよじらせた。しかし、美世は突き刺したフォークをさらに、ぐりっと捻り、ハルの柔らかな肉を抉るようにして引き抜いた。
その衝撃で、ハルは椅子からどすんっと無様に床へ転げ落ちた。オムツで膨らんだお尻が床に叩きつけられ、ぽんっ仰向けになる。その拍子に、テーブルの上に置かれていたハルの器が、がしゃりと嫌な音を立てて落下した。
生焼けの脂身と腐った牛乳、生臭い魚が混ざり合った、どろどろの灰色をした流動食が、倒れたハルの顔のすぐ横で、べちゃっ、と飛び散った。鼻を突く強烈な腐敗臭が、声にならない絶叫に悶えるハルの意識を逸らす。
「はぁ……今すぐ死んでくれないかしら」
それはただのひとりごとだった。どうせ、知能の低いハルに言っても伝わらない。それ故に、心の底から這い出でた嫌悪であった。
美世は立ち上がり、ハルのせいで汚れた果実をゴミ箱へと放り捨てると、床で震えるハルを冷たく見下ろした。彼女の靴の先が、ハルのぽっこりと出たお腹のあたりを、ぐいっ、と強く踏みつける。
「ぐ、ぁ……っ、せ、せ……ひっ……」
「その汚い声を聞かせないで、耳障りよ。黙ってそこに散らばったお前の"朝ごはん"を、今すぐ全て食べなさい。従わないならお前を捨てるだけだから、選んでいいわよ」
美世の短い宣告に、ハルの目の前が真っ暗になる。
──捨てる。
それは、美世に言われる少ない言葉のなかで、ハルが最も耐えられないものであった。ハルの望みは、ただ美世といること。そして、美世に話しかけてもらって、笑いかけてもらえて、たくさん撫でて抱っこしてもらえること。それらすべては、美世がいないと叶わないことで、美世じゃなければ意味がない。
まあ、尤も、ハルに対して無関心ときどき嫌悪のみしか抱いていない美世なので、それはハルのひとりよがりの空想でしかない。たとえハルが美世の言うとおりの利口で可愛い子になったとしても、どうにかこうにかハルが変ったとしても、美世の無関心は度を増すだけだろう。
#三日月
26.1.9