『バレンタイン』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
渡す人は自分!
もりもり沢山チョコレート食べて、
幸せなバレンタイン!
冷たい石の獄の隙間から、月を見上げる。
全てを見通せるほど明るい。
「信仰があると、婚姻をしてはならない」
この世界の決まりであるから、仕方ない。
本当にそうだろうか?
この世界の秩序や正義は、本当に正しいだろうか?
人々が当たり前と思っている狭間に弱者がいて、世の中の「当たり前」で見えなくなってないだろうか。
私は、明日絞首刑に処される。
名前はウァレンティヌス。
※バレンタインの語源となった逸話より
「お疲れ~」
「おつー」
「お疲れ様~」
各々の楽屋に皆戻る。ファンの歓声がまだ耳に残っている。
今日は俺の所属しているグループ『hope』のバレンタインライブイベントだった。バレンタインならではの恋愛ソングや失恋ソングを歌ったり、握手会を開いたり等々、俺達は今日凄く忙しかった。
「直樹(なおき)君お疲れ様~」
「海里(かいり)もお疲れ」
俺の楽屋に入ってきたこの人は、海里。グループの中でも一番の人気を誇っている。ライブでの団扇の数も、握手会に来ていたファンの人数も、断トツでトップ。顔だけがいいんじゃなくて性格までいいのだから人気があって当たり前なのだが。
「あ、そうだ。海里、はい」
「............え?」
「え?って。今日バレンタインだろ?だからチョコ」
俺は海里に紙袋を渡す。海里はまじまじとその袋を見ていた。
「............もしかして嫌だったか?」
「え!?いや嬉しい、ありがとう...!!これ...直樹君の手作り?」
「うん、まぁ」
「凄い!家宝にするね!!」
「家宝にしなくていいから食べろよ」
海里は何かこういうところがちょっと変というか何というか。不思議だな、と俺は思う。
「嬉しい......あれ?直樹君、なんで他にもこんなに袋があるの?」
海里は机に置かれていた紙袋達を指差した。
「他のメンバー用だよ。あとスタッフさんとか」
「.........ふーん」
「じゃあ俺、行くから。海里も自分の楽屋でゆっくりしろよ」
俺がそう言って出ようとした時、ガッと腕を掴まれる。
「海里?」
「ねぇ、それも手作りなの?直樹君の手作りを他の皆にもあげるの?」
「そうだけど?」
「......別に手作りじゃなくてもいいじゃん。市販のとかでもさ」
「海里にだけ特別とか出来ないだろ」
「...............」
「ほら、俺もう行くから離せ。海里。ほら」
「............」
海里は一向に手を離そうとしない。こうなった海里は凄く面倒だ。拗ねてる理由が解決しないとずっと駄々こねるやつ。いつも本当にわからない。
今回は本当になんでか分からないから面倒だ。
「...はぁ、もう。じゃあ今度から海里に特別にお菓子作ってあげるから」
「本当?」
「本当。わかったら手離せ」
「絶対だよ?絶対だよ?」
「はいはい絶対絶対」
俺は半ば呆れたように答えた。
「...なら許す」
そう言って海里は俺の手を離してくれた。
「ありがとう。じゃ、またな」
「...また」
そうして俺は楽屋を出て、お菓子を配り歩き始めたのだった。
お題 「バレンタイン」
出演 直樹 海里
________
【お知らせ】
初めましての方は初めまして。ご存知の方はお久しぶりです、hot eyesです。
実は更新が止まってしまった日、アカウントのデータが突然消えてしまい初期状態となってしまいました。問い合わせをしましたが、どうにもならず勝手ながらショックで暫く休んでいました。
現在、新しくアカウントを作り直し、投稿を再開しています。
しかし私生活が暫く忙しくなる為、1~2週間程お休みをします。その中で時間が出来次第、更新していく予定です。誠に勝手ながら申し訳ありません。
これからもhot eyesを引き続き、よろしくお願いします。
次女が見ていた動画から、「エリーゼのために」の旋律で歌が聞こえてきた。学校のどこを覗いても見つからない自分宛てのチョコを必死とも言える勢いで探しまくる男子高校生達の心の叫びを、うまく歌にしていた。ご存知の方も居るかもしれない。勿論、笑いを呼ぶための歌として、ショートアニメに組み込まれている。
悲喜こもごもの青春はさておき、今日私はスーパーで売っている大袋のチョコレートをぽいぽいと口に放り込んで食べていた。もぐもぐ。青色申告とのたたかいはまだ完了していないから、糖分はマストアイテムだ。ブドウ糖タブレットはもう残り少ない。明日の午後には決着をつけるぞ。
聖バレンタインの言い伝え、ゴディバ夫人の逸話、ベルギーチョコレートの高名、いろいろあるけど、私の味覚は日本のフツーなチョコレートがいちばん美味しいと感じる。私の子どもの頃に、母方の大叔母が、遠くはるばるブラジルから訪ねて来られた。おみやげは現地のチョコレートだった。ブラジル移住を国が奨励したときに家族でブラジルに渡り、大きな農園の開墾と経営に成功したそうだ。「ブラジルのチョコレート」と聞いて、私は興味津々でひとかけらを頂いた。
そのチョコレートは甘かった。もう、ものすごく甘かった。「チョコレートのふりをした砂糖菓子」という感じだった。気候や生活環境や体質体格、さらに食文化の違いなどなどが、好まれるお菓子の甘さの違いになるのかもしれない。日本で好まれるお菓子の甘さは、海外の人が「ぜんぜん甘くない」と評することが少なくない。
バレンタインと言えばチョコレート、と、イメージはセットになっている。
しかし、だがしかし。私が「これはすごく美味しいな」と思うチョコレートは、どうしようもなく溶け易い。六花亭の、白い雪原の風紋を象った「ミルクのチョコレート」で、よくある「ホワイトチョコレート」とは一線を画する味だ。じわじわ美味しい。私は好きなのだ。でも、届けたいひとは遠くに居る。送って届いて、箱を開けたら雪原じゃなくて白い沼地…なんてことになったらかなしい。一度溶けてしまうと本来の口溶けが失せて、それが風味を損なってしまう。うん、妥協できない。
…なので、昨日書いた「小さな魔法の覚書」での贈りものなのだ。キャンディサイズ、ハート型。この一年間も、いろいろ出会うものごとから、「最良の本質」を掴めるように。いつも健康で、ちょっと不調になっても「健康優勢」であれるように。…なんだか神社のお守りみたい。でもこれが、私の思いつける「最高」なのよね、今のところ。
ーラジオの雑音
お出かけデイナイト
ほの暗いヘッドライト
等間隔 の景色に 糸を巻く
木の影に ちらちらと 夕日
まぶたに ちかちか 信号機
ー100m先 右折です (音声案内)
無感覚に
湯煎用のチョコを買いました
生チョコ用に生クリームを買いました
美味しくなるよう心を込めて、チョコを作りました
とても美味しくできて、私は満足です
バレンタイン
好きな人にあげなかったな。
こういうイベントは大の苦手。
恥ずかしがり屋の私だから。
【バレンタイン】
朝から挙動不審なあいつ。
会話をしていても、心ここにあらず。
今日はバレンタインだし、無理もないか…
聞いた事はないけれど、きっと好きな人でもいるのだろう。
その人から貰えるかどうか、そればかりを気にしている感じだ。
まぁ、そんな自分もそうなのだけど…
でもそれは叶いっこないって、分かっているから。
貰えるわけない…。
だから、逆に持って来たんだ。
あいつにあげるチョコ…。
今は友達同士でもチョコをあげたりしている。
と、TVで言っていた。
女子同士の話だったけど…
いや、だから、きっと、これを渡しても、この気持ちはバレないはず。
だけど、どうやって渡したらいい?
ノリで?ちょっとふざけた方がいい?
1人で悶々と考えていると、いつの間にか目の前にあいつが立っていた。
真っ赤になった顔で、うつむきながら恥ずかしそうに、少し震える手で何かを差し出してきた。
「これ、お前に…と思って…チョコ…なんだけど…。えっと…その…」
甘いチョコと苦いチョコ
僕は苦いチョコの方が好きかな
だって、甘いと寂しくなるでしょ
〜
今日はバレンタイン
今は好きな人がいないから
推しを見ながらチョコを頬張る。
あぁ、来年からは録画を見なきゃ
バレンタイン
心にブレーキが掛かる音
私が否定され 見下げられる時
心がふっくらとする音
ほんとうのことばをくれた時
どちらもくれるのは同じ「ヒト」
希望
それは甘く切ないチョコレイト
毒にも薬にもなる
深い闇の中
希望を手のひらに守りながら
裸足で歩く 伴走者は
同じく裸足で歩いてくれる人
13."バレンタイン"
君からの1歩で始まって
君との終わりに1歩近づいた日。
バレンタインらしい、あちこちの店でイベントが行われている。商業的イベントだと知っているチョコレート好きのための祭典だろう。あげる相手などいないがそれでも自分用のチョコレートを食べるためにそこにいく人がいると何かで聞いた。だからたまたま見かけたあの子が楽しそうに選んでいたからと言ってかならずしも誰かに送るためとは限らない、とただひたすらにやけに輝いた笑顔で買い物する姿を見て心のなかにうかぶじぶんの焦りのようななんとなくの嫌な予感を振り払う。その努力は薄々無駄だろうとも察しつつ。
第十八話 その妃、鳴かぬなら
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
百舌宮へ訪れるや否や支える者全員が下がり、茶飲みの席には百舌宮の初依《チュイー》妃とリアンの二人のみが残る。
席に着くと、妃自らが茶を淹れ始めた。湯を注ぐと、ゆっくりと花が開いていく美しい工芸茶。
リアンは、ただその様子をじっと眺めていた。
「中国茶はお嫌い?」
「どうぞお構いなく」
そう笑顔で返すが、焚かれた甘い香には嗅ぎ覚えがある。あまり、長居はしない方がよさそうだ。
「それで、ご用件は何でしょう」
「そう焦らなくても宜しくてよ。時間はたっぷりあるもの」
「申し訳ありません。実は少々仕事を残しておりまして」
濃度からして、恐らく半刻がもつかどうか。
けれどそれを悟られてしまえば、本当にただのつまらない男に成り下がるだけだ。
見透かすような瞳を笑み一つで躱しながら、最悪の事態だけは避けられるよう、頭の中にいくつもの対処策を備える。
「本当に、大したことではないのよ。貴方とお茶を飲みたかったのも本当のことだから。でも……そうね、貴方がどうしても何か話がしたいと言うのなら」
――ホトトギスの話をしてみるのも、面白いかもしれないわね。
「貴方のことだもの。ご存知でしょう?」
「何をでしょう」
「勿論、小鳥の話ですわ。よく言いますでしょう?」
鳴かぬなら、殺してしまえ――……とね。
「鳴かせてみることも、鳴くまで待つこともできますよ」
「わたくしもそう思いますわ。勿論、そうであればいいともね。けれど……」
茶に一口口を付けた妃は、口元に弧を描く。
そして、音に出さぬまま呟いた。
“生きて、帰られるかしらねえ”
……愉しそうに、嗤いながら。
怒りを押し殺しながら、淹れられた茶に視線を落とす。何か別のことを考えなければ、今すぐにでもここから飛び出してしまいそうだった。
「そういえばご存知? 海の向こうでは、特別な日に意中の方へ花を贈るのだそうよ」
「……これが、その花だと?」
「多くは男性から女性へ。勿論、受け取り方は貴方次第。ただ、そうすれば貴方は、今すぐに蝕む毒から解放されるかもしれないわね」
同じ茶缶から取り出され、同じ急須から注がれた湯。
同じ状況で同じものを、目の前の妃が平気な顔で飲んでいるのだ。この茶は本当に、香への中和作用があるのかもしれない。
「瑠璃宮でもお茶を飲まれたのでしょう?」
「そうですね。女性からのお申し出は、基本全部お受けしています」
それでも、笑ってあしらった。
たとえ中和作用があるのだとしても、受け取ればそれは弱みになる。
これ以上、つまらない男になどなって堪るものか。
「ご、御歓談中、失礼致します」
険しい表情で入ってきた侍女。
耳元で囁かれた内容に、目の前の妃は僅かな不機嫌さを滲ませた。
「残念だけど、迎えが来てしまったようよ」
首を傾げて間もなく、茶室へと麗しい妃がやって来る。
「帰るわよ」
俄には信じ難い光景に、思わず頬を抓る。
終いには、「何突っ立っているのお馬鹿」と、手まで引かれる始末。
その光景にか、それともこの扱いにか。百舌宮の侍女たちは次々に悲鳴を上げた。
「……確かに、同じ空気を吸っていると考えるだけで、気分が悪いですわね」
ただ一人、不快そうに扇で口元を隠す妃以外は。
余程神経を逆撫でされたのか。広場での言葉をそのまま返した妃は、主人に冷ややかな視線を向けた。
「今すぐ換気をされては? そうすれば、多少毒の香は薄まるのではなくて?」
今度は“毒”という言葉に、何も聞かされていなかった侍女らの叫び声が次々と上がり始める。
冷ややかさを変えぬまま、じっと睨みつけるような視線に、主人は満足そうに微笑んだ。
「失礼するわ。留まる理由は無さそうだし」
「……いずれまた、改めてご挨拶に伺わせていただきます」
「結構よ。面倒臭そうだし。それに……」
繋がれていた片手が強く握られると、主人はもう片方の手に持つ扇をばっと勢いよく広げた。
「私、毒は盛るより吐く方が好みなの」
そして次の瞬間、突如窓が壊れるほどの突風が吹き荒れる。
目を開けたその時にはもう、二人の姿は百舌宮から跡形もなく消えていた。
#バレンタイン/和風ファンタジー/気まぐれ更新
バイト先の1部屋しかない更衣室から私が出てくるの待ってた彼
あ、ごめん、おつかれ
__全然いいよ、おつかれさまー
、、あのさ、あのーチョコ作ってきたんだけどいる?
__え、あ、じゃあもらう、笑 ありがと
うん笑 口に合うといいな、じゃねー
__はーい
こんだけしか話してないけど私の心臓ばくばくなの
きっとあの人は気付いてない
ハッピーバレンタイン
夢に聖ウァレンティヌスが出てきてこう言いやがった。
「君の元に幾人かの女性たちがチョコレイトを渡しにくる。しかしそのうちのひとりからしか受け取ってはならない。この忠告を聞かぬ者には、必ずや天罰が下るであろう」
俺にチョコを寄越す物好きなんて母親くらいだ。他のやつらがそういったものを贈ってきたことなんて一度もない。だから、目覚めた時に抱いた感想は、くだらねー夢だな、くらいだった。
いつも通り学校に行きゃあ、男どもは猿みたいにソワソワしてやがる。小学生の頃から変わってないと思われる、何個貰えるかなのノリ。たまーに、本命くれるコなら一発ヤれるんじゃね、とかほざいてるような全身股間人間もいた。汚物だ環境汚染だ地球破壊だ。アースデブリはデリートデリート。ノートがあったら書き込むこと間違いなし。
そうやってどうでもいいことを考え、痛々しい自分がいることに気づきながら、午前は過ぎていく。数学の授業でチョコを扱った二次関数の文章題を解かされた時は、このハゲ教師も期待してんのかよ、と思った。
昼食を摂り終えると呼び出しを食らった。いままで会話したことのない女子からだ。名前すら知らない。何度か顔を見たことはある。よくわからないやつにほいほいついて行く俺はどうかしているんじゃないだろうか。
「で、用ってなんだよ。わざわざ物理実験室にまで呼び出して。実験やレポートの手伝いなら御免だぜ」
「そんなこと頼まないわ。誰もいないからここを選んだのよ。それより、今日が何の日か知っているでしょう?」
「ヴァレンタインだろ。それがどうした? まさかお前、俺にくれるとか言うんじゃないだろうな? 関わったこともねーのに」
額に手を当て、ため息を吐く女。そーいう話じゃないのか。だったらなんだよ。
「あなたは忘れてるでしょうけど……私は憶えてるわよ、あの日のこと。今日は日が日だし、そのお礼も兼ねて、これを渡そうと思ったの」
そう言って女は、実験台の下から小包を取り出す。透明な袋に白いリボンのついた、シンプルで可愛いラッピング。中身はクッキーらしかった。
「慣れないことだったけれど、昨日、頑張って作ったのよ。あなたさえよければ、受け取ってちょうだい。それと……あの時はありがとう」
「待て待て。俺の記憶は確かだ。本当に何のこと言ってんのか、さっぱりわかんねーぞ。もしかしなくてもお前、やべーやつか?」
「この期に及んで往生際の悪い人ね……いいから受け取りなさい」
ダッと距離を詰めて俺に菓子を押し付け、女はそのまま出ていく。去り際、バカ、と呟いていた。
「んだよ、わけわかんねーな……」
混乱状態が解けず、俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
教室に戻れば、寄ってくる数人の男。「あの美人とはどーいう関係だ」「お前チョコ貰ったのか」「死ね」など、返事のめんどくせーことばかり言ってきやがる。いまの俺に重要なのは、そんなことじゃない。あいつは何者なのか。それだけだ。
野次馬をテキトーにあしらって、記憶を辿る。
こーいう展開ってのは、小中のどこかで接点があったとか、高校生になってから手助けをする機会があったとか、そーいう感じのやつだ。そうだと相場が決まっている。
行事をすべて思い返してみるが、やはりそれらしきものは記憶にない。黒の超長髪をしたあの女は気が狂っていたんだろう。
机の上に置いていた袋は一応、ありがたくカバンに仕舞っておく。花の形を模していたが、俺にはそれが何の花であるのか、見当もつかなかった。
睡魔と格闘していた午後の授業もあっという間に終わり、放課後。
待ってましたと言わんばかりに、チョコの受け渡し会が開催される。女子からブツを貰った男連中は鼻の下を伸ばしていた。デレデレしやがって、気色ワリィ。
さっさと身支度を済ませ、帰ろうとすると、学級委員長に呼び止められた。
「珍しいな、委員長が声かけてくるなんて。どうした?」
「これ、渡そうと思って」
差し出されたのは、どこぞの高級チョコの小さな箱。六個か八個入りで、樋口一葉は確実に飛んでいくやつだ。
「本当は作りたかったんだけどね。塾で時間取られちゃって。少しでも良いものをと思って、奮発しちゃった」
ボーイッシュな見た目をしているのに、もじもじしている姿が可愛いな。……違う、そうじゃない。
「待ってくれよ。委員長まで急にどうしたんだ? こんなことするキャラじゃないだろ。ドッキリか? ドッキリなのか?」
「何言ってるのかわからないけど……本命だよ。ありがたく受け取りなさい」
言葉を返す隙もなく、箱を突きつけられる。手渡されるのは良いが、周囲のやつらにガン見されてるよ……
「じゃ、そういうことだから。返事は一ヶ月後でいいよ」
「あ、ああ……」
俺、またしても放心。って、とんでもない課題を投げてきやがった。どうすんだよ、これ。
今日という日は間違いなく特異点だ。普段話すことのないやつが次々にチョコを渡してくる。俺モテ期? なんて調子に乗れるような状況ではない。むしろ背筋がゾッとする。
当然の如く、昼の男たちは揶揄いにくる。こいつら、友達でもなんでもねーんだよな。ただのモブABC。トリオになると雑魚そうに見えるのは、漫画の読みすぎか。
三下を雑に片づけ、教室を後にする。
下駄箱には、チョコブラウニーとともに手紙が添えられていた。差出人を確認する。
「……図書委員のやつか」
眼鏡をかけた、大人しそうな女だ。貸出の時に何度か顔を合わせたことはあるが、それ以外で関わったことはない。
手紙の内容は至って簡潔だった。ずっと前から好きだったから、手作りチョコを食べてほしい。それだけで、特筆すべきことは何も書いていない。
どいつもこいつも、理解に苦しむ。俺がイカレちまったのか? それとも、俺以外がイカレちまったのか? もうわかんねぇよ……
結局、バイト先のお姉さん、近所の若奥さん、よく面倒を見ている小学生、妹、この四人からもチョコを貰った。母親は言うまでもない。
例年の八倍になる贈り物を賜ったわけだが、俺はもうヘトヘト。心労がひでぇったらありゃしない。
自室のベッドに沈んで寝ようとしたら、今度は思い出す思い出す。最初の女のこと、蘇ってきた。
些細なことだ。街中でガラの悪い輩に絡まれているところを助けただけ。暴力沙汰にはなっていない。俺の見た目が幸いした。本当にこれだけだってのに、あの女はなぜそこまで……
クッキーにはどうやら、ミモザが使用されているらしい。ご丁寧に成分表示してあるから判った。
「花言葉は……秘めた愛? 重たすぎるっつーの」
どうしてそんなことまで成分表に記載しているのかは、考えるまでもない。
けど、このクッキーはいったいなんの花を象ってんだ? サクラっぽいが……
「まあ、いっか。とりあえず食おう」
眠気はどこへいったのやら。自分の頬が緩くなっているのは、気のせいってことで。
ゆっくり味わって食べる。慣れねぇって言ってたが、うめぇじゃねぇか。
一度食べ始めると止まらず、他のやつも順調に消化した。
ぜんぶ胃に収めると、眠くなる眠くなる。
「もう、むり……」
電池が切れたみたいに、パタリと眠りについた。
気づいたら、また聖ウァレンティヌスが夢に出てきてやがる。
「またお前かよ……」
「私の警告を無視したようであるな。残念だが、君、睡眠薬や毒の入ったチョコレイトを口にしたから、もう死んでいるよ」
「……は?」
「だから、死。謀られたのだよ」
「冗談、だよな……? 本気で言ってるのか?」
「正真正銘の事実だ。言っただろう? ひとりからしか受け取ってはいけない、と。母親以外のものは、すべて事前に計画が立てられていた。主犯は、最初の娘。彼女が他の者に話を持ちかけ、全員のチョコレイトを食べることによって君が気づかないまま死に到るように仕向けた。その罠に嵌ったのだよ」
「……信じられねぇ」
「私が嘘を吐いてどうするというのか。受け入れたまえ、君の人生は終わったのだ」
「はいそうですか、ってなるわけねぇだろ! これも夢だ、さっさと醒めやがれ!」
「ならばずっとここにいるが良い。何も無い、永遠の退屈を与えよう」
そう言って、聖ウァレンティヌスは俺の前から消えた。
真っ白な空間が、どこまでも広がっている。
怒鳴る、叫ぶ、喚く。
何をしても、音が虚しく響き渡るだけ。
眠りにもつけないらしく、俺は思考することを放棄した。
……二月十四日は、めでたい日なんかじゃない。
聖ウァレンティヌスが斬首された日だ。
そして、俺の命日となった、クソみたいな日だ。
もはや
義理もなく
告白もなく
友達にもなく
自分に買うイベントである。
「バレンタイン」
今年はすっかり忘れたわ。
何事もなかった。
でもあの人はきっと、準備したでしょうね。
私の知らない、あの人のために。
私の事は、都合のいい、相手でしかないのだから。与えるものなんてあるわけない。
与えさせるための道具のような私なのだから。
今日は
バレンタイン。
夫は
今朝から
出張だ。
だから
連休中
夫が出掛けてる
時間を見計らって
ケーキを
焼いた。
あまり
チョコレートは
好きじゃないらしい。
不器用な
わたしでも
出来そうな
レシピにしたけど
上手く
出来たかな。
ケーキを
4等分にして
2人で半分食べた
その直後―――
なんと
盛大な
夫婦喧嘩をした。
2日ほど
ほとんど
口を利いていない。
残ったケーキの
半分は
まだ
冷蔵庫に入れたままだ。
こんな
バレンタインに
するはずじゃ
無かったのに。
このケーキ
どうしよう。
#バレンタイン
バレンタイン
あれは小学校5〜6年の頃だったろうか
バレンタイン当日の朝、教室に全員が揃う頃
とある男の子が登校するやいなや、自分の机をガサガサと音を立てて漁った後
「ない!!オレの机にバレンタインのチョコが一個も入ってないー!」と大声で叫んだ
私の記憶では牛乳瓶の底みたいなメガネのお世辞にもモテるような感じの子ではなかったはずだが、
そのタイミング、言動、彼のキャラクターが相まって、あまりの面白さに教室のみんなで大爆笑したっけ
彼のその時の本意はわからないけど
みんなを楽しませてくれた彼は、今どこでどんな大人になっているだろう
幸せでいてくれたらいいな