『バレンタイン』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
好きなあなたと、川沿いを歩いた。
チョコをもらったことより、一緒に歩いた
この時間が僕には、愛おしかった。
ふと、沈黙する時間に、僕の鼓動が大きくなって
あなたの手に触れた途端、うれしくて。
いつまでもこの時が続いたらと、願ってしまう。
あぁ、やっぱりあなたのことが好きだ。
あなたに会えて、本当に良かった。
クラスの子たちは君以外どうでもいい
だってそこまで好きじゃないし
大事にしたいとも思わない
適度な距離が1番
だからお菓子にでちゃった
たぶんクラスの子たちにあげたお菓子は美味しくない
めんどくさいって思いながら作ったから
某おじさんみたいに美味しくなぁれなんて気持ち込めてない
あげれればいいの
みんなは安い材料で作ったちっちゃいパウンドケーキ
でも君には、特別だから
これは甘いと思うし美味しいよ
だってちゃんと喜んで欲しいって思って作ったし
年に一回ぐらいしか作らないから心配だけど
食べて
「君だけだから、これ」
そう言って内緒で渡した
マフィンは美味しい
バレンタイン
バレンタイン忘れてた。
普通に仕事あるし、彼氏がいるわけでもないし。
まあ単に用意するのが面倒である。
またお返しにとかなるからである。
学生ぐらいまでだな、あげるのは。
#バレンタイン
部屋中から甘い香りがする。
お菓子作りなんて久々にした。
小学生の頃は友チョコなんて物が流行って、
クッキーを作ったり、いちごにチョコをかけたりして
ラッピングして渡していた。
好きな相手にチョコを渡したのも小学生だった。
市販のチョコと鉛筆。
何が好きか考える時間がドキドキした。
あれから20年。
久々に好きな相手へチョコを渡す事にした。
市販のチョコは絶対美味しいし、見た目だって素敵だ。
それでも手作りのチョコを渡したい。
バレンタインには手作りを。
恋をする相手の為ではなく、恋をする自分の為に。
自己満足に過ぎないけれど、イベントは全力で楽しむ。
社会人になった私のポリシーだ。
それでも思いが届いたらいいなと願いを込めて
丁寧にリボンを結ぶ。
私の気持ち、気づいてくれていますか?
実は小学生振りの手作りチョコなんです。
大人になってこんなにドキドキする事が久々過ぎて
今、私どんな顔していますか?
今日の為に新しいワンピースも買ったんです。
とびきりかわいい私でいたいから。
溢れそうなドキドキを胸に紙袋を差し出す。
「実は、前から好きだったんです…」
希望を待っている。悪いこと続きで良いことから見放されたように感じる。努力を偏重する今の社会では、不遇は全て当人の努力不足に帰責されるのだろうか? 少し不遇をかこつと、他人は、君は不遇を回避するために何か努力をしたのか? と責め立てる。
外を歩いていると、他人の視線が気になる。すれ違う人間全てが私に侮蔑の眼差しを送っている気がして、落ち着いて歩くことができない。電車の中、向かい側に座っている人がスマホを触っていると、私のことを撮影している気がして、不安でたまらなくなる。妄想は幾何級数的に肥大していく。私を盗撮した動画は、ネットに上げられ、拡散され、多くの侮蔑のコメントがつくだろう。コメントの一つ一つをありありと思い浮かべることができる。
小さな幸せを幸せと感じることが大切だなどと言うが、他の者が大きな幸せを味わっているのに、私はちっぽけな幸せで喜んでいなければならないと考えると、嫌になってくる。
一学年一クラスで総生徒数も100人に満たない小学校に通っていた。
当時はクラス全員…と言っても、同級生の男の子は5人くらいしかいなかったのだが、友チョコとして全員にチョコを買っては贈っていた。
その所業の善悪は兎も角、誰に何を贈るか考える時間はとても楽しかった。
ロボアニメ好きの友人にはそれに関連したチョコを用意したし、サッカーを習っていた友人にはサッカーボールの包み紙の物を選んだ。
…いつ頃からだったかはっきりとは思い出せないが、恐らく思春期に入った頃だろう。それまで楽しいと思っていた「贈り物を選ぶ」事が、気恥ずかしくて嫌になってしまった。
だが、それが良くなかった。
それまで毎年欠かさず父親にもチョコレートを渡していたのに、気恥ずかしさから準備をしなかった、たった一度、用意しなかった年のその春に、父親は病気で亡くなった。私は酷く後悔した。
断じて父親の事が嫌いではなかったし、むしろ円満な仲であったのに、つまらない気持ちの移り変わりのせいで一生を後悔する出来事となってしまった。
海外では男性から女性へ。が主流ではあるが、折角日本では良いように捉えられるイベントなのだ。
誰かが誰かへと、どんな気持ちかどうかは限らず、伝えるきっかけとなる、良いイベントになる事を願う。
『バレンタイン』2024/02/15
どんな味が好きなのかしら?
ミルク?ビター?
ホワイトチョコ?
チョコレートが好きなのかしら?
実は苦手で、渡されたら困るのかな?
チョコレートの代わりに
他のモノにしようかしら?
でも、何をあげたら
喜んでくれるのかしら?
─── 知らない
よく知らない、わからない
こんなに好きなのに
貴方のこと、
もっと知りたいから
親しくなりたいから
バレンタインの力を借りて
勇気を出して告白したいのに
………いっそのこと
プレゼントなしで
『好き』って言葉だけ
届けてみようかな
【バレンタイン】
『バレンタイン』
予想通り大量のチョコレートを手にした恋人と玄関前で行きあって、お互いに笑みが零れる。
「こんなに沢山貰ってしまって、君に拗ねられたらどうしようかと思ったが。杞憂だったようだな」
「どういう心配だ」
そう笑い合って共に玄関をくぐる。部屋着に着替えてテーブルの上に贈り物を広げた。贈り主はきちんとリストにして後程返礼をしなければならない。向かい側で同じように贈り物を広げている恋人の手元に、異質な物を見つけて手が止まった。それは明らかに手作りの物で、しかもひとつやふたつではない。こちらの視線に気付いた恋人が手元に視線を落とし、ああ、と得心のいった顔をした。
「部下達からだ。このところ熱心にキッチンに詰めていたからな」
そう言えば彼の部下達は若い女性が多かったな、と思い出す。どうせ本命への序でだろう、と言われても、女性らしい可愛らしく装飾された包みは随分と魅力的に見えた。
「さっさと切り上げなくては日付が変わってしまうぞ」
そう急かされて作業を再開した。そうだ、何も事前に話をしてあったわけでなし、最初から無かった物と思えば良い。
リストアップの終わった贈り物を片付けて、2人ソファに並んで腰掛ける。恋人はいつものようにワインとグラスを用意していて、それを見て無かった事にした筈の物が頭を過ぎった。
「ジェレミア」
改まって名を呼ばれるとそわりとする。恋人に向き直ると、彼の手の中には綺麗に包装された箱が収まっていた。先程まで散々見たようなそれが、こちらに向かって差し出されている。
「これは……」
「今日はそういう日なのだろう?卿は甘味は苦手ではなかったと思ったが」
勢い良く立ち上がったせいでスプリングが恋人を揺らした。
「少し待っていてくれ!」
部屋に取って返して無かった事にした筈の物を取り出す。ばたばたと引き返すと恋人が驚いたような顔をして居て、次いで笑った。
「私は逃げないから落ち着け」
「私からも君に買ってあるんだ、ルキアーノ」
そうして交換して、彼がワインを開けた。
「チョコレートに合うものを選んである」
美味いワインとチョコレートを恋人と共に楽しむ夜は至福の一時だった。世の中でバレンタインと言う催しがこうも広まっていることも頷ける。
デパートの上でやっている
人気のバレンタインフェアの
可愛くって美味しいチョコは
なんともしゃれた紙袋
実は前には買えなくて
違う日もう一度ならんで買った
はしゃいでわたしに教えてくれた
あなたがとっても愛おしい♡
「これ、義理だから」
そう言ってアオイは俺にチョコを手渡した。
「義理だからって…まあそうだろうけど」
俺は半ば困惑しながらも受け取る。
一体どういう風の吹き回しだ?
「お前からかってんのか?」
俺はとっさに問いかけた。
「からかってねーよっ!とにかく義理!義理だからな!」
アオイはそう言って走り去ってしまった。
一体どういう風の吹き回しなのか。
俺は立ち尽くしたままアオイの後ろ姿を眺めることしかできなかった。
バレンタインってのは、女が男にチョコをあげる日だとばかり思っていたんだがな…。
【バレンタイン】
いつもありがとうと感謝を込めて、あなたに贈ります。
大好きですをたっぷり詰め込んで、あなたに贈ります。
そうして勿論わたしにも、おつかれさまのご褒美を。
明日も幸せにいきましょう。ハッピーバレンタイン!
君にバレンタイン
用意 買い物が 定員さん
困らせ 支払いとき、
片思い両思い運命は
100% ない 未来と
解っていて 情けないからか
涙が溢れた
私の゙気持ちを知ってしまうと
何時もと変らない会話は
無くなるが解っている
私に自分の好きなクラスで
人気もの ルックスも性格も
素敵な彼女を
どう僕になびくなかな好かれるかな 平然と相談してくるなんて
やめてよ さえ 言えない
義理だよ いるかな
聞いてみたら
くれるんだ 微かな微笑みに
胸は高鳴り 片思いで
いいと思うは 喜びは ただの
1分くらい
彼女もチョコ本命とくれたらな
台詞を言われたら そうだねなんて
笑っていうしかない
グサッと、心に、ささって
いても
バレンタイン 渡すを
軽く 持ってきたよと彼に
100キンで ラッピング用品
も購入し 私なりラッピング仕上げたのを渡しても
特別だよ なんて 全く
気づくはない
片思いでいい 話しできたらいい
なんて 本当は違う
誤魔化すしかないからだけ
会えない休み 日は
デートしたい とか
頭の中だけで 空想だけでは
もう 辛く切ない
彼女が好かれるのも
当たり前に納得だから
気持ち整理 割り切る
忘れよう 何度も思うのに
つい 君が話してきたら
やっぱり 仲よくいたいと
なるばかり 振り向くないのに
(学生のとき
体躯 今なら 片思いだったな
と 切ないもなく思い出すから
なんか 不思議)
学生の頃、
青春時代
いつも期待していた
今年こそはと、、
いつもゼロ個
結局
奥さんと付き合うまでは
バレンタインをもらうことはなかった
息子はもらってきた
奥さんから
毎年一個、
愛する人からもらえるようになっちゃうと
もうどうでもいい
そんなもんだ
バレンタイン
日付が変わる一分前に送るメッセージ。
朱色の包装紙に金色のリボンで包んだ小箱の写真を添えて。
放課後そっと下駄箱に忍ばせた秘密を伝える。
貰えなかったと大声で叫んでいたあなたに。
「ハッピーバレンタイン」
お題:バレンタイン
4作目
バレンタインのチョコを渡した時、素直になれずに「義理チョコ」だと伝えてしまった時の、キミの残念そうな顔が頭から離れない。
だから。
明日、もう一度。
もし、「本命チョコ」をこの気持ちと一緒に渡せたら、喜んでくれるかな。
喜んでくれるといいな。
戦争に巻き込まれてしまった
全ての皆さんに
バレンタインのチョコでも何でも
届くことを望みます
「今日は女の子からチョコ貰う日なのにまさかお前から貰うなんてなあ……」
男は親友からしょっちゅうお菓子を貰うのだが今日貰ったのはチョコレートだった。
「……誰からもチョコを貰わなかったよりまだマシだろ」
親友はそう言ってるがそういう問題ではない。今年も女の子から貰えなかった現実が男は悲しいのだ。
ふと男は去年のバレンタインを思い返す。まさか去年今年と連続で同じ人物からチョコレートを貰うとは。
「俺はお前がチョコ貰えなくて悲しむところを見たくないし、いっぱい食べるお前が好きだぞ」
「うるせえな。慰めになってねーよ」
今年のバレンタインも食べたチョコレートの味もかなり苦かった。
※作者的には、作品内で登場人物の性別を指定していないつもりで書きました。宜しければお好きな性別を二人に当て嵌めて読んでみて下さい( *´꒳`*)
《バレンタイン》
騎士団の規律として、団内での恋愛は断固として禁止されている。
男女問わず能力のみで登用されているが故の規律らしいが、理由は単純、恋人を優先して貴族を守らない馬鹿が過去にいたせいだ。
皆そう嘲るが、私は少し不満だった。
愛する人の為に、貴族よりも優先して身を呈して庇うことは悪なのか。
それがずっと胸の奥で燻っていた。
それなのに、バレンタインデーとかいう日がやってくると、男女関係なく皆チョコを渡したりしている。それも、本命だってあるのだろう。
つまり、表向きはそうされているだけ、ということなのかも知れない。
それならそれでいいが、
「……あの、これ……受け取って貰えませんか!」
「……ありがとう。美味しそうだね、嬉しいよ」
にっこりと甘い笑顔を浮かべる先輩を見るのは、今日で何十回目だろうか。
色素の薄い髪に同色の瞳、端正な顔立ち。高身長に、出自は侯爵家の四姉兄の末っ子と来た。騎士団の制服も全員同じ制服な筈なのに、どう見ても先輩の着ている方がお洒落に見え、スタイルの良さも感じるのだ。おまけにそれらを鼻に掛けずに、誰でも影日向なく接する。
これでモテない筈がない。
その手の話にてんで興味がない私でも、時折はっとさせられてしまう人物だった。
「……待たせてごめんね。これ、一旦部屋に置いてくるから……もう少しだけ待っててくれないかな?」
「私のことはお気になさらず。任務の時間まで余裕はありますから」
騎士団では先輩と後輩の二人でバディを組んで、共に任務を行う。
本来であれば大人気な先輩とバディを組めることを歓喜し、周囲はそれに嫉妬するのかも知れない。
だが、生憎と私は先輩に尊敬こそすれ恋慕はしていないし、特殊な環境もあって嫉妬に晒されているということもない。
つまり、色々と事情はあれど、一番バディとなっても問題ないと私は認識されているのだ。私を緩衝材か何かと勘違いしてないか。
「争いが起こらないように私と組むって……本当に、人間なのか怪しい……」
人々を惑わす悪魔か何かかと、私は溜息を吐いた。
足音が聞こえ振り返ると先輩がいた。
「お待たせ! 結構ギリギリになっちゃってごめんね。悪いけど急ごうか」
「いえ、大丈夫です。行きましょう」
私は頷きを返し、任務場所へと向かった。
任務内容は見回りだ。
昼を少し過ぎたこの時間からは、余り犯罪は起きない。それでも警戒は必要だった。
結局四時間ほど街を回って、けれど町は平和そのものだった。
「……何事もなく終わりましたね」
「君の日頃の行いがいいからかな、何も起きてなくて良かったよね」
さらっと人を上げる発言をする。
そういうのが最早癖になっているのだろうか、先輩の対人スキルを感じつつ騎士団の駐屯場へと帰る。
「そういえば先輩、街でも貰ってましたね、バレンタインだって」
「皆さん優しいからね。ありがたい限りだよ、全く」
流石に、パン屋の娘さんからパンを一袋貰ったときは驚いた。
思い出話をしながら、時間が経つのが早いと思った。
「そうだ、ねぇ、君」
「……なんですか、先輩」
「君からもバレンタインのお菓子くれたっていいんだよ? 受け取るよ?」
「そういうのは他の人にやって下さいよ」
何を言い出すんだこの人。
「えぇー、バディなんだからこう、日頃の感謝です! ……とかないの」
「ないですよ」
そう答えてから、たしかに何か送るべきかもしれないと気付く。
「……先輩、私からバレンタイン渡しますよ」
「お、何くれるの?」
「夕方って鍛錬後は任務入ってないですよね。もし時間があったら私と街に行きませんか」
「…………いいよ、行こうか」
暫し考えた後、先輩は頷いてくれた。
そうと決まれば準備をしなくては。
「……大胆だなぁ」
先輩の呟きの意味は、わからなかった。
そして迎えた三時間後。
騎士団の制服ではなく私服に着替えた私は、正門の前で先輩を待っていた。
ちなみに、騎士団が任務外で外出をする際は外出届を提出する必要がある。一応、目的地だけは把握しておかないと有事の時に招集できないからだ。
それも提出済で、準備万端である。
「……今日だけで何回も君を待たせちゃってるよね。珍しい体験をしてる気がするよ、遅くなってごめんね」
「気にしていませんし、まだ約束の時間より二十分も早いですから。気にせず行きましょう」
遅くなった原因というのも、団員同士の言い合いを仲裁していたからだと知っている。
というかそんなことよりも。
私服姿の先輩を見るのは何気に初めてだった私は、そのかっこよさに改めて思う。
こんなの見たら誰でも惚れるんだろうな。
「……私は馬鹿か」
小声でも口にしてしまうほど、思考回路がおかしい。きっと、いつもと服装が違うから、混乱しているんだろう。
そう結論付けた私は、
「あっ、すみません。こっちです」
真逆の道を歩みかけた先輩を引き止めた。
目的地知らないんだから、私より前に行かないで貰えますかね。
なんて、流石に気まず過ぎて言えない。
日がすっかり暮れる頃、私は目的の店の前で立ち止まる。
「……ここは?」
「見ての通りです」
先輩が面白そうな表情をしているのを気にせず、私は店員さんを呼んで席を指定する。
「どうして……バレンタインなのにわざわざディナーに招待してくれたの?」
話しかけながら椅子を引いてくれる先輩ってなんなの、とスマートさに驚きながら私は大人しく座る。
「おかしなことしましたか? だって先輩……甘い物、苦手でしょう」
「……一言も言ってないけどね、そんなこと。というか、寧ろ皆から沢山受け取ってるし、見てたでしょ」
「そうですけど……受け取るときに毎回、困った表情してましたし」
まあ、無駄に本人の顔がいいせいでそれも笑みの一部として成り立っていたが。
私が普通に返すと、先輩は不思議そうな、おかしそうな笑みを浮かべていた。
「よく見てるねぇ、君ってば。騎士として悪人と接するときに使える技術だね」
「普通に図星って言って下さいよ。甘い物はさておき、苦手な食材とかありますか?」
「そういうのは特にないよ。何でも好き」
先輩にぜひ食べて欲しいメニューがあるのだ、私はそれを注文した。
「ところで、なんで急にバレンタインくれようとしたの?」
「先輩にはお世話になっていますから。バディを組んでそろそろ一年経ちますし」
「そう言えばそうだったね。最初に比べたら、随分警戒心も解けたみたいで嬉しいよ」
「久しぶりに会った親戚みたいな反応しないで下さいよ。……あの頃は仕方がないでしょう」
過去は過去、今は今、だ。
なんて話をしていると、運ばれてくる。
「お待ちしました。こちらがご注文の品になります」
店主のこだわりスパゲティ。
それが、私が先輩に食べてほしいメニューだ。
熱々の内に食べて欲しくて、会話を中断してスパゲティを勧める。
「いただきます」
「……いただきます」
「……ん! 初めて食べたけど、何だか……あたたかい味がするね。なんて言うか……」
「よく知らないですけど、家族の作る味、って気がしますよね」
「そうそう、安心する……みたいな!」
ふわりと笑う先輩の表情は、甘い笑顔でもなく、初めて見るものだった。
それを見れただけでも、十分だったと言えよう。口に出さないけど。
「……最後の最後にいい贈り物貰っちゃったな」
「何言ってるんですか。最後じゃないですよ」
しみじみと言う先輩をぶった切って、私は先輩に箱を差し出す。
私は先輩に思い出をバレンタインに送るほど、ロマンチストではないのだ。
「へ?」
「これ、バレンタインです。よろしければどうぞ」
「お菓子……な訳ないか、この流れで」
ありがとう、と言いながら先輩は箱を開ける。
中から出てきたのは、ネックレスだ。
小さいけれどたしかに揺れる宝石は、偽物だろうが、蒼く美しい。
「……綺麗だね、これ」
ぽつりと呟く先輩に、
「そうでしょう? 先輩はいつも、私から見てこんな騎士なんですよ」
見るものを魅了し、けれど純に輝く色。
私にとっての先輩とは、そんな存在なのだ。
「……ありがとう。凄く嬉しい」
ふにゃりと笑うのは、本当に珍しい。
けれど。
「ホワイトデーの日。お返し、期待していいよ。ちゃんと待っててね」
にやりと笑った先輩の方が、もっとずっと珍しかった。
「チョコレートと合わせて告白なんて、まるで物で釣ってるみたいじゃない」
バレンタイン当日。
彼女はそう言って、不服そうに唇を尖らせる。
校則に引っかからないギリギリで制服を着崩して、いつもはしない軽い化粧。手にはピンク色の可愛い紙袋を持って、彼女は教室の隅に立っていた。
悲しそうに伏せられた瞼に乗ったアイシャドウが西日でキラリと光る。
「告白、失敗したんでしょ」
「違うわ。タイミングが悪かったの!私より1時間早く告白した子のチョコレートに彼が釣られたのよ!」
チョコレートに釣られたわけではないだろうが、傷心中の彼女にそれを言ったところで火に油を注ぐだけだ。
私は「それはタイミングが悪かったね」と同調してみせる。
「それでそのチョコレートはどうするの?」
「タイミングのいい男子にあげるわ。誰にも渡さないよりはホワイトデーのお返しが望めるでしょう」
「お返し目当てであげるの?ヤな女って思われるよ」
「チョコレート代だってタダじゃないのよ?実らない恋より実のある現物に変わった方がよっぽどマシだわ!」
チラホラと生徒が残る教室。
彼女が言うタイミングのいい男子となり得そうな、可哀想な男子を一緒に探す。
「田中くんなんてどう?」
「彼は先週から趣味が貯金になったらしいの。そんな人がホワイトデーにお返しをくれるとは思えない」
「鈴木くんは?」
「彼女持ちにチョコレートなんて渡したら女に殺されるわ」
「佐藤くんは?」
「名前にサトウが付くのに甘いものなんて渡したらからかってるって思われそうだわ」
「…なるほど?」
文句が多いってことは分かった。
仕方なく、私は彼女のチョコレートを奪う。
「アナタ、何するのよ?」
「ホワイトデーにお返しが来れば男の子じゃなくてもいいでしょ?」
「友チョコはさっきあげたわ」
「ならこれは親友チョコって事で」
観たいテレビがあることを思い出して、私は鞄を掴む。
少し驚いた顔をした彼女に「また明日ね」と声をかけると、小さく手を振られた。
本当にお返しさえあれば誰でも良かったみたいだ。
「ホワイトデーのお返しはブランドのリップがいいわ」
彼女の言葉は聞こえないふりをした。
純粋で甘ったるいホワイトチョコレート。
嫉妬や独占欲で苦いビターチョコレート。
隠し味には恋に恋する盲目のブランデー。
ビターチョコを多めに入れて、白と黒を混ぜ合わせる。
黒が強いマーブルチョコ、貴方への想いにぴったり。
私は、誰かを愛したことも、
誰かを妬んだこともなかったのに。
貴方に出会ってから変わってしまった。
それなのに、分かってくれないなんて不公平よ。
苦くて苦しくて、それでも少しの甘さに酔わされる。
ああ、本当に貴方にぴったり。
今日だけは、私の愛を味わって。