樽沢

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「チョコレートと合わせて告白なんて、まるで物で釣ってるみたいじゃない」

バレンタイン当日。
彼女はそう言って、不服そうに唇を尖らせる。

校則に引っかからないギリギリで制服を着崩して、いつもはしない軽い化粧。手にはピンク色の可愛い紙袋を持って、彼女は教室の隅に立っていた。
悲しそうに伏せられた瞼に乗ったアイシャドウが西日でキラリと光る。

「告白、失敗したんでしょ」
「違うわ。タイミングが悪かったの!私より1時間早く告白した子のチョコレートに彼が釣られたのよ!」

チョコレートに釣られたわけではないだろうが、傷心中の彼女にそれを言ったところで火に油を注ぐだけだ。
私は「それはタイミングが悪かったね」と同調してみせる。

「それでそのチョコレートはどうするの?」
「タイミングのいい男子にあげるわ。誰にも渡さないよりはホワイトデーのお返しが望めるでしょう」
「お返し目当てであげるの?ヤな女って思われるよ」
「チョコレート代だってタダじゃないのよ?実らない恋より実のある現物に変わった方がよっぽどマシだわ!」

チラホラと生徒が残る教室。
彼女が言うタイミングのいい男子となり得そうな、可哀想な男子を一緒に探す。

「田中くんなんてどう?」
「彼は先週から趣味が貯金になったらしいの。そんな人がホワイトデーにお返しをくれるとは思えない」
「鈴木くんは?」
「彼女持ちにチョコレートなんて渡したら女に殺されるわ」
「佐藤くんは?」
「名前にサトウが付くのに甘いものなんて渡したらからかってるって思われそうだわ」
「…なるほど?」

文句が多いってことは分かった。
仕方なく、私は彼女のチョコレートを奪う。

「アナタ、何するのよ?」
「ホワイトデーにお返しが来れば男の子じゃなくてもいいでしょ?」
「友チョコはさっきあげたわ」
「ならこれは親友チョコって事で」

観たいテレビがあることを思い出して、私は鞄を掴む。
少し驚いた顔をした彼女に「また明日ね」と声をかけると、小さく手を振られた。
本当にお返しさえあれば誰でも良かったみたいだ。

「ホワイトデーのお返しはブランドのリップがいいわ」

彼女の言葉は聞こえないふりをした。

2/14/2024, 2:45:12 PM