『スマイル』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
スマイル
私のスマイルは無料じゃない。
私はアイドル。笑顔が嫌い。見ているだけで腹が立つ。
でも、私のファンは笑顔を求めている。
だからこうした。
『スマイル1回500円』
500円で笑顔をあげる。
貴方が求めるから。
見ているだけで腹が立つ。
勇者が渾身の一撃を振り下ろす。
両手に握った『対魔の剣』は、魔王の耳元を掠めると、落下した大地に激しい衝撃を引き起こす。
必中の一撃を避けられた事に勇者は驚きながらも、絶対防御の瘴気を纏った魔王があえて攻撃を回避した事に僅かな勝機を見出した。
振り下ろした剣を再び魔王に向けるため、勇者は両手に力を込める。
その瞬間、魔王が腰の刀へと手を伸ばした。
全長およそ2メートルもある『魔神の大太刀』から繰り出される魔王の抜刀は、風よりも早く、空を裂き、勇者の丁度半身を狙い定める。
魔王の攻撃が回避不可だと悟った勇者は、咄嗟に自身の剣で防御を試みるのだが、あまりにも早すぎる魔王の抜刀に、十分な構えを取ることができない。
「しまったッ」
何とか剣の柄で受け止めるが、激しい衝撃に耐えきれず、対魔の剣は勇者の遠く後方まで弾き飛んでしまった。
無防備となった勇者を眺め、勝利を確信した魔王は嫌らしく笑みを浮かべると、止めの一撃を振り下ろした。
「終わりだ」
魔神の大太刀で切断された者は、真っ白な塵となりやがて無に帰る。
魔王は最後に、死にゆく勇者の無念と絶望に歪ませた顔を拝んでやろうと視線を送るのだが____
「お前はなぜ、笑っているのだ?」
塵となり消えていく最後まで、勇者は楽しそうに笑っていた。
魔王の取った回避行動、扱う武器、攻撃速度。
勇者にとって、今回の戦闘は十分すぎる程の成果があった。
今回の反省を活かし、またセーブポイントからやり直すだけだ。
何度でも、何度でも繰り返してやろう。
いつか魔王が絶望で顔を歪ませるその時まで____
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「560円になります」
難易度が高すぎてやる気の失せたゲームを、中古ショップで売り払う事にした。
チュートリアルの魔王が強すぎてストレスの溜まるクソゲーだったが、手放したお陰で清々した。
「ありがとうございまーす」
代金を受け取り店を出た後の俺は、最高にスマイルだった。
「歌のタイトル、ドラッグストア等々の店名、某事務所、『笑顔』ということで花言葉、『脳は、嬉しい→笑顔もあるし、笑顔→嬉しくなる』、もある。……まぁ色々あるわな」
そうだ。スマイルマークがロゴのブランドもあるわ。
某所在住物書きはスマホの検索結果を眺めながら、検索先の多さにパックリ。口を開けた。
「漫画は、一括で『ザ・笑顔』っつーより、感動も共感も、その他諸々詰まってるもんな」
検索を終えた物書きは、トレンドの調査へ。どこかの水道管が破裂した今日は、漫画の日らしい。
「……『スマイル』がタイトルに付いてる漫画は?」
漫画の日に漫画のネタを書けないだろうか。物書きは早速検索するが――
――――――
都内某所、某アパートの一室、夜。日付が変わり、時計の長針が最初の周回を、ようやく1回終えた頃。
部屋の主を藤森といい、
何故か、物言う不思議な子狐が餅を売りに来ている。
非現実的だが、気にしてはいけない。
強引な物語進行だが、突っ込んではいけない。
そういうフィクションなのだ。しゃーない。
「きょう、29の日、フクの日!」
葛のツルで編んだカゴには、甘味塩味多種多様な大福餅がズラリ。子狐の住処たる稲荷神社の加護をたっぷり含んで、こころなしか、穏やかな光を、
放っているように見えなくもない、かもしれない。
「おとくいさんにも、福をいっぱい、いっぱい」
どうぞ、たんと買ってください。
子狐コンコン、目を輝かせ、尻尾を最高速のワイパーかサーキュレーターのごとく振り回して、唯一のお得意様たる藤森に、最上級のスマイルを向けている。
「福?」
「稲荷のごりやく、いっぱい振った。ひのよーじん、ごこくほーじょー、しょーばいはんじょー」
「私に五穀豊穣の福が来てもだな……」
「れんあいじょーじゅ」
「恋などしていない。今後する予定も無い」
「あんざんきがん。こだくさん」
「あん、……なんだって?」
運気上昇、武運長久、ビタンビタン。
子狐は稲荷のご利益ゆたかな大福を、一生懸命手作りした可愛らしい大福を、
これがフクハウチ大福、これがフグノショッパイ大福と、誇らしげに、小ちゃい前足おててで。
「私は事務職だ」
藤森が少々申し訳無さそうに言った。
「それほど多く、糖質を必要としない。お前が望むほど多くの大福は買ってやれない」
すると子狐コンコン、キラキラした目を更に輝かせ、満開のスマイルで藤森に返した。
「おヨメさんおムコさんにも、おすそわけどーぞ」
「待て。誰がお嫁さんお婿さんだ」
「キツネしってる。おとくいさんのコーハイさんとシンユーさん、おとくいさんのおヨメさんおムコさん」
「私の後輩は私の嫁でも婿でもないし、そもそも恋人ですらない。だいいち親友の宇曽野は妻子持ちだ」
「キツネうそいわない。キツネ、ぜんぶしってる」
「あのな子狐……?」
この子狐、はたして「恋」と「恋人」と「結婚」と、「嫁婿」の概念をちゃんと理解しているのだろうか。
向けられている笑顔に対して、藤森は少々困り顔。
しかしながら、不思議な稲荷神社在住の、不思議な子狐が、今日のために頑張って作った大福である。
嫁婿どうこうを抜きにして、週末の職場の休憩時間、いつも一緒に飯を食っている後輩におすそ分けしてやっても、まぁまぁ、良いかもしれない。
「……とりあえず、イチゴとミカンとあんクリームと、それからチーズの大福、1個ずつ貰おうか」
しめて税込み800円。藤森はコインケースを確認して、100円玉が1枚足りないことに気付き、
小さく優しいため息をついて、マネークリップから野口英世を1枚引き抜いた。
「釣りはいい。少しだが、お前にも福のお駄賃を」
子狐は野口1枚受け取ると、200円の小さな紅白大福を嬉々として差し出したが、
意味するところを知る藤森、紅白を丁寧に辞退して、代わりに豆大福をひとつ、オーダーに追加した。
大福はその日の昼休憩、後輩と親友に2個ずつ提供され、大好評だったとさ。 おしまい、おしまい。
お題:スマイル
「やぁみんなこんにちは!
にこにこ笑顔のスマイルくんだよ!」
いつもこんな事を言って始まる配信
実際の僕はいつもにこにこ笑顔ではない
まぁ要するに裏の顔と表の顔があると言う事だ
配信は誰かを笑顔にする為に始めた。
そう…始めたはずだったのに自分が笑えていない事に気づいてから配信をする意味が全く分からなくなってしまった。それでも僕は配信を続けるんだ。みんな僕の事を、僕の配信を待ってるから。
「みんな僕のために笑って?、」
無理に笑わなくても良いんだよ、なんて。酷いことを言うのね。
私は、あなたを笑顔にしたくてアイドルになったのに。
そう言ってやったら困った顔で「いつだって笑顔だよ」と言われた。
「大好きなきみが幸せなら。欲を言えば、傍にいてくれるだけで、どんな辛い時でも笑顔になれちゃうよ」
確かに笑顔だ。困った子供を相手にするような態度だけれど、目許も口許も柔らかな弧を描いている。けれど本物に見えないのは――心の底から湧き起こるものに見えないのは、きっと私が幸福ではないからなのね。
唯一あなたを、一生懸けて笑わせたい。
これが私の引退理由。
毎朝、若いお母さんと小さな子供とすれ違う。
子供の手を引いて歩くお母さんはいつもかすかに微笑んでいて、私はなぜかとても安心した、穏やかな気持ちになる。
人はただ生きているだけのことで、身近にある小さな幸せをたいせつに感じているだけのことで、誰かの力になれている。
いつもありがとう、名も知らぬ若いお母さん。
スマイル。今日はちょっと疲れた。スマイルなんて気分じゃない。
スチームでDLC買ったのにプレイできない。できない理由がわからないから途方にくれている。
調べたらスチームではまだできないなんて書き込みも見つけたけど本当かどうかわからない。その人も俺と同じエラー吐いてるのかもしれないし。
今日はこれからなんでできないのかを調べて最悪サポートとかに電話なりしないとだ。もうなにもかもが嫌になるぜ。
どうにもスチームでゲーム買うの慣れてないっていうかDLCに限って言えば今回が初めてだったから不安になってたけどなんとかプレイできた。
やっぱりスチームではまだプレイできないだけだったっぽい。配信時間とか書いといてくれればいいのに。
スマイル
「いらっしゃいませ!」お客様が来店して
営業スマイルを浮かべる俺
「ご注文は、お決まりでしょうか!」
お客様のご注文を取りにテーブルに向かい
電子の機械で注文を入力する。
それが終わるとまた次のテーブルへ
お水のお代わりを取りに向かい
また違うお客様に注文を聞きに行く
帰るお客様のレジの精算を済ませ
食べ終わったお皿を片付け 流しに
持って行きお皿を洗う
テーブルを台拭きで拭き また真新しい席を作り また新しいお客様にメニュー表を
持って行く
そのサイクルを繰り返し俺の一日は、
終わりを迎える。
「ふぅー」俺は、ため息を吐く
看板のプレートをオープンから
クローズに変更してやっと一息入れる。
「お疲れ!」お店の先輩が缶コーヒーを
渡して労ってくれる。
俺は、「ありがとうございます」と缶コーヒーを受け取る。
先輩が俺の隣に来て 悪戯を考え付いた
子供の様に笑い
俺の眉間に指を付けて 優しく揉む
「また 此処に皺出来てるよ!」
俺は、先輩の指摘を受けて
気まずそうに顔を逸らす。
「これが通常運転なんです もう表情筋
疲れた~ぁ」
先輩は、そんな俺を見てクスクスと笑う
「君の営業スマイルは、レアだから
有料にしたいね!!」
「その分のお金は、俺にも入るんすかねっ!」
先輩は、面白そうにまた笑い
「プライベートで そのスマイルを
発揮する気は無いの?」
「ないっすね!」先輩は、俺の答えに
また笑う
そんなくだらない事を喋り
今日も俺の一日は、過ぎて行く。
「スマイル」
この真っ暗闇の中で笑っても
誰も見てくれないくせに。
【#35】
優しさにひとつ気がつく ✕でなく○で必ず終わる日本語
俵万智がXで発表した短歌が話題になっている。最近よく耳にするマルハラについて詠んだものだ。
LINEなどのメッセージで文末に「。」(マル)をつけると、若者の一部は怒られているように感じるらしい。
句点で威圧感を与える、だからマルハラスメント。
若者ではないけれど、自分もたわいないメッセージなら句点はつけないことが多い。
しかしLINEでも真面目な話題や改まった相手だと句点はつけたい。「会話」から「文」へと空気が変わったらもうつけないと落ち着かない。文には必ずマルという固定観念がある。
「わかりました。」
「わかりました」
比べてみると、確かに上のほうが堅い印象はする。でも下だってそこまで柔らかい感じはしない。
ならば絵文字を加えたり、「わかりました〜」にすればいいのか?
どっこい絵文字や「〜」はおばさん構文なんだそうだ。知るか。
なんて斬り捨てずに一首つくる歌人の機知と温かさに敬服する。
『(ス)マ(イ)ル』
『スマイル』
「どうしたの?」
「何でもないよ」
「……」
「本当に何でもないの……」
「何があったかは分かんないけど、僕はキミが笑ってる顔が好きだよ」
「……何? 急に……」
「ナイススマイルが見たいから、これあげる!」
「え?」
ニカッと笑った彼は、私の手に紺色のハンカチを置いて足早に去っていった。何だよ、ナイススマイルって。彼の言葉があまりにもくだらなくて笑えた。それと同時に涙が溢れてしまい、私はそのハンカチで涙を拭いた。
走り去る前に見せた彼の顔はナイススマイルだった。
______やまとゆう
写真を撮影する時に子どもの頃なら
笑顔ができていたと思う……
でももう今は笑顔ができない。
どうやって笑ったらいいかわからなくて……
撮影する時に笑顔でって言われても
本当に困るんだ……
昔、どんなふうに笑ってたっけ?
そんなことを撮影する時に思う。
みんな笑顔で撮れてる人ってすごいな……
口角をきゅっとあげて、目は軽く見開いて。
少し口をすぼめると、アヒル口になってほら、可愛い。
アップライトに照らされて、たっぷりパニエのスカートを翻す。
スマイル満点!ほら、可愛い私を見て!
色とりどりのサイリウムの中から明るいレモンイエローを探す。
あぁ、今日も私は愛されてる。
耳を澄ませば聞こえる私へのラブコール。
偶像だって良い。作った笑顔も可愛ければ最高。
愛された分私もみんなに笑顔を振り撒くから、
だから
もっともっと愛して欲しい。
愛されるならなんだってする。
もっと
もっともっと
もっと…
運動も、勉強も、コミュニケーションも
自信が無い僕だけど
君を笑顔にすることだけは
世界でいちばん得意だよ
笑顔だった。気色の悪いくらい。
死に際さえ声を出さずに、ただ張り付いたような笑顔が、こちらをのぞいていた。
『スマイル』
昔から笑うという事が苦手だった
ほぼ判別が付かない集合写真は兎も角として、
身内の祝い事や数少ない友人との写真を撮る時など
毎年幾らか訪れる恒例行事が億劫になる程に
愛嬌があるように見えるだとか
明るく見えるとかそんな事はどうだって良くて
楽しくもないのに笑う事が出来る
他人の心理というものが私にはまるで理解出来なかった
可愛げが無いとか、ひねくれてるとか
そんな言葉は聞き飽きるほど告げられたけれど、
私からすれば本心と表情が一致しない皆の方がよっぽど
ひねくれてるし、可愛げどころか恐ろしいとすら思うのだ
たまたま入ったカフェの壁に『地下鉄のザジ』の笑顔のポスターが貼られていた。1960年代のフランス英語。水色の背景に、すきっぱのおかっぱ少女ザジの、ニカッと笑った顔がのっていてとてもキュート。ポスターはオレンジ背景にイラストのバージョンもあるけど、ここに貼ってあるザジは写真の笑顔だ。
7歳はなれた姉が映画好きで、部屋に映画雑誌をよく置いていた。私はその紙面でこのタイトルを知ったんだと思うけど、昔はネット検索もなく、レンタルビデオも田舎ではマイナー作品は置いてなく、観てみたいと思いながらも今まで来てしまった。
このポスターのザジは若いころの姉にそっくりで、見るたび笑える。実際の姉はどういうわけかいつも押し殺したような表情で写真に写ってるので、別の世界線の姉を見てるようではある。
でも、大人になって酒に酔った姉の笑顔はこんな感じ。何のしがらみもなく、屈託もなく、今この瞬間だけの感情で笑っているいい笑顔。
カフェに一緒に入った私の彼氏は私の姉を知ってるので、彼もポスターを見て笑った。そっくりだから。
自分の背後のポスターを振り返って見て「似てる!」と私に顔を戻したその顔も笑顔で、パシャっと撮ったらいい笑顔が2つ並んだいい写真ができた。
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【54】スマイル
中身のないスマイルをずっとしてると
自分は明るいピエロだと思い込んで
みんなもそういうつもりで扱って
それはそれでうまくいく気がするんだ
だけど
ある日突然笑えなくなる時がくる
今までの自分は嘘だったと気づく日がくる
笑わないピエロ
あなただけの人生のはじまり
私はあんまり笑わない人間らしい。これまでに色んな人に言われてきたので、そんな感じなのだろうと思う。ちなみに、自分ではよく笑うと思っていたりした。でも、興味のないことや面白くないことには完全に「無表情」だし、普段からそれほど表情が豊かでは無い自覚も出てきたので(昔から表情が少ないとは言われていた)、笑顔もそんなに多くは無いのだろう。あんまり笑わないですね、と言われたこともある。
かつて仕事の関係で(接客業だ)、笑え笑えと言われて指導されたことがある。笑顔でお客様対応をというのは、そりゃそうだ、と思うのだけど、あんまりにももっと笑えと言われすぎたせいで、私はそんなにも笑顔ができないんだなあと完全に自信を失った。軽いトラウマである。
そんな接客業も引退して十年以上の時が経った。
今でも、あんまり笑わない(そもそも私は精神疾患があるので、精神状態で笑うことが出来ないのもあるんだけど)私であるが、笑顔を強制させられない生活はほんとうに気楽である。無理して笑っている時もあるけど、それは私がそうしたいからしているのであるし。
笑顔っていうのは、できない人間からすると、大変なものなのだ。
スマイル
人のために、自衛のために
スマイルは武器になる
笑いたくなくても、笑ってみせる
それが意味を為す、どうしようもない社会へ
最高のスマイルを贈る