勇者が渾身の一撃を振り下ろす。
両手に握った『対魔の剣』は、魔王の耳元を掠めると、落下した大地に激しい衝撃を引き起こす。
必中の一撃を避けられた事に勇者は驚きながらも、絶対防御の瘴気を纏った魔王があえて攻撃を回避した事に僅かな勝機を見出した。
振り下ろした剣を再び魔王に向けるため、勇者は両手に力を込める。
その瞬間、魔王が腰の刀へと手を伸ばした。
全長およそ2メートルもある『魔神の大太刀』から繰り出される魔王の抜刀は、風よりも早く、空を裂き、勇者の丁度半身を狙い定める。
魔王の攻撃が回避不可だと悟った勇者は、咄嗟に自身の剣で防御を試みるのだが、あまりにも早すぎる魔王の抜刀に、十分な構えを取ることができない。
「しまったッ」
何とか剣の柄で受け止めるが、激しい衝撃に耐えきれず、対魔の剣は勇者の遠く後方まで弾き飛んでしまった。
無防備となった勇者を眺め、勝利を確信した魔王は嫌らしく笑みを浮かべると、止めの一撃を振り下ろした。
「終わりだ」
魔神の大太刀で切断された者は、真っ白な塵となりやがて無に帰る。
魔王は最後に、死にゆく勇者の無念と絶望に歪ませた顔を拝んでやろうと視線を送るのだが____
「お前はなぜ、笑っているのだ?」
塵となり消えていく最後まで、勇者は楽しそうに笑っていた。
魔王の取った回避行動、扱う武器、攻撃速度。
勇者にとって、今回の戦闘は十分すぎる程の成果があった。
今回の反省を活かし、またセーブポイントからやり直すだけだ。
何度でも、何度でも繰り返してやろう。
いつか魔王が絶望で顔を歪ませるその時まで____
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「560円になります」
難易度が高すぎてやる気の失せたゲームを、中古ショップで売り払う事にした。
チュートリアルの魔王が強すぎてストレスの溜まるクソゲーだったが、手放したお陰で清々した。
「ありがとうございまーす」
代金を受け取り店を出た後の俺は、最高にスマイルだった。
2/9/2024, 3:18:16 AM