『ススキ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
夢で見たことがある。
黄金のススキの原で走り回る少年を。
歩道橋を渡り、石垣に囲われた黄金のススキの原を走り回り最後に花火を見た。
そんな夢。傍に少女もいた。夢の中ながら片思いだった。それを見たのは小学生の頃か。
それから俺はおっさんになってしまった。恋愛はしたがそのススキの子に勝てる恋愛をしたことがない。
恋愛とは何か。思い出の何かなのか。未だ性の営みを感じたことがない。
ススキは何を象徴してたのか? 俺の心の原風景の一つだ。
虫の鳴き声がぴたりと止んだ。
薄蒼い空ははるか高く風の音を運ぶ。
「お帰りなさい!」
腰辺りまで伸びた金の海を掻いて、黒髪の娘が旅の一団に駆け寄っていく。
そのまま特別背の高い男に飛びつくと、周囲は喝采を浴びせ掛けた。
「後でな」
「いやです。もっとお顔を見せて」
そのままぐっと顔を寄せると、娘は今度は首にしがみつく。
「家でやれ」
年嵩の男が虫を払うように言い捨てると周りも苦笑する。男も周りに合わせてへらりと笑おうとした。
娘が頬にキスをしたのでぴたりと固まる。
涙を零したのは男のほうが先だった。
誰に祈るでもなく、首を垂れる尾花。
蟋蟀の大合唱。
半分だけ欠けた月。
吐いた息が形として見える、肌寒い秋の夜。
ススキを思い出すと
色とりどりの情景が浮かぶ
冬に連なる寂しい季節
だなんてことはない
なんて鮮やかな季節
[ススキ]
「ススキだ」
「ん…あーあれね」
彼が沈黙のあと放った言葉はそれだった。
「花言葉の中に〝悔いのない青春〟ってあるらしい」
「ほえーよく知ってたね」
「うん。そういうの調べるタイプだからさ」
まただ。沈黙が私たちを包む。
「ス…スキだよ」
「え?さっきも聞いたよ」
「ススキって言ってない」
「ん?」
「スキ、って言った」
「あーあー悔いのない青春過ごしてえなあーー瑠菜の返事次第では俺悔いのない青春過ごせるけどなーー」
ダメだ。これだからスキなんだよ。
さわさわと音立てるのは
その穂か 僕の胸か
同じ光を見ながら言った
『きれいだね』
あなたには届かなくて
月灯りに揺れる影だけが
小さく頷いた
【ススキ】
ススキ
ススキは悪霊や災いから守る。魔除けのススキとも言われている。ススキの花言葉は、「活力」「生命力」「精力」「なびく心」「憂い」「心が通じる」「悔いのない青春」「隠退(いんたい)」などたくさんある。
ススキ-(11/10)
あの子は泣いていた
ススキは夕日に照らされ、辺り一面黄金色に包まれている
その中を、涙でしゃくりあげながら歩いている
向こうから、ススキをかき分けこちらにやってくる貴方はだぁれ?
顔が見えない
怖い
彼女の持っていた宝物を、その人は奪う
やめて
それをどうするの
私の、大切な大切な存在なの
--そこで目が覚める
頬には一筋の涙
あの子はあの後どうなったんだろうか
打ち寄せる尾花の波に風を聞く
/お題「ススキ」より
吉野の一面のススキ野を見たことがある?
夕暮れに染まる金の波。揺れる穂波の優しい表情(かお)。
いにしえの皇族たちも吉野の地を愛したという。
広い広い海原にひとりきりで佇む。
風が隙間を通り抜け、頬を掠めて、身体を押す。そこでは悩みも怒りも悲しみも、一切の感情を無くしてしまう。広大な自然の中で人とはかくも小さいものだ。
様々な事変を起こしたその皇子は、多くの改新を為したその皇子は、あらゆる政敵を誅殺したその皇子は、この美しい吉野の地を訪れたと伝い聞く。
今はもう史書でしか語られないその方の心は、この一面のススキ野に埋まっているのかもしれない。
この美しい光景を愛した方ならば、たとえどんな語りを継がれても、真実はここにあるのだろう。
見ることも、知ることも、本当のことはもう誰にもわからない。遥か千年以上も前のことだから。
けれど私が想うかの方は、きっと歴史に語り継がれるような人物ではなく、この吉野のススキのようになにかもを包み込むような温かな方であったのだと―――私は思う。
【ススキ】
お月見なんてしたことなかったから、彼女がさっきまでいたベランダのススキとスーパーのみたらし団子を見て、本当に今でもする人間いるんだなあって思った。大事にしている習慣ってのは家庭で違うのだろう。彼女は年越しそばを食べたことがないと言っていた。彼女とベランダの椅子に腰掛け、俺お月見なんて初めてだなあ、と話すととても驚かれた。彼女はよく、縁側で家族と団子を食いながら月を見たそうだ。それってなんだか、平安時代の人間みたいだ。平安時代に月見があったのか知らないけど。でもなんとなく、平安時代って月のイメージ。旧暦とかかぐや姫が生まれた時代だし。平安時代の人たちって、月を大事にしてたんじゃないかな。ふと横を見ると、月光に照らされた彼女の顔。かぐや姫ほど美人じゃないが、自慢の彼女だった。生活能力があって、仕事もできて、程よく可愛くて、それに満月のように美しい乳房がある。
団子を食べた後は、ふたつの満月を愛した。ススキが耳元でサラサラなった。
個々がそれぞれの
風を感じ
私に視覚的寒さと
流れる秋を教えてくれる
よく似合う姿はお月様。
そして君たちが揃ってる姿。
紅葉、薔薇、銀杏…
この季節、魅力的な存在は
負けじと沢山いるけど
シンプルな姿で靡く
そんな君たちが
私は結構好き。
–ススキ–
300字小説
ススキヶ原の隠し人
学校の帰り道、自分の影に襲われそうになったことがある。紅く染まった夕暮れの中、伸びた影が勝手にゆらゆら蠢くのが怖くて、泣きながら走っていたとき、薄い茶色の指が僕の手を取った。
『逢魔ヶ刻が終わるまで』
『隠してあげる』
『月が昇るまで』
白髪頭の細い人の群れ。それもそれで十分怖い見た目だったが、声と共に流れるさやさやという音が優しくて、僕は彼等の導かれるまま、彼等の中に入って隠して貰った。
あの後、僕はススキの原の中で、丸まって眠っているところを発見され、無事に家に帰ることが出来た。
今でもススキの原を通るとき、さやさやと風に鳴る音を聞くと思い出す。
茶色に枯れ染まったススキに、今年初めての雪が降り始めた。
お題「ススキ」
秋の夕暮れ
田舎みち
さらさら風に吹かれて
ふわふわと
優しく触れあう
その姿
みんながこうだったら
ここはもっと温かくて
すてきな場所なのに
秋になれば
当たり前のように
ススキが穂をフサフサにし、
ゆるやかな風になびいて
景色を彩る
豊かだなぁ
辛い事があった。
そんな時はススキが沢山生えている
あの公園に行く。
あそこにいると心が落ち着いてくる。
どんな事があっても、
あそこに行けば安心できる。
きっと、神様が見守ってくれてるの。
みんなの『ススキ』の投稿を見ていたら、
なんだか鼻がムズムズしてきた。
花言葉は「心が通じあう」、なんだとか。
素敵だね。
〜ススキ〜
「あのキラキラしているのはなんでやんす?」
一張羅猫が首をひねりながら言う。
初めて見るでやんすねぇ。
「あれはだな、ススキ、というのだよ。うぉほん!」
博士が自慢のひげをなでつけながら答える。博士はもちろん猫である。
ススキ?ススキとな?一張羅猫は何度も繰り返しながらススキめがけてずんずん歩いていった。
「見てくださいな博士。ふわふわでさあね!あっしは生まれて初めてこんなふわふわにさわったでやんすよ」
一張羅猫の嬉しそうな鳴き声を背中越しに聞きながら、博士は夜空を見上げた。
丸いお月さまが照らす黄金のススキに、タキシードのような模様の猫がいっぴき。
いい夜だのう。博士はススキスキスキ、と歌うようにつぶやいてから、ふわふわに触るために一張羅猫のあとを追った。
すすきが揺れている
ゆらゆら、風に揺られている
雨の日も、晴れの日も、嵐の日にも揺れている
地に根を張り、精一杯生きている。
ゆらゆら揺れているのは
風とお話をしているの?
それともうとうとしているだけ?
月夜に月と戯れる
月見の夜にそっと寄り添ってくれるすすき
また来年の月見で会いましょう。
#ススキ -58-