虫の鳴き声がぴたりと止んだ。
薄蒼い空ははるか高く風の音を運ぶ。
「お帰りなさい!」
腰辺りまで伸びた金の海を掻いて、黒髪の娘が旅の一団に駆け寄っていく。
そのまま特別背の高い男に飛びつくと、周囲は喝采を浴びせ掛けた。
「後でな」
「いやです。もっとお顔を見せて」
そのままぐっと顔を寄せると、娘は今度は首にしがみつく。
「家でやれ」
年嵩の男が虫を払うように言い捨てると周りも苦笑する。男も周りに合わせてへらりと笑おうとした。
娘が頬にキスをしたのでぴたりと固まる。
涙を零したのは男のほうが先だった。
11/10/2023, 12:40:21 PM