いぐあな

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300字小説

ススキヶ原の隠し人

 学校の帰り道、自分の影に襲われそうになったことがある。紅く染まった夕暮れの中、伸びた影が勝手にゆらゆら蠢くのが怖くて、泣きながら走っていたとき、薄い茶色の指が僕の手を取った。
『逢魔ヶ刻が終わるまで』
『隠してあげる』
『月が昇るまで』
 白髪頭の細い人の群れ。それもそれで十分怖い見た目だったが、声と共に流れるさやさやという音が優しくて、僕は彼等の導かれるまま、彼等の中に入って隠して貰った。

 あの後、僕はススキの原の中で、丸まって眠っているところを発見され、無事に家に帰ることが出来た。
 今でもススキの原を通るとき、さやさやと風に鳴る音を聞くと思い出す。
 茶色に枯れ染まったススキに、今年初めての雪が降り始めた。

お題「ススキ」

11/10/2023, 12:06:33 PM