『また会いましょう』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
やっとの思いで拐かした女だった。
髪が綺麗だとか囲った城主に自慢されたとか言う…くだらん理由も、主の命令と割り切ればただやるだけだ。
部下を接触させ、そのヘボ加減を利用して油断を誘う。何とか守り役の隙を突いたが………敵も一流、対応は早かった。
……ざまあねぇな。
多勢に無勢で追い詰められ、無様に地面へ転がって見下ろされている。女は奪われ背後の隠れ家は踏み荒らされた。
部下は逃げ延びたろうか。応援を呼べと言ったから、今頃間に合う筈もねえのに領地へ走っているだろう。
死ぬにしたって見せしめは御免だ。せめて一人くらい…と考えていると、俺を見下ろしていた男に代わって別の人影が進み出てきた。痩せたチビだったから、一瞬、半人前のガキに度胸を付けさせるのに使う気かと思ったが……違う。
下ろした髪に月光を受けて、短刀を持ったあの女が立っていた。
アンタがやるのか、お姫さん? 笑わせるぜ。
だが確かに、女を道連れにしたって何の格好も付かん。
考えた奴の性格の悪さを恨みながら、声を上げないよう奥歯を強く噛み締めた。
ぶつり。
切り落とされたものに目を疑う。辺りもどよめく。
当然だが、誰も想像だにしなかったようだ。
" これ " を持ち帰って、貴方ともう一人の命を繋いでくれ。
女の言葉に怒りで血が沸いた。殺意を込めた視線にも構わず白い手が白い懐紙に包んだ長い髪を俺の胸の上に置く。
馬鹿にしやがって…と呻くように吐き捨てると、女の静かな声が返ってきた。怪我を手当してくれたから、と。
……阿呆か。あれはお前を拐うのに俺が付けた傷だろうが。
それでも、と言いながら、女は俺の手を取って懐紙の上へ置いた。柔らかい、上等な絹の感触がする。
一つまた一つと気配は減って行き、側にいた筈の女を含めて辺りには誰も居なくなっていた。
糞ったれ。……この借りは必ず返す。
懐紙から零れた女の髪は月の光を照り返し、玉虫色に光っている。
【また会いましょう】
わたくし、毎月七日の午後七時にのみ人の姿になれる人魚なのでございます。
――と店を訪れた老婦人が言うものだから、私は思わず手元のコーヒー豆をぶちまけてしまいそうになった。
「へ、へえ、人魚。そりゃまた……シンデレラのような話ですね」
「異国の美女に例えていただけるなんて光栄です」
にこりと婦人は微笑む。私は動揺を押し隠して、「カフェラテです」と注文の品をテーブルの上へと置く。
「この喫茶店は海からいつも見えるので、いつか立ち寄ってみたいと思っておりましたの。でも、閉店時間がいつもお早いでしょう? このままではいつまで経ってもあなたとお会いできないから、思い切ってお電話してみた次第です」
「午後七時に来たいから店開けとけと言われるのは初めてでしたよ」
「ふふ、わたくし、あなたに初めての経験をさせてしまったのね」
とても上品に微笑みながら老婦人は白いカップへと口をつけた。どこからどう見てもただの人間にしか見えない。だがそれが、私の興味をさらに引き立てた。
人魚を名乗る老婦人。彼女が電話をしてまでこの店に来た理由。
「次の満月の夜、また来ても良いかしら」
婦人がそう言うので、私は間髪入れずに頷いた。
「もちろん。何度でもいらっしゃってください。こんな店で良ければ、ですが」
「この店だから来たいのよ」
そう言われてしまっては、相手が気違いだろうが人魚だろうがどうでも良くなるというものだ。
#また会いましょう -60-
―――「また会いましょう」
中学校の卒業式の日。
みんな口を揃えて、「また会いましょう。」と言った。
けれど、中学卒業してからまだ「また会いましょう」と
言ってくれた友達とは会っていない。
じゃあなぜ「また会いましょう」と言ったのだろうか?
みんなが言っていたから?
常識として言わなければならないから?
私は違うと思う。
「また会いましょう」は「どこかでお会いしましょう。」と
言う意味だと思う。
だって会いたいと思えば、「〇〇日に会おう!」とか言えるでしょ?
忙しくてもその人と会うために頑張ろうと思うでしょ?
あーあ。
だから私は中学の友達に「また会いましょう」って言われたのかな……。
ひねくれてるな私の心の中笑。
また会いましょう
「また会いましょう❗、元気で、また俺達のライブに来てくれよな!」
と、好きな歌手のライブの終わりのコメントを聞いて、僕はライブが終わってしまうさびしさと好きな歌手にまた会えるかの不安でいっぱいになった。
また会いましょうって言葉はなんて儚い言葉なんだと常々思う。
この言葉を忘れずにまたバイトなり、勉強を頑張って、チケットも取って…、ライブに参加するファンを思ってくれている言葉だなと僕は思った。
また会いに行きたいと思わせてくれるのもうれしい。とてもうれしい。
好きな歌手のライブに参加することが楽しくて仕方ない。
だからね、終わってしまうのはさびしい。
ライブってあっけないよね。
だけど、ライブに参加出来てよかったって思うことは出来るし、楽しめたという気持ちがあればさびしくなんてないよね。
また好きな歌手に会う為にも頑張らないとね!
また会いましょうって言ってるんだから会えるように準備しないとね!
終わり
また会いましょう。
そういった貴方は、他の人と付き合っている。
狡いと思う。
僕の気持ちを全部さらっといて他の男性と付き合うだなんて…。
女々しいとか、そんな事思ってほしくないから自分の気持ちを抑えてるけど、どうしようもない気持ちなら、まだ僕の心の中で燻ってる。いい加減捨てなければ。諦めなければ。
自分が前に進めない。
狡い貴方は嫌いです。
残酷な貴方は嫌いです。
人の気持ちをもて遊ぶ貴方は嫌いです。
〜♪~♪
聞き慣れた音が久し振りに響いた。
消したくても消せずにいた 貴方の音。
メールを開くと、言葉はなく、ただ音楽のデータが貼り付けてあるだけだった。
著作権、大丈夫だろうか……。
その音楽データを開くと、とても有名で話題になっていた曲が流れてきた。
その曲は、貴方の本音のような歌詞で溢れていて、どうしようも無かった。
「…………ずるい…………。
本当にずるい…………」
僕はスマホを握りしめたまま、自分の気持ちがグラグラになっているのが分かる。
嫌だ。
もう、沢山だ……。
くそったれ…………。
【また会いましょう】
凍てつく外気が皮膚を刺す。真っ暗闇が広がった夜空には、ぼんやりと月が浮かんでいる。
今が何時で、ここがどこなのか定かではない。ただ、感覚に訴える刺激が、ここは現実だ、と言っているようだった。
俺は、ビルの隙間を縫うように逃げ惑う男の背中を追っていた。彼がなぜ逃げていて、俺がなぜ彼を追っているのかはわからない。意識が晴れた時にはすでに、この関係が始まっていた。
俺は懸命に駆ける。冷えで鈍くなった関節を無理矢理に動かす。男の背中が眼前にまで迫ると、腕を伸ばしてそいつを突き飛ばした。
男は突然の衝撃に耐えかね、情けない声をあげながらコンクリートの地面に転げ落ちた。車に轢かれた蛙のようにひしゃげると、おどおどとした顔でこちらを振り返る。
なんとも情けない顔だった。その顔を見ていると、なぜか無性に殺意が湧いた。自分の中にこんなにもどす黒い感情が潜んでいるなんて、信じられなかった。
俺の手には月光を反射する一本のナイフが握られていた。柄を握りしめ、思い切り得物を振り上げる。
なんの躊躇いもなく、男の首筋に鋭利な刃先を突き刺した。鮮やかな血飛沫が吹き上がり、鉄の匂いが後から鼻腔へ入り込む。
何度か鮮血の噴水を出したところで、俺はふと我に返り前方に目を向けた。
男が立っていた。俺に似た男だ。そいつが暗闇でもわかる程ニヤリと微笑む。
「また会いましょう」
何を言っているかわからなかった。
俺はそこで意識を失った。
目を覚ますと、見知ったベッドの上にいた。
何か嫌な夢を見たような気がする。あまりにも現実味が強かったためか、全身が汗でぐっしょりと濡れている。
とりあえずシャワーでも浴びようとベッドから降りた時、何か嫌な匂いを自分が発していることに気がついた。
汗? いや、違う。記憶にある匂いだ。それもつい最近。
俺は急いで洗面所へ向かった。鏡で自分の姿を確認すると、そのおぞましい姿に絶句した。
返り血を浴びたかのような血塗れの俺が、そこには立っていた。
また会いましょう
またお会いしましょう。
やあ、またお会いできて光栄です、レディ。
こんなにすぐに再会できるなんて、ご縁がありそうですね。
そのようですね。ご近所なのでは?
大事なご近所さんから、私の
愛しい方になっては、いただけませんか?
喜んで。
ラブストーリーは、永久に。
我が愛猫は、テレビをつまらなさそうに見て、
あくびをしていた。
また会いましょう
「じゃあ、また会いましょう。今度は飲みに行けたら嬉しいな」
街で偶然会った彼女は、少し上目遣いをして笑いながら小さく手を振った。そして背を向けて歩き出す。
俺は大きく息を吸い込んだ。顔が熱くなる。心臓がバクバク鳴り始めた。いつもなら社交辞令と思うところだけど……。
でも、これは行くだろ。またっていつだよ?
――決めるなら今でしょ!
俺は腹に力を籠めて、彼女の背中を追いかける。
「待って。この近くにいい店あるんだ。よかったら今から――」
#87
八月十四日。
今年もベランダに、死にかけの蝉がやってきた。
二〇秒。高く高く身じろぎもせずに、コンクリートのベランダに、はいつくばるようにして、高らかに鳴き、そして動きを停めた。
猫が、命が尽きるのを見届けるかのように窓ぎわで息を潜め、その距離十センチ、鼻先には厚く、室外機でさらに熱くなったガラスの向こうには、暑い外気。
ここは七階なぜここへ?
土へ落ちればいいものを。
緑に紛れればいいものを。
なぜここへ。
わたしになにをしてほしいのか。
動きを停めてから、完全に命が尽きるまで、一日はかかるのだ。
埋めてあげようと手を伸ばすと、決まってこのセミは、最後の力を振り絞って暴れる。
かわいそうで、ただ、完全に命が尽きるのを、わたしは猫とともに、ベランダの内側でひっそりと、息を潜めて待つのだ。
猫はまだ見ている。ぴくりとも動かない。ぴくりとも鳴かない。瞬きもせず、厚いガラスの向こうの、茶色い塊を見つめている。
その蝉は、左の翅が破れていた。
ここへたどり着くまでに、どこかにぶつかったのか。
思いは遂げたのか。
ただ生まれ、地上にあがり、そして鳴き、そして死ぬ。
ひと夏というにはあまりに短いその鳴き声は、蝉は命を謳歌できたのか。
尽きる直前までの高らかな歌は、煩いほどに猫の髭をはりつめさせた。
ベランダに死に場所を求めているとは思えない。
わたしに何か伝えたいことがあるのだ。そう思うことにしている。
埋めるのはあした。
満足したのか。
最期まで鳴けたのか。
猫はまだ蝉を見ている。
二度と動かない蝉を、今はいたわるようにして、寄り添う。
蝉はわたしに寄り添い、明日、土に埋める仕事を与えた。
ひと夏の感謝。
来年もきっと会おう。
わたしはそう伝えることにしている。
--ベランダの蝉
ペラペラとページをめくり
冒険に出る
楽しいことも 悲しいことも
困難なことも 嬉しいことも
ページをめくって 出会っていく
最後まで読み進め
ぱたん と本をとじれば
冒険は終わる
君たちに会いたくなったら
本を開けばいい
駅につくまで、どちらも言葉を発さなかった。私はただ前を歩く彼の背中を見て歩く。見慣れた光景だというのに、今日だけはこんなにもつらい。こみ上げてくるものを必死に隠しながらその背中についてゆく。
「ここでいいよ」
ようやく口を開いて彼が足を止めた。いつの間にか駅前だった。ここでいい、即ちお別れだ。彼はゆっくりこちらに向かって振り向いた。いつもの、えくぼが見える私の大好きな笑顔だった。
「見送りありがとね。1人で帰れる?」
「いつまでも子供扱いしないで」
「そっか、ごめん。もう子供じゃないもんね」
彼は私の頭にぽんと手を乗せた。そういうところが子供扱いされてる気がしてならないのに。今日だけはそれが嬉しかった。まだまだ私は子供だからもう少しそばにいてよ。そう言えたらどんなに良いだろう。
「あの、」
「また会おう」
私の言葉を遮るように彼が言った。ひどいね。気持ちを伝えさせてもくれないの。いや、それとも優しいのかな。今ここであなたに訴えたところで、私の気持ちに答えてくれないのは分かってる。言ったところで悲しく項垂れて1人で家まで帰る羽目になるから。だから言わせないようにしてるのかな。もしそうなら、もっと好きになっちゃうよ。
「また会おうね」
もう一度彼は言った。その言葉をどこまで信じて良いものなのか。あんまり優しいこと言わないでよ、本当に期待しちゃうから。
戸惑う私の前に彼は右手を差し出してきた。私も同じように手を出したら強くぐっと掴まれた。ほんの3秒間の握手だった。
そして彼は私に背を向け改札の中へ消えていった。“また”って、いつなの?それくらいは聞いても良かったかな。期待しないで、でもひっそりとその日が来るのを夢見ながら1人になった帰り道を歩いた。
キミのと別れ。
それはきっと間違ってないのに、ふとした時に切なさが押し寄せる。
でもキミは微笑みながら「また会いましょう」と言った。
これからもキミと笑顔で会える未来を信じて、僕はキミを忘れずに生きていく。
また会いましょう
「僕たちはいつでもここで待っています」拍手で返した無言の約束
#また会いましょう
「また会いましょう」と言われたら。
これは「もう二度と会いたくないけれど、便宜上言っておく」なのか、「本当に会いたい」なのか。関係性によっても違ってくるけれど、悩むところだ。
私は自他ともに認める、「人見知りしない人間」である。
基本的に人間のことは嫌いだし、人間関係が広がるのを快く思わない生粋の引きこもり隠キャでありながら、どんな人とでも雑談ができる。あがったり、恥ずかしがったり、全然しない。
講習会などで質問がある人は挙手してください、などと声がけされれば(むろん質問がある時だけだが)、大人数の前で立ち上がってマイクを握ることなど造作もない。
自分の不手際などで失敗するのが嫌だから、いろんな人が集まって説明を受ける時などは必ず一番前にいるし、椅子が選べるなら真ん前の真ん中にする。
そして、差し障りなく笑顔でおしゃべりし、にこやかで友好的な関係を築くことができる。
しかし。みなさん、そこからですよ。
続かないの。関係が。
いや、私も前述の通り人間嫌いなもんで人と関わり合うのはめんどくせえと思っちゃうから別にいいんだけど、「また会いましょうね」と言われて連絡がきたためしがない!!
ほんと、いい人の演技が上手いだけで見抜かれてるのかしらん。
大人になると友達ができない。できにくい。
けれども、私の友達は全て大人になってからできた友達だ。幼馴染も1人いるけど、年賀状でのやり取りのみ。高校の同級生とも2人ばかり年賀状だけで繋がっている人がいる。
あとは、前の職場の同僚と、ネットで縁が繋がった人が2人、同人誌活動してた時の友達、そんな感じか。
古くはmixiとかパソコン通信とか、合宿免許とか、習い事とか。そう言うのでふんわり知り合った人とは「また会いましょう」の言葉と共に縁が切れた。
まあ、私が本気で「この人好きだわ!」と思った相手とはつながり続けてるから構わないんだけどさ。
あ。そうそう。この人は離しちゃなんねえ!って人、いるよね。私は過去、4人ほど出会ってて。
みんな人生の大事なところで私の心身を助けてくれたんだ。
1人は、文字通り命の恩人。この人がいなかったら絶対死んでた。会えなかったルートを想像すると怖い。
1人は、自分の魂に似ていると感じて支えたいと思った。15年くらいの付き合いになるからお互いに変わったはずだけど、似ているなって感じは同じだ。
1人は、とにかくいい人。他人の悪口言わない。魂が綺麗だなって思う。喋ってると浄化される。
1人は、旦那さん。この人がいないと死ぬ。
みんな10年以上の付き合いだ。そして、私の方から「また会いましょう」と言った気がする。
言われるよりも、言いたくなる人に会える方がいいな。
そういえば、先日母親とパック旅行に行った時のこと。一人旅の人で、席が隣だったから仲良くなった人同士をチラ見していたら、別れ際に1人がラインを交換しようと申し出、もう1人が、「いつか会うって言ったってどうせ会わないんだから!いいのいいの、そういうの!またどっかのツアーで会ったらよろしくね!」と颯爽と別れてて、なんかちょっとかっこいいなと思った。
出会うも出会わんも運次第。「次」と思う相手には躊躇なくグイグイいった方がいいですな。
2023・11・14 猫田こぎん
また会いましょうというこの社交辞令満載の言葉に、君が何を思うかは知らないけれど、それしか言葉が浮かんでこなくて、結局みんな、八方美人。
また会いましょうというこの想いの詰まった言葉に、君が何を思うかは知らないけれど、それしか言葉が浮かんでこなくて、結局みんな、会えないまんま。
また会いましょうというこの応用が利きまくる言葉に、君が何を思うかは知らないけれど、それしか言葉が浮かんでこなくて、結局みんな、空っぽの意味。
また会いましょうというこの言葉が、君に何を思わせたのかは知らないけれど、これだけは言える。結局みんな、今を何とかしたくて、今を生きてる。ただ、それだけ。
♯また会いましょう
また会いましょう
そう言って会わなくなった友達を
もっとちゃんと大事にすれば良かった
【また会いましょう】
拝啓
木枯らしが吹き、日一日と秋が深まっていく
ようです。未来の私はいかがお過ごしですか。
さて、今の私はとある行事の前でウキウキし
ている気持ちとこれからどうすればいいのかと
いう不安な気持ち、両方を抱えています。
しかし、それもなんとかなるのではないかと
思うほどの支えてくれる友達がいます。未来で
も、まだ交流があったら嬉しいです。
それでは、身体にはお気をつけてください。
過去を思い出し、懐かしんでいるであろうあな
たと、想像の中でまた会いましょう。
敬具
久々に本屋に立ち寄った。
視界の端にセルフレジが映り、どこも機械化しているのだと驚かされる。
料理、教育、とジャンルごとに分けられた背の高い棚に納まる本を眺めながら、懐かしさに静かに呼吸が早くなるのを感じる。昔から読書が好きで、学生の頃は無意味に本屋に入り浸ったものだ。
社会人になってからは毎日なんだか疲れていて、休日も寝てばかりで、本なんてずっと読んでいないが。
お目当ての作家の小説が並ぶコーナーを眺め、数冊を手に取り、レジに向かう。
が、すぐ足を止め、棚に置かれた本を無意味に手に取り、立ち読み客を装ってしまう。
自然と息が詰まる。悪いことをしていないのに、なんだが悪いことをしているようで、居心地が悪い。
髪の長い女性がレジで会計をしていた。なんてことない光景だが、その後ろ姿はまだ忘れられない気持ちを揺さぶるには十分すぎた。
その女性がレジを終え、出口に向かう。ちらりと見えた横顔は、記憶にあるものとは別人で、一気に肩から力が抜ける。
なんだ、人違いか。
安堵する気持ちと、少し似た後ろ姿に反応してしまうくらい未練たらたらなのを思い知り、泣きたくなる。
1年も経ったのに、引きずっている。
別れた理由は就職で彼女が他県に行くから遠距離になるからで、嫌い合ったわけではない。
だから、別れるとき「また会いましょう」と彼女は言った。言ったくせに、一度も連絡を寄越してこなくて、俺からも連絡する勇気はなくて。
社交辞令だと気付くの時間はかからなかった。
そんな言葉に俺は果たして「会いたい」と伝えても良いものか、ずっと悩まされている。
結局、本は買わなかった。読む気をなくした。
というか、彼女の存在を失ってから、ずっとそうだ。
ずっと俺は彼女の「また会いましょう」という言葉を思い出し、縋り付いてしまうのだ。
『また会いましょう』2023/11/14
ゆきが降ってきたよ
空が悲しい色をして
誰のことも
思い浮かぶことなく
ただ悲しい色をして
『また会いましょう』