Akeru

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 わたくし、毎月七日の午後七時にのみ人の姿になれる人魚なのでございます。
 ――と店を訪れた老婦人が言うものだから、私は思わず手元のコーヒー豆をぶちまけてしまいそうになった。
「へ、へえ、人魚。そりゃまた……シンデレラのような話ですね」
「異国の美女に例えていただけるなんて光栄です」
 にこりと婦人は微笑む。私は動揺を押し隠して、「カフェラテです」と注文の品をテーブルの上へと置く。
「この喫茶店は海からいつも見えるので、いつか立ち寄ってみたいと思っておりましたの。でも、閉店時間がいつもお早いでしょう? このままではいつまで経ってもあなたとお会いできないから、思い切ってお電話してみた次第です」
「午後七時に来たいから店開けとけと言われるのは初めてでしたよ」
「ふふ、わたくし、あなたに初めての経験をさせてしまったのね」
 とても上品に微笑みながら老婦人は白いカップへと口をつけた。どこからどう見てもただの人間にしか見えない。だがそれが、私の興味をさらに引き立てた。
 人魚を名乗る老婦人。彼女が電話をしてまでこの店に来た理由。
「次の満月の夜、また来ても良いかしら」
 婦人がそう言うので、私は間髪入れずに頷いた。
「もちろん。何度でもいらっしゃってください。こんな店で良ければ、ですが」
「この店だから来たいのよ」
 そう言われてしまっては、相手が気違いだろうが人魚だろうがどうでも良くなるというものだ。

11/14/2023, 6:00:17 AM