久々に本屋に立ち寄った。
視界の端にセルフレジが映り、どこも機械化しているのだと驚かされる。
料理、教育、とジャンルごとに分けられた背の高い棚に納まる本を眺めながら、懐かしさに静かに呼吸が早くなるのを感じる。昔から読書が好きで、学生の頃は無意味に本屋に入り浸ったものだ。
社会人になってからは毎日なんだか疲れていて、休日も寝てばかりで、本なんてずっと読んでいないが。
お目当ての作家の小説が並ぶコーナーを眺め、数冊を手に取り、レジに向かう。
が、すぐ足を止め、棚に置かれた本を無意味に手に取り、立ち読み客を装ってしまう。
自然と息が詰まる。悪いことをしていないのに、なんだが悪いことをしているようで、居心地が悪い。
髪の長い女性がレジで会計をしていた。なんてことない光景だが、その後ろ姿はまだ忘れられない気持ちを揺さぶるには十分すぎた。
その女性がレジを終え、出口に向かう。ちらりと見えた横顔は、記憶にあるものとは別人で、一気に肩から力が抜ける。
なんだ、人違いか。
安堵する気持ちと、少し似た後ろ姿に反応してしまうくらい未練たらたらなのを思い知り、泣きたくなる。
1年も経ったのに、引きずっている。
別れた理由は就職で彼女が他県に行くから遠距離になるからで、嫌い合ったわけではない。
だから、別れるとき「また会いましょう」と彼女は言った。言ったくせに、一度も連絡を寄越してこなくて、俺からも連絡する勇気はなくて。
社交辞令だと気付くの時間はかからなかった。
そんな言葉に俺は果たして「会いたい」と伝えても良いものか、ずっと悩まされている。
結局、本は買わなかった。読む気をなくした。
というか、彼女の存在を失ってから、ずっとそうだ。
ずっと俺は彼女の「また会いましょう」という言葉を思い出し、縋り付いてしまうのだ。
『また会いましょう』2023/11/14
11/14/2023, 2:16:18 AM