『ないものねだり』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「その背丈よこせ」
「お前の声が羨ましい」
「ショート似合うようになりたい~」
「その靴めちゃくちゃ欲しかったやつ!」
「足速くなりたいよ~……」
「もう少し要領よく生きられたらな」
「視力を戻したいです」
「お兄ちゃんが欲しかったぁ」
「帰るのめんどくさいワープ機能くれ」
毎日毎日、よくもまぁ願いが尽きないことだ。あくびをひとつして丸くなる。頭上の声は今日はたくさん。不満と羨望と夢を語っては、けらけらと笑っている。楽しそうで何よりだけど、今はちょっと邪魔。専用の座布団の上に寝そべっているのが分からないのかしら。
ぴく、ぴく、と耳が揺れる。否が応でも賑やかな音を拾ってしまうこの耳が、今はちょっといらないかも。
なんてことを思ってたら、不意に音以外の気配を感じて耳が跳ねた。ぱち、と目を開ければ、目の前に大きな手のひら。自分の形と違う、でも見慣れたその手は、大きく視界を覆って──。
「こはくは、何かほしい?」
手のひらいっぱいを使って、優しく頭を撫でてきた。手のひらに沿って、耳がペタリと倒れる。心地よく撫でられながら、聞かれたことを考える。
ほしいもの、ほしいもの?
今とっても眠いから、ちょっとだけ静かにしてほしいよ。でも撫でられるのは気持ちいいからもう少し続けてて。起きたらおやつがほしいなぁ。
それから、それから。
「み、にゃ~」
「えぇ、何のおねだりかなぁ」
楽しそうに笑う、あなた。
あなたと話せる、言葉がほしい。
【ないもねだり】
(──by ところにより雨)
『ないものねだり』
ないものばかり追っていったら
かけてかけて
転ぶまでかけて
両手をそらにかかげても
何もつかめない
苦しくなるよ
僕らはそれぞれのいらないものを欲しがるんだ。
この人のこれが欲しい、あの人のあれが欲しいと。
まるで嫌味のように。
自分の痛みばかり大袈裟に語り、人の傷を煽る。
誰もがいらないものを抱えている。
そしてそれを羨む人もいる。
そう考えると平等だと思う。
でもそんな言葉じゃ僕らの心は癒せない。
どうしたって綺麗事に過ぎないのだから。
野菜は互いを羨むだろうか。
じゃがいもは、自分のおいしさを忘れて にんじんの色やビタミンを欲しがるだろうか。
にんじんは、色の白い大根にあこがれを持つだろうか。
大根は、なばなの春の香りにうっとりするだろうか。
なばなはえのきだけの栄養のすごさを知って悔しがるだろうか。
えのきだけはじゃがいものホクホクさにイライラするだろうか。
私にとってはどの野菜もおいしく、必要なもの。
五感を楽しませてくれる。
にんげんがもつものも きっとそうなんだろう。
きれいごとではなく。
ないものねだり
小さい頃、私の家の近くにはスーパーがあった。
歩いて5分もない場所で、入口にあるガチャガチャがやりたくて母親によくねだっていた。
レジではパートのおばちゃんがいちごみるく味の飴をくれるのがいつも楽しみだった。
大きくなったら一人で買い物に行きたいと思っていたのに、小学校にあがる前に無くなってしまった。
そのスーパーの次に近い場所にあったコンビニも
数年前に無くなってしまい、今では家から一番近いコンビニまで歩いて20分かかる。
唯一、家の向かいにある3台の自動販売機も
今月で撤去されてしまうらしい。
ふってふってゼリーをたまに買って飲むのが好きだった。
今日見ると1台だけ残されていたので、なんとなく
最後にグリーンダカラちゃんを1本買った。
ないものねだりをするならば、
せめて自販機は家の近くに1台欲しい。
ああ、まぶしい。
まぶしすぎて、やみくもに手を伸ばしてもその場所に届かない。
いつも周りを明るく照らし続けて、なのに自身の煌めきは全然衰えない。
誰にも真似できない。手に入れられない。
わかっていても、うらやましい。
……というような話をついしたら、思いきり呆れられた。
「なに言ってんだよ、こっちだってお前がうらやましいって思ってるのに」
聞き間違いではないみたいだった。みんなの中心にいるお前が、自分をうらやましいだって?
「お前の話聞いてると俺が光みたいな存在だって聞こえるけど、ならお前は闇だ。といってもマイナスな意味じゃないぞ」
暗くて怖い。なんだかじめじめしていそう。ずっと浴びていたら気分が落ち込んでしまう。……今挙げてみただけでも、マイナスなものしかなかった。
「お前みたいに言うなら、ずっと照らされ続けたらいつも元気でいなきゃいけない、頑張らないといけないって気持ちになるだろ? そうしたら休む暇がないじゃないか。闇があれば隠れられる。休めるだろ?」
つまり、そういう存在だと言いたいのか? まさか、今まで一度も意識したことはない。
「お前と話してると不思議と落ち着くし、実際相談されたりただ話聞いてほしい! ってやつも多いんじゃね?」
確かに、どうして自分のところに来るのだろうとは思っていた。それでも毎回、自分なりに力になれるようにと気持ちを込めながら対応していたが、間違いではなかったのだろうか。
「俺はせいぜいやる気を上げるくらいしかできないから、いつもすごいと思ってるし、真似したくてもできないよ。ま、お互い様ってところだな」
歯を見せて笑い飛ばす彼に、やっぱりかなわないと思いつつも、心の中が優しい光で包まれたような気分になった。
お題:ないものねだり
いいなぁ。あの子は。
高校は県内一の進学校、スポーツで推薦も来てたらしい。しかもモテる。
可愛くて、優しくて、勉強ができて、運動ができて。
私にはないもの、ぜーんぶ持ってる。
全部欲しい。
私にはないもの、あったら最高なもの。全部全部、私のものにしたい。
お母さんに一度、ねだったことがあった。
あの子の外見も、性格も、才能も。全部買って、私にちょうだい?
あの時お母さんは、こう言った。
「外見も性格はあなたしか持っていないものがある。才能も、あなたしか持っていないものがある。それでも欲しいのなら、掴みなさい。ねだるのではなく、努力で」
私にないもの。それはねだるのではなく、掴むもの。
ほしいほしい!。
自分が持っていなくて、相手が持っているものがほしい!。
語彙力。 文章力。 アイディア……。
自分の持たない創作の才能がほしい!。
いいね!。 応援コメント。 ランキング上位……。
自分の作品が世間に認められてほしい!。
ランプの魔神。 イワンの悪魔。 人魚姫の魔女。
私の願いを叶えてください!。
…………きっと、ないものばかり願っている私は気づかないだろう。
自分自身の作品の純粋な魅力に。
<ないものねだり>
君が持つものは私に無いもの…
でも、私が持つものは…君も持ってない。
【今日のお題 ないものねだり】
カツ、カツ、カツ…
今日も軍隊の方の見回りが始まったみたいです
私は急いでお気に入りのミントグリーンのワンピースと白いエプロンを身につけて、くるりと姿見の前で全体を見て、パタパタとお気に入りの窓際へ。
そこからとある将軍様が、家の庭仕事するのを見るために。私はいつもの窓際へ。
つる性赤薔薇で縁った窓から、子猫のように期待して、そっと外を見る。
いました。敷地の向こう、道路を挟んで向かい側。
やぎ髭のおじ様。
おじ様はいつも柔らかな、暖かな方。
でも使えてる兵士様は言います。
「昼行灯に魅せてるだけだ」と。
きっと嘘だわ、と私は思うの。
だっておじ様は、
薔薇の手入れがお上手で、煙草を嗜まれるけど淑女の前では吸わなくて、誰より優しい目をしてて…
そして何より、
愛妻家の家族思いでいらっしゃるの。
でも、でもね?
好きになってしまったの。私。
おじ様のこと好きになってしまったわ。
ないものねだりとわかっていても
「おじ様の奥様になれたらなぁ」と、
そう思うくらい、
あぁ、私はあの方がすきなのです。
「誕生日プレゼントは本当にそれでいいの?」
祖母に聞かれながらも迷いもなく頷く自分。
今日は親戚一同で誕生日プレゼントを選んでいた。
兄弟や歳の近い従姉妹はゲームや洋服など各々の好きな物を選んでいた。
だけど僕の手の上には100円の消しゴム。
それも散々デパートの中を歩きまわり、探しに探してやっと見つけたものが消しゴム。
「物欲がないのかね。」「遠慮してるのかな?」「子どもなのに」
色んな声や視線が僕を刺す。
でも知ってたんだ。
本当に欲しいものはみんな持っていて僕にだけないことを。
歩き回って躍起になって探して、でも代わりになるものなんて見つけられなかったから、やけになって掴んだものが消しゴムだった。
今思えば、あの頃に本当に必要だったから消しゴムを見つけたのかもしれない。
数年後、親は離婚し自分の居場所が分からず、
ひとつの家に定住しない日々が続いたのだが、
それはまた別のお話。
『ないものねだり』
仕事に行きたいと、就活生は言う。
転職をしたいと、職を手にしてる人は言う。
ないものねだり、タイトルをみてあるあると思った。
特に私は、40代独身の女性なので、普通の女性の幸せとか、芸能人の結婚や出産など敏感になっている時は、ないものねだりだと感じる。反対に既婚者からは、独身の自由な時間が欲しいという、ないものねだりがありそうだ。
誰かの顔を見るとここの良いところが羨ましかったりするが、結局は自分の顔で納得してしまう。長い間、苦労を共にした顔には愛着もあるようだ。
性格は自分にないものを、持っている人には正直ないものねだりしたくなるが、今の自分を大切に思う事でしか乗り越えられそうにないと感じている。
無いものばかりを欲しがるより、
有るものに感謝をせねばね…
(ないものねだり)
3月の最後。年度末最終の1週間が始まった。
これが終わったところで、学校みたいに春休みが心の疲れを癒やしてくれるでもないし、正直な話、また次の新しい年度が始まるだけでしかない。
たったそれだけの1週間が、また始まった。
職場の昼休憩の休憩室では、相変わらずお昼のニュースが、ただただダラダラ、流れ続けてる。
今日の話題は、春休みに行きたい都内のレジャー施設と、イベント情報。
都心の近場で森林浴とキャンプができる。そんなキャッチの小綺麗などこかで、かわいいレポーターが、森林をバックにクレープにかじりついていた。
いいなぁ。
私も経費でスイーツとお肉食べて森林浴したい。
「先輩って、東京来る前、ああいうことしてたの?」
田舎出身という先輩に、ちょっとだけ八つ当たりしてみると、少し顔を傾けて、意味と意図を推測して、
「似たようなことであれば。釣りはやらなかったが」
魚釣りのプールに移動を始めたレポーターを観て、
「公園には山菜が豊富だったし。遊歩道はほぼ山か森で、散歩場所には困らなかった」
春は自分で山菜採って肉巻きだの天ぷらだのに、な。
なんて、それがあたかも、普通の出来事のように。
いいなぁ。
きっと1個500円とかの山菜タダで食べてたんだ。
「なんで東京なんかに出てきちゃったの」
「諸事情。なにより向こうには仕事と金が無い」
「人間、仕事とお金のために生きてるワケじゃないよ。きっと精神衛生の方が大事だよ」
「ごもっともだが、私からすれば、何でも手に入る東京が、田舎の自然を欲しがるのと一緒に見える」
「隣の芝が青いのかな。ないものねだり、みたいな」
「たしかに」
適度に田舎で、QOL高くて、仕事もいっぱい選べる場所、どこかに無いかなぁ。
ふたりして似たことを考えたらしく、私と先輩で、ほぼ同時にため息が出る。
昼休み終了まで残り20分。私達はまた、お弁当を突っついて、時折おしゃべりする行為に戻った。
『ないものねだり』
自分の願いが
ほんのわずかでも
誰かの希望に繋がりそうなら
“ないものねだり”
やってやろうじゃないの
電気だって、飛行機だって、電話だって
きっと、“ないものねだり”から、産まれたんだ
私の“ないものねだり”が、誰かの希望と
つながり、虹になる
その虹を見た人が
あぁ、素敵だな、ドラマチックだなって
希望がふわっと湧いてくる
そんなふうになれたらいいな
(そろそろご飯かな)
宿題も一段落し、居間に行ってみると、コタツで横になっている父がTVを見ているようだった。近づいてみると予想通りの熟睡ぶりだった。
「消しといて!」
キッチンでカレーを作っている母が大声で短く叫んだ。キッチンから居間までかなりの距離がある。僕は肩をすくめた。
(起こすだろ…)
リモコンに手を掛けようとするとそのCMは始まった。
宇宙からの攻撃で大破壊されるニューヨーク、洞窟のなかでドラゴンと戦う原住民の女性、レースでライバルを追い抜こうと必死のマンガキャラクター…
一つ一つの流れる細かい内容は頭に入って来なかったが、そのCMは短時間で視聴者にこれでもかとダイナミックな情報を与えていた。
画面に釘付けになり、全身に衝撃が走っていた。数週間食べていない人にご飯を与えてみるとこんな感じなのだろうか。
CMが終わった瞬間に父のことなど気にせずキッチンに向き直り母に絶叫した。
「プレステ5かっけ~!」
遠目からでも母がカレー作りの手を止め腕組みをしながら僕を睨んでいるのが見えた時、僕は必死で笑みを浮かべて見せた。
「ねえねえ、あれとってえ」
棚の上にある本をとってもらおうと後輩に強請る私。
「……いいけど自分でとれるじゃん」
「と、とれるけどさぁ。でも憧れるじゃん。背が小さくて届かないから、あれとってぇ♡ って言うの」
身長の低い子が羨ましいと思っていた。
身長が高いと自分でなんでもとれちゃうし、バスや電車のつり革によく頭をぶつけるし……いいことなんてひとつもない。
「そんなこと言って、背が小さかったら小さかったでチビってからかわれるからやだって言うじゃん」
「えー、そんなことないよー」
「そんなことあるの。そういうのをないものねだりって言うんだよ」
後輩のくせに生意気で、私よりも背が高くて。
でも……そうか。
「ないものねだり……か」
言われてみればそうかもしれない。
背が高ければ低い子を、背が低ければ高い子を羨ましいと思ってしまう。
身長を伸ばす方法ならともかく、身長を縮める方法なんてないし。
「そういうきみは、ないものねだりしてないの?」
「あるある。もっとかっこよくなりたいでしょ、モテたいでしょ、彼女ほしいでしょ」
そんなこと言って、顔面強くて先輩からモテまくってるの知ってるんだから。
彼女はいないみたいだけど。
ていうか、彼女がほしいならいくらでも選べるじゃん。
どうして誰とも付き合わないんだろう。
「……嫌味?」
「あは、やっぱそう聞こえる?」
棚の上にある本を私に渡すと、急に真面目な顔をする。
「そんなのはさ、本当にモテたい人からモテないと意味がないんだよね」
あまりの美しさに思わず本を落としそうになる。
……瞳の色、綺麗だなぁ。
「モテたい人が……いるの?」
「どうかな。今のままで充分かも」
きっと高嶺の花が好きなんだ。
手の届かない存在に憧れて、 やきもきしてるんだ。
「うまくいくといいね」
#15 ないものねだり
ただそこにある青
空が青い。
でも、空気中は汚染物質が漂っている。
海も青い。
でも、人は海の中で生きてはいけない。
地球は青い。
でも、あの青の下では血が流れている。
ただそこにある青。
何も知らなければ、本当に綺麗な青。
でも、それは残酷な青。
三日月と半月が交互に昇る夜空に
立っていた
欲しいものばかりが増えていって
目に映るすべてが欠けて見える
たまに一瞬すべてが満たされても
すぐにまた他の欲望で影を作ってしまう
ないものねだりが私のデフォルト
だけどそれでいい
満たされ続けたらきっとその先は
怠惰で夢を描けないわたし自身になってしまうから
#ないものねだり