「その背丈よこせ」
「お前の声が羨ましい」
「ショート似合うようになりたい~」
「その靴めちゃくちゃ欲しかったやつ!」
「足速くなりたいよ~……」
「もう少し要領よく生きられたらな」
「視力を戻したいです」
「お兄ちゃんが欲しかったぁ」
「帰るのめんどくさいワープ機能くれ」
毎日毎日、よくもまぁ願いが尽きないことだ。あくびをひとつして丸くなる。頭上の声は今日はたくさん。不満と羨望と夢を語っては、けらけらと笑っている。楽しそうで何よりだけど、今はちょっと邪魔。専用の座布団の上に寝そべっているのが分からないのかしら。
ぴく、ぴく、と耳が揺れる。否が応でも賑やかな音を拾ってしまうこの耳が、今はちょっといらないかも。
なんてことを思ってたら、不意に音以外の気配を感じて耳が跳ねた。ぱち、と目を開ければ、目の前に大きな手のひら。自分の形と違う、でも見慣れたその手は、大きく視界を覆って──。
「こはくは、何かほしい?」
手のひらいっぱいを使って、優しく頭を撫でてきた。手のひらに沿って、耳がペタリと倒れる。心地よく撫でられながら、聞かれたことを考える。
ほしいもの、ほしいもの?
今とっても眠いから、ちょっとだけ静かにしてほしいよ。でも撫でられるのは気持ちいいからもう少し続けてて。起きたらおやつがほしいなぁ。
それから、それから。
「み、にゃ~」
「えぇ、何のおねだりかなぁ」
楽しそうに笑う、あなた。
あなたと話せる、言葉がほしい。
【ないもねだり】
(──by ところにより雨)
3/27/2023, 9:35:06 AM