「ねえねえ、あれとってえ」
棚の上にある本をとってもらおうと後輩に強請る私。
「……いいけど自分でとれるじゃん」
「と、とれるけどさぁ。でも憧れるじゃん。背が小さくて届かないから、あれとってぇ♡ って言うの」
身長の低い子が羨ましいと思っていた。
身長が高いと自分でなんでもとれちゃうし、バスや電車のつり革によく頭をぶつけるし……いいことなんてひとつもない。
「そんなこと言って、背が小さかったら小さかったでチビってからかわれるからやだって言うじゃん」
「えー、そんなことないよー」
「そんなことあるの。そういうのをないものねだりって言うんだよ」
後輩のくせに生意気で、私よりも背が高くて。
でも……そうか。
「ないものねだり……か」
言われてみればそうかもしれない。
背が高ければ低い子を、背が低ければ高い子を羨ましいと思ってしまう。
身長を伸ばす方法ならともかく、身長を縮める方法なんてないし。
「そういうきみは、ないものねだりしてないの?」
「あるある。もっとかっこよくなりたいでしょ、モテたいでしょ、彼女ほしいでしょ」
そんなこと言って、顔面強くて先輩からモテまくってるの知ってるんだから。
彼女はいないみたいだけど。
ていうか、彼女がほしいならいくらでも選べるじゃん。
どうして誰とも付き合わないんだろう。
「……嫌味?」
「あは、やっぱそう聞こえる?」
棚の上にある本を私に渡すと、急に真面目な顔をする。
「そんなのはさ、本当にモテたい人からモテないと意味がないんだよね」
あまりの美しさに思わず本を落としそうになる。
……瞳の色、綺麗だなぁ。
「モテたい人が……いるの?」
「どうかな。今のままで充分かも」
きっと高嶺の花が好きなんだ。
手の届かない存在に憧れて、 やきもきしてるんだ。
「うまくいくといいね」
#15 ないものねだり
3/27/2023, 5:01:56 AM