『ところにより雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
空は晴れ
心の中はときどき雨
なぜこんなに辛いのでしょう
もうこれ以上苦しめないで
普通に生きて
一生懸命働いて
我慢して笑って
悪いことなんてしてないのに
何故どん底につきおとすのだろう
いくつも波は超えてきた
今回ばかりはわかりません
沢山泣いても泣いても
涙がとまりません
私から色んなものを奪わないでください
『ところにより雨』
おとぎ話は云う
逃げ出したこの街に告別し
破れた秩序が蔓延る外界へと
そこは常々雨雨の砂上の楼閣
それはまるで遥か彼方へと行方を晦ました
ノンフィクション絡まる自称フィクション
その真偽は未だ解らず
久遠も騙されてきた歴史は歩む
人々は縷縷この場に留まる
解れた糸は在った
僅かに在った
掠れたページの狭間に
解き、解き。
解の在り処を知った
「未知」を思索した後羨望に暮れ
秩序に淘汰されないうちに駆ける
最終章の空欄の解は
「ところにより雨」
ポツポツと傘に当たる雨の日。
私は今日も待ち続ける。
あの頃の約束を果たすため。
ポツポツと傘に当たる雨。
私は今日も待ち続ける。
頬を伝う涙が、雨と同化しても。
ボツボツと傘に当たる雨。
私は今日も待ち続ける。
私の見つめる先は晴れ、きっと雨雲が流れることもないだろう。
ポツリ、ポツ……。
雨が止む。
私の見つめる先は雨。
もう待つことはない。
待ち人は濡れた姿でやって来る。
そうして、約束は果たされた。
私は想い出。
過去は雨に消され、今は光に描かれる。
振り向かれなければ、笑顔を見せられない。
晴れ、ところにより雨。
私が涙に濡れる限り、あなたは光に温められるだろう。
運命のその時まで、私は雨の中、ずっと待ち続けています。
生きてきた空間、時間
すべて違うけど、
今こうして
同じ空間、時間を
共にしているじゃないか。
「本日はところにより雨」
天気予報のお姉さんがそう告げると、隣にいた
ところにより雨
明日は外出する予定だ。
外をみると晴れてるが。
テレビをかけると天気予報をしていた。
晴れところにより雨のようだ。
折り畳み傘を用意しておこう。
――ところにより雨――
人の心の奥深く
空模様が響いていく
雨が降れば
人の心を悲しみの海へ沈める
雨が止めば
人の心を暗澹たる深海から引き揚げる
雲が覆えば
人の心に不十分さを植え付ける
晴れ渡れば
人の心をカラカラと干上がらせる
ここは晴れ
天気予報によれば
ところにより雨
君に鳴り響く空模様が
幸せを運ぶものでありますように
ところにより雨
「ヘイsiri。今日の天気は?」
『今日の天気は晴れのちところにより雨予報。大粒の雨が降ると予想されます。傘を用意するといいでしょう』
「え〜、今日雨降るの? 卒業式なのに…」
ついに卒業式の日が来てしまった。悲しさと、新しい未来への期待と、緊張と、いろいろな気持ちがずっと私の心の中で暴れていた。
それに…今日は私の中で決戦の日でもあった。
今日私は彼に、京介君に告白するんだから。気合を入れなきゃ。
パンパンと二回気合を入れるために頬を叩く。そして指で頬を持ち上げ笑ってみる。
笑おう。お母さんだって言ってたじゃん。ちえの千笑は笑顔が絶えない子に育つようにつけたって。
笑わなきゃ、いい結果も逃げちゃうよね。
「ちえー? もう起きてるの? 早く下降りてきなさーい」
「はーい」
腹が減っては戦は出来ぬ、だよね! 早く下に行かなくちゃ!
自分の部屋がある二階から一階に降りて、テレビを見ながら朝ごはんを食べていると今日の天気予報が始まった。
『続いて、天気予報のお時間です』
『今日は全国どこの地域も一日を通して晴れ晴れしい青空が広がるでしょう』
『そうですか。この時期は卒業式シーズンですよね。桜も満開といった様子ですし、よい卒業日和ですね』
『そうですね〜。それでは…』
あれ? 今日って雨が降るんじゃないの?
「お母さん、今日って雨降らないの?」
「降らないも何も、一昨日ぐらいから今日はずっと快晴の予定でしょ。千笑が私に言ってきたんじゃない。卒業式の日が晴れで良かった、って」
お母さんが訝しげにこちらを見ていた。
「そうだっけ? まあいっか。あ、もうこんな時間じゃん!…ごちそうさま! じゃあお母さん、先に行ってるから!」
「はいはい、気をつけてね」
カバンを持って玄関へ向かう。
…傘はいいかな。お母さんも、テレビもああ言ってたしね。今回はsiriが外れたってことで。
「いってきまーす!」
私は勢いよく家を出た。この先への不安を飛ばすかのように。
それは天気予報の通り、晴れ晴れしい、人生の門出にふさわしい晴天だった。
.
.
.
「卒業なんて寂しいよ〜。このまま離れたくない〜!」
「大丈夫だよ、私達ズッ友でしょ? すぐに会えるって」
「そうだよ。てか、すでにウチら遊ぶ予定あるしね」
「そうなんだけど…」
卒業式が終わった後、一度クラスに戻り最後のHRをしている。私のそばにはいつも一緒にいた友人がいた。でも私には彼女たちを気にしている余裕なんてこれぽっちもなかった。
…正直緊張でどうにかなりそうだ。何か別のことを考えようとしても、すぐに京介君が私の頭にうかんでくる。
もし、告白してOkを貰えたらどうしよう…。いや、そもそも付き合えると決まったわけでもないのにこんなこと考えても…。でもでも、最近結構ふたりきりになることも多かったし、結構良い雰囲気になることもあったはず…だし。どうしよう、もし付き合えたら…。ショッピングモールに行ったり、遊園地に行ったり、せっかく桜が咲いているんだからお花見もいいよね。
「先生は、ぜんぜいばぁ、お前らとぉ、このいぢね゛ん゛をずごずごどがでぎでぇ、ぼんどうに幸ぜだっだぞぉ!」
…何?
「ちょ、原ちゃん泣きすぎ」
「そうだよ〜。いい大人が情けないぞ〜」
なんだ原Tか。相変わらずだなぁ。
「てか、さっきから千笑ピめっちゃ静かじゃね? だいじょぶそ?」
「え…? あ、うん。だいじょぶだいじょぶ」
「どこがよ。めっちゃしおらしいじゃん。もしかしてぇ、千笑ピも悲しい系!? うっそ意外なんっですけどぉ」
どうやら私が京介くんのことを考えている様子を悲しんでいると勘違いされたらしい。
「違う違う、千笑は緊張してんだよぉ」
「そうそう、だって今日は千笑ちゃの愛しの京介君に告白する日じゃん?」
バッチリバレてたみたいだ。…ちょっと恥ずかしい。
「やだぁ、そういうことぉ? もー、千笑たよ可愛すぎぃ」
ついにはさっきまで咲いていた香奈恵も私にヤジを飛ばすようになった。
無意識にちらりと京介君の方を見る。
…! 京介君と目があった。うそ、こっち見て微笑んでる! しかも小さく手まで振って…!
私も軽く微笑んで京介君に手を振り返す。
「ちょっとぉ、誰に手なんか振ってんのよぉ?」
「青春だねぇ」
「もう、さっきからうるさいよ!」
「あははは」
テレビの天気予報通り、天気は晴れ晴れしい晴天のままだった。
最後のHRが終わり、みんなで校庭へ出た。皆各々写真を撮ったり、友達や想い人との別れを惜しんだりと様々だ。
人もまちまちになった頃、
「さあ、可愛いかわいい恋する千笑ちゃんのために一肌脱ぎますかね」
「そうだね〜」
「さ、行くよ」
彼女たちはそれだけいうと、京介君のグループの方に行って京介くん以外の男子達とともにどこかへと行った。きっと私のために一足先に打ち上げの会場に行ってくれたのだろう。
私は本当にいい友達に出会えたみたい。
京介君は今丁度グループから抜けていた。忘れ物を取りに行っていたらしい。
私は彼が帰って来るまでに、自分の身だしなみを簡単にチェックする。
髪型は? 前髪は崩れてないよね? 制服も、おかしなところはない、よね?
スカートは…どうしよう。もう一個だけ折っとく? …よし、これで準備万端!
「…あれ、あいつらどこいったんだ?」
京介くんが戻ってきた。
「京介君」
「ああ、千笑。ちょうどよかった、あいつらどこに行ったかわかる? てか香奈恵たちもいねぇじゃん」
「あ、みんななら先に打ち上げの会場に向かったみたい」
「え、そうなの? まじかよ…。まあいいか、千笑も打ち上げ参加するだろ? なら一緒に行こうぜ」
そういって私の前に行こうとする彼を私は急いで呼び止める。
「待って! 京介君。…話があるの」
私がそう言うと彼はこちらに振り向いた。
「そうなの? 話って?」
「えっとね…」
ここに来て急に緊張がぶり返してきてしまった。
落ち着いて、深呼吸、深呼吸。
スー、ハーと小さく深呼吸をして、京介君の顔を見る。
「京介君。私ね、あなたのことが好き。私と付き合ってくれませんか?」
…言ってしまった。ついに、言ってしまった。
言い終わったあと、すぐに下を向いてしまった。恥ずかしくて彼の顔を見ることが出来ない。
「…」
ちょっとの間、沈黙が続く。
「千笑…」
突然名前を呼ばれ、反射的に顔を上げた。その時に見えた彼の顔は悲しさでいっぱいだった。
「…ごめん」
「…え?」
「ごめん千笑。俺、お前とは付き合えない」
頭にものすごく大きな衝撃が走った。鈍器で殴られたような、はたまた稲妻で打たれたかのような、わからないけれど、ひたすらに大きくてものすごい衝撃だった。
「そっか。ごめんね、迷惑だったよね。ごめん」
「いや、こっちこそ…。なんていうか、その、…ごめん」
「ううん。大丈夫」
涙が出そうだ。でも、どうしても彼の前では泣きたくはなかった。
「私、あとから行くからさ、先に打ち上げに行っててよ」
最後の力を振り絞って彼にそういう。
「うん、…わかった。それじゃあ、また後で」
もう、私は彼の顔を見ることは出来なかった。
彼が見えなくなった瞬間、涙が枷が外れたようにボロボロと出てきた。
「ふっ…うっ…」
ああ、さっきまでうかれていた私がバカみたいだ。何が付き合えたらよ、何がいい雰囲気だったよ、なにひとつ良いものなんてなかったよ。
ああ、こんな時での雲ひとつなく晴れている空を恨む。八つ当たりだと心ではわかっているけど、そんなことでもしないと私の心のダムが崩壊してしまう。
ああ、なんでこんなに晴れてるの? こんな時に限って…。私が悲しんでるんだから雨でも降りなさいよ。
…雨?
「…siri、今日天気は?」
気がついたら、私はスマホを取り出してsiriに話しかけていた。
siriはいつもどおりの無機質な感情のない声で答えた。
『今日の天気は晴れののちところにより雨予報。大粒の雨が降ると予想されます。傘を用意するといいでしょう』
はは、晴れのちところにより雨って…
「予報当たっちゃったじゃん。傘なんて、用意してないよ…」
雨はまだ止まない。止む兆しすらない。
「あ、そうだ…。香奈恵たちに連絡、しないと」
でも、あんまり乗り気じゃないな正直。…連絡ぐらいはしないとダメ、か。
震える手を頑張って制してメッセージを打つ。
『雨が止まないのでいけません』
それだけ打って送信する。
雨は、まだ止まない。
「ところにより雨」
※前提として私の好きな人は先生です。
私の心はところにより雨です。
先生と出会った日は晴れでした。
出会ってからの毎日はずっと快晴でした。
でも、先生が他の人と笑っていたり、
遊んでいたり、話してたり、歩いてたり、
そんな姿を見ると曇りになります。
でも先生が話しかけてくれると
私の心はすぐに晴れになります。
ですが、夜になって寝る時目をつぶると
急に、この恋は叶わない
もし告白したとしても先生を困らせるだけだ
そう思う時があります。
その時私の心は雨です。
大雨です。
私の心はほんとに天気みたいです。
私の心にはところにより雨
それは決して悪いことではない
なぜなら、太陽みたいな彼は雨が好きだ
それが彼と私の唯一の共通点で
他は彼がいっつも上
勉強
スポーツ
面白さ
彼はいっつも輝いている
勇気なくて
LINEでしか話せない彼を
そっと彼を雨の中から見つめていようか
「雨だ」
そう誰かが呟いた気がする。
周りを見れば降り始めた雨を避けるように近くのコンビニや建物に駆け込んでいく人達。天気予報はところにより雨、だっただろうか。
ともかく俺も同じように家へ帰る足を少し早めた。
「おかえり、あれ雨だったの?」
帰宅すれば同棲中の彼女がパタパタと駆け寄ってきてタオルを渡してくれる。濡れたスーツジャケットの水滴を払いそっと持っていくので感謝を込めて頭をそっと撫でた。
「ん?」
そう不思議そうに見上げてくる彼女を見つめていれば満面の笑顔を向けてくれたので俺はこう呟いた。
「ところにより晴れだな」
お題【ところにより雨】
あなたを想う
郷の帰り道
足取り重く
暗い気持ちを胸に抱いて
強く
逞しく
生きる
そんな毎日が
太陽に
照らされるように
顔を上げて
前に進もう
また一歩
お題《ところにより雨》
涙をなくした君に雨を届けにいく。
夜明けに降る雨は優しく、君の元にふる。
――ほら。
笑顔が咲いた。
ところにより雨
「なんかどっちつかずじゃない?」
「何が?」
唐突にそう言い出した友人に話の主語がよくわからなくて、スマホから顔を上げて問いかける。
「天気予報」
「なに? 雨でも降るって?」
「いや、ところにより雨だって」
「ふーん」
「ふーんって、もう少し興味持ってよー」
むりー、と軽く言いながらスマホに目線を戻す。
たしかに先ほどから空は雲に覆われて、なんだか暗いし、雨が降ってもないもおかしなことはない。
それなのに、友人はむー、と唇を尖らせながら曇り空を見上げる。
「降るならちゃんと降ってほしいって思わない? 降るのかどうかわからない感じがどっちつかずだし、降るってわかってるなら色々用意できるけどさ、降らないかもしれないって思ったら……」
「思ったら? 新しい靴は履いてこなかったって?」
「うん、そう。……え、気づいてたの?」
「そりゃわかるでしょ。下手くそなスキップしてたし」
「下手じゃありませーん」
「ごめん、ごめん。スキップじゃなかった。よくわかんない不規則に飛び上がる歩き方だったね」
「バカにしてるでしょ」
「んふ、ごめん」
「まったく……」
「まぁ、空もそんな気分なんでしょ」
「え?」
「ところにより雨ってことはさ、降る予報の範囲より狭い範囲で降るってことでしょ? たまには空も大泣きするより一筋涙を流したくもなるんだよ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
そう強引に納得させて、帰る準備をする。どうせ降らないよ、と傘はあえて置いていくことにした。
降ったところできっと、その雨は涙みたいに優しいから。
《テーマ》ところにより雨
出かける間は降らないで欲しい
晴れてるところが多い
雨に濡れた姿が好きでした。
濡れたあなたの姿に心を奪われたから、もう一度見れば、心と共に取り戻してしまった正気もまた失えると思いました。
《山沿いの地域は、ところにより雨が降るでしょう》
用意周到なあなたでしたが、ここは山沿いではないので油断しましたね。傘を持っていなかった私とあなたは突然降り始めた生温かい雨に濡れることになった。
淡いグレーの陰に包まれた街を、真っ直ぐ落ちてくる雨粒を蹴りながら走っていた時。期待で私の胸は高鳴っていました。前を行くシャツの張り付いた背中の向こう側には、あの日見た美しいあなたが変わらずあると思っていました。
置いていかれても、またあの姿を見ればもう一度好きになれると思っていました。
嘘。本当はなんとなくわかっていたんです。
やはりダメですね。
思い出が美化され過ぎてしまっていたのかも。
飛び込んだ地下鉄に降りる階段のところで、「ちっ」て聞こえたでしょう?
私を待つあなたを見た時に、思わず舌打ちしちゃったんですよ。
あはは。
思ってたより、全然ダメで。
私が変わっちゃったのかなあ。
ごめんなさい。
悲しんでいるあの娘の側で
わたしも一緒に泣いている
渇いた心に沁み込むように
優しい空の色に染め上げる
静かに降る雨は気まぐれに
『ところにより雨』
お題「ところにより雨」
君の頬が濡れているのは、きっと雨の所為だ。
雨が降っている。
ベッドの上から出窓に頬杖をつく。膝の上には大きなぬいぐるみを起いて、しとしと、しとしと、空から地面に落ちていく細切りの雫を眺めていた。濡れた窓ガラスが景色を歪ませ、斑点のような水滴の中では世界が裏返る。自身の重みに耐えかねた小さな世界は窓ガラスを伝い、窓の桟にぶつかってあっけなく潰れた。
ねむい。
感慨もなく、そう思う。
雨の日は全てが億劫だった。頭の中の遠くの方で痛みを感じるし、薄暗い空は意識の覚醒を妨げる。予報外れの雨ならもっと最悪だ。たまった洗濯物は処理できず、向こう1週間の食材を手に入れることすら一苦労。こうなったら全てを放り投げて、ただベッドの上に大の字に倒れ二度寝を決め込むことしか至福の時間は訪れないだろう。
ぱたぱたと、外に誘うように窓が鳴る程に、意欲の扉は閉じていく。もう本当に今日という生活を捨ててしまおうかな。そう思ってかろうじて伸びていた上半身をスプリングの海に擲ったところで。
「にぁ~」
肩の力が抜ける、ずいぶんと愛らしい呼び声が耳に飛び込んだ。突っ伏していた顔を横に流せば、にゃ、と小さな音を放つ口がすぐ目の前にある。
「こはく」
いつの間に傍に来ていたのか、真っ白い毛並みが視界に広がる。ほっぺがつつかれるように冷たいのは、ふんふんと匂いを嗅いでいる猫の鼻先が触れているからだろう。その子は一通り嗅いで満足したのか顔を話すと、白い毛並みをすっと引いて、みぁ~と間延びする声を上げた。おすまし顔でしゃんと座る我が家の白猫様は、声に似合わず随分とエレガントだ。
「あ~、ご飯か……。………………あとちょっと待ってくれないかな」
頭をベッドにつけてしまったら、億劫さに磨きがかかってしまった。今日は連勤後の休日だし、あと5分の睡眠時間の延長を許してもらえないだろうか。そう、アディショナルタイムといったところだ。
しかし、自分に与えられたアディショナルタイムは、たったの10秒程度だった。
「あて、いててて、待って待ってこはく、ちょ、いたいって」
起きろと言わんばかりに、ぷにぷにの肉球が瞼をぐりぐりと押した。目を覆う薄い皮を持ち上げるように頑張りすぎて、ほんのりと出た爪がぷすりと瞼を刺す。流石に痛くて顔を持ち上げて逃げれば、視界が少しばかり滲んでいた。どうやらこの我儘猫のせいで、自分の視界まで雨もようになったらしい。
「まったくもう、しょうがないなぁ」
はぁ、とため息の後、伸びをする。ようやくベッドから足を下ろせば、満足そうな鳴き声が部屋に響いた。そのまま走って出ていく白い毛玉の後を追う。
今日の天気は雨。だけれど、自分の瞳を覆っていた雨粒は晴れ、気持ちを覆っていた雲も少しばかり晴れた。寧ろ、雨が降っているのは窓の外だけだ。お陰様で、ちょっとした家事くらいは穏やかにできそうだ。
我が家の愛猫様々だな、なんて呟いて、感謝の気持ちから餌やりに急いだ。
【ところにより雨】
あなたがあの人と一緒にいるのを
道の反対側から見てしまった
知らない笑顔
今日はいい天気だけれど
私の心の中だけ、ところにより雨