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ところにより雨


「なんかどっちつかずじゃない?」
「何が?」
唐突にそう言い出した友人に話の主語がよくわからなくて、スマホから顔を上げて問いかける。
「天気予報」
「なに? 雨でも降るって?」
「いや、ところにより雨だって」
「ふーん」
「ふーんって、もう少し興味持ってよー」
むりー、と軽く言いながらスマホに目線を戻す。
たしかに先ほどから空は雲に覆われて、なんだか暗いし、雨が降ってもないもおかしなことはない。
それなのに、友人はむー、と唇を尖らせながら曇り空を見上げる。
「降るならちゃんと降ってほしいって思わない? 降るのかどうかわからない感じがどっちつかずだし、降るってわかってるなら色々用意できるけどさ、降らないかもしれないって思ったら……」
「思ったら? 新しい靴は履いてこなかったって?」
「うん、そう。……え、気づいてたの?」
「そりゃわかるでしょ。下手くそなスキップしてたし」
「下手じゃありませーん」
「ごめん、ごめん。スキップじゃなかった。よくわかんない不規則に飛び上がる歩き方だったね」
「バカにしてるでしょ」
「んふ、ごめん」
「まったく……」
「まぁ、空もそんな気分なんでしょ」
「え?」
「ところにより雨ってことはさ、降る予報の範囲より狭い範囲で降るってことでしょ? たまには空も大泣きするより一筋涙を流したくもなるんだよ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
そう強引に納得させて、帰る準備をする。どうせ降らないよ、と傘はあえて置いていくことにした。
降ったところできっと、その雨は涙みたいに優しいから。

3/24/2023, 2:00:14 PM