雨に濡れた姿が好きでした。
濡れたあなたの姿に心を奪われたから、もう一度見れば、心と共に取り戻してしまった正気もまた失えると思いました。
《山沿いの地域は、ところにより雨が降るでしょう》
用意周到なあなたでしたが、ここは山沿いではないので油断しましたね。傘を持っていなかった私とあなたは突然降り始めた生温かい雨に濡れることになった。
淡いグレーの陰に包まれた街を、真っ直ぐ落ちてくる雨粒を蹴りながら走っていた時。期待で私の胸は高鳴っていました。前を行くシャツの張り付いた背中の向こう側には、あの日見た美しいあなたが変わらずあると思っていました。
置いていかれても、またあの姿を見ればもう一度好きになれると思っていました。
嘘。本当はなんとなくわかっていたんです。
やはりダメですね。
思い出が美化され過ぎてしまっていたのかも。
飛び込んだ地下鉄に降りる階段のところで、「ちっ」て聞こえたでしょう?
私を待つあなたを見た時に、思わず舌打ちしちゃったんですよ。
あはは。
思ってたより、全然ダメで。
私が変わっちゃったのかなあ。
ごめんなさい。
3/24/2023, 1:45:33 PM