『あいまいな空』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「あなたは誰?」
夕焼けに反射して貴方が誰だか分からないの。
目を凝らしながらまだ遠くにいる彼を見つめる。
「俺のこと忘れたのか?悲しいぞ、と」
その口調、私の知る限りでは一人しかいない。
でもそんなことはありえない。
だって私と貴方は住む世界が違うから。
一歩ずつ近づいてくる彼に戸惑いを隠せない。
「どうして…私の事、知ってるの?」
「知ってるぞ、と。お前のことも、お前の住む世界のことも」
目の前に来たあなたは恋焦がれてやまない人
「ここの方がきっとお前は幸せになれる。分かってて、それでも迎えに来た。」
「迎えにって…どうゆう」
太陽が沈む。
眩しかった景色も落ち着いて彼の綺麗な髪がよく見えるようになった。
「この陽が沈む前に俺の手を取ってくれ。」
有無を言わさない表情で見つめてくる彼。
「この場所は俺からはお前に触れられないんだぞ、と」
儚げに笑う彼に時間がないというのに見惚れてしまった。
そう言えば聞いた事がある夕焼けで薄暗くなると色んな事が曖昧になるって。空を見ると明るいような、暗いような雲ひとつなく空を見ているのかもあいまいだ。
今決めないと、きっと永遠に後悔する。
彼の手を取らない選択肢はない。
彼に近づき恐る恐る手を重ねると手を引かれ腕の中へ。
「間に合ったぞ、と」
でももう帰れもしないぞ、と少し申し訳なさそうに言う彼に返事をするように抱きしめ返した。
あいまいだった空はいつの間にか一面の星空に変わっていた。
-あいまいな空-
『あじさい』
「愛で包んであげる、アジサーイピンク」
「冷静沈着は海のごとし、アジサーイブルー」
「神秘の輝き、アジサーイパープル」
「無垢と純潔、アジサーイホワイト」
「自然を大事に、アジサーイグリーン」
「「「「「5人合わせて」」」」」
「「「「「あじさい戦隊 ハイドランジアカラーズ」」」」」
出張から帰ってきて、リビングに入ると、そんな名乗り口上が聞こえてきた。
息子が見ている特撮のものだった。
玄関でのお出迎えが無かったので、どうしたものかと思えばコレに夢中らしい。
思わず苦笑する。
とはいえ怒るつもりはない。
自分にもそういう時期はあった。
何が言いたいかと言うと――子は親に似るって事。
「ただいま」
息子に聞こえるように言うと、正樹がこちらを見る。
「おかえり」
挨拶を返すとすぐにテレビの方に視線を戻す。
父親よりもヒーローが大事らしい。
本当に父親似である。
「なあ、正樹。
父さん分かんないことあるんだけど、教えてくれる?」
正樹の隣に座って聞く。
出張に行く前までは、ずっと正樹と一緒に見ていたのだが、。
だが帰るまでに、新しいものが始まったようで何も分からない。
「いいよー」
お、好感触。
断られるかもと思ったが、教えてくれるようだ。
さすが俺の息子、すごく優しい。
よし、正樹と話しを合わせるためにも情報収集だ。
「コレ、なんていう名前なの?」
「ハイドランジアカラーズ」
「ハイドランジアカラーズ?」
あまり耳慣れない日本語に、思わず聞き返す。
「うん、アジサイの力を借りて戦うの」
「へー」
そういえば、英語でアジサイのことをハイドランジアと言ってたな。
アジサイの力を借りるというのは全く理解できないが、ヒーローってそんなものか。
深くは考えまい。
ともあれ名前は分かった。
他に気になったことを聞いてみる。
「レッド見ないけど、どうしたの?」
「レッドはいない」
「いないの!?」
まさかの事実に驚く。
レッドがクビに!?
凄い時代になったものだ。
「じゃあリーダーは誰?」
「アジサイピンク」
「ああ、なるほど」
赤がいないから何事かと思ったが、赤っぽいピンクがリーダーをするらしい。
思ったより冒険はしてないようだ。
きっと俺みたいなやつが騒ぐから、徐々に行くつもりだろう。
制作側も大変だな。
「これはアジサイブルー」
物思いにふけっていると、正樹が次を指差す。
なるほどアジサイと言えば、ピンクと青だ。
となると次は――
「これがアジサイパープル」
「なるほどパープル」
紫は珍しい気がするけど、アジサイモチーフだから必要なのだろう。
「パープルは、ピンクとブルーの子供。
未来から来たの」
「え?」
まさかの情報をブチ込んできた息子。
それってネタバレってやつじゃ……
いや、言うまい。
不用意に質問した自分が悪いのだ。
「レッドどブルーは、普段けんかばっかりだけど、実は二人とも好きなの」
「ふーん」
息子のネタばれは留まるところを知らない。
ありがちっちゃありがちだけど、それを知らずに見たかったなあ。
「これがアジサイホワイト」
「白いのもいるのか……
珍し――待てよ、通勤途中でもソコソコ見たことあるな。
意外とメジャーな色か?」
どうやら俺はアジサイの事を何も知らないようだ。
「それでもう一色が……」
「アジサイグリーン」
「グリーン?
緑のアジサイって、病気じゃなかったか?
ニュースで見たぞ」
「最近、病気じゃない緑色のアジサイあるんだよ」
「へー」
時代の変化ってすごいな
ランドセルみたいに、アジサイの色も増えているらしい。
そのうち黄色でも出てくるのだろうか?
「それでね、みんなパワーアップする」
「そうなんだ」
「ヴィンテージってやつ」
ヴィンテージ?
うっすらとだが、聞いた覚えがる。
たしかアジサイが好きな、妻から聞いたのだったか……
うろ覚えだが、咲いてる間に色が変わるってやつのはず。
思ったより設定が凝っているらしい。
ふと見れば、正樹の手元にはいろんな色の人形がある。
5色どころか、10体……いや20体以上あるぞ。
まさか色が変わった後のやつ全部あるのか。
正樹はいい子だが、ヒーローの人形がそろってないと不機嫌になる。
ねだるのは人形だけだからまだいいけど、高価なロボットや変身グッズをねだられた日には……
そんな日が来ないことを祈ろう。
◆
その後、俺は息子の怒涛のネタバレをくらいつつも、なんとか一話を見終える。
情報量の多さに、どっと疲れが来る
正樹はというと、騒ぐだけ騒いで寝てしまった。
よほど楽しかったらしい。
さて、正樹が寝たことで、俺の手が空いた。
出張から帰って来たばかりとは言え、家事を妻ばかりに任せるわけにはいかない。
少し手伝いに行こう。
そこに丁度良く、洗濯物済みの服が入ったカゴを、妻が持っているのが見えた
俺は正樹を起こさないように立ち上がり、妻に近づく。
「洗濯物干すよ」
俺がカゴを受け取ろうと手を差し伸べると、妻が焦ったような表情をする。
そんなに変なこと言ったか?
「いいわよ、あなた疲れてるでしょ」
「でもお前もずっと一人で正樹の面倒を見ていただろ。
俺は新幹線で寝ていただけだから、元気あるんだ。
洗濯物を干すくらいならするよ」
「大丈夫よ、あなたは正樹の面倒を見てくれていれば、それでいいから……」
洗濯カゴを渡すことを、頑なに拒む妻。
ここまで強情な妻を初めて見たが、何かあるのだろうか?
例えば隠し事とか……
そこで俺はピンときた。
俺は、洗妻を尻目に、ベランダに一足先に向かう。
そこにあったのは……
「すげ、アジサイがたくさん」
ベランダには所狭しと並んだアジサイがあった。
コレ10鉢くらいない?
こんだけ買えばお金もかかったに違いない。
俺は後ろを振り返ると、妻が膝をついてうな垂れていた。
「正樹と一緒に番組見てたら、アジサイが欲しくなって……」
そういえば妻はアジサイが好きで、欲しくなると我慢できないタイプだったな。
そして正樹も、ハイドランジアカラーズの人形を集めていた。
何が言いたいかと言うと――子は親に似るって事だ
本当ならば、余計な出費に怒るべきなのだろう。
だが、俺にそんな気は無かった。
そんな気が失せた、というのが正しいか。
俺はもう一度ベランダを見る。
ベランダには、たくさんのアジサイが綺麗に咲き誇っていた。
あいまいな空と、イラつきがちなまこと
「ねえ、まことー、洗濯物取り込んで畳んでくれない?」
「、、、」
「ねえ、聞いてんの?返事は?」
「はいはい後でするよー」
「後でじゃダメ、だっても」
まことは母の声を耳からシャットアウトした。
最近母にイラつくことが増えた。
まことは高一なのでちょうど反抗期の時期だが、
自分では反抗期じゃないと思っている。
なぜなら、まことの思う反抗期とは、理由もなく親にイラつき、当たり散らかす時期のことだからだ。
それに対して、最近まことが母にイラついたことといえば、飼い犬のしつけの仕方について、まことの意見をだるそうに聞かれたことだった。
正当なルートを辿ってと言えば変な感じだが、
真っ当にイラつくことをされてイラつくのはごくごく普通のことである。
頻繁に親にイラつくからと言って、必ずしも原因が子供の反抗期にあるわけではない。
さらにもっと言えば、原因が子供にあるとも限らない。
原因は、親にあるかもしれないのだ。
反抗期になるぐらいの年齢の子供をもつ親は、一般的に40,50代だろう。
そのぐらいの年代になると、アドバイスしてくれる先輩のような存在が減っていく。
だから、自分の欠点に気づく機会が減り、結果、欠点を直すことが難しくなるのだろう。
そして、まさに今、まことの母がそうだ。
自分の意見とは異なる意見を耳を傾けようとしない、聞くとしてもあからさまに嫌そうに聞く。
その欠点を指摘しようにも指摘したところでその話を聞こうとしないのだから一生改善されない。
負のループである。
年を重ねるとどんなに優しい人間でもだんだん頑固になるらしい。
まことの母も徐々に頑固になってきている気がする。
人の話を聞かない今でさえまことは困っているのに、
これからさらに頑固になられると、、、
想像しただけでうんざりしてゲボをしてしまいそうだ。
まあ、母という生き物は、血がつながっているだけの他人である。
たとえ親だとしても、なんか馬が合わないことはよくあることだ。
そこは割り切っていくしかないだろう。
なぜここまで相性が悪いのか、それは、、、
まことが深く考えを巡らせようとした時、、、
「ことっ!まことっっ!!」
「えぇ?」
「えぇ?じゃないでしょ、むかつくわー。さっきからなんかっい呼んでも返事しないし。そもそもさ、まことは」
「で、何言いにきたの?用があるんでしょ?」
母が小言をまくしたてる気配を素早く嗅ぎ取り、まことは母の口を遮って問う。
「ちゃんと最後まで話聞いてよ。はぁー。」
そうは言っても母の小言を聞いていたらキリがない。
非効率的なのだ。
「、、、」
母は、黙って要件を待っているまことを横目で見つつ、どこか呆れた表情で言った。
「もうすぐ雨が降りそうなの!早く洗濯物して!」
「あぁ、、そうなんだ」
「はぁー。さっきも言おうとしたのにあんた、聞かなかったじゃん。ほんと、人の話聞かないんだから。」
それはこっちのセリフである。
母が話をするときは、良い話だろうが悪い話だろうが話が長いのだ。
だから、せっかく良い知らせでも、途中で聞く気が失せてしまう。
長い付き合いなので、そこらへんは対策済みである。
良い知らせのような雰囲気を感じたら、話の最初だけ集中して聞き、まことに関係ありそうなら続けて聞く。
なさそうならシャットアウトという方法だ。
なので、さっき雨が降りそうだと言っていたとしても、まことはまだ洗濯物をしたくないので、まことに不利益な情報として処理されたのだった。
まあでも、この場合は母は悪くない。
「ごめん、聞いてなかった。今からするわ」
まことはすっと立ち上がり、ベランダへ足を出す。
母はなぜか真顔で洗濯物を取り込むまことを目で追う。
あまりにも目線が執拗なので、まことは我慢ならず、尋ねた。
「さっきからなに?」
「ん?うーんとね、まことってやっぱよくわかんない子だなあって思って」
「はぁ。あっそ。てゆーか、外晴れてきてんだけど。雨降らんじゃんか」
まことが不満そうに訴えると、母はやっとまことから目線をはずし、外へ向けた。
「あー、ほんとだ。ま、いーじゃん。私のおかげで早く洗濯物取り組めて。」
「、、、」
はぁ。こいつ調子良いな。
よくもまあこんなに都合良く解釈できる。
ま、母とは生涯付き合っていかなければならないのだ。
いちいち反応してては疲れるだけである。
反応もそこそこに、まことは洗濯物を畳み出した。
ふと、窓の外を見上げる。
はぁ?結局曇りなんですけど。
晴れるか雨かはっきりしろよ。
白黒はっきりしろよもー。
まことは空ごときに対して腹が立っている自分に気づき、また自分にもイラついたのだった。
あいまいな空、、
一番最初に思い浮かぶのは晴れるか雨が降るか分かりにくい
あいまいで体調が悪くなりやすい曇り空
湿気でじめじめして生温い気温、、
蒸し暑さで汗は出るし気分はあまり良くない
私にとっては少しばかりマイナスな印象をもつ空模様
そんな空模様でも嫌いにはならないんだよでも愛せはしない
少し嫌なだけ 自分の気持ちを上手くコントロールできれば
あいまいな空もやがて愛せるようになるのかな
ふと目が覚めて空を見上げてみた。
「綺麗な朝日だなぁ」
そう呟いてバイトに行く準備をする。
お気に入りの猫のアナログ時計は6時を指している。
まだ家を出るには早すぎる。
早起きは三文の徳得とはよく言ったものだな、とニヤニヤしながらコーヒーを入れた。
こんなゆっくりな朝も悪くないなぁ、と思いつつスマホを見る。
バイト先から電話が来ていた。
「何の用だろう」
不思議に思って折り返す。
呼出音が切れて、次の言葉にびっくりした。
「おい、夕方だぞ!なにやってたんだ!」
ああ、なんて曖昧なんだろうか。
雨が降るのか降らないのか。
濃い灰色の空は判断に困る。
あいまいな空に対応するため、荷物が増える。
折り畳み傘が入る大きめの鞄。
使用しなかったときのがっかり感が嫌なので、むしろ雨が降れと願う。
今日の空は少し曖昧だ。
晴れでもないし曇りでもない。「雨かな?」と思う。
こういうときは外も出たくない。でも読書するのも違うと感じる。頭がいたい。なにもしたくない。
久しぶりにテレビを見て、ゆっくり寝ようと思い付く
何時まで寝れるかな~? 楽しみ!
【あいまいな空】
しもた
一日飛ばしちまったな
さてさて
空
降るのか降らないのか
晴れるのか晴れないのか
モヤッとする
さすがに自販機の前で
あたたか~いとつめた~いを悩む事は無くなったけど
昔
心奪われたとあるヒーローを思い出す
人体模型のような左右非対称な姿
典型的な日本人体型のアンドロイド
善悪を判断する回路が未完成のまま
完成した回路を手に入れ
人間に近付く事を目指すが
時に善と悪の狭間で揺れ動き苦しむ
しかしその姿こそ
人間ではなかろうか
みたいな事だったと思う
モヤッとしても良いとするか
テスト期間で引退試合が近ずいてきて
気分が落ちている時
あなたがいてくれたらと何度も思う
卒業してしまったあなた
私はあなたに想いを伝えられなかった
気分が下がるようなどんよりとした曖昧な空をみて
あなたのことは忘れないしいつまでも大好きだよ
そんなことを思いながら
また一歩進んでいく。
#あいまいな空
今、いい感じの女の子がいる。
いわゆる、友達以上恋人未満ってやつ。
でも、その子には、振られたくない。
振られるぐらいならこのままで構わない。
なんて臆病な俺。
ふと、空を見上げる。
雨が降るのか、降らないのかわからないあいまいな空。
天気のアプリを見ても、見るたびに予想が変わっている。
降るなら降るで構わない。
だから、はっきりしてほしい。
恋愛も
天気のように思えたなら
俺たちの関係も変わるのかな。
もしこのまま晴れたなら
少しだけ勇気を出してみようか。
いつもは快晴の空模様が、今はなんだかあいまいな空をしてた。断じて雲がかかっているとか、雨が降りそうとかそうじゃなくて、何色とも言い難いそういう意味での『あいまい』だった。
この空は、ユートピアが始まってから初めてのことらしく、権力者集団が住むタワーの上層部の方では偉い人たちが会議したり、どうにかいつもの空模様に戻ったりしないか色々とやっているらしかった。
だけれども、ボクはあまりにも底辺だから全然そんな会議に出席するどころか、何かそれについて話をすることすらはばかれるような状況でとてもじゃないけど言及はできなかった。
だから、何も言わなかったというより、言えなかったのだ。
「演奏者くん」
いつものように広場のピアノに腰掛けていた彼に声をかけると、いつものように振り向いてボクに笑顔を向けた。
「やぁ、権力者。僕のピアノを聴きに来たのかい?」
彼はやけに上機嫌で言った。ボクが頷けばそのまま演奏が始まる。
いつもよりも少し明るい曲が流れ始める。前に聴いたことがある曲だが、大分アレンジがなされているようで音数が増えて、深みのある音楽が生まれてた。
いつ聴いても、どんな曲を聴いても、絶対に綺麗だななんて感想が浮かぶのはボクがあまり音楽に詳しくないからではない気がする。どんなに暗い曲でも、何故かそこに透明感を見いだせる。そんな不思議な演奏を彼はずっとしていた。
しばらくして曲が終わった。いつもの通りに拍手をすると、彼はこちらを向いて軽く一礼したあと、ボクが座っていたベンチの隣に座った。そしてボクの肩を掴んで目線を合わせられる
「昨日は?」
「住人の監視に手間取ったあげく、報告書の書き直しをさせられた」
「反省は?」
「してるよ、もちろん。ボクだって毎日君の演奏聴きたいもん」
そういうと彼は笑った。肩から手を離して右手の人差し指を天に向けてくるんと回すと、空は快晴に戻った。
「きみが反省してるなら許してあげる」
軽快に笑っている姿は悪魔のように見えなくもないけど、ボクの目の前にいるのは元『天使様』だった。
自分が元天使で今は堕天使みたいな感じなんだ、なんて話をされたのは少し前の話だった。なんてことないように、凄い過去を語っていった彼は最後に言った。
「僕はきみのことが好きだから付き合わない?」
全然話の流れと違った。マジで意味わからなかった。ボクも好きだけど、でも身分が違う。断ろうとすれば監禁されかけ、ボクの立ち位置について調べあげたらしいことを淡々と述べられたあとに『身分は確かに違うかもしれないけど関係ない。好きだから付き合おう。断ったら⋯⋯⋯⋯』なんてことを言われた。ほぼ脅しだけど、惚れた弱みなのかなんなのか、そんなイカレ狂った告白にボクは応じてしまったのだ。
さて、彼と恋人になったわけだけども、演奏者くんはやたらと嫉妬がやばかった。誰かと話してるのを見るのが嫌だ、とかは言わなかったが、彼と過ごす時間を短くすると、彼は嫉妬心を何かにぶつける。今回はそれが『天候の不安定』だったらしい。
身近に済むもの、できれば弊害を及ばさぬものにして欲しいけど、そんなことを言ったとこで聞くわけがなさそうな彼だけど、ボクはそれでも演奏者くんのことが好きなのだ。
恋は盲目、ってマジなんだな、なんて思った。
ふたり乗りした君の背中で
轟き光る雷を見た
あの夕方のことをいつまでも覚えている。
あじさい
この季節になるとモーリーさんの邸宅の庭
には、鮮やかな赤い紫陽花が所狭しと咲き
誇っていた。
毎朝僕が配達に訪れると、いつも奥さんが
その花たちに水をやっていて、「おはよう
」と言って笑顔で新聞を受け取ってくれた
。
どこか優雅でいながら、それでいて屈託の
ないその朗らかな笑顔に、僕は一日のはじ
まりを幸せな気分で迎えることができた。
その奥さんが亡くなってから一年が過ぎた
。
殺人だったらしい。
去年の雨の朝、いつものように自転車でお
屋敷に向かうと、門前に規制線が張られた
くさんの警察官が出入りしていた。
「君、ここに配達にきてる人?」
「はい」
幾つか事情を訊きたい、と言った刑事らし
き人に付き添われ、僕はパトカーに乗せら
れた。
そこでモーリー夫人が殺されたことを知っ
た。
ひどく頭を揺さぶられたような気分になっ
て、何を訊かれたかは憶えていない。
ただ、雨粒で濡れた車窓の向こうの、彼女
が大切にしていた真っ赤な紫陽花たちが、
もの悲しそうにパトカーのランプに照らさ
れていたのは目に焼き付いている。
ほどなくして、モーリー家のご主人が容疑
者として逮捕された。
僕は旦那さんのことはよく知らない。会っ
たことも見たことすらなかった。
でも、街の人たちはおしなべて、この街一
番のお屋敷に住む夫妻に対して良い印象は
持っていなかった。
郊外のオイル工場の社長をしているご主人
は、常に若い女をはべらして滅多に家に帰
らなかった…だとか、いつも夫婦喧嘩が絶
えなかった…だとか、奥さんは奥さんで他
に男を作って夜になると出掛けていった…
だとか……。
「事件のあったあの夜ね、あたしゃ見たん
だよ。奥さんと旦那さんが庭先で言い合い
をしてるとこをね。
奥さんは真っ赤な綺麗なドレスを着てね、
そう、大きなトランクケースを持っていた
わ。あれは…そう、きっと家出を決意して
いたに違いないわ。
旦那さんはぐでんぐでんに酔っていてね、
奥さんの髪を引っ張って無理やり家の中へ
引きずり込んでった。
そのあと、きっと刃物かなんかで奥さんを
……。ああ!考えるだけで恐ろしい!」
得意先のお婆さんは、僕と顔を合わせる度
いつも同じ話をしていた。
この小さな街で起こった大事件に、誰もが
勝手に噂話を流布していた。
そのご主人がさして間もおかず釈放された
という話は真実だ。
新聞には続けてこうあった。
重要な証拠のない容疑者を当局は起訴する
ことに躊躇った、と。
それからあっという間に一年が過ぎた。
この街で起きた殺人事件など、すっかり人
々は忘れてしまったかのように、当時のこ
とを口にする人はほとんどいなくなってい
た。
モーリー邸の門は閉めきられたままで、手
入れをする人を無くした庭は草が生え放題
になっている。その奥に、奥さんが育てて
いたあの紫陽花。
あの頃とはぜんぜん違う花のように、くす
んだ青色の花びらは元気がなくこじんまり
としていて、まるで奥さんの帰りを待ちわ
びているように見えた。
「お花に興味がおあり?」
ご夫人と最初に会話したときのことを憶え
ている。思い出すだけで今でも胸が高鳴っ
てしまう。
赤い紫陽花があまりに綺麗で、間近に寄っ
て覗き込んでいたとき、突然後ろから声を
掛けられて飛び上がった。
「すみません!お庭に入り込んでしまって
」
奥さんは穏やかに笑って白い歯を見せた。
「いいのよ。それより、可愛らしいでしょ
、この紫陽花たち」
「はい、とても…」
初夏の朝日をいっぱいに浴びながら精一杯
咲き誇る紫陽花を眺めて、彼女は得意気に
話し出した。
「ここまでに育てるにはちゃんと面倒を見
てあげないとなの。少しでも手入れを怠け
ると、この子たちきっと拗ねちゃうのね、
すぐに萎れて色も変わっちゃうのよ」
奥さんの白くて細い指先が、紫陽花の赤い
花弁にそっと触れる。まるで愛しい我が子
の頬を撫でるように。
「お花も人と一緒。目を離してしまうと寂
しがって思いきり咲けなくなる。
見ていて欲しいし、たまには声もかけて欲
しいのよね。可愛いね…って」
そのときの彼女の物憂げな顔を、僕が見た
のはこれきりだった。
奥さんは我に返ったように僕に向き直ると
、にこやかに、それでいてどこか僕を試す
ように言った。
「あなたに育てられるかな?紫陽花」
奥さんはもういない。
あの鮮やかで生き生きとした赤い紫陽花は
もう見ることができない。
仕事を終えた僕は、僕の住む安アパートの
部屋でレターペーパーにペンを走らせてい
た。
何をどう書いたらいいのかわからなかった
けれど、それに何の確証もなかったけれど
、思い付くまま短い文を殴り書きして封筒
に入れ切手を貼って街角のポストに投函し
た。
宛先は地元の警察署。
難航していたモーリー夫人殺害事件の捜査
が、一転して犯人逮捕に動いたのは夏を迎
える7月の頭だった。
きっかけは匿名からによる一通の手紙から
だった。
捜査本部の会見の場で、記者にせがまれる
ようにして、警察はその内容を公表した。
『邸宅の庭の、紫陽花の根本を調べてくだ
さい』
ただその一文だけだった。
凶器とみられるブッチャーナイフが発見さ
れたのは、この手紙の通り紫陽花が植えて
ある土のなかからだった。
さらにそのナイフには夫人の血痕と、この
邸宅の主人で夫人の夫であるアルフレッド
・モーリーの指紋が浮かび上がった。
証言台に立つ彼の発言を、メディアはこぞ
って大きく取り上げた。
あまりにも利己的で一人よがりな言葉の羅
列が、視聴者の怒りを煽ったからだ。
「彼女のような美しい女性をどうして手放
せようものか。そばにいて変わらずにそこ
にいて欲しかっただけなのだ!」
朝の配達が終わり帰宅した僕には日課があ
った。
それは、モーリー夫人から株を分けてもら
った紫陽花に水をやることだ。
でも、僕の紫陽花は一向に赤くはならない
。
毎日こうして水をやって、可愛いねって声
をかけているのに、ずっと青いまま。
それでも、いいんだ、これで。
これが僕の紫陽花。
奥さんのそれのように、赤く大きく立派な
紫陽花ではないけれど、それでもちゃんと
一生懸命咲いている。
小さくても、僕らしい紫陽花。
来年も、これからもずっと、綺麗に咲かせ
てね。
僕は指先で、紫陽花の植わっているブリキ
の鉢植えを『コン』とはじいた。
#003
曖昧な空
夕方赤く広がる
海辺青く広がる
星黒く広がる
月も太陽も夕日も全部違うのに全部同じ空
遠く雷鳴が轟く。
学校帰りの歩道で立ち止まり、君に、
「ずっと好きだった」と想いを告げた。
困ったような、怒ったような表情で、
「雷が来る前に帰ろうよ」
君がそう言って、走り出す。
家に着いてまもなく、激しい雨が降り出した。
濡れずに済んだのに、心が疲弊して萎んでく。
別れ際、
「友達でいたかったんだけどな」なんて、
後悔しか残らないような言葉を聞いた。
雨はしばらく降り止まない。
友達のままでいれば幸せだったのかな。
曖昧な関係のままで、ただ一緒に過ごせれば。
いつだって一番そばにいた。
君となら、何だって出来る気がした。
友達のままでは出来なかったことだって、きっと。
だけどもう、友達にも戻れない。
雨が上がり、雲の隙間から夕日が差し込んでくる。
それでも遠く雷鳴は続き、
安息と不安が入り交じるような時間だった。
夕焼けと暗雲が描かれた、あいまいな空のキャンバス。
堪えきれず君に、「全部嘘だよ」とメールを送る。
読んで欲しいけど、読んで欲しくないメール。
心も曖昧で、君と友達でいたいのに、友達じゃいられなくて。
過去一勇気を振り絞った一日が終わろうとしてる。
君と朝、おはようと挨拶を交わした時は、
こんな切ない夜を過ごすことになるとは思いもしなかった。
夜が来て届いた、君からの返信メール。
「私も全部嘘だよ」
明日の朝も、君に笑顔でおはようを言えるだろうか。
#あいまいな空(2024/06/14/Fri)
あめ、降るかな?
大丈夫、晴れるよ たぶん
いいかげんな事言って
だってさ、雲の色そんなに黒くないし
まあ、そうね 小さな折り畳み傘で良さそう
そうそう 日傘にもなるのあったでしょ
いつか買ってくれたもんね
うん あれ
なんだか可愛いの うれしかったよ
選ぶ時ちょっと恥ずかしかったけど
そうだったの?ありがとう
きっと喜んでくれると思ったから
らっきーカラーだったの だから余計に
それは良かった(知ってた)
***雨でも晴れでもなかったけど相合傘
一見雨が降りそうで降らなそうな、
街行く人を困らせるような天気でも、
時々雲の間から差す光の雨が
綺麗だったりする。
あいまいな空
晴れてると言えば
晴れていて
曇ってると言えば
曇っていて
どっちなんだろうと
どうでもいいようなことを
ふと、考える
まったく
空までもハッキリしないんだから
こちら側の判断でいいのか
本当は正解があるのか
狐の嫁入り
朧月夜
天使の梯子
あいまいは
なんて素敵で
魅力的だろう
実はそういう空が
私は好きなんだ
『正解なんてないんだよ。』
彼が言う。俺はその言葉に心を奪われた。
『生きたいのか死にたいのか、あいまい過ぎだよ。』
彼がため息を付く。彼は死神らしい。そして俺は、彼に余命宣告をされた人間だ。元々この世に未練はなかった。それでも、死ぬのは怖いものだ。
「すみません。潔く死ねなくて。」
『君は謝らないで良いよ。僕もごめんね。勝手に余命決めて、死ねなんて言っちゃって。』
俺たちの間に沈黙が流れる。気まずい空気の中、俺が口を開ける。
「死神さんにとって、生きるって何ですか?俺、いまいち人生に意味持てなくて。」
『そうだなー。人生って人間の数だけあるんだから、意味なんてないんじゃないか。きっと正解なんてないんだ。』
彼の言葉で一気に腑に落ちた。俺は今まで、何を悩んでいたんだろう。生きる事も死ぬ事も意味なんてない。ただの人生の一部でしかないんだ。
「ありがとうございます。俺は自分が正しいと思った人生を生きます。あいまいなままは辞めます。」
俺がそう言うと、彼は微笑んだ。
『大丈夫?怖くない?』
「はい。もう大丈夫です。これは俺が選んだ、正しい道ですから。」
この道は正しい。あいまいではなくはっきりと言える。俺は屋上から空を見る。昼なのか夜なのか分からない、あいまいな空。そんな空の中に、俺達は消えていった。
6月中旬の、梅雨なのかそうじゃないのか、あいまいな空…
今日は夏のような暑さだった。しかし、天気予報によると、明日は東日本の太平洋側を中心に、ねるねるねるねのような天気になるという。