「ごめんね」』の作文集

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「ごめんね」』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど

5/29/2023, 11:18:55 PM

「ごめんね」

今日でこの思いと強制的におさらばだ。
伝える気なんてなかったのに、泣きながら言葉を口にしていた。
明日から僕らはもう会うことはない。だから今日、きみを見送って僕の初恋は消化不良で僕の中でゆっくり溶かして消えて癒えるのを待つつもりだった。
なのに、きみが僕に笑いかけるから、きみが僕ともっとお話したかったなんて言うから。僕だってもっときみのそばにいたかった。

「きみが好きなんだ。迷惑なのもわかってる、でも、ごめんね。下心ありでそばにいてごめん。僕なんかが好きになって、ごめん」

きみの顔なんて見てられない。伝えてしまったしかも泣きながら謝りながら。そして僕は振られる。でもきっとこれはこれで良かったのかもしれない。振られてしまえば僕の中で消化不良にならずにすむ。

「ごめん……」

僕の恋はこの瞬間に終わった。

「めちゃくちゃ嬉しい」

と思った。

「お前がその色々抱えて覚悟を決めて告白してくれたのに、その嬉しくてニヤけて…いや、その、馬鹿にしてるとかじゃなくて…あぁ!もう!泣くなよ、俺もお前の事が好きなんだよ!!!」

「ちがっこれはっ嬉しくっ」

「はぁ〜それにしても俺たち両思いだったんだな…」

「そう、だったんだね」

「ずっとお前のこと見てたのにな、気づかなくてごめんな」

きみの色んな言葉が僕の中で消化不良になりそうなほど降ってきて僕は今胸焼けで笑っている。

5/29/2023, 11:18:24 PM

ーごめんねー
さほど重要でない時は
すぐに謝れるのに、
本当に重要な時に
すぐ謝れない。
きっと「ごめんね」だけじゃ許されない。
分かっているけど言えない。
今、こうして余計な事を考えてしまうのも、
私が若輩だからだろう。

5/29/2023, 11:13:32 PM

嫌い。
謝罪なんて頼んでない。
何度も繰り返して謝って、
向こうは楽なもんだね。
謝ってどうするの?
反吐が出る。
何もできないから、
頭下げて満足してさ。
空っぽの言葉ばかり、
私をバカにしてるの?
ただ口で謝るだけ。
人をまるで不良品みたいに。

……うん、もう大丈夫。
聞いてくれてありがとう。
いつもいつも本当に――。


~「ごめんね」~

5/29/2023, 11:11:56 PM

明日の自分ごめん
また寝る直前までスマホ見てしまった
睡眠の質が下がって朝起きるのダルくなっちゃうから
先に謝っとくよ

5/29/2023, 10:54:40 PM

僕は今日も船を漕ぐ。3年前、この海で姿を消した彼女を探して。

つまらない喧嘩をした。この先に待っていた僕らの未来を考えたら、本当に小さくてくだらないことを言い合った。

ずっと島で育ってきた彼女にとって、この青い海とは離れがたいものだったのだ。結婚したら本土で一緒に暮らせるだなんて勝手に思って、僕は彼女に酷いことを言ってしまった。


「もうここに戻ってこれないなんて、そんなの絶対に嫌よ。」


泣きながら飛び出した彼女が向かったのは、確かにこの海だ。僕はあとを追いかけたのに、彼女の姿はどこにもなかった。

呆然とする僕の前にはただ、恐ろしいくらい静かに、暗がりの海が凪いでいた。

あれから僕は島に残って、船を漕ぎつづけている。君は、僕を許してないんだろう。だから帰ってこないんだ。この海のどこかで、君はひとり息を潜めているのに違いない。

今日は、いつもより穏やかな曇り空が広がっていた。冷たい風が心地よく、このまま君を探してどこまでも遠くにいってしまいたい気がした。

ふと、船の底が揺れる。
あ、と思ったときには、僕の身体は水中にいた。

青空のように遠のいていく水面に、透明な泡が吸い寄せられる。息ができなくて、重い身体はずんずんと暗い底に沈んでいく。

あがこうとする本能とは裏腹に、意識は自分を手放していく。僕を押し潰してきた後悔とともに。



ごめんね



懐かしい彼女の声が、聞こえた気がした。

5/29/2023, 10:52:09 PM

#90 私は悪くない

「ごめんね」と言われても、
この傷が消えることはなく
もう元には戻らない

おまけに、
謝ってるのにに許せない自分が
ちっぽけに見えてしまって苦しくて
何だか悪者になった気分になる

だけど、私は悪くない
言い聞かせながら自分を抱きしめた。

お題「ごめんね」

5/29/2023, 10:49:52 PM

ここから出ることにした

晴れ晴れとしたあなたの顔

力強く前に踏み出したあなた

あなたの未来はどんどん広がっている

未知の世界にワクワクしている

あなたは一人でたちあがって

自分の力で前にあるき出した

心からの尊敬と応援を

あのとき力になれなくてごめんね

後ろ姿をまぶしく見送る

自分の不甲斐なさと

どちらにでも進める自分の未来を思う

今ここにとどまるしかない自分にもごめん

きっとあるき出すから

自分を信じて 

今日も自分のすべきことをたんたんとやろう

(ごめんね)

5/29/2023, 10:46:29 PM

ときどき彼を思い出すのは、初恋の相手だったからだろうか。
 思い出補正をかけても、とにかく生意気で人をからかうのが大好きだった、やんちゃな彼。
 わたしからすると、そのやんちゃぶりがとても輝いて見えていた。たぶん正反対の性格だったからだと思う。前に出るのが苦手で、はしゃぐのなんて恥ずかしくてできなかった。友達も少なかった。

『お前いっつも暗いよな~。なに考えてっかわからねえし』
『……ごめんなさい』
『いや、謝られても』

 たまに気まぐれを起こして話しかけてくるときもあって、だいたい茶化すような内容が多かったけれど、単純なわたしは「話しかけてくれる」という事実だけで嬉しかった。
 それから彼と他のクラスの女子が付き合い始めた、なんて噂が流れはじめて、気づけばわたしは初恋を終わらせていた。


「よ、久しぶり」
 成人を迎えてからの同窓会で、隣に座ってきた彼はわたしのことを覚えていたようだった。
「……わたしのこと覚えてたの?」
「まあな。雰囲気はだいぶ変わったなって思ったけど、顔は結構面影あるぞ。ってかお前も俺のこと覚えてたんじゃん」
「そりゃあ、ね。結構からかわれたし?」
「……いや、それはごめん。悪かったと思ってる」
 まさか謝られるとは思ってなかったから、逆に調子が狂ってしまった。
 あれからわたしも彼も歳を重ねて、子どもではなくなった。少しでも性格が変わっていてもおかしくない、けれど。
 急に、ここだけ空気が変わってしまった。単にわたしが意識しすぎているだけ? 隣を窺うのもちょっと勇気がいる。

「俺、実はお前のこと好きだったんだよ。たぶん信じてもらえないかもだけど」

 口に運んだ料理を詰まらせそうになった。軽く咳き込むと、遠慮がちに背中をさすってくれる。
「い、いきなりな告白すぎない?」
「言えないまま卒業しちまったのが結構、つらかったんだ」
 ゆっくり視線を向けると、眉尻を下げた表情が待っていた。これは嘘を言っているようには見えない。
 呼吸を落ち着かせる意味でも、一度深く息を吐き出す。
「……あのとき言ってくれてたら、いろいろ、変わったかもね」
 今頃言われても、わたしの気持ちはもう、あの頃と同じには戻れない。それはたぶん、彼も同じはず。
「……だよな。うん、ごめん」
 ――でも、信じてくれてありがとう。
 付け足したようなお礼に、少ししてから隣を見ると、もう彼の姿はなかった。


お題:「ごめんね」

5/29/2023, 10:33:08 PM

「ごめんね」


この世に呼んでごめんね。
私が先に死んでしまうだろうに、
呼んだ側が先にいなくなってしまう。

私がいなくなった時に、あなたが1人でも生きていけるようにしてやりたいが、何をどうするのか、まだこれからだ。

やりたいことはあるのか。
できることはあるのか。
楽しみな未来だけど

私みたいな人を増やさないよう
もし自分以外に関心が無い・薄いなら
無理に結婚したり、誰かといたりしなくていい。
その誰かが負うものが大きすぎる。

何もかもお前のせいではないけれど
負うのがお前でごめん。

5/29/2023, 10:26:10 PM

お母さんもお父さんも僕を産んでくれてありがとね。
楽しいこともあったなー
でも、辛いことも多くて
心が追いつかなくて
心臓、どきどきして、もやもやして、不安になって
悲しくなっちゃって
でも相談できなくて。
僕って勇気ないなー
お兄ちゃんなんて言うかな
お兄ちゃんは優しかったなー
泣いてくれるかな。
あの子は大丈夫かな。
僕がいなくなったら
また蹴られちゃうのかな
助けてあげたいけど
もう、無理だぁ
(お母さんからLINE)
「李玖?どこにいるの?」
「お母さんごめん」
「なに?」
「もう、やだよ」
「なにかあったの?」
「ううん。なにもないよ!」
「そう。17時には家に帰りなさいよ」
「うーん。どーかなー笑」
「どこにいるの?」
「ちょっと散歩してるよ」
「そうなの。気をつけてね」
「お母さんありがとう」
「ん?なにが?だいじょうぶ?」
「もう、たえられな…」





僕は飛び降りた。
大好きだった家の屋上から。
お母さんお父さん。お兄ちゃんも
ありがとう。
大好きだよ

5/29/2023, 10:18:30 PM

「ごめんね」
そう言った君はどういう気持ちだったんだろう。
罪悪感?それともざまぁみろとか思ってたのかな。
謝罪なんていらなかったのに。
私が惨めになっていくだけなんだよ。

5/29/2023, 10:06:29 PM

「ごめんね」



彼氏と別れた。


理由は価値観の違いだった。


今までも価値観の違いで喧嘩はしていたけど。


今回はもう耐えられなかった。


でも、時間が経つにつれて、思い出が。


あの時に戻りたいって思わせてくるの。


最後までわがままでごめんね。


今日も自分に嘘をつく。

5/29/2023, 10:04:24 PM

「ごめんね」
僕はこの一言を言うのがどうしても苦手だ。
どうしても適当な謝り方になってしまう。
だって、謝ったら自分のほうが確実に悪いと言わされてるような気がするから。
自分はあまり悪くないのに相手の方が良くないのに何故僕から謝らなければいけないのか、それが分からなくてどうしてもその一言が口から出せない。
たったの4文字なのにね。
適当な謝り方ですべてを終わらせるような僕にとっては絶対に言えない言葉。
どうやったら、言えるようになるのだろうか。
部屋で一人自問自答。
どうやったって答えなんかでないのに、いつも一人で、考える。
部屋で一人この言葉を言う。
「ごめんね」
でも、喧嘩していざ言うときになると言えなくなる。
たった短い言葉、すぐに終わる言葉が長い言葉のように聞こえてしまう。
こんなのただの臆病としか言いようがないよね。
何かしら理由をつけて、この言葉を言わない。


どうしたら、この言葉が言えるようになるのかな?

#17

5/29/2023, 10:02:41 PM

「こんな話してごめんね。」
 
 自分はどう言えばよかったのだろう。
 聞いて欲しかっただけかもしれない。
 それでも何かを言わないといけなかった。
 でも、結局自分は何も言わなかった。
 いつも通り。

 それから、彼女は引っ越してしまった。

5/29/2023, 10:02:20 PM

~「ごめんね」~

謝らないでください
連れていってもらえなかったよりも
またあなたを独りにしてしまった
それだけのことです

56文字の黒の史書

5/29/2023, 9:42:39 PM

毎日寝落ちしてちゃんと休ませてあげられなくてごめんね。
今日こそはちゃんと寝床で休むからね、と自分と約束して、またできなくての繰り返し。
ごめんねじゃなくて、ちゃんとできたよ!って言えるようになりたい。

5/29/2023, 8:47:53 PM

彼女は軽やかに歩きながら、

風に揺れる髪を指でなぞる。

彼女の瞳は、深い海のように輝いていた。

その美しさは、まるで夢の中にいるかのように

感じられた。

彼女が微笑むと、周りの景色も一緒に輝いて見えた。

しかし、彼女には少しいたずらっぽい一面があった。

時には、人々をからかったり、

悪戯をしたりすることもあった。

少し怒った様子を見せると

「ごめんね」

そう言ってご機嫌取りしてくる。

それでも、彼女の可愛らしさは変わらず、

人々を魅了し続けていた。

彼女のそばにいると、

心が軽くなるような気がした。

彼女が笑顔を見せてくれると、

それだけで幸せな気持ちになれた。

彼女は、ただの存在ではなく、

僕に人生に彩りを与える魔法のような存在だった。

彼女は人々を楽しませ、

幸せな気持ちにしてくれる存在だった。

そして、彼女がいなくなると、

周りの景色も暗くなって見えた。

彼女は、まるで太陽のように明るく、

人々の心を照らし続ける存在だったのだ。





─────『「ごめんね」』

5/29/2023, 8:16:07 PM

[お題:ごめんね]
[タイトル:カナヅチには母親がいない]

 男三人と女一人でプールに行く。そこにある文脈の複雑さったらないと、三宅秋葉は思う。
 
 それを紅一点と見るならば、そこには男たちが取り合うマドンナの姿が浮かび上がる。しかし、オタサーの姫と見れば、なぜか女の魅力が二、三回り落ちているような気がしてくる。さらには男を侍らす悪女とか、取っ替え引っ替えとか、そんな見方をすればどうだろうか。
 けれどそんな解釈の多様性は、秋葉がある事実を見て見ぬふりしているから生まれるものだ。まるで池にブラックバスを放つように、秋葉は彼らの肩書を思い出した。
 父、上の兄、下の兄。まったく夢がないと、そう思う。
「いや、ほんとに夢がない」
 秋葉は自分が発したその言葉で目を覚ました。どうやら、ひどい悪夢を見ていたようだ。きっと現実は、もっと恋とか青春とかで溢れている、はず。
「おっ、起きたか秋葉」
 現実逃避は運転手である父の言葉ですぐに終わった。
 秋葉は八つ当たりのつもりでそれに返事をせず、そして寝起き特有の行動として、義務的に辺りを見渡した。
 助手席には上の兄である三宅夏樹が座っている。大学一年生であり、夏休みを利用して実家に帰ってきていた。家が狭くなるから邪魔! と、真剣に五分くらい考える程度の兄妹仲だ。そして秋葉の隣には、下の兄である三宅春久がいる。春久はブルートゥースのイヤホンで何やら音楽を聴きながら静かに目を瞑っている。見ての通り無口な性格で、家でもほとんど話さないので、兄妹仲という観点で言えば、普通としか言い表せない。
 そんな男三人、そして秋葉。身体が現実から再度逃げようとしたからか、自然とあくびが出てしまう。ただこんな風に遠慮なく接する事ができる点は悪くないかも知れない。
「もうすぐ着くから、今から寝るときついぞ」
「分かってるよ」
 本当に分かっている。その証明は運転席と助手席の間から見える青看板で十分だ。間も無く高速を降りて、そこから五、六分で目的地に辿り着く。眠気故の気怠さを彼方に吹き飛ばすには、ちょうどいい時間だ。現在、向かっているのは隣町で新しく出来上がったプール施設だ。プールに入る以上、多少の気怠さでも命取りになる。秋葉は念入りにと、思いっきり伸びをした。
 もう二度と、水に命を奪われてたまるか。


「んじゃ、秋葉を頼んだな」
 それぞれ更衣室で着替えを終え、再び集まった最初の父親の言葉としては、最低の部類だと秋葉は思う。
「分かった」
「楽しんでー」
 春久と夏樹はそれだけ言って父を見送った。もっと何か言うことあるだろ、と思わなくもない。しかし結局、秋葉も父の背中に「頑張って」と声をかけたので同じ穴の狢である。
 父は新しい出会いを求めている。七年前に離婚し、そこから男手一つで三人兄妹を育ててきたのだ。一番下の秋葉も現在中学三年生で、来年には義務教育を終える。そろそろ自分のことを考えてもいい時期だと、去年家族会議で話し合ったばかりだ。もちろん、家事に仕事に奔走する父に思うところがない訳がない。最大限の応援をしようと思っている。
 だからって、四十代がプールでナンパはどうなんだ。

「じゃあとりあえず、秋ちゃんはビート版とってきなよ」
 父の背が見えなくなった後、夏樹がそんな風に言った。
 ビート版。色々と使い方はあるが、秋葉にとっては初心者用の補助具である。
「分かった」
 今回、プールに来た理由は父のナンパの為ではない。それは秋葉のカナヅチの克服だ。そのために男三人を駆り出した。淡い色恋の文脈よりも、秋葉には成さなくてはならない事がある。

 ここの施設には、流れるプールやウォータースライダーもあり、若者の多くがそちらの方で楽しくよろしくやっている。一方で、秋葉たちは屋内の普遍的な二十五メートルプールの中にいた。
「とりあえず、顔をつけるところからやってみようか」
 夏樹はそう言うと、大きく息を吸って潜水した。その後、五秒ほどで浮上する。
「こんな感じで、まずは十秒くらいからやろっか」
「十秒・・・・・・」
 頭の中でそれを数えてみるが、あまり難易度は高くないように思える。夏樹の言い回しも『まずは』と基礎の基礎である事を表していた。これが出来なくては、泳ぎの練習なんて夢のまた夢である。
 なので、先ほど取ってきたビート版も秋葉の手元にはない。それは春久が持っていて、彼は現在、プールのヘリに座ってパシャパシャと足で水を弾いている。
 春久の役割は、言わば監視員だ。そして指導員が夏樹である。二人いれば、まぁ大丈夫だろうとの判断の元、父親はナンパに行ったのだ。
「やれるか?」
 中々入らない秋葉に、夏樹が心配そうに声をかける。
 彼が心配になるのも当然のことだ。秋葉は筋金入りのカナヅチである。七年前にお風呂場で一回、三年前に川で一回、そして去年、海で一回溺れたのだ。それだけのトラウマに当てられながら、しかし秋葉はプールに来た。
 やれるか? ではない。やらなくちゃいけない。これは秋葉のできる唯一の贖罪なのだ。
「やる」
 トラウマの数だけ手足が動かなくなっているような気がする。右手と両足が、まるで枷でもつけられたかのように動かない。秋葉は唯一動く左手で鼻を摘んだ。
 そしてここにきた理由を思い出した。どうして克服しようと思ったのか? どうして海や川に二度と行かないではダメなのか?
 その答えを、決して兄二人には聞こえないように極限まで声を抑えて呟く。
「ごめんなさい。カノンちゃん」
 トプン、と全身が水の中に収まった。
 きちんとゴーグルをつけているのに、なぜか瞼が開けられない。すぐに水面へ出たがる手足をなんとか押さえつける。まだ出てはいけない。まだだ。まだ、十秒も経っていない。
 まだ三秒しか経っていない。言いようもない不安感に襲われる。真下の暗闇から無数の腕が数百本飛び出している気がする。
 まだ五秒しか経っていない。既に息苦しくなってきた。あぶくが漏れて、水を飲みそうになってしまう。
 まだ七秒しか──
 その時、秋葉の身体は謎の力によって水上にまで引き上げられた。
「大丈夫か!? 秋葉!」
 夏樹だ。秋葉は夏樹に抱えられたまま、荒々しく呼吸を繰り返す。肌という肌が空気を欲して喘鳴を上げている。
「はぁっ、はぁっ、うぇ、はぁ。なんで、まだ、七秒だけ、じゃん」
「いや、今もう十五秒くらい経ってたよ」
 いつのまにか近くに来ていた春久がそんなことを言う。
「ごめん、十秒経って、案外いけると思ってたら引き上げるの遅れた」
 夏樹は表情に後悔を滲ませている。
 ようやく、秋葉は事態を理解した。溺れていたのだ。きっとそういうことだ。だから春久はすぐに駆け寄り、夏樹は近くにいながら、溺れさせてしまった事を悔やんでいる。
「秋ちゃん、一回プールから出よう。ちょっと休憩してから──」
 夏樹は宥めるような声で言った。きっと夏樹は正しい。恐らく彼は、秋葉がもう出来ないと判断したのだ。秋葉のトラウマは想像よりもずっと根強い。
 でも、だからなんだと秋葉は思う。そんなの分かっててここに来た。
「待って。やだよ、そんなの。だって、まだプールに入って二分も経ってない!」
 秋葉はそう叫んで、夏樹から無理矢理離れると、もう一度鼻を摘んだ。けれど、それだけだ。足は動かず、身体は曲がらない。いつまで経っても、鼻を摘んだままの滑稽な姿でいる。
「秋ちゃん・・・・・・」
 名前を呼んだだけの夏樹の声が心臓に突き刺さる。
 ふと、目を開けて水面を見ると、そこには顔が映っていた。ただし、それは秋葉の顔ではない。そこにいたのは、紛れ間なく幼馴染の早乙女カノンの顔だ。驚いて一瞬目を瞑り、次に開けた時には秋葉の顔に戻っていた。恐怖に怯えて、ゴーグルの内側に水を溜める秋葉の姿だ。


 最近の市民プールでは、悲鳴や絶叫は当たり前のものらしい。目の前に広がるウォータースライダーや流れるプールの盛況っぷりを見ると、自分の不甲斐なさを自覚して吐きそうになる。
 家族連れや、友人グループ、果てはカップルまでが水に入っている。一度波に飲まれても、また出てきた時には大抵笑顔だ。
 その時、ふと秋葉が座るテーブルの横を掠めて、男女の二人組が流れるプールに向かっていた。見たところ秋葉と同い年くらいだ。
「見て、アマネ! すごい、すごくない!?」
「うるさい。ハルトうるさい」
 二人は楽しそうにそこへ向かう。その文脈は色々と想像の余地が多い。秋葉は恋人だったらいいなと思いながらも、一方で妬ましくもあった。もちろん彼らに限った話ではない。今ここで、プールに入る全員が妬ましいのだ。
 秋葉は結局、それから水に潜ることは出来なかった。プールから上がった直後に『もう今日は無理なんじゃない』と春久に言われた時は内心激怒したが、時間が経つにつれて、それが事実だと嫌でも思わされてしまう。
 秋葉は今、屋外にあるパラソル付きのテーブルで、夏樹に買って貰ったかき氷を食べている。たった一人でだ。
 二人は父親を探しつつ、少し遊んでくる事になった。と言っても、それは秋葉の方から頼んだことだ。自分で連れ出しておきながら、こんな結果に終わったことへの贖罪の意だと言っておいた。しかし実のところは、あんな無様な姿を、楽しい思い出でさっさと上書きして欲しかっただけだ。
 シャリシャリと、かき氷を端から崩していく。その音は流れるプールではしゃぐ人々の声でかき消えてしまう。
 ちょうどこんな具合だろうと、秋葉は思う。溺れるというのは、案外静かで、気づきにくいものなのだ。
 一年前。あの時、秋葉が溺れていたことに気づいていたのは、早乙女カノンだけだった。


 早乙女家と三宅家は、父親同士が大学の友人であり、住まいも近かったため、二家族で出かけることも多かった。特に夏には、海辺でバーベキューをするのが恒例だ。
 毎年恒例、というのが油断を誘ったのかも知れない。また、浅瀬なら大丈夫なんて甘い考えもしていた。周りには大人がいて、人も十分にいた。
 それでも波に煽られて秋葉の乗っていた浮き輪が転覆した時、気付ける者は居なかった。たった一人、カノンを残して。
 本能的溺水反応と呼ばれるものらしい。突然のことで状況を理解できず、声も出せずに静かに溺れることだ。隣の部屋にいても気づけないほど小さいと、ネットの記事には書かれていた。
 だからカノンが気づいたのは、単純に見ていたのだろうと思う。カノンは水泳が得意であり、また心優しい性格の持ち主だった。だからカノンは真っ先に秋葉の元へ向かったのだろう。
 この辺りからカノンにも多くの誤算があった。一つ目は秋葉の身体が、波に引きずられて思っていたよりも奥に行っていたことだ。それによってカノンはより深い場所に誘われた。二つ目は、海は段々と深くなる訳ではないと言うことだ。海は岸から離れると、途端に地面が急落することがある。カノンはそこで、急に地面を失ったことでパニックになった。そこから先は秋葉と同じだ。カノンもまた、静かに海の底を目指した。
 果たして、秋葉は生還し、カノンは死んだ。二人も消えると流石に大人たちも気づき、引き上げられた二人は救急車で運ばれたが、結末はそれだ。

 なぜ片方だけが生きたのか。なぜ片方だけが死んだのか。これをただの運だなんて片付けたくはないが、やはり理由は思い浮かばない。
 単純に間違えた数なら同じくらいだ。秋葉は泳ぎが苦手だと自覚していながら海に出たのは間違いだった。カノンは自分で助けに行かずに大人たちを呼ぶべきだった。
 だから、やっぱりそこを追求しても仕方がない。結局、秋葉の中に残ったのはただの因果関係だ。
 秋葉が溺れなければカノンは死ななかった。
 周りがどれだけ秋葉のせいにしなくても、秋葉だけは秋葉を許せなかった。
 だから、秋葉はここにきた。確かに、泳げるようにはなりたい。あの女の子と男の子ように、恋人と流れるプールで揺れてみたい。けれどそれは目的じゃない。
 秋葉は知っている。ここが一番、自分を苦しめることができる。死ぬんじゃダメだ。生きて苦しまなくては。後追いは贖罪にならない。
 苦しみが無くなったとき、カナヅチを克服した時が贖罪の終わりだ。

「おー、秋葉。いいの食ってんな」
 秋葉が空っぽのかき氷のカップの中でスプーンを回していると、父がそんなことを言いながら寄ってきた。
「もう中身ないよ」
「ちぇ、じゃあ俺の分買ってこようかな」
 そう言いながら、父はテーブルについた。買いに行けよ、と一瞬思ったが、きっと父はもう自分が言ったことなんて気にしていない。恐らく、夏樹と春久から話を聞いていたのだろう。その顔には心配の色が滲み出ている。
 そんなんだからダメなんだ。
「ねぇ、お父さん。良い人はいた?」
「いや、やっぱりプールじゃ見つからないね。ま、秋葉が大人になる頃には見つけるよ」
 それじゃ遅い。今すぐにでも見つけて欲しい。
「うん。そうだね。期待してる」
 秋葉は間違いなく、自分自身を責めている。けれどその矛先が一つだけとは限らない。
 秋葉は思う。
 あと一人。あと一人だけでも大人がいれば違ったんじゃないか。大人の視野は当然子供よりも大きい。カノンが気づけた溺水のサインに、もう一人いたなら気づけたんじゃないか。
 母親さえいたならば、もしかしたら。

5/29/2023, 8:09:45 PM

お題 『ごめんね』
※自傷をほのめかす表現あり

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私は自分が嫌いだ。
どれくらい嫌いかって言われたら、自分のこと嫌い選手権が開催されていたら堂々のトップをとれるくらい嫌いだ。

原因探しは指折り10過ぎた辺りで諦めた。

嫌なことがあれば自分に矛先を向け、傷つける日々。
最初は痛かった。
けど、痛みなんて案外すぐ慣れてしまった。

本当に痛いのは、心。
それに蓋をして、体の痛みで誤魔化しているだけ。
心も体も麻痺してしまった。
痛覚すらも今では愛おしい。

「……なんで私、生きてるのかな」

ぽつり、零した言葉は誰にも届くことなく空気に溶けていく。溶けたそばから、黒い雲となって、私の心に激しい雷雨を連れてくるのだ。

チャンネルのズレたつけっぱなしのラジオがザアザアと音を立てている。それが嫌に耳についた。

ああだめだ、これは。
経験的に、そして本能的に理解していた。
体が無意識に立ち上がる。

たしか、あそこに置いたはず。
目的のものを求めて、辺りを見渡した。

その時だった。

「………?」

微かな、違和感。
雨粒が水たまりにポタリと落ちたような。
しかし、その波紋は確かな存在感を残していく。

見慣れない、水色の背表紙。
気づけば体が吸い寄せられていた。

「こんな本、あったっけ…」

手に取ってみる。
不思議なことに、本の表紙にはなんのタイトルも書かれておらず、作者も何も、分からなかった。

「…………」

自身を傷つけようとしていたことさえ忘れ、私はその本を開いていた。
そこに書かれていたのは。

『自分を抱きしめて。そうすれば、道は開けるから』

ただ、その一言だけだった。

「……?なにこれ」

あまりの情報量の少なさに、拍子抜けする。
なに?自分を抱きしめてって。
どういうこと?

けれどその本は、それ以外の選択肢を許さないとばかりにただ、そこにあり、その言葉を主張していた。

「…………」

自分を抱きしめる、なんて。
そんなこと、したこともなかった。
なんのために?なんで?
疑問は尽きなかった。けれど、この本の言っていることは、何故か不思議な説得力があった。

私は、恐る恐る自身の体に手を回す。
そして、腕をクロスさせる形でゆっくりと体を抱きしめた。

「…………!?」

すると、みるみるうちに脳内に映像が流れ出した。

(いたい、いたい、いたい、痛い………っ!!!)

(やめて、もういやだ、やめて、っ……!!)

これは、なに……?

(いたい、痛いよ、お願い、助けてっ………!!)

ああ、これは。
私の、心の声だ。

自身を傷つけてきたこと。
苦しめてきたこと。
悲しませてきたこと。
…それら全てに対する。

私は圧倒されていた。
こんな、痛みを、自身に背負わせていたのか。
こんなにも、苦しめて来たのか。
体に触れる温かさにつられ、氷が溶けるように、心に流れ込んでくる。

目からは、自然と涙が溢れていた。

「ごめん、ごめん、ね、今まで傷つけてきて、ごめん…痛かったよね、辛かったよね、苦しかったよね…、っ、ごめん、ごめんなさい…っ…!」

気づけば、そんな言葉を紡いでいた。
私は涙が枯れるまで、ひたすらに子供のように、泣き続けていた。

……降り続けていた雨は、とっくの昔に止んでいた。








‪✂︎‬------------------キリトリ線-----------------‪✂︎
セルフハグはいいぞ!ということを伝えたくて無理やりねじ込みました。みなさんも限界だ!って時はぜひやってみて下さいね。

5/29/2023, 8:06:26 PM

テーマ【ごめんね】
制作者:いと。 5.30 2023 5:06
「ごめんね。」
人に悪いことをしてしまったら、
この一言を言って謝る。
そう教えられてきたはずなのに、
この世界には謝れない人ばかり。
中には、八つ当たりをしてきたり、
自分は”絶対”悪くないと言い張る人もいる。


――この世界も、ずいぶん汚れたもんだね。

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