Ayumu

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 ときどき彼を思い出すのは、初恋の相手だったからだろうか。
 思い出補正をかけても、とにかく生意気で人をからかうのが大好きだった、やんちゃな彼。
 わたしからすると、そのやんちゃぶりがとても輝いて見えていた。たぶん正反対の性格だったからだと思う。前に出るのが苦手で、はしゃぐのなんて恥ずかしくてできなかった。友達も少なかった。

『お前いっつも暗いよな~。なに考えてっかわからねえし』
『……ごめんなさい』
『いや、謝られても』

 たまに気まぐれを起こして話しかけてくるときもあって、だいたい茶化すような内容が多かったけれど、単純なわたしは「話しかけてくれる」という事実だけで嬉しかった。
 それから彼と他のクラスの女子が付き合い始めた、なんて噂が流れはじめて、気づけばわたしは初恋を終わらせていた。


「よ、久しぶり」
 成人を迎えてからの同窓会で、隣に座ってきた彼はわたしのことを覚えていたようだった。
「……わたしのこと覚えてたの?」
「まあな。雰囲気はだいぶ変わったなって思ったけど、顔は結構面影あるぞ。ってかお前も俺のこと覚えてたんじゃん」
「そりゃあ、ね。結構からかわれたし?」
「……いや、それはごめん。悪かったと思ってる」
 まさか謝られるとは思ってなかったから、逆に調子が狂ってしまった。
 あれからわたしも彼も歳を重ねて、子どもではなくなった。少しでも性格が変わっていてもおかしくない、けれど。
 急に、ここだけ空気が変わってしまった。単にわたしが意識しすぎているだけ? 隣を窺うのもちょっと勇気がいる。

「俺、実はお前のこと好きだったんだよ。たぶん信じてもらえないかもだけど」

 口に運んだ料理を詰まらせそうになった。軽く咳き込むと、遠慮がちに背中をさすってくれる。
「い、いきなりな告白すぎない?」
「言えないまま卒業しちまったのが結構、つらかったんだ」
 ゆっくり視線を向けると、眉尻を下げた表情が待っていた。これは嘘を言っているようには見えない。
 呼吸を落ち着かせる意味でも、一度深く息を吐き出す。
「……あのとき言ってくれてたら、いろいろ、変わったかもね」
 今頃言われても、わたしの気持ちはもう、あの頃と同じには戻れない。それはたぶん、彼も同じはず。
「……だよな。うん、ごめん」
 ――でも、信じてくれてありがとう。
 付け足したようなお礼に、少ししてから隣を見ると、もう彼の姿はなかった。


お題:「ごめんね」

5/29/2023, 10:46:29 PM