いつまで経っても消すことのできない君のLINE。
どうせ、開くこともできないのに…。
いつか、君ごと全部忘れられたらいいな。
#開けないLINE
寂しくなった夜、君はいつも駆けつけてくれる。
私に連絡もしないで、突然の深夜の訪問。それでも君なら嬉しかった。
ねぇ、最近はなんで来てくれないの?
ねぇ、早く…会いに来てよ。
ねぇ、。
ーなんで、私より先に死んじゃったの?
会いたいよ、ばか。
#突然の君の訪問
しとしとと降り注ぐ雨の中、傘もささずに僕はその場に佇む。
でも、いくら待っても君は来ない。
―ふいに、身体に雨が当たる感覚が無くなった。もしかして、と思い振り返る。が、それは彼女ではなく同僚だった。
「なぁ、遥斗…。本当は、わかってんだろ?成瀬さんがもう、この世にいないこと。」
途端、彼女が死んだときのことがフラッシュバックする。いつまでも一緒に日本の平和を守ろうね、なんて言い合っていたのに…捜索中、彼女は被害者を庇って殉職した。
…成瀬、ほんとはね?僕、この国より君を守りたかったんだよ。
次こそは守るからさ、早く傘をさしに来てよ。
初めて会ったときみたいに。
#雨に佇む
「おまたせ!」
向かい合わせにいたはずの彼女の声が少し上から聞こえてくる。
「な、るせ?なんで…」
「えへへ、遥斗が寂しがってると思って会いに来ちゃった!」
傍にいてほしかった人が目の前にいる、のに。いい大人が泣きじゃくりながら、つっかえつっかえでうまく喋れなかった。それでも、そんな俺の話を聞いてくれる成瀬との幸せな時間は一瞬で過ぎ去っていった。
「遥斗、ありがとね?ほんと。」
その言葉を皮切りに彼女はふっと消えた。
目の前には水がかけられたただの墓石があった。やっぱり夢だったのか、そう思ったが添えられている彼女の好物は半分ほど減っていた。
「ばーか、せっかく供えたお菓子食べてくんじゃねぇよ…」
#向かい合わせ
「もう、行くのか?」
成瀬が来年東京に行く、そう聞いたときは実感が沸かず適当に流していた。別れの言葉も、俺の気持ちも。
…去年からわかっていたはずなのに、なぜ俺は言わなかったのだろう。
「ねぇ、遥斗…」
名前を呼ばれ、はっと顔を上げる。これが最後のチャンスだ。
しかし俺の声は俺の意思に反抗し、発したはずの言葉には音が乗らなかった。
「あの、な。成瀬…俺、」
それでも無理矢理音を乗せた声で俺は言う。
「…っ俺!成瀬のことが」
そこまで言い、顔をあげる。すると、電車のドアが閉まっていくのが目に入った。
「遥斗…ばいばい」
俺が、最後まで言えなかったばかりに……。言えたら、"またね“とその言葉が聞けたのだろうか。
過ぎていく電車を横目に、俺はホームを去った。
そんな、やるせ無さだけが残る夏だった。
#やるせない気持ち