No.264『ラララ』
ラララ。
どこからか聞こえるそんな歌声が気になって声の主を探す。そうして僕は君に出会った。
優しく、でもどこか悲しそうに歌う彼女に一目惚れした。
彼女の歌が終わったタイミングで声をかける。
「君の歌、すごく上手だね!」
そう言った僕に彼女は悲しげに笑う。
「…これは私の大切な人に向けて歌った歌なの。彼に届いてくれたかな?」
一目惚れした彼女にはすでに大切な人がいた。当然のようにショックを受けるも、今は彼女に慰めの言葉をかけることに専念した。
「大丈夫だよ!君のそのとても素敵な歌ならきっとその人に届いてる」
彼女はまた悲しげに笑った。
するとどこからともなく鐘の音が聞こえてきて僕は帰らないといけない時間になった。
じゃあ、と挨拶して彼女に背を向ける僕に向かって彼女が呟いた言葉は僕には届かない。
「……歌が届いても、あなたが私を忘れているんだからそれは届いていないも同義じゃない…」
No.263『風が運ぶもの』
風よ。どうか…どうかこの手紙を彼女の元へ運んでくれ。
きっと彼女は僕がそっちに行くことを許してくれない。
彼女は誰よりも心優しい人だから。
だから僕が行けない代わりにこの手紙を。
風であれば天国まで届くだろう?
No.262『question』
先生、質問です。
私の生きる意味とはなんなのでしょうか。
私という存在は一体なんの意味を持ち、誰の役に立っているのでしょうか。
───それはあなたが考えることです。
…そうですか。私はたくさん考えた末にそれでも分からないので先生に尋ねました。あなたが「なんでも聞いてくれ」と仰ったからです。でもあなたはそう答えた。
…私は生きる理由も私の存在意義も分かりません。だけど私はこの質問への答えとして望んでいたものが一つだけあります。
「意味がなくても生きていていい」
私はそう答えて欲しかったのです。
No.261『約束』
お前と約束なんてしなければよかった。
お前と安易に約束を結んだあの日の僕を恨んだ。
あの日…いや、今日まで僕は普通に明日が来ると思ってた。だけど、当たり前だと思っていた日常が当たり前じゃないことを知ってしまった。
ああ、ごめん。もうお前との約束を守れそうにないよ。
当たり前のように来るはずだった僕の明日は当たり前のように奪い取られた。
無知は罪だ。
きっとこれは、特別を当たり前と考えていた僕への神様からの罰なんだ。
No.260『ひらり』
ひらりひらりと白が空から落ちてきた。
なんだかそれを掴みたくなって数多にある白を手に取る。
だけどそれは私に一瞬の冷たさを与えたのち、すぐに溶けて消えた。
……ああ、なんて虚しいんだろう。私たちもこんな風に一瞬にして消えていってしまうのかな。
そんな気づかなくてもいいことに私は気づいてしまった。