No.261『約束』
お前と約束なんてしなければよかった。
お前と安易に約束を結んだあの日の僕を恨んだ。
あの日…いや、今日まで僕は普通に明日が来ると思ってた。だけど、当たり前だと思っていた日常が当たり前じゃないことを知ってしまった。
ああ、ごめん。もうお前との約束を守れそうにないよ。
当たり前のように来るはずだった僕の明日は当たり前のように奪い取られた。
無知は罪だ。
きっとこれは、特別を当たり前と考えていた僕への神様からの罰なんだ。
No.260『ひらり』
ひらりひらりと白が空から落ちてきた。
なんだかそれを掴みたくなって数多にある白を手に取る。
だけどそれは私に一瞬の冷たさを与えたのち、すぐに溶けて消えた。
……ああ、なんて虚しいんだろう。私たちもこんな風に一瞬にして消えていってしまうのかな。
そんな気づかなくてもいいことに私は気づいてしまった。
No.259『誰かしら?』
「あら、あなたは誰かしら?」
目の前の女性は私にそう言った。
「ねえ、あなた。少しだけ私の話を聞いてくれないかしら」
「…はい」
「ありがとう。私にはね、娘がいるの。ちょっとしたことで喧嘩しちゃって出て行っちゃったんだけどね。私はそれをとても後悔してる…もっとあの子の話を聞いてあげればよかったわ…」
「娘さんに会ったら何を言いたいですか?」
「そうね…あの日はごめんなさい。私はあなたのことずっとずっと大好きよって伝えたい」
目の前の女性は穏やかな声で残酷なことを告げる。
……私もそう伝えたいよ。ねえ、だから思い出してよ、母さん。
No.258『芽吹のとき』
私の才能ってなんだろう。
テレビに映る人たちはきっと自分の才能を見つけることができた人間。
「この時、僕の才能は芽吹いたんです」
と誰かが言っていた。
……そんなのは才能を見つけられた人間だから言える戯言でしかない。
私は芽吹く才能すら見つけられず、それが本当に私の中にあるのかも分からず、諦めてしまった人間。
でも確かその人はこうとも言っていた気がする。
「諦めずにいてよかった」
……きっとこれが答えなんだろう。諦めた人間と諦めなかった人間。
今からでも諦めずにいれば、こんな私にも芽吹のときはやってくるのだろうか?
No.257『あの日の温もり』
小さい頃、迷子になったことがある。
家族とはぐれてどうしていいかも分からず、その場に座り込んで泣いていた。
周りの人は私を見て目を逸らして声をかけてくれる人はいなかった。
「大丈夫?」
その時、優しい声が聞こえた。
顔を上げれば制服を着たお姉さんがいた。
ひとりぼっちの中で声をかけてもらえたことに安心したからか、お姉さんの質問には答えられずただ泣き続けた。
お姉さんは困惑しながらも背中を優しくさすってくれた。
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私はあの日の温もりを忘れられない。
だから今度は私が温もりを与えたいと思った。
目の前で泣く小さい子の目線に合わせるために腰を落とす。
「大丈夫?」
この勇気をくれたあのお姉さんにありがとうと言いたくなった。