No.258『芽吹のとき』
私の才能ってなんだろう。
テレビに映る人たちはきっと自分の才能を見つけることができた人間。
「この時、僕の才能は芽吹いたんです」
と誰かが言っていた。
……そんなのは才能を見つけられた人間だから言える戯言でしかない。
私は芽吹く才能すら見つけられず、それが本当に私の中にあるのかも分からず、諦めてしまった人間。
でも確かその人はこうとも言っていた気がする。
「諦めずにいてよかった」
……きっとこれが答えなんだろう。諦めた人間と諦めなかった人間。
今からでも諦めずにいれば、こんな私にも芽吹のときはやってくるのだろうか?
No.257『あの日の温もり』
小さい頃、迷子になったことがある。
家族とはぐれてどうしていいかも分からず、その場に座り込んで泣いていた。
周りの人は私を見て目を逸らして声をかけてくれる人はいなかった。
「大丈夫?」
その時、優しい声が聞こえた。
顔を上げれば制服を着たお姉さんがいた。
ひとりぼっちの中で声をかけてもらえたことに安心したからか、お姉さんの質問には答えられずただ泣き続けた。
お姉さんは困惑しながらも背中を優しくさすってくれた。
────────────
私はあの日の温もりを忘れられない。
だから今度は私が温もりを与えたいと思った。
目の前で泣く小さい子の目線に合わせるために腰を落とす。
「大丈夫?」
この勇気をくれたあのお姉さんにありがとうと言いたくなった。
No.256『cute!』
愛されるわけがない。
可愛いどころか醜いとさえ言えるこの顔だ。仕方がない。
顔で色々と決まってしまうこの世界で人生負け組の私に何ができる?誰が愛してくれる?
別にみんなから好かれたいわけじゃない。
だけど、たった1人でいい。
それもきっと我儘なんだろう。
だけど私はその1人の1番になりたい。
No.255『記録』
記録や勝敗にこだわる人たちに思い出を奪われた。
他のレーンよりも一周遅く走る私たちは見世物にさせられた。
でも誰を恨むことだってできなかった。
彼らの考える楽しさはいつだって勝ちと同義だった。
それが1番だと考える彼らは正しいわけでもないが間違っているわけでもない。
じゃあ、私たちが悪いのか。
それだって違うだろ。私たちは望んでこんな風になったわけじゃない。
これはどうしようもないことだったんだ。分かってる。そうやって自分に言い聞かせた。だけど……うん、やっぱり苦しかったなあ。
No.254『さぁ、冒険だ』
「さぁ、冒険だ!」
輝かしいほどの笑顔で僕の手を差し出してくる君。
なんで僕なんかに構うのか理解できない。
君の隣にいるべきやつは僕じゃないだろう。
そう思って目の前にある手を払う。
それでも諦めずに僕の背中をぐいぐい押して歩かせようとする君。
ああ、もう!!僕がいても君の邪魔にしかならないんだよ!!なんで分からないんだ!!
そうやって叫ぼうと思ったのに、
「お前とじゃないとこの冒険は楽しくない!」
ああ…もう……なんなんだよ……これで断ったら僕が悪役じゃないか…。