雨上がり。2人で初めて学校をサボって、塾も休んで、ただ時間を忘れて遊ぼうと思ってた今日。
生憎の雨だったから、行きつけの図書館で本を読んで過ごしていたら、雨がいつの間にかやんでいた。
そして外に出ると、貴方はあっと声をあげた。
「ねぇ見て、虹」
「ほんとだ」
優等生を辞めた私たちに似合わない、七色の虹。
今まで見た虹の中で、いちばん綺麗に見えた。
「これは、神様からのプレゼントだ」
「こんな、出来損ないに?」
「神様は優しいから、こんな私たちにも幸せをくれるんだよ。だから、自分を封じこめて優等生を演じるよりも、自分の好きなことをやった方が、こういう神様からの些細なプレゼントに気づいたりするの」
だから、と貴方は私の方を見た。
夕暮れと被って、より眩しく感じる笑顔だった。
「これは、優等生を辞めた私たちへのプレゼントなんだよ!」
「宇宙に行きたい」
貴方は突拍子もなく言った。
「どうして?」
「夜空を駆けてみたいの。流れ星と一緒に」
「そしたら、消えちゃうじゃない」
「そんなの、人間だってそうじゃない。この世に永遠なんて、きっと多分ないんだから」
貴方はただうっとりと夜空を見上げてる。本当に、今すぐにでも宇宙に行って、流れ星と一緒に消えてしまいそうなくらい、今の貴方はとても儚く思える。
「誰かに夢を託されて消えたい。そうすれば、いつだって誰かの心の中にいれるから」
いつだって、貴方は私の心の中にいるのに。
「あなたは誰?」
嘘だと思ってた。貴方は神様から、記憶を奪われてしまったって。
家族のことも、自分のこともある程度は覚えているのに、私と共にすごした学校生活のことだけ、ぽっかりと忘れてしまっているらしい。
でも、それはもしかしたら貴方にとっては、思い出したくもない、忘れても良かった思い出かもしれない。
だから、私は泣かないし、貴方の前で悲しい顔もしない。
また、最初からやり直そう。
「こんにちは、よかったら私と、友達にならない?」
虐められていた貴方、それを止められなかった私。
ある日、貴方は屋上から飛び降りた。
一命は取りとりとめたけれど、学校で過ごしていた貴方という存在は死んでしまった。
でも、きっとそれでよかった。
貴方はそれを望んでいた。
「うん、ちょうど、暇してたの」
そういう貴方の手には、昔っから何度も読み返してた小説が握られていた。
「名前は?あなたは、誰?」
もう一度、貴方は私に問う。
私は、少しカッコつけるように、あの時の、貴方に初めて話しかけた時とおなじ自己紹介をした。
「その小説の、著者です」
幼少期の頃、一緒の病室で入院してた友達からもらった手紙。
部活の先輩、後輩から貰った手紙。
当時親友と呼びあってた同級生から貰ったハガキ。
たまに忘れてしまいそうになる、かつて一緒に過ごしてた人達の存在を。
当時は嫌いだったはずなのに、また会いたいなんて身勝手なことを思ってしまう。
だから、手紙の行方は、私の心の中に。
大人になればなるほど、言いにくくなる言葉ってなーんだ。
『ありがとう』