あの日は確か、なにかの記念日だった。
上手く思い出せないけど、確かにそうだった。
いつもはしかめっ面で、冷たい君は、記念日の日だけは暖かく笑うから。
本当は、人が好きで、話すのが大好きな君は、自分を出すのが下手くそだった。
いや、自分を出すのが怖かったのかもしれない。
どんな事があっても、私のそばにいて話を聞いてくれたから、きっと君は優しい。
そんな優しい君が傷ついてしまうのは、こんなこと言いたくないけど、しょうがないのかもしれない。
君と最後に会った日、きっと君は笑ってた。
そして、泣いていた。
「いつも、傷つけてごめん。ずっと言いたかったのに、言えなくてごめん」
君は、なんだかよく分からない表情で、私に謝り続けた。
いつからか、君は遠い国へと旅立ってしまった。
その日はちょうど、私の誕生日だった。
1年後なんて、想像したくもない。
モヤがかかって、見えないから。
明るいのか、暗いのかすらも分からない。何が起こるかなんて分からない。
なにか、とんでもなく嫌なことが起こるかもしれない。いいことが起こるなんて、想像できない。
孤独な未来しか見えない。苦しんでる未来しか見えない。
去年も同じことを考えていた。
今は孤独では無いし、悩んでいることはあるが、取りあえずは生きている。
来年も、そうだったら、いいけどな。
やっぱり、不安は消えないや。
小さい頃、好きな色は何?と聞かれた時、私は困ってしまった。
好きな色だなんて、考えたことなかったから。
とりあえず、なんとなく黄色って答えといた。
あれから約10年は経ったけど、いまだに私は黄色が好きと言い続けている。
だんだん、言っていくうちに好きになってく。
周りのみんなも、私に何かプレゼントしてくれる時は黄色のものが多い。
私といえば、というものができて少し嬉しいかも。
あなたがいたから、私は色んなことを学ぶことが出来た。
色んなものを手に入れた。
その分、失ったものもきっとあったけど。
それなのに、あなたがいなくなったら、私の手には何が残るのでしょう。
出会いには、別れは付き物。
でも、別れるべき人は、あなたでは無いってずっと思ってたのに。
あなたがいたから、当たり前が当たり前じゃないことに気づけた。
今更気づいても遅い。
私は1人で、あなたと共に歩いた道を、寂しくとぼとぼと歩むのです。
『約1時間後に雨は止むでしょう』
スマホの画面にはそう書かれている横に、雲と雨のマークが書かれている。雨が降るのは夜だと聞いていたから、私は傘を持っていない。
1人、教室の隅っこの席で時間を潰していると、その隣の席に1人の女子が座ってきた。
「どうしたの、今日は部活ないんじゃないの?」
ニヤニヤしながらそう言うこの人は、私の友達。多分、私が傘を持っていないということを分かっていて、わざと聞いてきたんだろう。
「別に。そっちこそ、まだ帰ってなかったの?」
「部活あったんだけど、顧問が用事あるらしくて部活なくなってさ。今から帰ろうとしたら、貴方がいた訳」
「ふぅん……」
「で、私に何か言うことあるでしょー?」
いやらしくそういう貴方は、とても可愛らしくて、どこか憎めない。
「傘を貸してください」
「しょうがないなー!じゃあ今日は相合傘だね!」
「小学生じゃないんだから……」
「えー?私は相合傘好きだけどなぁ。青春って感じがするじゃん」
「意味わかんないし。ほら帰ろ」
私はすぐに立ち上がって、荷物を持って教室を後にした。彼女は待ってー!と言いながら後ろから着いてくる。
彼女の手には、私とお揃いで買った色違いの、水玉模様の傘が握られていた。