ななせ

Open App
5/19/2024, 12:49:24 AM

花なんて、別に好きじゃなかった。
祖母はよく部屋に花を飾っていたけれど、名前を知っているのはバラとかチューリップとか、そんな有名どころくらいだった。

あの人は、花みたいな男だった。
華のある、と言っても良いかもしれない。スケコマシで、女の子によく花束をプレゼントしていたから、花には結構詳しかった。そのせいか、私も少しは知識が増えた気がする。
本人はヒマワリが好きだと言っていて、洒落臭いと笑い飛ばしながらも、心の中では何だか似合うと考えていたのは秘密だ。
花は綺麗だが、いつかは枯れてしまう。特に、美しい花の寿命は短い。
美人薄命という言葉は、案外迷信でも無いらしく、あの人は二十歳そこそこで永遠の眠りにつくこととなった。
シャボン玉のように儚く消えてしまうものだから、本当は初めから存在していなかったんじゃないのかとさえ思ってしまう。けれど、最期に託された黒い手袋は、確かにあの人の物だった。
シャボン玉みたいに、綺麗で、眩しくて、壊れてしまうと知っていたなら。
喧嘩別れしたあの時、引き止めて一言謝れていたなら。
何かは変わっていただろうが、考えてもどうにもならない。
あの人の人生は、あの時、あそこで終わったのだ。
誇り高き血は、私と共に生きることを選ばなかった。いや、選択肢なんて与えられていなかった。
それでも私たちは、きっとどこかでまた巡り逢う。奇妙な絆で結ばれている限り、永遠に。




「──あれはスイートピー、花言葉は『優しい思い出』だったかな。で、あっちのがモクレン。白色だから花言葉は『気高さ』ね」
「ママはどうしてそんなにお花のことをしってるの?あ、お花とおしゃべりできるんでしょ!」
大きな瞳を輝かせて言う愛娘に、苦笑しながら答える。
「違うわ。詳しい人に教えてもらったの」
「…?だぁれ?」

「…さあ、誰だったかしら」
見上げた空には、飛行機雲が一筋伸びているばかりだった。


お題『恋物語』

5/18/2024, 12:20:47 AM

夜遅くまで起きていて、いい事なんてちっともありはしない。
暗いと思考までネガティブになるし、体も休まらないし。何かの用事をこなすならまだしも、ただスマホをいじっているだけなら尚更だ。
ああほら、
どんどん闇が僕を侵略していく
憂鬱な気分に落としていく
そのくせ、自分は一緒に沈んではくれない
ずるいやつだ。
朝の光も夜の闇も、僕を堕落させる原因でしかない。
朝は絶望感しか与えないし、夜は僕を包み込んだまま留めてくれない。
意地を張っているから、駄目なのかな
もっと素直になればちゃんと愛してくれる?
でも、自分をさらけ出して弱味を見せて受け入れられなかったらどうするんだろう
自分が弱い事を知っている人間がこの世にいるなんて耐えられない
こういう性格だから
全てをこの性格のせいにするような奴だから
何でみんなあんなに生きてるんだろう
誰か頑張って死んでくれないかな
どうせ泣くんだから何もしたくない何もされたくない
愛してほしい
認めてほしい
怒らないで
全部僕なんだ
許して
わがままって言わないで
やんわりと指摘しないで
叱らないで
見せないだけで弱いんだよ
強くなれたなら
もっと強く生まれていたなら
どんなに良かったか
愛に溺れさせて
どっぷり浸かるくらいの愛をちょうだい
それで息ができなくなって
死んでしまっても僕、構わない
そのまま死なせて欲しいんだ
愛されている自覚があるまま死なせてくれ
お願いだから


夜に起きていても、良いことなんて何も無い。
それでも僕は、朝を来させないために今日も瞳を閉じない。


お題『真夜中』

5/16/2024, 10:39:38 PM






できるわけが無い
もし何でもする奴がいるならそれは愛じゃなくて崇拝
愛に多くを望みすぎ


お題『愛があるなら何でもできる?』

5/15/2024, 10:41:22 PM

ヴェネツィアの西海岸に、孤児院と言う名目で
建っている子供のみの奴隷保養所。ここでは、十七歳までの子供が収容されている。
奴隷と言っても、手酷く扱ってすぐ死んでしまうのでは効率も悪く金の無駄であるから、ある程度の生活水準は保たれていた。
そこで私は、一人の男の子と出会った。
彼は、父親に捨てられてここに来たのだと言っていた。体はそこまで大きくなかったけど、彼は施設の子供たちの中で一番強かった。弟妹がいるらしく、よく大人びた発言をした。
そんな少しませた彼も、子供に戻る瞬間があった。私が石鹸水でシャボン玉を作ると、瞳を輝かせて眺めるのだ。私は、シャボンが映ってキラキラしている彼の瞳が好きだった。
彼も私も大きくなり、十七歳の年長になった。つまりもうすぐ、ここから出て行く──買われていくのだ。そんな時、彼にここから出ていくと告げられた。
彼が買われるという話は聞いていなかったし、彼も奴隷となることを知ってここに留まるような性格でもなかったから、ここから逃げ出すということだろう。
今はまだ誰の奴隷でもないとは言え、この施設は地域によく根付いている。職も限られてくるだろうし、彼は見目が良いから職員も追いかけてくるのは間違いない。
それでも、彼は人として生きることを選んだ。その結論に至るまで、どれほど悩んだだろう。
死なないでね、と頼んだけれど、彼から返ってきたのは「さあ、どうだろうな」という言葉だった。
その時の私の顔は酷いものだったのだろう。本気にするなよと笑われたけど、私は真剣だった。
「私は死にたくないから生きてる。苦しいのは嫌だし、死ぬのは怖い。でもあなたは、目的の為に生きてるから。それを成し遂げたら死んでも良いみたいに見えるよ」
「…そう簡単には死なんさ」

それでも、「私の為に生きる」とは言ってくれない彼に、涙を堪えた。彼は餞別にと、シャボン玉を模したガラス細工を贈ってくれた。
私が「またね」と言ったのに、「じゃあな」と返したこと。瞳孔が開いて揺らがない瞳。震えを無理やり止めた手。それら全てが、彼はきっと戻ってこないと囁いていた。
止めないといけない。けれど、それは彼の意思馬鹿にすることになる。歯がゆくて仕方がなかったが、彼に失望されて別れるのはそれより怖かった。
なのに何故か、彼の訃報を知らされた時、(やっぱりか)と安心した。


お題『後悔』

5/14/2024, 10:38:20 PM

びゅうびゅうがらごろ、どろごろどろどろ。
台風。
空からどじょうが落ちてきます
(ざんざかばらばら)
鳥が木々をふるわせて
(びゅうびゅうざわざわ)
それを見て笑った神様が声をあげ
(どろどろごろごろ)
バケツが飛んでる
タイヤも飛んでる
今日はみんなご機嫌です
なんだかむくむく気持ちが起こって
僕も交じらうと思いました
(びょうびょうざらざら)
愛用の傘を持ったのですが
鳥のくちばしで突っつかれまして
くるりと裏に返ってしまった
やれ仕方なしと気落ちして
レインコートをはおって出ました
(がらごろばらばら)
よう外は、ひどいもんです
鳥たちもしっちゃかめっちゃかです
ひばりが多いようでしたが
幾分つばめもおりました
(ぴいぴいきょろきょろ)
「やいつばめ、僕をお運びよ」
さう云いつばめに知らんぷりされて
ひばりに頼んで乗りました
(ざあざあぼうぼう)
ああなんと、外の様子のひどいこと!
部屋で見るには楽しげなのに
実際そんなことあない
出てしまったのじゃ仕方ない
そのままひばりに乗せてもらえば
どうにかなりはするでせう


お題『風に身を任せ』

Next